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伝える力【話す・書く】研究所所長であり、 ライティングサロンも主宰する山口拓朗さんに学ぶ 「伝わる文章」の実践的ノウハウ(全7記事)

文章のプロが語る、書くための究極の方法は“自問自答” 「書けない」から脱するための、頭の中の“棚卸し”

インターネットを通じて誰もが自由に発信できる時代。ブログやSNSなどで文章を書く機会も多くなっています。本セッションでは、「伝わる文章」をテーマにした、山口拓朗氏と高橋朋宏氏の対談の様子を公開。数多くの文章術をテーマにした著書を出し、ライティングサロンも主宰する山口氏から、「伝わる文章」の極意を学びます。本記事では、国境を越えて中国でも支持される、山口氏の「自問自答」の考え方について語られました。

文章術で「大事なこと」は、国境を越えても受け入れられる

高橋朋宏氏(以下、高橋):山口さんはいろんなところでライティングについて教えていらっしゃるじゃないですか。ちょっと忘れないうちに、ぜひ個人的に聞いておきたいと思ったことがあって(笑)。中国でもライティングを教えてらっしゃいますよね。

山口拓朗氏(以下、山口):そうですね。

高橋:山口さんは日本語で文章を書かれてる。それを中国に行ってセミナーをされている。しかも大人気の講演家だって伺ったんですよね。

山口:ありがとうございます。

高橋:これ、どうやってやっているんですか?

山口:僕も最初は「日本語の文章の本を書いてる人が、なんで中国で文章術の講座ができるんだろう」って一瞬思ったんですけど。ただ実際に1回やってみて思ったのは、私が伝えてることは日本語特有のことではなくて、言語の壁を越えて、国境を越えて、人が文章を書いて自分以外の誰かに伝える時に大事なものを中心にしてるので。国境を越えていけるなって実感しました。

僕はすごく当たり前のことしか伝えていないつもりなんですけど、中国でも文章の書き方を学生時代に体系立てて学ぶ機会があまりないようなので、中国の方々もすごく受け入れて実践してくれていて、それこそこれまで1,000人以上の方が受講しています。

高橋:中国で。

山口:そうなんですよ。中国国内で、もう50人ぐらいが出版もしてるんですね。

高橋:1,000人の受講者の中から。

山口:受講者の中から。

高橋:すごいですね(笑)。

文章を書くことは、「自問自答」である

山口:タカトモさんはご存知だと思うんですけど、(中国には教育系ITベンチャーの)「行動派」っていう企業があります。そこに集まる人たちのクオリティがすごく高いんですね。意識も高いですし、すごく勉強熱心で、それこそビジネス的にもいろんな成果を出されてる方だったりするので。すごくポテンシャルの高い方々に対して講座をやらせていただいてるとは思うんですけど。

伝えるために、相手のこと、読者のことをちゃんと意識することだとか。あるいはもうちょっとテクニック的な話で言うと、伝える順番とか、こういうふうに伝えていくと伝わりやすいでしょっていう文章のテンプレート的なものとか。いろいろなアプローチで文章力を上げていただいてますね。

高橋:今少し例が出ましたけれども、もう少し具体的にお話ししていただけますか?

山口:僕の文章術の中で、「自問自答」ということをすごく大事にしてます。僕は「文章を書く」っていうのは、究極的には自問自答する以外に方法がないと思ってるんですよね。

高橋:文章を書くということは、究極的には自問自答する以外に方法がない。

山口:それが今のところの私の結論で。どういうことかというと、例えば「今日、タカトモさんと山口さんのセミナーをZoomで視聴しました」っていう文章を書く裏には、「私は今日、何をしていましたか?」っていう質問があるわけですね。

高橋:なるほど。

山口:それは無意識レベルでみんながしていることではあるんですけど、僕は無意識レベルの質問だけではいい文章ってなかなかできないと思っているんですね。じゃあうまい人たちはどうしている人かというと、その先の質問をどんどんしていける人だと思うんです。

「書けない」と嘆く人は、書くための「情報」がないだけ

山口:例えば「今日の2人のトークショーの中で、自分に一番響いた言葉って何だろうか」っていう質問をしてみたりとか。「今日学んだことの中で、明日私が実践に移せることは何だろう」っていう質問をしてみたりとか。いろんな質問ができると、その答えを自分で考えるわけですよね。

だから当然のことなんですけど、文章を書くというのは「思考」ですよね。頭の中にあることを文字化していく作業なので、究極的には頭の中をどう使っていくかがすごく大事だなと思っているんです。

自問自答することによって、情報を手元に揃えることができるわけです。文章を書けないという方の多くは、情報が手元にないんですよ。ない状態で「書けない、書けない」って言ってるんですけど、いやそれ書けないんじゃなくて、情報をまず集めましょう、ってことなんですね。

情報っていうのは、もちろん取材したりして外から集める情報もあるんですけど。自分の中にある情報ですよね。自分はどういう気持ちなんだろうかとか、それこそどういう思想とか哲学を持ってるんだろうとか、人生観を持ってるんだろうとかも含めて自問自答しながら、棚卸しして、洗い出していくと。

やっぱりたくさんの自問自答をしている人は、料理する時に食材がいっぱいあるような状態ですよね。これを作ることもできるし、あれを作ることもできる。でも、けっこう多くの方が、卵1個しかない状態だけど「いい文章を書きたい」みたいなことになってしまっているので。

中国でも、3日間の講座の1日目は、とにかく自問自答をして、情報をちゃんと揃えることを徹底してやっていますね。

高橋:自分の棚卸しのための自問自答をたくさんやる。

山口:そうですね、自分の棚卸しのための自問自答もやります。

文章を書く前に必要なのは、自分で質問を作って自分で答えを出していく作業

山口:あと、なにかのテーマを決めて書く時には、それについて徹底的に質問をぶつけるってことですね。

例えば、このお水についてなにか書く時であれば、ほかのお水と何が違うのかとか……中に入ってるミネラル分ってどういうのが入ってるんだとか、飲んでみての味はどうだったかとか。お水は難しいですね(笑)。けど、いろいろお水に対しての質問をしていかないと、お水について書けないので。

高橋:じゃあ、文章を書く前にいろんな質問を作って、それに対して答えを出していく作業が必要であると。

山口:そうですね、その作業が必要だと思います。それをやっぱり、文章を書く時だけやるんじゃなくて、ふだんからするかどうかがすごく大事かなとは思ってます。

高橋:これは頭の中でやるんじゃなくて、書いてやるってことですよね。

山口:最終的には頭の中でできるようになっていくと思います。ただ、慣れてない方はやはり書き出してもらいたいんですね。ノートに書き出すのがすごくいい方法だと思います。

高橋:ノートに書き出すということは、手書きですね。

山口:手書きがいいと思うんですね。もちろん今の時代、どうしてもキーボードとかスマートフォンでやりたい方は、それでもいいとは思うんですけど。手書きでやるといろいろ筋肉も動きますし、自分が書いたことが記憶にも残りやすいこともありますので。手書きが一番おすすめですね。

高橋:山口さんご自身もやってらしたことがあるんですか。

山口:やってましたし、今でもやりますね。大事な文章を書く時とか、それこそ書籍の企画を作る時とかは、徹底的に自分の棚卸しとか、そのテーマに対して棚卸しをしていかなきゃいけないので。

高橋:なるほど。だから山口さんは、文章の本だけでこんなにたくさんの本を書かれてる。すごいですよね。

山口:そういうオファーをいただけていることがありがたいですよね。

その人自身が魅力的になれば、文章も魅力的になっていく

高橋:文章術の本も書いているけど、例えばコミュニケーションの本も書いているとか、違うジャンルで横展開していくんじゃなくて。コミュニケーションの本は最初に書いたけれども、基本、文章の周辺のことだけで20冊ぐらい書いているという。

山口:僕の本心で言うと、文章術というか「文章道」なんですけど、すごく奥が深くて。究極的に、文章ってやっぱり、なにか1つが上達すればうまくなるものではないと思うんです。

どういうことかというと、例えば文法。日本語の文法を正しく使えるとか、主語と述語をしっかり対応させるとか、そういったことももちろん大事です。ただそれ以外にも、先ほど言った自問自答が大事だったりとか、読む人が誰なのかをちゃんと考えることだったり、そのターゲットがどういうニーズを持ってるのかを考えることもすごく大事だし。

あるいは書く内容ですよね。文章の書き方がちゃんとできていても、コンテンツというか中身がなければ、これは文章としていい文章にはならない。中身をどうするのかも、すごく大事なんですよね。

もっと言うとマインドですね。なんで自分は文章を書くのかということだったり、自分の中にある人生観とか、思想とか哲学とか。もっと言うとスピリチュアル的なものまで含めて影響を受けて、文章はできていくわけなんですね。

書き方だけではなくて、たくさんの要素の合わせ技が文章だし、もっと言うと「その人そのもの」ですよね。「文は人なり」っていう言葉がありますけど、文章は書く人そのものなんだよ、という意味ですので。

その人そのものが進化・アップデートしていけば、文章もアップデートしていくし。その人自身が魅力的になれば、たぶん魅力的な文章になっていくし。その人自身がちょっと不安で怯えてたら、不安で怯えた文章ができてしまうこともあると思うんですよ。

そういう意味では、文章道はいろんな要素があるので、僕がたくさんのテーマで書けている1つの理由にもなっているのかなという気がします。

高橋:めちゃくちゃ奥が深いですね。

山口:そうですね。

自分が知らない「表現」は、文章に使うことができない

山口:接続詞の本も出してますけど、接続詞は本当にその1つのパーツなんです(笑)。

高橋:タイトルは『文章が劇的にウマくなる「接続詞」』。マニアックです(笑)。

山口:(笑)。

文章が劇的にウマくなる「接続詞」 (アスカビジネス)

高橋:文章が好きな人は、読むことをおすすめします。これ、めちゃくちゃ使えますね。

山口:ありがとうございます。お仕事として文章を扱ってる、編集者の方とかライターの方とか記者の方から好評を得てます(笑)。「私、文章が苦手なんです」っていう人がいきなりこの接続詞の本を読むと、「あれ?」ってなってしまうケースがあるかもしれないんですけど、書いてる人ほど「これはいいですね」って言ってくれてすごく役立つので。「デスクに置いときます」という感じで使っていただいてるんじゃないかなと思います。

高橋:そうですね。もしプロとしてライティングをされてる方がいたら、『文章が劇的にウマくなる「接続詞」』、これめちゃくちゃ使えます。

山口:(笑)。

高橋:バリエーションが増えますよね。

山口:そうですね、バリエーション増えますね。

高橋:これまで自分の中になかったバリエーションを取り入れることができますね。

山口:そうですね。表現って当たり前ですけど、自分が知らない表現を使うことはできないじゃないですか。だから、表現を手に入れていただくっていう使い方もしていただけるかなと思います。

これもまたいつか書きたいなと思ってるテーマで、別に接続詞にとらわれずに、文章の表現のバリエーションとしていろんな表現を集めたような本とかも、たぶん役に立つんじゃないかなと企画しています。

接続詞は、文章における「車のウインカー」の役割

高橋:この本の最後も、「呼応」でしたっけ?

山口:「呼応」の話も書いてますね。

高橋:ちょっとこの接続詞の話と呼応の話とか、どういう意図で書いたかとか、この本について少し語ってもらえますか? 。

山口:接続詞って文章と文章とを接続する、すごく地味なパーツだと思うんですよね。地味なパーツなんだけど、すごく重要で。僕はこの本の中で、「接続詞って車でいうウインカーの役割を果たしてますよ」みたいなことを言ってるんですけど。

高橋:あの表現、シビれました。

山口:あ、そうですか(笑)。やっぱり後続車の人たちって、その前の車が「右に行くよ」ってちゃんとわかりやすく示してくれれば、運転しやすいわけですよね。だけど急に右にバッと切られたり、急に止まったりするとびっくりしちゃうわけなので。やっぱり合図をしてあげることがすごく大事なんですよね。

文章における合図って何なのかというと、接続詞なんですよね。すごくわかりやすいので言うと、「しかし」と言えば、「今まで述べたことの反対の事柄が述べられるんだな」ってパッと想像して、準備を整えたうえで次の文章を読んでるわけなんですね。だからすごく理解度が高まるんですよね。接続詞をちゃんと上手に使うことによって、理解度がアップしていくわけなんです。

接続詞は、最終的に不要なものは削っていくっていうスタイルのものなんですけど、すごく効果を上げられる接続詞はいくつもありますし、似たような接続詞もたくさんあって、ニュアンス的にどれを選ぶかによってその文章の印象ががらりと変わることもよくあるんですよ。

高橋:はい、そうですね。

山口:だからそのバリエーションの引き出しをいくつか持っていて、「この時はこれだ!」っていうものを見つけてもらえるといいなという気持ちで書きました。

接続的なフレーズで文章の「味」が出る

高橋:接続詞っていうと「しかし」とか「だが」とか「けれども」とかだけじゃなくて、接続的に使う言葉と幅広く捉えていて。ちょっと例をいくつか挙げてもらえますか?

山口:「それにも関わらず」「そのほかに」という言葉とかは、別に接続詞じゃないと思うんですけど。「そのほかに」っていう言葉があることによって、わかりやすさがすごく高まると思うんですね。

けっこう、自分の文章を見返しましたね。読み返して、自分はどんな接続詞を使ってるんだろうかとか、あるいは世の中の本の中で、どういう接続的なフレーズを冒頭で使っているのかなっていうことを、いろいろとリサーチしましたね。

高橋:そうですね、接続詞じゃなくて、副詞のようなものも全部入っていてますし、今おっしゃったようにちょっと長めのものも入っている。僕も編集者だから、文章をリライトするじゃないですか。やっぱりここ(接続的なフレーズ)をけっこう意識してやってたんだなってことがありました。

山口:はあ〜、やっぱりタカトモさんはすごいですね。

高橋:でも、ここでけっこう「味」が出るじゃないですか。

山口:味、出ますよね。接続詞を削るところと残すところで、けっこう迷ったりしますか。

高橋:僕は流れで決める感じですね。自分の中では、くどくはないけれども、たぶんあえて多めに使ってます。やっぱり、強調するのに強力な武器になる感じがして。

山口:そうですね。だから文頭って大事なんですよね。文章の続きを読ませる上で、グッと引き込まれるところでもありますし、そこでなにかの印象を植え付けるわけですよね。「また」なのか「なお」なのか、「ちなみに」なのか「ところが」なのか、選ぶ言葉によって受ける印象がまったく変わりますから。そういったものに対する感性を磨いていくのは、すごく大事なことかなとは思ってます。

「呼応」が乱れていると、文章に違和感が出てしまう

高橋:その本の中で、最後の章が「呼応」について。これ、意味がわからないと思うんですけど(笑)。例えば「なぜなら」と来たら、「~だから」となるように、要するに、文章の最初にこうきたら、最後にこうなるはずだというのが「呼応」。

山口:「〜だから」という言葉が必ずセットになるんですよね。「なぜならお水が好きです」という言い方はおかしいわけです。「なぜならお水が好きだからです」と言いますよね。

この言葉がきたら、必ずこの言葉を合わせるというものを「呼応」というんですけど、そういったものも載せていますね。接続詞とは大きくずれているとも言えます(笑)。

ただ、そういう言葉の使い方のバリエーションを少し増やしてもらいたいなという気持ちで、編集者さんと相談しながら本の中に入れました。

高橋:呼応をしっかりすることによって、文章がものすごくスムーズに読めますよね。

山口:そうですね。今、呼応がけっこう乱れているんですよね。やはり「おそらく」と言ったら、その後に「~だろう」みたいな、推量的な言葉がセットになるんですけど、そういったものが抜けていると、ちょっと違和感が出てしまうんですよね。

「なんとなくはわかるんだけど、違和感がある」となってしまうと、ちょっともったいないんですよね。

高橋:そうなんですよね。山口さんも編集者出身で、ライターになって著者になって、文章についてあらゆることをされていると思うんですけれども。編集者はわりとその「呼応」を気にするように、自然と訓練されていきますよね。

山口:そうですよね。訓練されていきますね。

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