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『マイノリティデザインー弱さを生かせる社会をつくろう』刊行記念トークセッション 社会課題とビジネスは、どのようにつなげられるのか?(全6記事)

全盲の息子の父になって気づいた、“弱さの伸びしろ” 人が「できないこと」の中にある、社会を変えるビジネスのカギ

苦手なことや障害、コンプレックスなど、「弱さ」を生かしたイノべーションを起こそうという「マイノリティデザイン」。その提唱者であり、現役コピーライターである澤田智洋氏の活動をまとめた、『マイノリティデザインー弱さを生かせる社会をつくろう』の刊行記念トークセッションが開催されました。本セッションでは、コミュニケーションディレクターの佐藤尚之氏と、「社会課題とビジネスは、どのようにつなげられるのか?」をテーマに「マイノリティデザイン」が生まれた背景や、社会課題を「自分ごと」とする方法、社会課題とビジネスのつなげ方などが語られました。

「社会課題」という言葉自体が、あまりピンと来ない

工藤眞平氏(以下、工藤):大変お待たせいたしました。それでは、澤田智洋さん、佐藤尚之さんにご登壇いただきます。

澤田智洋氏(以下、澤田):よろしくお願いします。

佐藤尚之氏(以下、佐藤):お願いします。

工藤:よろしくお願いします。

澤田:澤田と申します。今日はありがとうございます。さとなおさんとの関係や、さとなおさんが何をやっているかは初めに話したほうがいいかな、と思っています。もともとさとなおさんは、広告会社に勤めていらっしゃって。

佐藤:会社名を出しても別にいいんじゃないかな。

澤田:そっかそっか。電通という会社に勤めてらっしゃって、今はもう辞められています。

佐藤:辞めて10年になりますね。

澤田:ちょうど10年近くですよね。さとなおさんは、広告会社ですごく有名な方というか。

佐藤:いや、そうだったかな?

澤田:もちろんです。僕は未だに広告会社に所属しているんですけれども。実は、なにかとさとなおさんの本を読んではヒントを得たり、ちょっと悩んでいる時に「お茶してくれませんか?」という感じで、すごくお世話になっていて。

佐藤:(笑)。いえいえ、とんでもないです。

澤田:さとなおさんはいろんな本を出されているんですけど、有名なところでいうと『明日の広告』『明日のプランニング』『ファンベース』『ファンベースなひとたち』という本があるんですけど、どれもけっこう予言の書みたいですよね。

明日の広告 変化した消費者とコミュニケーションする方法 (アスキー新書 045)

佐藤:いや、そんなことはないと思いますけど、ありがとう。

澤田:さとなおさんは、ちょっと先の未来の解像度がめちゃくちゃ高くて。今日もその視点や視座をみなさんにシェアできればいいんじゃないかと思って「今日のゲストはぜひさとなおさんで」と、私からも要望を出させていただきました。

佐藤:ありがとうございます。

澤田:みなさん、19時半くらいまでお付き合いください。

佐藤:よろしくお願いします。

澤田:ご飯食べながら、お酒飲みながら、楽しみながら。

佐藤:今回のイベントの課題が大きすぎて、ちょっとビビっているんですけど。

澤田:そうですよね。今日は17時半から事前打ち合わせをしたんですけど、「『社会課題』という言葉自体が、あまりピンと来ないよね」という。

佐藤:そうですよね。

澤田:特に『ファンベース』以降のさとなおさんの本でも、あまり「社会課題」という表現をしていないですよね?

佐藤:社会課題ってなんですかね。まずは「社会って何か?」という話ですよね。わざわざ捉えどころのない感じにしなくてもいいな、とは思いますけど。

澤田:そうですね。福沢諭吉も「society」をどう訳すか悩んでいたという。

佐藤:そうですよね。

澤田:初めは「同胞」と訳すか「社会」と訳すか、みたいな。「同胞」のほうがよかったんじゃないかという。

佐藤:そう、そう。ぜんぜんニュアンスが違ったのにねぇ。

澤田:候補に上がっていた「同胞」や「仲間」という格好で「社会」が訳されていたら、今日は同胞貢献・仲間貢献という言葉で話しているはずで。そっちのほうが、今日の話に近い気はしています。

佐藤:思います。

コピーライターとして活躍する澤田氏

澤田:今日、2人を知っている方もいれば、片方しか知らない方も、2人とも知らない方もいると思うので。簡単にスライドを使って、それぞれが今日に至るまで何をやってきたかをダイジェストで説明させていただきます。じゃあ、私からいいですか。

佐藤:はい。お願いします。

澤田:さとなおさん、なにかあれば茶々を入れていただけたら。

佐藤:茶々? はい(笑)、わかりました。

澤田:(笑)。ヤジを飛ばしていただければ。冒頭のご紹介にありましたとおり、3月3日にライツ社さんという、今乗りに乗っている出版社さんから『マイノリティデザイン』という本を出させていただきました。

マイノリティデザインー弱さを生かせる社会をつくろう(ライツ社)

私が今日話す内容は、基本これ(『マイノリティデザイン』)に沿っている気はしています。違うかもしれないですけど。実は、この本がさっきAmazonの総合ランキングで28位(2021年3月9日時点)まで浮上してきて、Amazonの在庫がなくなってしまった状況なんです。

佐藤:ああ、残念。

澤田:(笑)。残念。よくあるパターン。

佐藤:よくあることです。

澤田:非常にうれしいなと思っています。

佐藤:素晴らしいですよね。おめでとうございます。

澤田:ありがとうございます。なんでこんな働き方をするようになったかをサクッと説明すると、もともと僕はコピーライターをしています。わかりやすくいうと『ダークナイト・ライジング』のコピーを書いたり、高知県のキャッチコピーの「高知家」を書いたりとか。

佐藤:高知家のイベントで、外部審査委員になったよ。

澤田:存じています!

佐藤:あ、そっか、その時に初めて会ったんだっけ。

澤田:はい、少しだけお会いしました。

佐藤:そっかそっか。

澤田:これは、いわゆる広告会社のコピーライターとしての仕事です。

佐藤:これ(高知家)、いいコピーですよね。

澤田:ありがとうございます。8年前から今も使っていただいていて、長生きしているコピーです。そんなことを20代の頃やっていたんですけど。

佐藤:スライド飛ばさなくていいと思います。

澤田:大丈夫です。この内容は飛ばします。まともに話すと150枚くらいあるスライドなので。

佐藤:飛ばしましょう。

(一同笑)

息子の視覚障害を通して気づいた「弱さは社会の伸びしろ」

澤田:ガンガン飛ばしていきます(笑)。もともと僕は、ちょっと悶々としながら働いていたというか。広告会社に発注できる会社って、強い立場だというのはちょっと気になっていて。

「強いものをより強くする仕事」って、僕じゃなくてもできるんじゃなかろうかと悶々としていた時に、息子が生まれました。今は8歳なんで写真よりももっと大きくなっているんですけど。

息子が生後3ヶ月くらいで目が見えないことが発覚し、目が見えるようになるわけじゃないけど手術が必要で、全身麻酔をして2週間の入院を2回繰り返して。「終わった」「僕はなにもできない」と空っぽになっちゃって。

だけど少し時間が経って、その状況を受け入れられるようになって、「とりあえず当事者に会いに行こう」と。障害のある方200人ぐらいに会いに行ったら、おもしろい話を聞いて。

例えば、「ライターと曲がるストローとカーディガンは、障害のある方を起点に生まれたんだよ」という話。諸説はあるみたいなんですが、「え! ぜんぜん知らずにこういうものを使っていたな」と思いました。

あとは「医学モデル」と「社会モデル」の考え方があるという話。「車椅子の人が段差を登れない時に、『車椅子のあなたが悪い』というのが医学モデルで、『段差を作った社会が悪い』というのが社会モデル。今の社会って、医学モデルになっているんだよ」「でも、障害者がリハビリをして健常者にならなくても、社会側が優しくすればいろいろ解決していくよ」ということを聞いて、「あ、おもしろい」と思って。

この2つが僕にとっては超大発見で、「なるほど、弱さって社会の伸びしろなんだ」と思いました。「障害=弱さ」なんですけど、そこからスタートするともしかしたらライターやストローのようなプロダクトも生まれるかもしれないし。あるいは段差が均されるといった、社会インフラも整っていく。

障害をきっかけにみんなにとって快適で、移動しやすくて居心地のいい場所になっていくことが「おもしろい!」と思って。

自分としては息子のこともすごく大きいので、「強いものを強くするよりも、弱いものの伸びしろを探りたいな」と思って、その働き方を「マイノリティデザイン」と呼んで、いろんなことをどんどんやっています。

かなり端折ったんですが、息子が生まれてけっこうな絶望を抱えた時期を経て、すこし立ち直って、今お伝えしたような大発見の話を、障害のある方から聞きました。

広告の力を使ったマイノリティデザインの事例

もともと自分の広告会社での仕事に悶々としていたから、「広告の力を使ってマイノリティデザインをやりたいな」ということで、誰から言われたわけじゃないんですが、自然とこっちに流れていった感じですね。

例えば「切断ヴィーナスショー」という、義足女性のファッションショーを6年前から企画・演出・プロデュースしています。義足という福祉機器を、ある種新規性のあるファッションアイテムに再解釈して、とにかく格好よく美しく見せるショーを年に3~4回やっているんですが、これが今は本当に大人気になっていたり。

ショーに出演する女性のみなさんが本当に美しくて。多くの方が人生の途中で、病気や怪我で足を切断せざるを得なかった中途障害の方々なんですけど、やはり乗り越えてきている人ってすごく美しいんだなと。

佐藤:いやぁ、強いよね。

澤田:強いです。このショーをやると、お客さんが泣くことがあるんですけど、それは24時間テレビの涙とは違うんですよね。ボルトが世界新記録を100メートルで達成した時に流れる涙というか、「人間ってここまで行けるんだ」「可能性があるんだ」という部分にけっこう胸を打たれるという。これもマイノリティデザインの1つとしてやっています。

あとは、忍者ロボットの「NIN_NIN」を作ってみたり。これは、視覚障害者の「足」と寝たきりの人の「目」を交換する「ボディシェアリングロボット」ですね。最近は、特に身体障害のある方を起点に何かを発明するプロジェクトがどんどん増えていて。例えば「041」。オールフォーワンと読むんですけど。ユナイテッドアローズと立ち上げた、1人の悩みから新しい服をつくるレーベルです。

佐藤:最初、「041で惜しい」と読んじゃったよ(笑)。

澤田:(笑)。なるほど。「惜しい」から始めようプロジェクトですね。ファッションって、障害当事者からすると惜しいというか。

佐藤:(笑)。

澤田:「デザインは良くてもなんか着脱しづらいな」「色味が良くても素材がな」という、「惜しい」ことが多いので。

佐藤:(笑)。

車椅子でもはきやすいスカートの誕生の背景

澤田:ある種服に対して弱さを抱えている、ファッション弱者やファッションマイノリティの方と一緒に服を作っています。

関根彩香さんという脊髄損傷により車椅子で生活している方が「車椅子の女性ってスカートをはきづらい」と話していたのを知って。

「ヒラヒラしていると撚れちゃう」「センターラインがわからないからずれて床擦れしちゃう」「車椅子を漕いでいる時、風が吹いたらめくれちゃって手で押さえられない」とか。ファッションマイノリティの1人としての声を、彼女にかなり深堀りしてヒヤリングして、ユナイテッドアローズと一緒に服を作りました。週末にかなりTwitterでバズったので見た方もいるかもしれません。

このスカートはジップが縦に5本付いているので、ヒラヒラして気になる方は全部ジップを閉じて、右側の写真のようにタイトな状態ではいて、はいたあとでジップを開けるとフワッとする。逆に、フワッとしていたほうがはきやすい方もいると思うので。

これは、さっきのライターやストローに近くて。障害のある方のマイノリティを起点に開発したんですけど、買っている人の99パーセントはいわゆる健常者の女性。「1枚でカジュアルシーンにもフォーマルシーンにも使えてお得だよね」ということで、買われていっていると。

佐藤:Twitterにも書かれていたユナイテッドアローズさんの言葉が素晴らしかったですよね。

澤田:そうなんです。僕から自主プレゼンというか、「実は21世紀の今でも、障害のある方は服で悩んでいます。どうか一緒にやってくれませんか?」という話を持っていったらしばらく黙っていたので、「ああ、これは断られるかな」と思ったら、「知ったからには『やる』以外の選択肢は考えられませんね」とおっしゃっていただいて。その瞬間、僕、泣きそうになったんですけど。

佐藤:本当、すごいと思う。

澤田:すごくいろんな人の熱が入った商品で、Twitterに載せると熱が伝わるし、商品を買う方にもけっこう熱が伝わる。最近、アメリカだとボイコットじゃなくて「バイコット」(環境問題や社会課題に配慮した購買活動)がすごく盛んです。環境や社会へのメーカーの姿勢に共鳴した、特にZ世代やミレニアム世代が「積極的にその企業の商品を買う」のがバイコットですけれども、ある種日本でも「ユナイテッドアローズの服買おうぜ」というバイコットが起きている状態になります。

案の定長くなってきた。すいません(笑)。

佐藤:大丈夫です。みんなが知りたいところです。

自分も「運動音痴」というマイノリティだった

澤田:そうしたら「自分もマイノリティなんじゃないか」ということにだんだん気付いてきて、「マイ・マイノリティデザインをやりたい」と思って。というのも、障害者と健常者のラインは非常に曖昧ですよね。

線引きをしないと、障害者手帳を発行したり、障害年金を提供できないので。社会保障的な観点ではもちろん線引きは必要だけど、環境によっては僕自身もマイノリティだということに、どんどん気付いて。

僕の場合でいうと、めちゃくちゃ運動音痴なんですけど、これは立派なマイノリティじゃないかなと気付きます。なので、自分のことを「スポーツマイノリティ」と呼んだらどうだろう、と思った。

スポーツ庁(文部科学省)が出している『スポーツ実施率』というデータでは、日本人の45パーセントくらいの人が「日常的に運動していない」。スポーツマイノリティが国民の2人に1人くらいいて、実は隠れた市場や悩みがここにあるんだな、という。

有名なスポーツメーカーの人に話を聞いても、こっち側じゃない約55パーセント側(マジョリティ)の人に向けて、「もっと走れる靴があります」というふうに仕事をしているので。僕らスポーツ弱者ってまったく手付かず状態で、ずっと置きっぱなしだったんですよね。これを何か仕事にしたいなと思って、「スポーツ弱者を世界からなくす」というミッションで。

佐藤:「スポーツ弱者」という捉え方、言葉とスタンスが本当に素晴らしくて。あの一言で全部変わりますよね。光の当て方が素晴らしいと思いました。

澤田:そうですね。ソーシャルセクターの人たちの間では「イシューレイジング」というんです。顕在化していない課題を可視化していくこと。

佐藤:いやぁ、素晴らしい。

澤田:当然SDGsには含まれていないものなんですけど、「18番目のイシューがあってもいいんじゃないか」と考えています。そんな感じで、スポーツが苦手でもできるスポーツを90種類ぐらい作っています。

いろんなテレビ番組を見た方もいるかもしれないですけど、これまで20万人くらいに参加・体験していただいて。エストニアやシンガポール、ヨーロッパやアジアにも進出しています。

継続運動ができないタケヒロ君とつくった「500歩サッカー」

具体的にどういうスポーツかを1個だけ説明すると、先天的に心臓の病気がある15歳のタケヒロくんという僕の友人から、ある時連絡があって。「僕もスポーツがしたいです。僕はスポーツ弱者です」と。心臓に病気があるので、継続運動ができない。1分ぐらい走り回ったら、1分くらいまた休まなくちゃいけない。

現代のスポーツで、そんなに細切れに休んでいいスポーツは1個もないですよね。せいぜい野球かな、という感じですけど。だから「体育はずっと見学してきました。僕になにかスポーツを作れませんか?」と彼からオーダーが来て。実は僕のところには、日々スポーツマイノリティの方からこういうオーダーがいっぱい来るんですけど。

タケヒロくんと一緒に作ったのが、「500歩サッカー」というものです。「500歩サッカーデバイス」を作って、これを全員が腰に装着します。500歩しか動けない、歩けない、走れない。フットサルみたいなもんですね。動くとゲージが減っていき、残り0歩になったら退場。

ポイントは、休んでいると「4秒目から、1秒に1ゲージ回復していく」という機能を入れていること。「500歩ってあっという間になくなっちゃう」「誰もが必ず休まなくちゃいけない」ことをルール設計に入れることによって、タケヒロくんでもできる。だからこの競技って、回復のためにあちこちでみんな休んでいるんですよね。

佐藤:素晴らしい!

澤田:その中にタケヒロくんが混ざってもぜんぜんわからないし、なんならタケヒロくん、シュート決めていました。

佐藤:(笑)。そうですか。

澤田:相手のエースが配分を間違えて0歩になって、退場になっちゃったという。

佐藤:ああ、なるほど。絶対難しいよね。

澤田:(笑)。難しい。

佐藤:走っていたら、あっという間に消費されちゃうんだもんね。

澤田:そうですね。体力自慢の人ほど、けっこう不利ですね。

佐藤:(笑)。素晴らしい。

澤田:マイノリティデザインは、身近な誰かの小さな弱さから、何かを発明していくことでもいい。ゆるスポーツでいうと、僕自身が運動音痴だったところから。でも、僕だけじゃなくて日本人の45パーセントがスポーツをしていないという市場の大きさに気付き、そこを突いていくことで、実はビジネスとしてもけっこううまく回っています。

ざっくり言うと、そんな感じのことがマイノリティデザインでした。すいません。長くなっちゃった。

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