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MEETING #07 ミーティング・ファシリテーターの仕事|青木将幸さん × 西村佳哲(全6記事)

ファシリテーションのプロが語る、人生で一番役立った講座 リアルでもオンラインでも変わらない「本質」

日本ではアイスブレイクやグラフィックレコーディングという言葉も知られていなかった頃から、青木将幸ファシリテーター事務所を立ち上げ、「ミーティング・ファシリテーター」の先駆けの一人として活躍している青木将幸氏。「結果的にどこへ辿り着くかあらかじめはわからないけど、集まった人同士がちゃんと話し合える場をつくり、本人たち自身で歩いてゆくことを可能にする」というファシリテーションを体現してきました。コロナ禍でリアルでのコミュニケーションが制限される中で、「ミーティング・ファシリテーターの仕事」はどのように変わっていくのか。本パートでは、リビングワールド代表/プランニング・ディレクター/働き方研究家の西村佳哲氏と、オンライン・ミーティングの可能性やコミュニケーションの本質について意見を交わしました。

オンライン・ミーティングの可能性は現状の250倍はある

西村佳哲氏(以下、西村):それで、4月1日以降の百何本のオンライン・ミーティングの仕事を手探りでやってきた中で、変わっていった部分もあるんだろうけども。マーキーは満足できている? 充実してる?

青木将幸氏(以下、青木):悔しいけれど、満足できていないですね。まだまだですね。本当に申し訳ないんだけど、手探り状態なので。もっともっとできた可能性があるし、できる可能性があるのに、僕の経験の浅さでまだかゆいところに手が届いていない話し合いになっている可能性はある。ぜんぜん磨けていない。

本来の可能性は、実は僕が今見ているものの250倍ぐらいはありそうで。250分の1も見ていない可能性がある。だからちょっと可能性が広すぎるんだね。技術的にいろんなことができる。テクニカルな面でアプリなどのソフトを使えば、ハイスペックマシンを入れればというふうに、いろんな何かをすればもっともっとできることはあるわけ。

話していてちょっと微妙になってきたけれど、それら全部は追えないし、僕はなるべくアナログでいきたいほうなので(笑)。みんなお金があって高い機械を買えて、ブロードバンドよりもっとすごい光通信などの通信環境を全員が揃えられたら、それはいろんなことができるんだけど。必ずしもみんながそういう環境でつないでいるわけでもないので。

そのハイスペック寄りにあんまりいってしまうと、そこに乗れない人は置いていきましょうというモードになっていくので。なるべくロー・スペックでもできるやり方で、みんなで本質的ないい話し合いができる方法を模索しているんだけれど、それでもまだまだぜんぜん掘れていないので、もっともっと掘らなきゃいけない。

西村:本当にそうなのかな? と思いながら聞いていますが。

青木:そうかねぇ。僕はリアルのほうのミーティング・ファシリテーションを17年やってきたから、その間にいろんな可能性を取捨選択して試して、この辺が程よいという勘どころで仕事をしてきているわけ。

西村:うん、わかるわかる。

青木:そういった意味ではまだ半年も経っていなくて、オンラインの場合はちょっと勘どころまではいかないね。本当に僕もドキドキしながらやっています。

ロー・スペックの良さは本質に近いところ

西村:それはそうなんだろうと思うけれど、ミーティングってやっぱり、まず参加者の数という要素が大きいじゃない。それから部屋というか、空間の与える影響もすごく大きいよね。みんなが立ちっぱなしでやらなくちゃいけない時と、畳敷きの部屋でできることは違ってくるし。

それで言ったら、マーキーが今オンラインと言っているものって、要はZoomやCisco WebexやGoogle Meetだったり。メディアやツールに規定されているものが大きいんじゃないかなと思うんですよね。

当然規定されるわけですよ。例えば映像には「フレームの外が見えない」問題があって、でもそれは特性でもある。そこを逆手に取るから映画が作れるわけで、全方位カメラでいわゆる映画は撮れない。それでいくと、マーキーが言っている「オンラインの可能性」が、要はZoomやWebexやGoogle Meetの可能性になってしまったら、すごく矮小化されるじゃない。

青木:そうだね。

西村:アプリケーションが使いこなせるかどうかは、もちろん必要だけれど、わりと些細なことだと私は思う。もっと根幹の部分は何なのか、それをマーキーがどう捉え始めているのかなという関心がある。そちらにあと250倍の可能性がある、という話なんだったらもっと聞いてみたいなとも思うんだけれど、スペックやメディアの話になってしまうとどうかなと思ったわけです。

青木:ロー・スペックのいいなと思うところは、本質に近いところだと思っています。僕はリアルの方のファシリテーションでも、いろんな道具をどんどん使わなくなっていった派で、手ぶらで現場に入れるぐらいです。

その前は、模造紙を使用したりポストイットを用意したりして、それこそメディアをたくさん用意することで、重装備にすればたくさんの可能性が生まれるんじゃないかと探求した時期もあったんだけど。後年は……近年は? 後年は?(笑)。

西村:後年はじゃなく(笑)。亡くなった人じゃないんだから(笑)。

青木:リアルファシリテーターとしては、もう死んだも同然なので(笑)。やっぱり手ぶらで何もなくてもできますという感じで、なるべく少ない道具でシンプルに本質に近づけていきたいほうではあるの。なので、西村さんがおっしゃるように、スペック寄りの可能性ではないところでうまくできたらなぁ。

プロのファシリテーターが語る、人生で一番役に立った講座

青木:ちょっと話が脱線しちゃうんだけど、今日の日中にミニカウンセリングというお仕事があったんです。相手の話を15分録音させていただいて、自分がどうやって人の話を聞いているのかを客観視するという、ある種の講座なんだけれど。僕の人生の中で一番役に立った講座です。講座やセミナーは山のようにいっぱいあるけれど、役に立ったものを挙げろと言われたら、3つも挙げられないうちの1つが、やっぱりミニカウンセリングなのね。

西村:私もマーキーが主催したその講座に行って、人生は変わりました。

青木:人生は変わりました(笑)。ありがとうございます。ミニカウンセリングはオンラインにがっちり向いてる感じがする。下手な道具を使わないで、純粋に相手の話を聞きに入る時には、オンラインのいろんなものに振り回されない感じがあって、本質にぐっと近い感じがします。

ただ、リアルのファシリテーションとオンラインのファシリテーションは何が違うんですかと言われたときに、本質という意味では大事なことは変わらないとも思っています。

お相手のおっしゃっていることをきちんと受け止めることであり、自分の内側にある、何か言わんとすることをなるべく丁寧に相手に届けるという意味では、本当はリアルもオンラインもそんなに変わらないことをしている。そういうファシリテーターとして、僕らが見なきゃいけないものはあまり違いはないんだなと。

西村:確かに。相手が話したことをちゃんと受け止めて、ちゃんと伝わっているなということが実感できる状態で、また次の話に向かえる。そういうことをオンラインで画面越しに実現する時に、マーキーはリアルの空間だと「板書」しますよね。今夜はいつもと違う神倉書斎で、ふだんは淡路島のお家でつないでいるんでしょうけど、どんなふうにやっているんですか?

青木:板書はいつも小さいホワイトボードを背中に背負ってそれに書くか、壁に模造紙を貼っておいてそれに書く。なるべく手書きでやっていきたいなという気持ちはあるので、手元に書けるようにはしています。一番簡単なのは、こういうA4の紙とマジック。

ここに「てもとにかく」と書くだけでも、状況は変わると思っていて。今まで西村さんと僕の顔しか見ていなかった人が、手元に書くんだということを見るだけで、何かが変わっていくんだと思ってね。こういうものはおもしろいなとは思っています。

オンライン・ミーティングの可能性を模索中

青木:これは画面の向こうの子どもたちとやった時にすごく顕著だったんだけど、長野県にある軽井沢風越学園という学校で子どもたちと朝の会をやった時に、「じゃあおじさんが、みんなが言ってくれたことをなんでも書くから何か言って」と言うと、ぐあー! っと言ってくるわけ。

僕の板書が間に合わないくらい、あれもこれも好きに。僕が「はいよ! はいよ! はいよ!」というふうに一生懸命に書くと、めちゃめちゃおもしろいらしく、もっとわーっという感じで言ってくるわけ。画面の向こうの人を自分の発言で動かせることが快感なの。これは僕にとっても快感で、相手の言っていることを受け取りましたよということを、書くことでお伝えできる。こちらが伝えたことによって、相手がますます安心感を持って「それならこれも言ってやろう!」という感じのことが起きていく。

僕は必死に書いているだけなのに、みんながガンガン言える状況を作れたとしたら、そのことをファシリテーションと呼んでいいと思っています。なので、僕は一生懸命書きますと言って、みんなの前であたふたと「どこに書いたらいいんだろう」という状態になりながら、必死こいて書くという姿で仕事をしているところはある。

それと同じようにGoogleスプレッドシートをバーンと出して、便利なツールを使いながらみんなで「はい、言って!」と言うと、100人が同時に打ち込むようなこともやったりもするんだ。それは違う快感なんだよね。

西村:一気にスプレッドシートが埋まってゆくようなね。

青木:そうそう。「すごーい! 軍隊の行進を見てるみたい!」、ザッザッザッザッという感じで、「組織って強い!」という感じのこともできるわけ。どっちもオンラインミーティングの良いところだなとは思っています。アナログにすることも、スペックの高い便利なツールに振ることもできるので、お相手を見ながらいろいろやっていて、まだまだ模索中です。

西村:まだまだ模索中。そんな感じなんだなと思って聞いています。250倍の可能性があると思うとおっしゃるけども、まだそれを具体的に言葉で指し示す段階じゃないんだね。でも一方で、リアルのミーティング・ファシリテーターは廃業すると決めたんだ?

青木:絶対受けないという意味じゃないんだけどね。リアルに戻ってくると思わないようにするという意味でやっているの。「廃業したのでやりませんよ!」という感じで逆ギレはしないんですけど(笑)。依頼が来たら「喜んで!」と言って、もちろんどんな仕事でも受けるんですけれど。「いつかリアルに戻るんだ。オンラインは腰掛けだ」とは思わないようにした。

西村:退路を絶った。

青木:今後のミーティングのスタンダードはオンラインです、ということで退路を絶った感じはあります。リアルでできたらそれに越したことはないし、できる時もやればいいだろうけれど。リアルがスタンダードにはもう戻らないだろうなという読みも僕の中にはある。

人は集まって何かをしたい生き物

西村:今後のミーティングは、リアルもオンラインも少人数がスタンダードになるということはないんですか?

青木:いや、人は多くを集めたいものだ。

西村:何それ、ローマ時代の誰かですか(笑)。勝手に作っちゃだめですよ。

青木:あはは(笑)。いやいや、人は多くを集めたくなるものだとは思います。ただ組織の意思決定は少人数でしていくように、もうすでになっているしね。話し合って決めていくことは、ちょっと前の時代の遺物のように思っている人も増えてきているぐらいです。

ですが、人は大人数で何かを確認したいものだし、味わいたいものだとは思いますね。少人数にしていったほうが効率がいいなとは僕も思います。

西村:オンラインで話し合いの場を成立させようと思ったら、明らかにそうだよね。感染確率を下げるという意味では、リアルのほうにも少人数というニーズが出てくる。

青木:出てくると思います。それでも全国大会をしたい。

西村:それはオンラインでやってよ、という(笑)。

青木:甲子園みたいなものはしたい。人はね、集まって何かをしたいんだよ。そっちは飽くなき探求が続くと僕は思います。なので、少人数はスタンダードにならない。

西村:はい。マーキー、探求期間と。

青木:ははは(笑)。

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