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MEETING #07 ミーティング・ファシリテーターの仕事|青木将幸さん × 西村佳哲(全6記事)

リアルでは「人の話を聞かない人」が、相手の話を聞くようになる オンラインミーティングの功

日本ではアイスブレイクやグラフィックレコーディングという言葉も知られていなかった頃から、青木将幸ファシリテーター事務所を立ち上げ、「ミーティング・ファシリテーター」の先駆けの一人として活躍している青木将幸氏。「結果的にどこへ辿り着くかあらかじめはわからないけど、集まった人同士がちゃんと話し合える場をつくり、本人たち自身で歩いてゆくことを可能にする」というファシリテーションを体現してきました。コロナ禍でリアルでのコミュニケーションが制限される中で、「ミーティング・ファシリテーターの仕事」はどのように変わっていくのか。本パートでは、リアルとオンラインでのミーティングの違いについてリビングワールド代表/プランニング・ディレクター/働き方研究家の西村佳哲氏と共に、意見を交わしました。

オンラインとリアルは映画と演劇くらい違うもの

西村佳哲氏(以下、西村):オンラインミーティングのファシリテーションは、マーキー(青木氏)としては今はどんな感じなの?

青木将幸氏(以下、青木):リアルの会議と同じものを求めにいくと、ちょっと苦しいものになります。それこそ北海道で仕事をした時に、演劇をやっている友人が、「オンラインミーティングは生の演劇の舞台と映画ぐらい違うものだね」と言ってくれて。

「同じような作品ができるかもしれないけれど、やっぱり舞台の構造やリアル感は、同じメディアだと思わないほうがいいね。同じ舞台だと思わないほうがいいね」とおっしゃっていたのがちょっと残っているんだけど。

オンラインのミーティングとリアルのミーティングで、リアルにあるものを求めようとすると苦しいけれど、オンラインでしかできないことを探求することは楽しいなと思っていて。

だから、前と同じにはできないです。だけど「あ、オンラインでここまでできるんだ」「オンラインだからこんなにできるんだ」というところは、やっぱり一生懸命に開きつつある。

西村:「リアルのミーティングにあるものを求めると苦しい」というのは、例えば?

青木:非常に抽象的ですけれど、リアルのミーティングの場合は、場が進むにつれて言葉を発しなくても、お互いが感じていることを交わし合えたりキャッチし合える関係性を構築しやすいです。僕はオンラインでは、まだちょっとそこまでは至っていない。

西村:情報量がぜんぜん違うものね。

青木:そう。情報量が違う。

西村:あの人、この話になった時に、こう顔を伏せていたなというのも見えないものね。あとは、「この人があの人を見てる」というのもわかりにくい。

青木:そう、少しわかりにくいね。誰のことを気にして頭をかきむしっているのかというものはわかりにくいよね。でも、ちょっとした仕草とか身体の角度とか、その人に目がいっていないなとか。

そういったことをお互いに感じながら、「今、僕たちはこの辺にいるよね」ということをキャッチし合うのがリアルミーティング。ある程度、グループが成熟してくるとそういう状況に行ける気がするんだけれど。僕はまだオンラインでは、そういうところには至れていない。

オンラインミーティングの得意分野と苦手分野

西村:オンラインが得意なことは何かというと……。

青木:情報伝達のスピードとか、オンラインの速さというものがあるなと思っています。今日ここで、たった今聞いてくださっている方が93名いらっしゃって。この人たちに「ねぇ、みんな。これについてみんながどう思うか、チャットに書いて」と言うと、ぬるぬるぬるぬるとコメントが出るわけ。

でも、リアルではその尺でその時間帯では絶対に出ないというぐらいのスピード感のある意見出しとか、情報共有はすごく早い。常にインターネットにつながっているので。リアルミーティングでパソコンなどをカチャカチャやっていると、なんとなく「なんか触ってるなお前」という感じがするじゃない(笑)。

でも、これはみんながパソコンを触っているので。「みんな、ちょっと悪いんだけど、これについて調べて、わかる限りの情報を共有しようぜ」と言うと、世界中の最新の知恵をボコンボコン共有しながらミーティングができたりするわけ。

プロジェクターでパソコンを1台つないで映しています、とはちょっと違うレベルのものをみんなが手にしている状態でやれるので。そういったことに関しても、もちろんオンラインミーティングのほうが先駆的だよな。

西村:オンラインミーティングが得意なのは、明示的なコミュニケーションだよね。言葉で言うとか、テキストで打てるとか。非明示的なコミュニケーションはそんなに得意じゃないけど。

青木:そうだね。五感と言うけれど、オンラインミーティングで比較的カバーできるのは視覚・聴覚です。目で見えるもの、耳で聞こえるものは、ある程度やり取りできるよね。残りの嗅覚とか味覚とか触覚は、やり取りがしにくいとされていて、やはりこの3つに関してはちょっと苦手ゾーン。

感覚的な言葉にならない、もそもそっとした動きとか、ぐーっという盛り上がりとか、サーっと引いていく感じとかはキャッチしにくいゾーンにあるなと思っています。なので、僕はわざとオンラインで食べるイベントをしたんだけど、それはそれでめちゃめちゃおもしろかったです。

「雑草を食べるイベント」をオンラインで開催

西村:オンラインで「食べる」イベント?

青木:オンラインで「その辺に生えている、雑草を食べよう」みたいなイベントをやったわけよ。(参加者が)「ええっ!?」て。

西村:あはは(笑)。それおもしろいかも。

青木:そう、「雑草なんか食えるの?」って言って。「みんな、大丈夫大丈夫。食えるかもしれないから、とりあえず今から5分10分で、周りにある食えそうだなという草を持ってきて」と言って。みんなが草をぶちっとちぎって持ってくるじゃない。この講師役の先生に、「すみません、これ食えますか?」「あ、食える」と。「それ、なんとか草」「それはお浸し」「それはね、ちょっとアクがあるから天ぷら」とか言われて。

みんなで、その場に天ぷら粉などを用意しているわけ。じゃあこれは天ぷら、これはお浸し、これはお茶にできるらしい、これは生でいけるというふうに分類して、じゃあいくよという感じでみんなで(持ってきた草を見せて)、生の人に(植物の名前を)聞いて「おぉ! すげぇ、なんとかだ!」とか言ったり。

お茶にして「苦いけど良い香り」とか、天ぷらにしたらなんでも食える人で、「セイタカアワダチソウの天ぷらがこんなにうまいんだ!」とか言いながら、みんなでうまいうまいと言って食べている。味覚とか触覚的なものはオンラインでは伝わらないんだけど、「そっちでも同じことをやって」と言われると越えられる。

その時の「わーっ」という感じは、リアルミーティングでやっていた「わーっ」と肉薄するレベルの何かを作れたりもして。オンラインミーティングの時は、届けられるものにある種の制限がある。

なので、オンラインミーティングのほうが、普段よくしゃべる人も人の話をよく聞くようになった。リアルミーティングだったら、どちらも放射線状にバーっと機関銃のようにしゃべっていれば、お互いになんとなく言えたし、聞こえたんだけれど。オンラインは“ギャンギャン大会”がしにくいツールなので。

西村:ギャンギャン大会……はい(笑)。

オンライン上の「現場」は一人ひとりの手元にある

青木:「あの人、絶対に人の話を聞かないよね」というような人も話を聞くようになっていったりしたんだよね。それは、オンラインミーティングの功罪の「功」のほうでもあると思っています。みんなはリズムが悪くなったとか、丁丁発止でやり取りができないともおっしゃるんだけど。もう僕なんか、傾聴マニアなので「あの人が他人の意見を聞いている!」と、ちょっとうれしく感じたりもして。

こんなに便利になっても、限られたパイプを通して、相手となんとかやり取りをしようという、ちょっと糸電話的なところがある。だから、通じた時の喜びには、なかなか大きなものがあって。僕は最近、オンラインのファシリテーターをやらせていただいて、「オンラインでもここまで通じるんだ」というゾーンにきた時には、1つお仕事ができてよかったなと思ったりしています。

西村:それはよかった。ディテールに入ると、「天ぷら強いよな、なんでもいけそうだな」と思うんだけれど(笑)。……そこには入らないよ。その話には入らないで……いやいやいや(笑)。石川初さんってわかる?

青木:国語の先生?

西村:いやいや、ランドスケープデザインの先生。慶応大学のSFCで教えている先生なんだけど、彼も大学の授業が全部オンラインになったようで、このあいだ「どうしてるの?」と訊いてみたの。

彼は授業で、何人かで街歩きしてブラタモリみたいなことをしていたわけですよ(笑)。今はリアルではできないんだけれども、Googleストリートビューでみんなでどこかの街に行くようなことをしていたり(笑)。いろいろやってるわけ。

彼が言っていた話で本当にそうだなと思ったのが、「同じ一つの現場を一緒に共有している」というのが、リアルミーティングであり、あるいはリアルのクラスルームですよね。

でも、現場がここにあるんじゃなくて、現場はそれぞれの手元にあるんだと発想すると、壁を抜けた感じがしたと言っていて。今のマーキーの話はそれと重なるなと思いながら聞いていました。

青木:素晴らしい。なるほど、みんなの手元にあるんだな。

西村:だから例えば大学生で言うと、今めいめいの部屋の中にあるもので一緒に授業を組み立てるようなことは、逆にやりやすくて。個別性がすごく出てくると言っていたな。

青木:おもしろい。

下手なアイスブレイクより猫が通るほうがいい

西村:またリアルとオンラインの話の続きになっちゃうんだけど。マーキーも僕もリアルで人の話を聞いていると、話をしてる瞬間には気が付かないこともあるけれども、あとで録音を聞き返すと、例えば話のここでパトカーが来たとか。2人とも黙ったところで鳥が鳴いたり、不思議な合いの手が入るというか(笑)。ああいう共時性って、オンラインで体験したことある?

青木:地震。

西村:地震(笑)。

青木:この間、話の流れで「こういう話をすると、屋台骨が揺らぐよね」というふうに、揺らぐとか揺れるという言葉が出たあとに、例の緊急地震速報が鳴って。「やばい! 千葉、震度5!」という感じで。ガタガタガタ! という感じの揺れが来るのかなというぐらい、画面上の3人ぐらいは超慌てているわけ。

僕のミーティングは、けっこう全国からいろんな人が来ることもあるので、震源に疎い人たちは、「そっちの地域、震度5らしいですね」という感じのゆとりがあるわけ(笑)。その時の緊急地震速報は空振りだったんだけれど。

でも、何かの時にこうなって……「志賀壮史くんとのファシグラ講座(注:ファシリテーション・グラフィック講座の略。参加者の発言を書いてゆくことで促進するファシリテーションの講座)」。そうそう、ファシグラ講座の時はすごくおもしろかった。画面の向こうで起きていることを受け取りやすい感じもあるので。画面に向かっていると、やっぱりこっち(目線が前)に向かっているじゃないですか。ちょっと後ろの世界に気持ちが広がっていない状態になる。

それが緊急地震速報とか、子どもが割り込んでくるとか、すごく真面目な話をしているのに猫が通り過ぎるとか(笑)。ああいうものはめちゃめちゃいいですね。「下手なアイスブレイクより、猫が通るほうがいいわ」という。「猫ちゃん!」というふうに、急にみんなの状況が変わるわけ。オンラインのミーティングは、少し張りつめた感があるので。

西村:そうだね。回線に余裕があろうとなかろうと、「なんとかしてつないでいる」というか。

青木:昔の国際電話をかけている時の気分にちょっと近いので、やっぱり雑談や馬鹿話がしにくくなったとおっしゃる方もいますね。

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