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埼玉大学宇田川准教授と考える、「新規事業を生み出す上での組織の対話」(全4記事)

新規事業は「市場で死ぬ前に社内で死ぬ」 上司を動かすコツは“われわれ”になること

2020年8月26日、Makuake Incubation Studioが主催する「埼玉大学宇田川准教授と考える、「新規事業を生み出す上での組織の対話」」が開催されました。企業内でイノベーションが起きにくい現状を踏まえて、『他者と働く』の著者でもある埼玉大学宇田川教授が、新規事業を生み出す上での対話の重要性や、推進していくためのコツなどについて語ります。本パートでは、新規事業が市場に出る前に社内で潰されないための視点や対話方法、マインドについて明かします。

イノベーションが生まれにいくいのは「社内の論理が強いから」

矢内:今はコロナの状況で制限がかかっている中で、新規事業が生まれている企業もあるなというイメージなんですけど、どうですか? 

宇田川:今までお話してきたイノベーションや戦略の話以外に、僕は組織論の研究者としての顔もあるんですが、コロナの環境になって相談事項でよくあるのが、社員とのコミュニケーション不全みたいな話です。僕が思うことは、でもそれって、もともとうまくいってなかったのが露呈化しているだけだなあと。

矢内:なるほど(笑)。

宇田川:今までの組織って逆に言うと、オフィスの中で何をやっていたのかということを、1回「 」(かっこ)に入れて考えるという状態にあるわけなんです。

今までの事業が、もしかしてあまりうまくいかないんだとしたら、1回「 」に入れて考える。「これはそもそも何をやっていたのか?」というところで。「あ、これって今までここしかラインが見えていなかったけど、こっちも見えるじゃん」というところができると、うまく新しい道が見えてくるんじゃないのかなと思いますね。

矢内:なるほど。

木内:新規事業担当の方で、わりと既存事業もご経験されて新規事業もやられるようなベテランの方が事業責任者や役員だったりすると、その辺を俯瞰して「どこをどう見ればいいのか」とか、その内部で止まる構図もけっこうわかっていらしたりするので。それをもう1回俯瞰して捉えることで、突破口が開けるかもしれないですよね。

宇田川:そう思いますね。これをいい機会として活かしてほしいと思いますね。もちろん、足元はとても大変だとは思うので軽々しく言える話ではないんですけれども。

矢内:木内さん、このスライドに関してご説明いただいてもよろしいですか? 

木内:そうですね。話が戻るかもしれないんですけれども、市場の声を事業開発プロセスに組み込んでいって、社内の論理をちゃんと捉えたうえで、狙って突破することにチャレンジしないと。なかなか社内の論理が強いので、新しいことが生まれにくいなと思っています。

そうしたときに、ある程度、競争優位性を作れる領域を発見して、アウトプットしていくためのマイルストーンを設計していくわけなんですけれども。内部で止める圧力が強かったりするので、これを理解したうえでどうやったら突破できるかとか、どんな対話が必要かを構図で考えることが大事なんじゃないかなと。

「誰がどう使ってくれるのか」とか「どうやったらうまくいくのか」という仮説を作るわけなんですけれども、こういった仮説を持ったうえで、市場との対話をクイックにやっていく。それがなんらかの恣意的な意見ではなくて、買うとか買わないとか、けっこうフラットに評価されることを狙ってやっていくことが大事なんだよなと思っています。

だとしても、顧客体験価値軸での新しい取り組みにチャレンジすることが必要で、やっぱりここで狙ってヒットを打たないと、外部環境でもこんなニーズがあるよねという証明にならない。

またそれはそれでスタックする構図になるので。こういった市場の声をちゃんと成果に結びつける、どうやったらそれを作れるのかを意識して、狙ってヒットを打つ。そんなことによって、ある程度、前に進んでいく構図があると思っています。

ちょっと俯瞰して見て、どこがスタックポイントでどこが通ると前に進むのかを、ある程度イメージしながら仮説検証を繰り返すことが、非常に大事なんじゃないかなと思っております。

宇田川:先ほど紹介したバーゲルマンの理論で、大事なテーゼは、外部環境の淘汰圧力と内部環境の淘汰圧力を一定にするという言い方をしています。要するに社内で死ぬというのが問題で。

外部環境というのは市場ですよね。「市場で死ぬ前に社内で死んじゃうのをなんとかしよう」というのがバーゲルマンが言ったことです。もちろん市場でも死なないようにしなければいけないわけです。いくら会社の中で「いいね」と言っても売れなかったら意味がないので。この両方を、なんとかやっていかないといけないんですよね。

内部淘汰圧を減らすための「対話」が重要

宇田川:僕は今の話を聞いていて、なるほどなと思ったのが、外部の「死なないんですよ」というフィードバックが1回あることが、内部淘汰圧を減らすという。これはそういう話ですよね? 

木内:そうですね。大企業に限らないと思うんですけど、何を言うかよりも誰が言うかが強い気がして。決裁権限のある方が「そんなのいらないよ」ってなると、他にもお客様がいるかもしれないのに、そこで内部淘汰がかかっちゃうことがあると思っています。

そこに対して、外部環境での淘汰圧力にさらされて「ちゃんとニーズがあるよ」といったことを先に持ってくることで、ユーザーじゃない決裁者の意見を無効化する。そんなことをがんばって狙ってやることが、新しいことを増やすために大事なんじゃないかなと思っていますよね。

矢内:まさにMakuakeを活用してくださった大手企業さんは、そういう事例がたくさんありますよね。

木内:まさにそうなんですね。何十回とやって、その構図がありありと見えてしまったので。いったんご意見は貴重なものとしてお伺いしつつ「マーケットに出してみましょう」と言って、やっぱり売れるとなると話が変わってくるので、急に内部淘汰圧力が下がるようななことを何度も経験してきたので。マーケットに問うこともすごくがんばってやっていかなきゃなと思うんですよね。

宇田川:内部の淘汰をする、さっきのミドルが潰してしまうという話について、ミドルというのはおそらく執行役員クラスなども含む言い方だったんですけれども、潰してしまうにはやっぱり理由があるわけですよ。

それは彼らだって自分のキャリアを考えたら「一か八かの賭けをなんでしなきゃいけないんだ」という話も当然あると思うし、別にイノベーションを推進したくないわけではぜんぜんないんですよね。

だから、むしろこう考えるといいかなと。彼らが味方になってもらうためのリソースを、どうやって事業開発側が提供できるかということが、やはり大事なんじゃないかなと思います。対話するってそういうことだと思いますね。

木内:そうですよね。

宇田川:困っていることに対して、ちゃんとこちら側が「こういうのはどうでしょうか」というので出していくことだと思うんですよね。

矢内:ありがとうございます。お話が盛り上がって、もう折り返し地点を過ぎております(笑)。

木内:すいません(笑)。盛り上がりました。

新しいことをやるために「自分にとっての必然性を確立する」

矢内:ここで、ハシヅメさんからもご質問お伺いできればと思います。

ハシヅメ:ありがとうございます。いくつかあるんですけれども。例えば先ほど、新しいフェアウェイを広げるという話があったと思います。

今のお客様の情報だと、ある程度、社内にも知見や知識があるんですが、新しいフェアウェイをどういう切り口から探していったらいいのかをお伺いしたいです。漠然とローラー的に探しても、なかなか時間もかかっちゃう。何かコツとかあるのかなというのが1つ。

もう1つは、売れると社内的な環境が変わってくるのは確かにそうだなと思ったんですが、売れるまでのある程度、協力とかリソースを割いてもらわないと、最初のトライもできないと思うんですが。そういったときに周りを巻き込むための勘所みたいなところも併せてお伺いしたいなと思いました。

矢内:そうしましたら、1問目を宇田川先生から、2問目を木内さんにお答えいただいてもよろしいですか?

宇田川:今のフェアウェイを新たに見つけていくためのコツですよね。別の言い方をすると、自社として新しいことに取り組む領域を、まずどう見つけていくのか。これは経営課題として1つあると思います。

先ほど少しお話したんですけど、サティア・ナデラの書いた『Hit Refresh (ヒット リフレッシュ) マイクロソフト再興とテクノロジーの未来』という本は、非常に参考になる本でした。

彼自身は、もともとMicrosoftのエンジニアで、クラウドソリューションの重要性はなんとなく技術的に気づいていた。だけれど、一方でMicrosoftは非常に硬直化した組織だったんですね。縦割りでOffice勢とOS勢、それ以外みたいな感じで。

矢内:まさに縦割りな。

宇田川:そう。だから別に、成功した企業の硬直化というのは日本企業に限った話じゃないんですよ。それにギスギスしていたのと。

彼がCEOに就任して新しい方向性を出していく時に、私はいったいこの会社で何がしたいのかというところをしっかり問うたんですよね。

彼の奥さんのお腹の中に子どもがいる時に、お子さんが窒息しちゃって、脳に障害を持って生まれてきて。生まれてきた子どもがMicrosoftのOSで動いている人工呼吸器に接続されて生きているのを見て、クラウドソリューションの重要性と自分の人生がバシッと重なったらしいんです。

MicrosoftはAppleじゃないよねと。みんなAppleとかGoogleみたいなイノベーティブな会社になりたいと言うんだけど、そうじゃなくて自分たちはいったい何者なのかと。そこからなんじゃないかと思うんです。

これは別に経営者だけの課題ではなくて、誰しもがやはり、この会社と私というものがどう重なるのかというところを、ちゃんと見定めるところからスタートしなければいけない。

新しいことをやるために、イノベーションを起こすために何かやるんじゃなくて、自分にとっての必然性を、まず確立するところからスタートするのが、私は大事じゃないかなと思います。

矢内:なるほど。

ハシヅメ:自分と結びつけるというのが、意外にできていない人が多いかもしれないですね。

宇田川:何に困っているのかって、意外に我々自身、僕もそうなんですけど、わかんないんですよ。でも、「なんか不愉快だ。なんかピンとこないな」という時って、自分の必然性がないんですよね。そこはまずちゃんと考える。

でも、考えて「別にその会社はどうでもいい」となるんじゃなくて、重なるところを考えることがやはり大事な点だと思うんですよね。だって、日本の会社っていろんなリソースがあるわけだから、活用しない手はないと思うので、そこをまずは作っていくことが大事だと私は思います。

ハシヅメ:ありがとうございます。

社内を動かすコツは「われわれ」になること

矢内:では、2つ目のご質問、巻き込むための勘所は木内さんから。

木内:2つ目の質問も、けっこう宇田川先生の回答と近しくて、巻き込むための勘所というのは、やはり自社にとって必然性を紡ぎ出す、自分の頭で必然性を考える、言葉にするみたいなこと。

あとは、自分がファーストユーザーとして、この会社で実現したいことをやるという、会社にとっての必然性と自分にとっての必然性の延長線上じゃないと、ロジカルなんだけど、なんか響かないなというふうになっちゃう。

そうなってしまうと人って動かないし、巻き込まれていかないので。その会社に入ったからには入った理由があって、その会社の必然性と自分の必然性を結びつけて、本当にやりたいと思うことをちゃんとやると。やはり感情が乗っかることで、人って共感してくれたりとか巻き込まれていくんじゃないかなと。

会社にとっての必然性と自分にとっての必然性で、本当にやりたいことにトライすることがすごく大事なんじゃないかなと思っています。

宇田川:ひと言だけいいですか? 別にこれは批判をしているわけではないんだけど、先ほど「巻き込む」とおっしゃったんですけど、相手のナラティヴ、つまり生きている世界観というものに、1回巻き込まれてみることが大事だと思うんです。

矢内:なるほど。

宇田川:相手に参入するから、こちら側に参入してもらえるんだと思うんですね。そうなると、もはや私と相手というよりも、「われわれ」になっていますよね。そのために、「相手はいったい何を考えているんだ」「私が働きかけたら相手はどういう世界、どういう困りごと、どういうことで悩んでいるのか」を、よく観察しておくことが大事かなと思います。

ハシヅメ:なるほど。

矢内:ちょっと話が逸れちゃいますが、宇田川先生の書籍も、宇田川先生の人生から最初に始まるのがすごいおもしろいなと思って。巻き込まれながら、引き込まれながら読むんだなと思って。

木内:いきなりリアルなお話があって、グッと引き込まれちゃいますよね。

宇田川:(笑)。お恥ずかしい。

矢内:その辺にも勝手に通ずる部分を感じました。ありがとうございます。

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