2024.10.01
自社の社内情報を未来の“ゴミ”にしないための備え 「情報量が多すぎる」時代がもたらす課題とは?
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木村和貴氏(以下、木村):ご紹介に預かりました、木村和貴と申します。AMPというビジネスメディアの編集長をやっております。ふだんビジネスサイドのスタートアップの企業ですとか、テクノロジーですとか、そういったネタを見ています。本日はアカデミックな視点も交えて素敵な御三方とともにこのセッションをということで、楽しみながらやっていきたいと思います。どうぞよろしくお願いします。
それではいろいろと御三方、多種多様なというかそれぞれの視点からお話をうかがったわけですが、ちょっと話の本題に移る前に……。僕は宮田先生の服装が気になっています。今日も先ほどモナリザの話が出ていましたけれども、ちょっとこの服装、今日のテーマについてまずはおうかがいしたいと思います。
宮田裕章氏(以下、宮田):すみません、恐縮でございます。最近『クローズアップ現代+』という番組に水曜日にゲストで出ることが多いんですけれども、実は毎回テーマに服装を当てています。
とはいえ、ふだんから毎日そういうふうに生きているかというと、そんなことはまったくないです(笑)。真っ黒だったり、関係なかったりするんですけど、今日はモナリザをモチーフにパンクロックのアーティストが描いたモナリザというものを着ています。
いわゆる、人々が中心になる新しい社会。これがSociety5.0です。そういった一連のクリエーションというのが、まさにこれから始まる新しい教育にもつながっていくんじゃないかと考えます。こういったことから、お伝えしたいなと思います。
木村:なるほど。毎回コンセプトに合わせて服装も変えているということですね。横から見ると、Tシャツの柄がこうなっているのではなくて、白いTシャツの上にデザインされたスカーフのようなものがクリップで留まっているんですね。すごく創造性のある服装をされているので、先ほどのお話でもありましたけれども、やっぱりこれから必要なのは「創造性」というところなのかなと思いました。
それでは先ほど御三方からお話があったところについて、1つ1つ掘り下げていければいいなと思います。どこからいこうかなと思っていたんですが、1つ目は前野さんのお話の中にありました「基本的に物議を醸すことが大事だ」ということをやりましょう。
また、「物議を醸すということが大事だ」という話題があったと思うのですが、物議を醸しているときには、誰が見ても本当にダメなアイデアと、その中にいいものが紛れているということがあると思うんです。そこをいいものだと信じて突き進んでいくには、何を根拠に進んだらいいのでしょう? そういったところって、ありますかね?
前野隆司氏(以下、前野):ビジネスデザイナーとして世界的に有名なかたが言っていたことですが、そのかたは1日500万円も取っているのですが、新製品が当たる確率は3割なんだそうです。ひと月に1億円もかけているのに3分の2は外れるんですよね。ということは、有名なビジネスデザイナーのかたでも3割バッターなんですよ。
でも、よくイノベーションは「千三つ」と言って(成功確率が)1000分の3と言われている世界で、そのかたは10分の3ですから、それこそプロ野球の選手と素人くらいの差があるんですね。つまりイノベーションというのは、予測ができない。市場も変化するし、本当に出してみるまでわからないんです。ですからそのかたみたいに鍛えても、3分の1しか当たらない。
ということはどうするかと言うと、1つは自分を信じてやることです。カリフォルニアの起業家なんかはだいたい10回失敗して、11回目で成功してベンチャーキャピタルが儲ける、みたいな世界ですよね。ですから10回に1回から3回に1回当たればいいんだくらいの、なんとかなるって思いながらやるというのが1つ。
もう1つはやっぱり1000分の1じゃさすがにまずいので、1000分の1を3分の1にする努力。努力というか……イノベーターを見ていると、僕なんかはやっぱり企業の中にいて自分たちの常識の中だけにいるとその枠にはまっちゃっていると思います。
例えば僕の友達の孫泰藏さんとかは、しょっちゅうカリフォルニアへ行ってベンチャーキャピタル、ベンチャー企業の人と話をしています。彼のアイデアは「小さいけど、どこへでも行けて、家にもなるエネルギー自給型の自動車」とかいうもので、普通に考えると賛否両論で、僕なんかも「いや、それはさすがにないんじゃない?」って思っちゃうんだけど、やっぱり本当に最先端を知っているとそれが常識になってきますよね。
要するに2つ目は、いいものを見て枠にはまらない努力をすることですね。孫さんだとカリフォルニアに行くし、ビジネスデザイナーのかただと専門的な知識を入れないことだって言っていましたけど、やっぱりそういう違うことをとんがってやっていく人になることです。この2つじゃないかなと思います。
木村:なるほど。打率という話が出ましたけど、1回で判断されるものではなくてわりと中長期的視点で見たときに、その中のいくつかから成功が出ていくというところになるんですかね。
木村:ちょうど打率の話が出たので野球の話題に移れればと思います。(鬼嶋氏に対して)大学野球の監督などもされていたと思います。野球も100か0かというよりかは打率が何割かという世界だと思うんですけど、試合ではそういった中で「ただ1打席で結果を残さなきゃいけない」っていう場面が来ると思うんです。
そこに対して選手にどういうマインドセットを持たせているかを聞きたいです。つまり、どれだけ練習してもその打席で三振してしまったらそこでのジャッジになるのか、それとも中長期的な視点で見たときのジャッジになるのかっていうところですね。
鬼嶋一司氏(以下、鬼嶋):非常に難しい(笑)。
木村:選手の起用って難しいところかなと思うのですが……。
鬼嶋:僕はよく言うんですけど、慶應の選手は頭で考えることは非常にできるんです。だけど、でもゲームじゃないので頭で考えても体が反応しないと、どうしようもないんですよね。だから例えばバットを100回振る人がいたとしても、やっぱり(もっと)反復練習をした人、1000回振る人には敵わないんですよね。
ハワイから来た方で野球殿堂にも入っていますが、昔、慶應野球部の第2代監督に腰本寿さんという方がいました。この方は慶應普通部の監督の時代に全国中等学校優勝野球大会で優勝します。この方が大学の野球部の第2代監督に就いたときにThinking Baseballという言葉を作った。これは慶應の昔からの伝統なんですよ。
腰本さんが六大学で優勝したときは、小泉信三先生が塾長でした。小泉先生と腰本さんが議論に至るんですね。腰本さんはハワイから来たから短時間で練習をしようと言いました。合理的な練習です。
小泉先生のほうは「やれるんだったらやってみな」って言うんだけれど、小泉先生はもともと馬に乗るのでも弓矢を引くのでも反復練習だと言う方でした。要するに、理屈抜きにそういうものを体に叩きこんだ上で技量というのは伸びるという主義だったんですよね。
そういうことを考えると、例えば起用したとき、打つかどうかわかりません。それはわからないので、やはりその選手を信用はしていなかったと思います。でも信頼はしていましたよ。肩やって三振だったらしょうがない。ヒットを打つとは思ってない。ヒットを100パーセント打つなんて誰も、起用するほうは思わないですよね。
信頼関係には年数が必要です。ですからやっぱり1年生より2年生、2年生より3年生、3年生より4年生を使うというのは、人間の感情としては当たり前の話ですよね。そういうわけで打つかどうかはわかりませんけれど、やはり信頼する選手を使いました。信用してなかったとしても(笑)。
木村:なるほど(笑)。
鬼嶋:回答になってなかったかもしれません。
木村:いえいえ。つまり何かにチャレンジをするとき、周囲から否定されたり物議を醸したりしていく中ではたぶん、それだけだとチャンスは降ってこないと思うんですよね。「変なことを言っている人」で終わっちゃうことがあると思うんです。
やっぱりそこで周囲の協力を得ていく人というのは積み重ねから信頼を獲得していって、「成功するかどうかわからないけどやってみてくれ」という、そういう選手起用に近いような協力者が現れると、よりイノベーティブな取り組みに対してブーストがかかっていくのかなと感じました。
木村:宮田さんの話なんですが、すごく大きな社会の中からこうやっていく、こういう世界を作っていくべきだというお話があったかと思います。逆にその過程で、どういう失敗が起こるかということ、道筋どおりにいかず起き得る失敗ということも同時に考えていたりするのでしょうか?
宮田:前野さんがおっしゃったように、やはり時代を変えようとか、変革するアイデア、それこそ大上段に構えること自体が荒唐無稽だという批判もいっぱいあります。人によってはそれ(イノベーション)自体が好ましくないという、それによって利益を削がれる人たちもいるわけですよね。
だからやる前から批判する人たちというのは、いっぱいいます。むしろ失敗を期待されるような局面もあったりするんです。そのときに重要なのが、やはり全体の大きな流れの中、志が共有できるかということだと思うんですよね。
つまり目の前の2、3歩でももちろん変化、大きなイノベーションを起こさなくてはいけないのですが、全体の大きな流れの中においてみんなにとって必要なこと、こういったストーリーを共有しながら変化を作っていくことがすごく重要です。こういったバックキャストから考えるというのはまさに……例えばアポロ計画ですね。
いわゆる「人類は月に行かなくてはいけない」というものですね。あるいは今、イーロン・マスクが火星移住計画を掲げていますが、あれも荒唐無稽かもしれないですけど「いずれは移住しなくてはいけない」というところからバックキャストしてSpaceXというのが生まれています。
例えば『クローズアップ現代+』でこの間やったような、いわゆる「マンモスを作る」というのに対して、研究者の中でも「なんで作るんだ」って話があります。ツンドラ地帯、不毛な地帯に草を生やして生態系を作り、温暖化を解決しようということなのですが、こういった大きなストーリーを共有しながら、必然的なものと感じてもらえるかどうかっていうのもすごく大事な部分かなと思います。
木村:なるほど。確かにそうですね。「三方プラス未来良し」というお話があったと思うんですけれども、現時点の三方(売り手・買い手・世間)だけ見ると、やっぱり反対の立場の方というのが覆らなかったりするのかなと思うんです。「こういう未来を目指しているんだ」っていうのを見せることで、反対の立場の方でも巻き込んでいけるのかなというのは感じました。
宮田:そうですね。「保険医療2035」という4年前くらいに提案した厚労省のビジョンって、いっぱい地雷が埋まっていた玉だったんですけれども、「未来を見るんだ」ということを当時のパワーステークホルダー、利害関係を持っていた人たちにも、ある程度は……ある程度ですけど、納得いただけました(笑)。現状の玉の奪い合いだけだと、逆に膠着してしまうこともやっぱりあるのかなと思います。
ただ重要なのはもう1つ、こういったShared Valueというのは……いわゆるマイケル・ポーターとかの文脈ではCSV(Creating Shared Value)と言われていますが、経済合理性のためのShared Valueではなくて、我々はそこが本来の目的にある中で、経済というものは手段としてあるものなんです。ここの順番がやはり彼らとは違うと言いたいところではあります。
木村:そこがサスティナブルなShared Valueであるというところですね。ありがとうございます。
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