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キーノート2「未来視点と新規事業開発」WHITE小池(全2記事)

4ステップでつくる“未来視点”の新規事業とは 事業開発支援のプロが説く「価値・課題」創造メソッド

2019年9月18日、「Service Design Talk Vol.2|世界で戦う企業・事業を作る人のクリエイティブ力」が開催されました。「日本発のイノベーション創出」をテーマに、事業開発・マーケティング等、各界で活躍する有識者のキーノートやトークセッション、ミートアップを行うイベントです。 本記事では、企業のイノベーションデザインを支援する株式会社WHITE取締役の小池氏が登壇。未来視点を踏まえたサービスデザインをテーマに、新規事業開発のアプローチ方法を紹介します。本記事では、具体的な価値・課題の創造プロセスをお届けします。

新規事業開発の現場でよくある4つの課題

現状の新規事業がどうなってるのかというところを、これからお話しさせていただきます。新規事業開発における課題って、いろんな企業さんのトップとやらせていただくと、主にこういったことを言われています。「アイデアを考えるんだけど、先行企業ってやる価値あるの」みたいな話であったりとか、「ユーザーインタビューとかをやりながらユーザーの新しい価値を発見しました。ただニッチで、企業としてこの領域のビジネスをするべきなのか」という話ですね。

また、「アイデアはあるんだけど、社内で意思決定ができなくて、結果実現しない」という、アイデアの屍たちがたくさんいるパターン。あとは、今めちゃめちゃイノベーション組織ができています。新規事業開発室とか、デジタルトランスフォーメーションなんちゃらとか。ただ「それを引っ張る人材がいない」。これはどちらかというと、マネジメント側から見た課題なのかもしれません。

なんでそうしたことが起きるかというと、「今までの手法が取られ続けていること」にあるんじゃないかなと思っています。何か新規事業を開発しようとしたときに、よくやる分析手法とか、フレームワークってこんなものなのか、と僕も思ったりします。

同じフレームワークが使い回されすぎて、独自性が失われてしまっている

しかし、「フレームワークってそもそも何のためにあるのか」を一度考えてもらえるとわかるんですが、再現性を高めるためなんですよね。なので、「ある一定のフレームで考えると誰でも正解にたどり着けます」というのが、フレームワークの本質的な考え方です。

メジャーになってるフレームワークはとくにそうで、企業の方々が同じように考えて、これだけに頼って同じような分析をしていくと何が起こるかというと、正解がコモディティ化していくんですね。

マーケティングのフレームワークって、ポジショニング戦略とか、コストリーダーシップとか、基本的に差別化をしていくためのフレームワークになってくるはずなんです。そのフレームワークを使った結果、独自性が喪失されてしまっているという、非常に皮肉な状況になっちゃっているのかなと思います。

当然、企業として新規事業で取り扱うべき問いや課題がどんどん枯渇していって、もう規模感のある課題とか意義のある課題というのは、あんまり残されていない状態になってしまっています。「じゃあ、現状、何を新規事業にしていいのかがわからない」みたいなことが、いろんな企業で起こってるのかなと思います。

結果、個人としても「これ、社会的に意義のある課題なんだっけ」というのをなかなか見出せなくなっている。何がやりたいのか、どういう社会にしたい、というビジョンが不足している状況になっちゃっているのかなと思います。

新しい価値を発見するために“未来視点”で今必要なものを見出す

そこで僕らは、「未来視点で考える」というのが非常に有効に働くんじゃないかなと思っています。「未来視点で考える」というのは、よく「バックキャスティング」という言い方もされています。「フォアキャスティング」が、現在を分析しながらその延長線上で課題を見つけ出して、事業を作っていく手法。バックキャスティングは、強制的に未来を発想しながら、今必要なものは何なのかということを見出していく手法です。

新規事業を未来視点で考えていくといいポイントって、僕は4つあると思っています。1つは今「問いが枯渇している」というお話を散々させていただいたと思いますが、未来ってそもそも社会の前提条件が異なってます。例えばで言うと、超高齢化社会が何年か後に訪れると決まっていますよね。老人が半分になったときに「今と同じ課題なんだっけ?」って、絶対違うと思っています。未来の社会課題って実は、(まだ見たことのない課題が)ゴロゴロしていますよという話です。

2つ目は、未来を一度考えてみると、今起こっていることの意味がわかるようになるんですね。のちほどこれを詳しくご説明します。今起こっていることを未来の兆しとして感じられるようになる。

未来の兆しが感じられるようになるとどうなるかというと、先行企業になれるんですよね。未来の1歩目、兆しというのが敏感に感じられるようになって、そこにビジネスとして投資していけると、今までは「考えたけど先行企業がいる」状態だったものが、自社が先行企業になれる。

3つ目は、新規事業をシンプルに定義すると、「未来の利益を生み出していく事業」だと僕は考えています。既存事業は今の利益を生み出していくものですね。じゃあ新規事業を考えて判断していくときに、未来を考えないと、未来に儲かる事業の判断ってできないよね、という話ですね。これは非常にシンプルです。

4つ目は、ビジョンドリブンな新規事業開発ができる点です。社会的意義のある課題が未来には残されていますので、「自分が未来をこう作っていく、こう変えていくんだ」という想いを個人として持ちやすくなるのが、1つポイントになりそうだと思います。

4ステップで“未来視点”の新規事業を生み出す

新規事業を未来視点で考えていくには、大きくは4ステップ、僕らはとっています。手法は違っても、どのクリエイティブの方々もけっこうこの4ステップを踏んでるんじゃないかな。

まず、把握します。把握した内容を抽象化して、価値に変えていく。それで、抽象化した内容をそれぞれ関係性で結びながら、より深い理解をしていく。最後にそれを言語化していくプロセスですね。それを未来視点で使ったときにどうなるのかを、今から少しお話をさせていただきます。

把握するというステップも、実はけっこう大事です。先ほどホテルとAirbnbの例をお話しさせていただきました。何か新規事業をこの市場でやろうと思ったときに、検討市場だけで考えていくと、今までの産業構造を前提にして考えていくことになります。なので、実際は何も見えないことが多いです。「わかっていることがわかったよね」みたいな。

僕らは、「検討市場の再構築をする」というのが、まず1歩目に把握する作業としては重要だと思っています。ユーザーの目的、顧客の目的ベースに市場を再構築していくプロセスを踏んでます。

「機能的な目的」と「意味的な目的」という言葉を使っています。例えばスキンケア市場で事業を起こそうとすると、機能的な目的は「肌をきれいにしたい」「きれいに保ちたい」というところですね。ただそれを実現する手段って、実はスキンケア、化粧水とかではなくて、食事とかフィットネスとか、さまざまな手段が実は同じ目的のもとに提供されてるよね、というかたちです。

まず検討市場を再構築し、人口×技術変化から社会変化を捉え直す

なので顧客の目的別に市場を改めて見てみると、実はいろいろな別の価値、別の市場が転がっています。それをまず可視化するところですね。

「意味的な市場」はどういうものかというと、「肌をきれいに保ちたい」というその欲求は、何のために肌をきれいに保ちたいのかを考えていく。例えば「自分に自信を持ちたい」とか、「良いパートナーがほしい」とか。そういったものがあるかもしれないんです。市場をどう捉えて、我々が事業として何を考えていくのかというのが重要であると。

この意味的な市場を見るのも非常に重要です。例えば「パートナーがほしい」みたいな意味が別の手段で叶えられちゃうと、その下に紐づく機能的な市場とか今の検討市場って、市場そのものがなくなってしまうんです。じゃあ意味的なものってどういうものなのかと考えながら、市場を把握していくのが非常に重要なポイントになってきます。

検討市場の再構築が終わったあとに何を調べるかというと、人口の変化と技術の変化を主にリサーチしていくというのが、WHITEが未来を考えていくときに取っているステップです。

僕らは、超高齢化社会とか、そういった人口の変化って、「決まっている未来」という解釈をしています。何年か後に人口構成がこうなりますよ、というのは決まっています。それと技術の変化を掛け合わせたところに社会の変化があると思っていまして、人口と技術を掛け合わせて、どういう社会変化があるのかというのを抽象的に捉え直すという作業が、次のステップで行っていることです。

例えば人口の変化で、団塊のジュニア世代が50代に突入するよ、みたいなのとか。2024年は3人に1人が65歳以上になるぞ、とか。あとは技術の変化でロボティクス技術とか通信技術が発展して、世界的規模でリモートワークが始まるんじゃないかとか。

こういったものを掛け合わせるとどういう社会の変化があるか。今も、もうそうなってきてるように、場所にも会社にも依存しない働き方が一般化するんじゃないか。こういう人口と技術の掛け合わせによる未来の変化の要因をたくさん出していって、マッピングしていく。

社会変化をリサーチした後は、要素をマッピングしていく

やり方は今日はお話ししないんですが、こうやって紡ぎ出すんだなということだけ見ていただければいいと思います。要素をどんどん出していきながら、マッピングして評価していくというところですね。

その中で一番不確実性が高い、起こるか起こらないかわからないんだけど、起こったら超クリティカルな影響があるぞ、みたいな因子をいくつか取り出していきます。今度は構造化していくプロセスになります。

これは化粧品の未来を考えたときですね。下が現在に近く確実に起こるもの。上が不確実性が高い、みたいなかたちで関係性を紡いでいって、この未来が果たして本当にこの流れの中で訪れるのであろうか、みたいなものを可視化していく作業をします。

ここから今度はシナリオを起こしていって、未来の世界を作っていく言語化作業に入っていきます。

例えば「移動」の未来を考えたシナリオを作るとすると、リモートワークがどんどん発展したりとか、Eラーニングが発展して学校がEラーニング化したりとか。あと買い物がどんどんECになっていったときに、移動ってどうなるんだろうと。単純に考えると、今移動している主な要因ってそういったものになっています。「移動が減るんじゃないか」みたいに考える未来があるかもしれません。

ただ、視点を変えると、アクセスを気にしなくてよくなるんですよ。「仕事場まで30分以内に住みたい」とか「いい学校に通わせるために近くに住みたい」といったこだわりがなくなっていく。なので、実は「定住しなくなって、どんどん移動し続けるような世の中になっていくかもね」みたいなのは、シナリオの1つとして出てきていました。

未来を起点に世の中の前提条件を捉え直して、課題そのものを作り出す

それって実は新たな前提条件です。今は世の中がそうなっていないんですけど、未来に「移動し続ける生活」というのがトレンドになったときに、どういう課題があるのかを考えていくということです。世界そのものの前提条件を変えていくのが、未来視点の大きなポイントです。

移動し続ける生活となったときに、新たな社会課題とか価値って生まれてくると思うんです。例えば半年ぐらいでどんどん住み替えていく。おいしいものがあったらその場所に半年ぐらい住んだりとか、寒ければ南のほうに住もうとか。そういった生活をしてるときって、一時的なコミュニティがどんどん生まれてる状態だなという感じです。

「じゃあ一時的なコミュニティに必要なものは何なのか」を考えていくということですね。当然移動時間が増えていくので、移動時間にどういう意義ができるのか、ここはビジネスの中心になりそうだ、とか。そういった発想で、今の前提条件にない新しいものを作り出して、課題そのものも新しくしていくというところです。

未来を考えると、もう1つ、現在における未来の兆しがわかるようになります。さっき説明させていただいた「移動」のシナリオをベースに、今の世の中を見ていくと何がわかるか。「アドレスホッパー」って最近よく取り上げられていると思います。「クリエイティブをしています」みたいなのとか、家を持たずに暮らしている人たち。

もっとライトな例で言うと、2拠点居住とかシェアリングエコノミーとかも、移動し続ける未来の兆しなんじゃないか、とか。あとはこういう、「ADDress」という賃貸不動産のサブスクリプションが始まっていたりとか。あとは中国で今メインでやられている、信用スコアビジネスとかですね。

信用スコアビジネスの解釈としては、一時的なコミュニティが増えていくと、おそらく「この人は信用できるのか、できないのか」という機会が今より断然増えていくと思います。個人のレーティングがけっこう社会性を帯びてくるんじゃないか、という課題に行き着いたときに、信用スコアのビジネスってやっぱあるよね、みたいな話ができたりとかですね。そういったものが未来の兆しとして見えてくるんじゃないか。

企業としては未来を1回思い描いているので、そこにビジネスとして展開していくのか、していかないのかという、判断のツールにもなると思います。それが未来視点で意思決定できるようになるぞ、ということですね。

「未来予測は無意味」なのか?

これは少し前の記事で、当時は僕もよく聞かれたんですが、こういう仕事をしてると(笑)。「信用スコアのビジネスって日本で普及すると思いますか?」と。その当時の理論は、「いや、文化が違うから。日本には人を信用する・しないとかのビジネスってやっぱり馴染まないよね」みたいなことが、けっこう大きな意見として出ていました。

先ほどの未来を描いてみた視点で見てみると、「一時的なコミュニティがたくさん増えてくるから、おそらく信用スコアのビジネスって社会的に必要とされて、これは発展していくんじゃないか」というような意思決定ができるようになるんですよね。なので未来を思い描くと、こういった判断を比較的シャープにできるようになります。

でも、「未来は不確実である」って、僕らがこういう話をしているとよく言われることがあります。「未来予測って無意味じゃない?」「わからない未来において事業を作っていってどうするの?」みたいなこともよく言われます。

でも視点を変えると、不確実だから、未来って実は作ることができる。そういう発想でいると非常によいんじゃないかな、と思っています。前提条件として、大きな世の中のトレンドとかベクトルは、けっこう抗えない方向性があるような気がするんです。その前提条件で起こっていく課題とかは、解決できるものだと思ってるんですよね。

なのでその課題を自分としてどうやって解決して、よりよい未来を作っていけるのか。このあたりを、未来からビジネスを考えていくときに重要な視点として持っておいていただけると、非常にわくわくするようなプロジェクトになっていくかなと思います。

なので未来視点で事業を作っていくというのは、「未来を予測して事業を考える」のではなくて「未来そのものを創造」していくんだという発想で新規事業を作っていく、といったことになるのかなと思います。

最近、「デザインシンキングの次は何なんだ」といった議論ってけっこうあると思うんですよね。要は「ビジョンドリブンだ」とか「アートシンキングだ」って、先ほどキーワードとしても出てきましたが。

会社のビジョン×未来の社会課題→個人のビジョンへ落とし込むのがカギ

「自分のやりたいことを探しなさい」というのは主な文脈としてけっこう出てきていると思います。でもそれって、今(やりたいことが)ない人たちに向けたメッセージとしては、少し乱暴だなと思っています。

僕らは個人がビジョンを持っていただくためには、やっぱりきっかけが重要だと思ってます。そのためには、会社のビジョンと未来の社会課題みたいなものを掛け合わせる。未来には解決すると意義のある課題がたくさん転がっているので、まずそこを見ながら個人として意義を感じる領域を作っていく。

なので、1(未来予測)、2(未来創造)、みたいな感じで考えていけると、よりビジョナリーな人間になっていくんじゃないかなと考えています。個人のビジョンから入ると、たぶん迷子になるなと思っています。なので考えやすい会社のビジョン・未来の社会課題から考えていきながら、個人のビジョンに落とすというのをお勧めはしています。

それで、未来を作れるとか、個人として意義のある課題はこうなんだ、みたいなことを考えられると、やっぱりわくわくしてきます。結果として自分のやっていることが非常に楽しくなっていったりとか、事業開発がエネルギーを持って行われていったりといった結果を生み出せるんじゃないかなと思っております。

というところで、私からのお話はこれでおしまいになります。アクセンチュアさんと同じように、WHITEでも人を募集しています。なかなかいないので、こういった領域ができる方。興味のある方は「255255255.com」からご連絡いただければなと思います。ちなみにこれWHITEのドメインなんですが、意味がわかる方はいらっしゃいますか?

(会場挙手)

あっ、何でしょう。

参加者:RGB。

小池:はい。RGBの最大値です。RGBの最大値って白なんです。白は「多様性を持った人間が、最大限に力を発揮している状態がWHITEである」と、僕が勝手に解釈しています。のちほど社長に聞いてもらえればわかるかもしれないんですが、そういう解釈でやっていますので。みんなが最大限能力を発揮できるような環境とか、そういったものを用意させていただいていますので、みなさんのご応募をお待ちしています。

というところで、以上、WHITEからのお話でした。ご清聴ありがとうございます。

(会場拍手)

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