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講演(全4記事)

「心地悪さ→心地良さ」のプロセスが人を成長させる 元早大ラグビー監督が貫く“ダメ出し”の流儀

2019年6月13日、ログミーBiz主催イベント「日本ラグビーの育成世代を支える中竹竜二氏の『コーチング講座』-起業家マインドをスポーツから学ぶ」を開催しました。起業家のメンタルケアや目標達成をサポートする「コーチング」に着目した本イベント。早稲田大学ラグビー蹴球部監督や日本代表ヘッドコーチ代行などを歴任し、日本におけるコーチングの第一人者として知られる中竹氏をゲストに招き、メンタルケアとマネジメントスキルの両面からコーチングの本質を語ってもらいました。この記事では、人が成長する上で欠かせない心地悪さと心地良さの関係性について解説します。

PUSH型とPULL型のコーチングとは

中竹竜二氏(以下、中竹):コーチングはCoachingとTeachingを分けたりして、領域があったりしますが、その言葉の定義づけはなかなか結論がない。分けたほうがいいなと思ったのは、曖昧な話をするんじゃなくて手法ですよ。学習者を学習させるための手法です。

大きく分けると、方向性が2つあります。僕が育成する側ですね。みなさんが学習する側。大きく2つに分けて、僕はみなさんとやりとりをしてるわけですけど、何型と何型ってわかります? 

参加者12:受動型と……。

中竹:受動型、はいはい。

参加者12:受動型と、ちょっとその対語がちょっとパッと出てこなかったんですけど……能動ですか。

中竹:いいですね。受動・能動。そんなイメージですね。

コーチングではPUSH型とPULL型といいます。こっちからPUSHするかたちと、学習者のみなさんから引き出すかたち。

今日のオープニングで何をやったかというと、僕は「みなさんの期待は何ですか?」とPULLしたわけですね。「期待していないことはなんですか?」とPULLしてます。これをしないと、さっき言ったみたいに、なかなか良い場って作れないんですね。

僕が今日こだわったのは「コーチングって正解ないですから」という話と、「クライアントの中に答えがあるというのには反論します」という話。これは僕の強いメッセージですね。ここは問いかけにしないわけです。

「みなさんどう思いますか?」じゃなくて、「今日はいろんなことがありますが、すべての答えはコーチが持っていて、それを探すことが大事で、責任は全部こっちにあります」と。ときどき向こうにあるかもしれないので、そこを探っていく役割でいましょう、というのが僕の考え方。

今日はみなさんにかなりPULLで聞いたんですけど、PULLのやり方があり、PUSHのやり方があります。(スライドを指して)この4つがあります。本当は6個あるんですけど、これは今日やると混乱するので、4つに留めておきます。

ASKでは力不足、傾聴を機能させるのはSHOW

(スライドを指して)PUSHの一番左はなんでしょう? これはTELLですね。TEACHとかTELL。TEACHは直接答えを教えたり、伝えたりすることですね。「これってこうだよ」って。

では、そのほかの3つをお二人で考えてみてください。ほかにどんな答えがあるのか。これを知っていると、人と連帯をするときにめちゃくちゃ便利です。

(参加者で話し合い)

いいですね。けっこう出ていますね。じゃあ、後ろで座っている方。どういうのが挙がりましたか?

参加者13:じゃあ、正反対のところの「考える」。

中竹:「考える」。いいですね。ほかはなにかあります?

参加者13:「聞く」とか。

中竹:「聞く」。質問とかですね。いいですね。

じゃあ、その隣のお二人。

参加者14:こちらでも「聞く」というワードが出ていて……。

中竹:ほかはあります?

参加者14:訊くのほうの「ASK」。

中竹:ASK。

参加者14:質問とかを聞くという「傾聴的」な意味での。

中竹:傾聴的な。いいですね。これ実はいろいろあって。細かくいうとTELLとTEACHも違うんですけど。あと、もっと左にある「命令する」「COMMAND」とかね。有無を言わさず「やれ」とやらせるのね。だけど、これはコーチングではあまりやりませんので、分けていてですね。

ASKはここにあります。問う。QUESTIONですね。「期待は何ですか?」「何を学びましたか?」。「今日、期待しているのは何ですか?」。これがASKですね。

コーチングでは、このASKがフォーカスされるんですけど、これじゃ力不足なんですよね。聞いてるだけじゃ人は変わりませんから。聞くのを機能的にさせるのは何だと思いますか? SHOWです。これを忘れがちですね。

要するに、デモをする、見せるんです。「いや、こうやったほうがいいよ」って。「そうじゃなくて、見てみて。これだよ」と見本を見せるわけですね。そうすると「ああ、そういうこと」となる。百聞は一見に如かずです。

人は言葉で聞いたことは忘れるけど、目で見ると覚えている。そういうふうにちょっと差があるんですね。

レギュラーではない選手に見本を披露させる意味

僕、一応ラグビーのコーチをやっていたんですけど、一切見本を見せない監督でした。これは僕のポリシーだったんですね。みんなに僕が現役時代にプレイしたということを忘れさせようと思って。僕自身が忘れるためにも一切見本を見せない。

じゃあ、これどうやってするのかといったときに、よく勘違いするのは、リーダーって自分が見本を見せたいと思いがちですけど、「お前、このキックがうまいから、ちょっとやってみて」って言えばいいんです。そうすれば「こういうふうにやればいいんだ」というのがわかるんですね。

自分はできなくていいんです。大事なのは、Learnerが見て学べるかということ。チームの選手にいなかったら、ビデオで「良い選手のビデオを持ってる。こうやればいいんだよ」とミーティングで見せればいいだけ。

ついつい人間って「俺が見せなきゃいけない」となる。これはエゴですよ。なぜかというと、俺がすごいと言われたいからですね。これを捨てると、リソースが使えますよね。「お前、見本を見せて」と言われた人はどうですか? その日、すごくやる気が出ますよね。そこだけ切り取ると、めちゃくちゃうまいやつがいるわけです。

僕が工夫するのは、それをレギュラーじゃないやつに振ります。あるキックだけうまかったりすると、レギュラーにはなれていないのに、「俺、これ……うまいんだ」と。本人は気づいてないのね。僕がそいつに「お前キックうまいじゃん」と言っても、「いやー、だってレギュラーになれてないし」とね。

本人からすると、成果を出してレギュラーにならないと、自分を認められない。そういう人がたくさんいるんですけど、「いやいや、そこだけ切り取ったらうまいんだよ」と。だから「じゃあ、見本を見せて」とやると、みんなから「おまえすごいじゃん!」と思われますね。これは全部コーチングなんですね。

SHOWするときの1つのポイントで、最後の領域になるのはDELEGATEです。要するに任せるってことですよ。「どうかな?」「まずやってみよう」と任せることですね。 でも、これをやらないんですね。SHOWするのも、その人を学習者として やらせてみると。みなさんがふだん仕事をしていて、「チームを率いて育成したいな」ってときに、どれを使ってやるか。

僕はコーチに教えるとき、コーチング中にビデオを録るんですよ。簡単ですよね。全部ログが残っているんです。ログミーさんじゃないですけど、全部ログが残っているわけです。何をしゃべったかわかるわけですね。

「今日のコーチングではいっぱい引き出します」「Player Centeredでやります」と言っておきながら、始まると、ずっとTELLしているわけですよ。振り返ったときに「今日どうでした?」「いや、いっぱいしゃべっちゃいました」となる。それをEducatorとして、「がんばったけど、コーチってしゃべりすぎちゃうんだよね。次はもっと質問を簡単にしようか」みたいな感じでやっていくのが僕の役割です。

良いコーチと悪いコーチの見極め方

中竹:あと10分ぐらいですね。みなさんが偉くなると、(自分に)コーチをつけて、みなさんがコーチやリーダーをやりますよね。もっと偉くなると、その下のリーダーを使って、現場を回すというね。例えば、執行役員とか部長になってくると、その下に課長がいて、チームリーダーがいて、メンバーがいる。

こういうときに何が必要なのかというと、僕の仕事ですね。直接は介入できない。僕はどうやって良いリーダーとか良いコーチを見極めていくか、というのをします。これ最後の質問で、良いコーチの見極め方。はい、お願いします。

(参加者で話し合い)

「この人良いコーチかな?」、どうでしょう?

参加者15:その人と話をしたあとで、自分がいい気分・やる気になっているか。

中竹:いいですね。相手がやる気になっているかどうか。へこんでたら、心配ですよね。

次、誰にしよう。いかがですか?

参加者16:何を学んだかというのを、ちゃんとこっちから言わせて、引き出してくれる人。

中竹:はい。この答えはすばらしいですね。良いコーチってたくさん見極め方があるんですけど、今日はよく見逃すポイントだけをお伝えします。極論なので、これだけではありませんが、僕が一番見ているのはこれですよ。

要するに「エッジまで連れていっていますか?」という話です。人間ってさっき出たように「No Pain, No Coach」なので、学ぶときに痛みを伴うんですよ。脳的にですね。ということは、コーチが向き合う相手は、学習して成長しないといけないんですね。では気分をよくさせて成長するかって、するはずがないんですね。それはただの友達ですよ。ただの飲み会ですよ。

「心地悪さ→心地良さ」を経験しないと人は伸びていかない

ずっとやる気がある。半年やって、ずっとやる気で楽しくやっています。それで何を学びましたかって、絶対に学びにはなってないですね。そうなったときに理論的にいうと、どれだけ瀬戸際まで連れていくかということ。要するに不快なところまで連れていくかということですよ。僕たちは、それができるコーチを見極めています。

ビジネスコーチに講演を頼まれたときに、よく「コーチングって意味あるんですか?」という質問をコーチにするんですね。これ、相当ムカつかれますよね。「コーチングってうさんくさくないですか?」と伝える。

そうするとざわつくと思うんですけど、その中で冷静に自分の答えとして「いや、そうかもしれないけど」と対応できるかどうか。いきり立ってしゃべるんじゃなくて、ちゃんと自分の中で消化して言えるか。「答えはクライアントの中にあるって言いますけど、それって言い訳ですよね」と言われたときに、どういう態度をとるのか 。

実はこういう経験をしないと、人って伸びていかないんです。これはどういうことをやっているかというと、成長の原理は基本、Uncomfortableなんですね。心地悪さを通過して、心地よくなっていくのが、成長の原理・Principleなんです。

筋トレもそうじゃないですか。腕立て伏せをやって最初は10回しかできなかった。10回で苦しくなるんです。Uncomfortableです。毎日続けたら、30回やって気持ちよくなっていく。半年やったら100回いけて気持ちいいですよ。当たり前だけど、これが成長ですよね。だけど、最初の10回は苦しいわけです。

あと人に何かフィードバックするときに、こっちの心もざわつくんですよ。厳しいことを言う。気持ちよくさせるのは簡単ですよ。「すごいですね」「だけど、すごく気になっていることがあって。笑ってごまかすのってコーチとして違和感あるんですけど、どうですか?」と伝える。

過去のエッジを超えて成長できたのか

この一歩を踏み出すかどうか。コーチとしても相当勝負です。いきなり言えませんからね。ちゃんと順番どおりに固めて、信頼関係を作って、「すごくがんばってますけど、ちょっと作り笑いだよね。ごまかしたりしてませんか? それすごく大事なんです。もったいないです」って。この領域に踏み込んでいくわけです。Uncomfortableです。それができるようになって、当たり前のようになれば、また次のステップ に進めるんですね。

そういうプロセスがあるにもかかわらず、ちょっと勘違いしてしまうのは、ずっとやる気にさせて終わらせちゃうというパターン。それが役割ならいいのかもしれませんが、基本の成長の原理はこうなります。みなさんは過去に自分がどんなエッジを超えて成長したのか。それはみなさんが部下に成長を促すときに重要になってくる。

最後に、簡単に僕のMy Edgeについて。僕は早稲田大学に仮面浪人して入ったんですけど、ラグビーはまったく通用しなかったんですね。そしたら、同級生の同じポジションのやつに「おまえ、通用すると思ってるの?」とマジで言われたんですね。相当ムカつきましたよね。要するに「おまえ、早く辞めてくれよ」と。新人は振り落とし期間があったので、「お前が辞めてくれると、俺たちが早く部員になれるから」って。相当なプレッシャーがあった。

監督になった時も「お前、マジ使えねー」とか言われて。「おまえ、いらねーよ」「この練習マジつまらない」「こんな戦略で勝てるのか」とかね。

きわめつきはこれですね。「中竹、死ねー!」って叫ばれました。

「いや、まだダメだ」 ダメ出しをされて人は成長していく

これはUncomfortableだったんですけど、今考えると、それがあったから今があるなと思います。あのいやな時間をずっと過ごしてきたから超えられる。今じゃ「死ね!」と言われてもそんななんともない。そりゃちょっとはムカつきますけど、「人ってすぐムカつくんだな」というぐらいに受け止めます。

僕の信念ですね。ダメ出しされるぐらいがちょうどいいかなと思っている。ダメ出しされて、人って成長すると思っています。ダメ出しするやつも、僕自身も。

僕にダメ出ししたやつがいるんですね。当然、一晩はムカつきましたけど、信じましたよ。半年後に「いやー、中竹さん。あの時は俺若かったですね」と言って飲んでいる姿を想像したわけですよ。1日かけてイメージトレーニングしたんですね。そしたら、むしろ今悪いところはまだ成長できるなと思った。

「The Power of Yet」という言葉があります。Yet。「まだ」ですね。ダメな人を見たり、自分はダメだと思ったら、「いや、まだダメなんだ」という思いを持つ。これがすごく大事です。

何度も言いますが、人が成長するには、心地悪さを通過して、心地良さになっていく。僕はそこしか見てない。そうなってくると、コーチングの本質というのが見えてきます。おそらく、これからビジネス界でも流行ってくると思いますが、なにかの参考にしていただければと思います。

今日の学びを言語化して学びにしてみる

中竹:ということで時間が経ちましたので、最後の質問として、一番最初にやった「今日、みなさんの中で学んだことは何ですか?」という話について。これを隣の方と共有してください。はい、お願いします。

(参加者で話し合い)

ありがとうございます。じゃあ、誰か共有してくれる方いますか? 最後にぜひ。じゃあ、一番端の方。

参加者17:1時間ほど遅れて来ているので、後半しか聞いてないんですけれども、ある種の冷静さといいますか、そういったものがコーチングでは大事なのかなと。

一般的な会話ではどうしてもつい盛り上がる方向で話を進める。お酒の場合でもなんでもそうですけれども。あるいはパワハラでもそうですけれども。コーチングというのは、盛り上がりたくなる場面でも、あえて冷静に、ある意味客観的に受け止める。そういうメンタルの強さというか、冷静さが必要かなというのを学びました。

中竹:ありがとうございます。では、もうひと方。2度目になりますが、ぜひ感想を。

参加者2:一番印象に残ったというか、「そっかあ」と思ったのは成長の原理のところ。心地悪いところから心地よくするというところで、人間は成長していくというのが、コーチングとかだけではなく、一般的にもそこまで踏み込むことはあまりないのかなって感じました。

中竹:ありがとうございます。学び方というのは、それぞれありますので、「今日来てこれを学んだな」というのをぜひ認識して帰っていただきたいと思います。ということで、いったん私の話は終わりたいと思います。どうもありがとうございました。

(会場拍手)

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