2024.10.01
自社の社内情報を未来の“ゴミ”にしないための備え 「情報量が多すぎる」時代がもたらす課題とは?
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中竹竜二氏(以下、中竹):僕の簡単な自己紹介をさせていただくと、マネジメントとコーチングが専門です。
一応ラグビーをやっていたんですけど、もう最近はぜんぜん面影がなくて。選手のほうから「中竹さんってラグビーやっていたんでしたっけ?」と言われたりして。ラグビー素人感が満載なんだけど、一応、学生時代はキャプテンをやっていました。
サラッといきますね。これ『Number』の表紙です。その後、母校に戻って、早稲田大学の監督を4年間やりました。有名な選手でいうと、五郎丸や畠山選手を指導し、そのあとU20の監督になりました。そのあと、日本代表ヘッドコーチの代行を2ヶ月ほどやりました。
実際はコーチだけではなくて、コーチを指導するコーチのコーチもやっています。これはちょっと特殊な仕事なんですけれども、すごく大事なんですね。僕自身、初代のコーチングディレクターという役職で、これがコーチにとって大事なんですよ。なぜかというと、コーチは成長しないといけないから。
この役職をたくさん増やさないといけないなということで、僕はメインにコーチのコーチのコーチをやっている。なにをやっているんだかわからなくなりますが、これは非常に難しい専門的なスキルがいります。役職としてはコーチングディレクターというものですね。
今日こちらで共催させてもらっているスポーツコーチングJapanという団体は、他競技へのコーチ育成も展開しています。例えば、私や今田というコーチディベロッパーは、日本バスケットボール協会のS級・A級・B級、要するにトップの階級のコーチ指導にあたっています。僕はバスケットのことは一切わからないんですけどね。
プロバレーボールのチームも教えていますし、球技とは違うんですけど、100メートルランもあります。
あとオリパラ(オリンピック・パラリンピック)で現場に立つリーダーたちをトレーニングしています。そのオリパラのトップは、自分の競技のところで1万人ぐらいボランティアスタッフを使わなきゃいけない。その人たちがどう自分のリーダーシップやマネジメント力・コーチング力を伸ばして、最終的に成功させるか。ここへの支援を行っています。
そういうことをやるのがスポーツコーチングJapanなので、みなさんもコーチングを始めようというところがあれば、ぜひお声がけください。
スポーツでいうと、構造的に当然Playerがいますよね。Playerを教えるのがCoachです。Coachを教えるのを、コーチディベロッパーと学術的にはいいます。Coachを教える。ラグビー界では、コーチをコーチするのがEducatorで、コーチのコーチのコーチがTrainer。これは国際ライセンス制度です。
僕自身はこの国際ライセンスを持っていて、ほかの国に行ってCoachやEducatorを教えないといけない。そういうミッションがあります。僕はアジアであったり、太平洋のアイランド系が管轄になるので、そこで海外のコーチを教えることが仕事となっています。
今聞いてわかるように、もちろん経営でも同じですよ。そんなに規模は大きくないですけれども、僕自身で会社を経営したり、当然社外の活動もします。あと 政令都市のアドバイザーなんかもしていますが、やっていることはほとんど同じです。要するに「どうやったら人が育つか?」「どうチームをマネジメントできるか?」ということを10年以上やっています。
(スライドを指して)ラグビーの話に戻すと、これが僕のラグビー経歴になります。僕のラグビー歴、どうですか?
参加者8:いや、もうトップレベルのもので。
中竹:無理やり言わせた感じですみません(笑)。
参加者8:いえいえ。
中竹:これだけ見ると、けっこうすごいじゃないですか。僕の本来の経歴としては、早稲田ラグビー部のキャプテンをやったんですけど、下手くそだったんですね。3年まで補欠ですよ。早稲田の歴史は100年ぐらいあるのですが、補欠でキャプテンになったのは僕だけです。
中竹:その頃160人ぐらい部員がいたので、2〜3軍で1軍になれないとかじゃないです。9軍とか10軍ぐらいまであった。僕は浪人もしていますし、推薦とかはもらえなかったので、普通の学生で入って、2軍とか3軍でうろちょろしている時に、4年目でいきなりキャプテンになったんですね。そのとき、一応最後に試合に出たんですが、決勝戦で敗れて優勝できませんでした。
ラグビーはうまくなかったので、その後、まったく関係ない道で英国留学し、文化人類学をロンドンで学び、最後にレスター大学で社会学を学んだ。それで帰国して何をやっていたかというと、三菱総研でまったくラグビーと関係ない仕事を普通にやっていたんですね。
そしたら突然ですよ。コーチ経験なしで母校の監督に……まぁ今の経歴ではコーチ経験なんてないじゃないですか。一切教えたことはない。そもそも最終的にラグビーを途中で嫌いになっちゃったから、10年ぐらい離れていたんですけど、前任者の清宮(克幸)という監督が「おまえやれ」と。僕は32歳だったので、圧倒的な最年少ですよ。しかもコーチ経験なし、プレイヤー経験ほぼなしで、監督になりました。
そうして4年やったら、選手たちがむちゃくちゃがんばってくれて、優勝したんですね。それで日本協会に呼ばれて、代表経験はなかったんですけど、ヘッドコーチをやったりして。
あと一番大きな仕事はコーチングディレクターですね。僕、36歳で初代コーチングディレクターだったので、僕が教える相手は、指導歴20〜30年のベテランですよ。日本の重鎮たちを教えることになりました。これも経験がなかったんですね。
中竹:なにが言いたいかというと、経験概要として、能力なくトップになってきたということが書いてあるんです。じゃあ、なんでそれでやれたかというと、僕自身は能力が低くてもリーダーをやることは可能だと思うし、実はここにコーチングのエッセンスがあると思っています。現役の時からそうです。
僕は一介の選手、キャプテンですので、「これやれ」「お前らやれ」と言ったことはないんですね。基本的に問いかけからです。監督の時も、ほぼ選手に考えてもらいます。なぜかというと、自分で教えられないからです。圧倒的に選手のほうがわかっているわけですね。
たまたまその頃、前任の清宮監督から教えてもらった良い選手たちがいたので、彼らに聞きながらやりました。「俺の作ったプランがちょっとショボそうなんだけど、どう?」「ショボいっすね」みたいな。「どうしたらいいと思う?」「これをこうしたほうがいいですよ」というのを選手みんなで考えてもらいました。一軍の人間たちがすごくがんばってくれた。そういう経緯があったんですね。
そういう意味では、自分が専門性と力をもってグイグイ引っ張ったというよりは、基本的に学生の時から能力がなかったので、能力のある人の力を引き出す。だから成果を挙げられると。
コーチングディレクターは日本では初で、誰もノウハウを持っていなかったので、僕と同じポジションの海外の重鎮たちに会いに行って。僕が一番若くて、英語もそんなにできないから、かわいがってくれた。そうして、いろいろなところに連れていってもらって、引き出して学んだというだけの話です。
中竹:僕がコーチを指導する中で一番大事にしているのはこれですね。「No Pain, No Coach」。日本のラグビーのコーチは、これをいやになるほど聞いています。痛いほど。じゃあ、これってどういうことでしょうか? 隣の方とこの意味を探ってみてください。
(参加者で話し合い)
誰か「こういう意味があるんじゃないか」っていう方? はい、後ろの方。
参加者9:苦しみなくして、道は見つからない。
中竹:いいですね。苦しみなく。いい言葉ですね。じゃあ、その横のお二人、どうですか。どんな意味だと思いましたか?
参加者10:似ているんですけど、なにかをコーチングするにあたって、つらくないことはないみたいな。
中竹:いいですね。ありがとうございます。おっしゃっていただいたとおりです。いろんな捉え方がありますが、「痛みを伴わない人はコーチをやめてください」という意味ですね。ここはこれから解説したいと思います。
コーチの宿命を考えたときに、コーチは教えるプロなんですね。指導する、コーチングのプロ。だけど、ここにばかりフォーカスしていると何が起こるかというと、学ぶプロになれないわけですね。
中竹:ついつい自分が教えることばかりにフォーカスしていると、「選手は成長しましたけど、チームはよくなったんだけど、あなたはこの1年で何か変わりましたっけ?」と問われたときに、「あれ、何か変わったか?」となる。
チームもビジネスもそうですね。「(事業は)伸びましたが、あなたは去年と何か変わりました?」と言われたときに、けっこうドキッとするわけですね。
なぜかというと、人間のアテンションってだいたい1個しか機能しません。「よーし、がんばって教えよう」とやっているときに、「いや、自分の教え方について振り返って、自分もコーチとして学ぼう」と。このプロセスがないと、成長しないわけです。
この成長のプロセスがけっこう大事で。考えてみると、学ぶプロって何か? 結局、学ぶ人というのは痛みを伴うんですね。学習のプロセスを考えても、脳科学的にもそうです。楽しく学ぶって、エンタメでもあり、Funとして気づきはありますけど、実際のLearning、Developを考えたときには必ず痛みを伴います。
ですので、自分がコーチとして成長する中で、痛みが伴っていない人は、残念ながらコーチをやめてください。ロジェ・ルメールというヨーロッパの有名なコーチの「学ぶことをやめたら、教えることをやめてください」という有名な言葉もあります。
中竹:なんで学ぶかといったときに……ぜひみなさん考えてくださいね。ビジネスにおいて、「これからは〇〇な時代が来るぞ」といったときに、みなさんの中でどんなキーワードが思い浮かぶか挙げてみてください。5つか、3つでもいいですよ。どんな時代でしょう?
(参加者で話し合い)
いっぱい出てきたと思いますが、一言でいうとどんな時代でしょう?
参加者11:一言でいうと?
中竹:一言でいうと。
参加者11:一言……。
中竹:なんでもいいですよ。「幸せな時代」「不幸な時代」。
参加者11:さっき2人で出たのは「バーチャルな時代」。
中竹:ああ、いいですね。バーチャルもそうですけど、結局、今まではけっこう先が読めたんですね。だから、事業計画もあったし、いろんなプランがあったんですけど、これからは一言で言うと、先が読めなくなりましたという話です。
「VUCA」といわれる先の読めない時代のビジネス用語があります。これはなにかというと、変動性があるわけですね。先が読めないというのをちゃんと要素分けすると、変動性があるのか、不確実性なのか、複雑性なのか、曖昧性なのか。
これは実は業界によってぜんぜん違います。金融とかを扱う法制度が複雑になってくるところもあれば、エネルギーで不確実だったり変動性があるところなど、ビジネスによってまったく違うので、自分たちの領域のVUCAはどれに当てはまるかわかっているのが大事です。ただ「わからないよね」ではなく、どこに焦点を当てたら見えるようになるのかと。
中竹:そういう時代には、技術的に解決していかないといけない課題と、持っている技術の使い方を変えて適応する、という2つの課題があります。今まではほとんど技術で解決できたんですけど、これからは持っている技術を適応させて、順応させて、さらに最終的には自分も自己変容させて、その組織の中に溶け込んでいく。
でも、これって当たり前ですよね。今に始まった話でもなくて。例えば「このビジネスプランは、こうやったほうがいいな」って修正かけたいと。リーダーはわかってるわけです。でも「何やってんだ。そんなんじゃダメだ。これやれよ」と言ったら、大半は「こいつムカつくな。やれと言っておきながら」と心の中で舌打ちしながらやっているわけですね。正しいことを言っていてもね。
「一生懸命がんばってくれてるよね。でも、ちょっと違う感じするんだけど、どう?」「俺もすごく迷ったんだけど、こういうやり方ってどうかな? いや、保証はないんだけど、ちょっと一緒に考えてみよう」と言うと、「じゃあ、やってみましょうか」となる。これは技術的な解決ではないです。適応的課題ですね。
インテリジェンスの高い人は、残念ながらついつい技術に寄りがちです。正しいことを言ってればいいって。これがスポーツ界にしろ、ビジネス界にしろ、リーダーの態度ですね。「Behavior(ふるまい)」です。言い方とかしぐさとか。これをちゃんと自分で意識できるか。それと相手のBehaviorに気づくかどうかです。「はい」と言ってる返事が「まじうぜえな」って心の中で思っているか、心から思っているか。
これには気づく人と気づかない人がいます。これはセンスじゃなくてスキルです。ちゃんと見て聞けば、声のトーンも違いますし、間も違います。これってどこから生み出されるかというと、「EQ」とか「EI」といわれる、技術的に適応する能力の根底にある能力です。そうなってくると、これからのほとんどの課題は右に寄ります。
中竹:今、スポーツ界は言葉のところもどんどん変わっています。Trainingという言葉は、要するにいかにトレーニングするかということですね。「どうやって部下をトレーニングしようか?」「どうやって選手をトレーニングしようかな?」という話から、「どうやって学ばせようか?」という言葉に変わってきます。スポーツ界も変わってきます。企業もちょっとずつ変わってきます。
このTrainingの根底的にある考え方は何かというと、Coach Centeredです。要するにコーチ主導で考え、コーチが「ここに課題があるから、おまえらはこれやれ」とかね。
コーチとリーダーはいろんな課題が見えていますので、「これから時代はこうなるから、こうやれよ」と言って、コーチ主導でやっていました。だからトレーニングが始まると、最初に「これやるので、おまえらこれやれよ」という、プッシュ型のトレーニングだったわけです。
今、スポーツ界でもすごく言われているのはAthlete Centeredですね。選手中心に考えましょうねという話です。選手がどういう受け取り方をするか。選手は個別に違うので、きちんとそれに向き合っていきましょうねと。
これをアスリートだけじゃなくて全体的にいうと、「学習者は誰ですか」という話をしています。今まで我々が学習させようとしていたのは、誰なんだろうと。学習者中心の考え方ですね。こうなったときに、今までの教え方とかコーチングを見直す時期になってきました。
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