2024.10.21
お互い疑心暗鬼になりがちな、経営企画と事業部の壁 組織に「分断」が生まれる要因と打開策
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竹中功氏(以下、竹中):みなさんご存知だと思うんですけど、「シナリオ」というのは、映画とかドラマで文字が書いてある本ですよね。
箱書きの中には、シーンがある。例えば「夕焼けを公園でAさんとBさんが眺めながら別れ話をしている」みたいな箱書きであって、そこで「Aさん:○○」「Bさん:○○」というセリフがある。それで映像を撮りながら、演出家という名の監督がディレクションをするんです。
やっぱり謝罪に関しても同じように、シナリオ化できるんですよね。何でもかんでも、行き当たりばったりに言われたことに答えるんじゃなくて、「まず私たちが詫びなあかんことはここです」とか。「このことについて、こうなったことについての説明もさせてください」。
「こういうことで、こういう方にご迷惑をかけたことで本当に申し訳なく思っております」。例えばですよ、「今日もなお10人の方が入院されているということで、毎日心配もしておりますし、お見舞いにも行っておりますけども、まだしばらく、お医者さんからあと2週間かかると言われております」。
これは、「10人がいてる」とかね、「2週間かかる」、これ大事なんですね。「10人『ぐらい』の人が入院してます」言われたら、「お前のとこのえらい目遭わせたやつを10人『ぐらい』って、数も知らんの?」と。あと、「2週間『ぐらい』って、そんなんお医者さんにちゃんと2週間か1週間ぐらいって、どう言うてはったん?」。「『2週間ぐらい』って言うてました」やったら、「ほんならええわ」。
竹中:僕らの業界では「命数(めいすう)」と呼べる数字とか名前に置き換えるってものすごい重要なんですよ。それも込みで、1回箱書きをしながら進行台本を作るんですね。
進行台本でいうと、今も店長もおっしゃったみたいに「記者会見で稽古していってんのかい」言うたら、なんかちょっと嫌な感じもしますけども、当然でしょう。段取り合わせんのは当然でしょう。いきなり行って、「社長と、部長と、工場長と、どこに座んのか決まってません」って、そんな会見ないでしょう。
司会者もおって、その人がまず「誰からあいさつします」。もっと言ったら、社長が立ってあいさつしてるときに、横に常務と工場長が座ったらおかしいですよね。みんな立ってあいさつしたらいいじゃないですか。
これは誰も聞いてへんから言いますけどもね、吉本興業のある会見のときに椅子を置いて長テーブル置いたけども、マイクが20本ぐらいあったから、「今日の感じでいうと、座ってやったらあかんな」いう感じが丸わかりやったんです。
竹中:僕のとこの広報マンの気が利く後輩の子が、「竹中さん、もう椅子いりませんよね? 今日の座ってやるような会見じゃないですもんねぇ」言うて。「これもう、座ってやる会見やないねんけれども、椅子置いとけ」と。で、誰とは言いませんけども、たむらけんじと一緒に行って……。
(会場笑)
たむけんに寸前にね、「椅子があるけど座れへん」ということをね、言ったらわかってくれるんですね。で、結局何をやってるかというと、僕たちは「用意された椅子に座ることもなく、30分にわたって頭を深々と下げる」みたいになるわけですよね。
この、「椅子を置いてても座らない」というのが、ちょっといやらしいけど大事なんですね。梅田の地下街で、7,000円のネクタイにペケして「2,000円」と書いてるようなもんですよね。
(会場笑)
あれ、もともと2,000円なんですよ。500円ぐらいで仕入れて、2,000円で売ってるんですよ。7,000円でペケするから「安いなぁ」と思うんですよね。椅子を置いてんのに座れへんから、「この人はしっかりしてはるわ」って、反省してるように見えるんですよね。これ、誰も聞いてへんから言いますけども(笑)。
(会場笑)
まぁそんな小賢しいこともしながらいうのが、シナリオなんですよ。じゃあ、そのままで無防備でやんのが本当にいいのかいうたら、それじゃ失礼ですよ。手元に資料もいります。
竹中:シナリオの中でいちばん大切なことは、想定問答なんですね。今日の最後のほうにしゃべりますけども、想定する能力がないって人は、謝罪できないです。ちゃんと想定していたら、謝罪せなあかんことさえ起こらなかったんですけども、起こってしまったっていうことは、今度は段階でいうと、その日に聞かれることを全部想定せなあかんです。
だからそれは、いろんなケースがを考えるわけですよ。例えば食中毒のケースだったら「食べられた方は、何のお肉食べたんですか?」って聞かれたら、「生肉です」って言うだけでいい。
ですがそこで「レバーです」と言うたら、「お客さん3人ともみんなレバー食べたって、保証できるか? 証拠あるか?」言うたら、「いや、わかりません」「テーブルには出しましたけど、3人全員が食べたかどうかわかりません」となる。「3人のうち1人が生レバーを食べられたからです」と言うたことによって、1人が「僕は食べてませんよ」と言うたら、これまた嘘になるんですよね。
わかれへんかったときは、生レバーと言わずに生肉と言うたら、あり得る。「じゃあ、生肉のせいにしましょか」みたいなことで、「生レバーって言うたらあかんよ、生肉って言いましょか」と、やっぱり問答を手前でしとくから想定できるんですね。
そのときに不用意に、「いや、レバーが悪いみたいっすわ」と言って、「俺、レバー食べてない」と言われたら、また会見をやり直さなあかん。そういう意味でいうと、徹底的に現状を知らなあかんですよね。
竹中:それが前の本にも書きましたけど、「6W1H」ですよね。Who、Whatに始まって、Whom、Why、When、Where、Howですよね。それでいうと、必ず現実起こった事象は、6W1Hの右の空いてる欄に書き込めるんですよ。
誰が、どこで、いついつ、何月何時何分。「たむらけんじの店で、お客さん3名、何歳と何歳と何歳の大学生が、カンピロバクター菌で食中毒ということで、病院で入院しています。もう熱も引いて、今は痛いのもへっちゃららしいです」。全部書けるんですね。これが書けてないということが起こったら、現実を把握してないということですからね。
そういう意味でいうと、僕たちは現実を知ることと、なぜそうなったかということを全部洗い直して、あらゆる質問に答えようとするんですね。「お店はどうされますか?」。そのときだったら、お店は閉鎖して、先ほど言ったようにマニュアルを変更することと、「プロに入ってもらって徹底的にお店を清掃します」と。
そのときに僕とたむらと決めたんですけども、名古屋の店で事件が起こって、大阪に2軒お店があったんで、問題のなかった2軒も閉鎖しようと。同時に閉鎖して、大阪もおんなしマニュアルですから、大阪も全部マニュアルを変えて、掃除もして。
名古屋しか事件はなかったですけども、保健所の人に無理を言って、大阪のお店も1回見てもらいましょう。それで48時間は休んだのかな? 2日休んで、全部見てもらって。会見が終わったか次のときに、結果こうこうこういうことで、マニュアルも変えて、検査もしてもらい、「こういう時間かかりましたけども、また再オープンということでお願いします」と言うわけですよね。実は、ここも小さい声でしか言えませんけども……。
(会場笑)
竹中:ちょっといやらしい作戦でいうとね、水商売でいうと当たり前なんですけども、48時間閉めて、保健所入ってもらって、「安心カード」をくれるわけですよ。「もう再開してもOKですよ」と。
店としては、もう生肉出しません、保健所OK言いましたよ、みなさんご迷惑かけました、今日からやりますとやったら、3店舗とも2日間の休んだお金を1日で取り戻しましたもんね。3日休んだかな。3日やったら72時間ですもんね。
72時間ぐらい休んで、掃除して、マニュアル変えて、社員教育やって、「すいませんでした。今日からやります」言うたら、休んだ1日で取り戻してますもんね。だって保健所のお墨付きですからね。別に騙すとかじゃなくて、「正確にやろう」という思いだったですね。そういう意味でいうと、それがシナリオですよね。
あとは記者会を見ても、田口さんのときもそうやけども、最後まで質問がなくなるまで会見するというのは大事ですよね。「次ありますねん」言うたら、「お前、謝りに来てんのか、仕事のついでに頭下げてんのか」があるんで、謝る側が時間を切るのはありえないですね。
次のスケジュールにテレビの撮影があったら、テレビ録画するから変えりゃええじゃないですか。次の打ち合わせだったら、次の日にしたらええじゃないですか。謝罪はとても急いでやらなあかんことなんで、「時間を制限せずに、今やります」いうのはとても大事ですね。
竹中:といいながら、会見する司会者にもコツがあるんですよね。前の本にここは書いてませんから言いましょう。
ある記者会見で、記者から質問が上がるときにね……「ある」というのは今日初めて言います。陣内智則が離婚したとき、言うたら事情説明会見やったんですね。藤原紀香さんとあんだけ盛り上がって結婚されたにも関わらず、離婚されたときの言い訳じゃなくて、説明会見をすることなって。
そのときですよ。陣内君がいろいろ説明したあと、普段、一番最初に手を挙げるのは、若手の記者なんですね。若手の記者というのは、テレビカメラも回ってるんで、改めてゼロから事情を聞かなあかんわけですね。例えば「陣内さん、紀香さんとの離婚を決定されたんは何月何日のことでしたか?」と。
「結婚式もいろいろお世話になった、島田紳助さんとか、明石家さんまさんには直接お伝えになりましたか?」「陣内さんのお父さんお母さんも、前の結婚式のとき、ものすごい喜んでらっしゃったけど、今なんとおっしゃってますか?」みたいなね。まず最低限聞かなあかん質問って、若手がだいたい手を挙げるもんなんですね。
で、そのとき、なんと僕と目線も合わさず手を挙げた人、あの人は?
福嶋聡氏〈以下、福嶋〉:梨元勝さん?
竹中:そう梨元さん。彼がよそ見したまま手を挙げたんですね。「これはいただきや!」と思って、「はい、梨元さん!」と当てたんですよね。
(会場笑)
そしたら梨元さん、「えーっ、俺〜? 当てられたら嫌やのにな〜」いう顔しながら。でも当たったから、今言ったみたいに、最初に当たった人は「ところで、いつ離婚決められましたか?」「お父さんお母さんに報告されて、どんなコメントでしたか?」とか、そんなベタなこといっぱい聞かなあかん。
それで一応聞くだけ聞いてもらって、ベタなことを聞いて、ほんであと何人かまた当てて、もうほとんど質問出なくなったんですね。で、最後に「梨元さん、もうないですか? 聞くことは」。「もう、さっき全部聞きました」みたいな(笑)。
(会場笑)
ホンマはそこから乗っかって来なあかんとこなんですね。でもぜんぜんもう、そのときには戦意喪失というか、疲れ果てさせて。
(会場笑)
「みなさん、もうないですか? 梨元さんがもうないんやったら今日終わりますよー、ない? じゃあ、終わり!」言うて、シュッと終わりましたもんね。それもしつこいとこいったら、キリないわけですよ。
竹中:やっぱりねぇ、男と女のことですから、僕らにも聞こえてこないことがいっぱいあるんですけども、それを聞き出すのが新聞記者とかテレビレポーターやないですか。それをうまいことコンパクトに、「なんか、こんでよかったん?」みたいな空気で終わらしたんは、僕の梨元さんの指名によりましたね。そういうコツってあるんですね。場を作っていくコツ。
僕は長い間広報をやってますんで、変な話、「こんだけやったら、明日の記事は作れるやろ」と(わかってきた)。「明日のワイドショーの時間は持つやろ」っていうのがあるわけですよ。全部が全部3分で終わったら、「これちょっと明日持たんから、終わってからの囲みとかぶら下がりで大変なるやろうから、もうちょっとネタ振っとかなあかんな」「もうちょっと出しとかなあかんな」という加減ができるんですよね。
でも、それもメディアリレーションという名前の仕事をしている人、特に広報とかしている仕事をしている方は、向こうの様子をわからなあかんわけですよ。例えば新聞記者に「記事書いてね」って言うのんは、何時に言うたら明日の記事に間に合うのかとか、月刊誌やったらだいたいどれぐらいには編集会議しはるから、どんな資料を提出しとかないと次の記事なるかならないか。
そういうことでいうと、向こうの世界をよく知っとかないと、「新聞を載してくださいね」「雑誌載してくださいね」「テレビで映してくださいね」言うたって、向こうの都合もありますよ。その向こうの都合を知るというのも、僕の中ではシナリオに必要なんですね。
竹中:これちょっと違う話ですけども、これは言いましょう。
(会場笑)
寛平さんが世界一周のマラソンしてるときに、アメリカでがんの手術をされましたよね。マラソンを断念した。でもそのときには「必ず復活して俺は走るぞ」というのを込みで、日程未定のまま休むんですよね。
その休ます第一報のところで、マネージャーが、「竹中さん、大事件です。中身は言えませんけども、明日のスポーツ紙の1面、空けてもらっといてください」「いや、なんでやねんな? 中身も分からんと伝えられへんって!」「新聞の一面で言いたいこと言わせてもろたら、正しいことがすぐ伝わるから。お願いします。 1面載すようなネタですわ」って言うて。別に僕をからかうことでもなく頼んできました。
ほんでまぁ、とりあえず動けと言うきていてる時間が、夕方の5時なんですね。17時いうのは、もう次の日の朝刊の一面は決まってるんですよ。4時ぐらいからの会議で1面のネタが決まってるんですよ。それは、スポーツニュースでいくのか、芸能でいくのかも含めてですよ。
それがもう、5時という済んでる時間に、「竹中さん、明日の一面取っといて」って言うから、「俺、もう自信ない」と。「俺にネタも言えへんのに、無理無理。俺がデスクやっても断るで」「そこをなんとか!」と。
「なんでそんだけ伝えたいねん?」「もう大きな事件だから、多くの人に早くしっかり伝えたいから、面積がほしいんです」とマネージャーは言うたんですよね。
確かに、5行10行じゃ足らんのでしょうね。僕が新聞社の人と全部話をつけにいかなあかんから。「記事の中身はあとでお伝えしますんで、僕のニュース出すの待っててください」と無茶苦茶なお願いをして。僕が記事を出せへんかったら一面飛ぶから大変なことなるんですよ。
にも関わらず実際には、「9時ぐらいまで待ってくれ」言うてきたんですね、普段はもう5時に原稿入り出してるんですよ。4時間ぐらい待たしたうえに、出したニュースが、「寛平がん発覚、アースマラソン一旦中断、でも必ず復活するぞ」だけのことですよ。
それを全部のスポーツ紙のデスクと握ってるから、1人ずつに「内緒やで」「内緒やで」「人に言うたらあかんで」言いながら、各社に全部、結果的にはスポーツ紙とセット紙の全部僕、伝えましたよ。なんやったら、新聞社の誰に伝えましたよまで含めて、10紙ぐらいですよね、ぜーんぶ小1時間ぐらいかけて、あとはどうなるかだけですよ。
それで早起きして新聞見たら、全部一面になってたんですよね、寛平さんの記事。で、ようわかってくれはったなぁというか、マネージャーの人もね、「竹中さん、ようそんなんでホンマに一面もらって来たね」って言うから、「いやいや、それぐらいの重大なことやってんけども、時間がないっていうことが俺、いちばん大変やったよ」なんて言いながら。
だから、普段は4時に決まってて、一面なんか取れるわけがないものも、5時に言うて待ってもらって、初めてフタ開けんのが21時でも一面が取れるということも、僕は経験として知ってるわけですね。
竹中:そういう意味でいうと、メディアと付き合う人は、向こうの都合もよく知っとかなあかん。「3分で記者会見終わってよかったね」いうたら記事なれへんかって余計に叩かれたということもあるんで、載せる人、放送する人のノウハウというか、うまく身に付けることが、こういうコミュニケーションとか交渉にとても役立つと思いますね。
福嶋:さっきチラッとおっしゃった、囲み取材とかぶら下がり取材とかに関して、前の本を読んで印象的だったのが、148ページの「終了した後で、会社であれば役員たちはスッと逃がすような態度をきちんとしとかなきゃいけない。
けども、ただ記者はもっと話を聞きたがる。そこで広報担当者などがその場に残って、記者からの質問に答える覚悟をしておこう。これを囲み取材といって、私はいつも対応するつもりで準備をしていた」
竹中:そうですね、だから会見終わりましたというてから、記者も手を挙げていろいろ質問するときにポロっといらんこと言うたりするの、多いんですね。それはタレントさんの場合もありますし、謝罪会見もそうなんですけど、そこが記者は狙い目なんですね。
いったん終了しますいうて下がっていくときに、それこそ「なんとかさんと交際は上手くいってますか?」「ハイ」って言うただけでね、交際が上手くいっていますって言うたって書けるんですよね。
そこで書けることが大事なんですよ。それは社長とかの会見でもそうですよね。「社長退任ないんですか?」って言ったら会見で何も答えなかったにも、「やめません」って言ったら退任せず社長続投みたいに載るわけですね。
竹中:だから実は、終わり際の質問がものすごく際どいものが多い。僕ら裏方でいうと、聞かへん聞こえてへんふりして、「社長は帰りました。お疲れ様でした」言うて帰らせといて、実は僕らみたいな司会者や担当する者が散って、囲まれるんですね。
またいやらしい僕は、記者会見で出なかった問答のネタとかをポロっと言うんですよね。「今日、社長言い損ねたんかな、こんなことも考えてますねん」と言って餌をまく。そこをパクっといただくみたいなことで取引をするんですね。
コミュニケーションという名の交渉力みたいなことは、メディアでも特にあります。変な話、会社のバリューを落とさないとか、タレントを応援してもらうこととか、みたいことが僕らの使命なので、その場しのぎのことでは決してなかったですね。
だから先ほどの店長も言うてくださった、謝罪のゴールの設定みたいなことの考え方(が重要です)。みなさんもお仕事されてるなかで一緒じゃないですか? 建設業をやっていらっしゃる方も、「5年でこのビル建てんねん」言うたら1年目にせなあかんこと、2年目にせなあかんことがある。大雨が降って工事が1週間遅れたら大変やとか、なんかそういうもんのはずなんです。
それは僕らの、芸人さんが失敗したときの復帰するためのシナリオも一緒なんですね。中長期、もしくは短期か、短期から中期くらいの計画を立てて、「ここまで行ったら次こう」「間に合わなかったらもう一回これやってから次こう」みたいなこと。
進行表ってビルを作ったり、子供を育てたり、となんら変わらないですよね。そういう目標設定のもとに進んでいってることを、Plan Do See言うんですか、いちいち見直しながら、もういっぺんやり直そうとか、ここはスキップしてもええというふうに、見直しながら進むっていうのは、小さい時間ですけど謝罪にとっても同じことをやってましたね。
福嶋:そのゴールですごく印象に残ってるのが、この本の中にある日本大学アメフト部の問題ですね。当事者たちが果たしてどんなゴールを目指したのかっていうのがちょっとわかりづらいと思いました。
竹中:そうですよね。結果的に監督とコーチが辞めはるとか、言うた言うてへんとかなったまんまね。起訴猶予にもならずに嫌疑もなしみたいなことになって。
結局、「怪我さしてこいって僕言うてへんけども、怪我さしよったあの選手の勝手な考え方です」みたいになった。選手は「それやられへんかったらゲームがつまらないと言われたから、プレッシャーがありました」「言うたことと捉えた人のコミュニケーション不足が問題でした」みたいになったんですけどもね。
ただもう、力づくでプレーをやっていくのがそろそろ終わるだろうと、去年の6月の試合が教えてくれたと思います。
僕がゴールの設定をするなら、名門の日大と関西大学が満員のスタジアムで試合をする日が来ることだと思うんですね。両校のOBやOG、フットボールファンが集まって、「さぁがんばれ」と応援をする日が来ることでしょう。
でも、いまだに両校が迎える日が決まってはいないんですね。それはまだまだ溝が深まったままでしょうし、学校の問題なのか選手間の問題なのか、いろんなことを含めて問題があるんで、それに必要な謝罪があるなら謝罪もする。
スポーツのマネージメントのことで問題があるならそこも改革するってことで、一日も早くあの名門が思い切り試合をしてくれる日を僕はゴールだと設定していますね。そのために必要なものの一つの手段が謝罪であるだけです。
竹中:だから今必要な謝罪があるかどうか、僕は分かりません。学内にも問題があるし、日大もしっかりプレーやり始めてますし、動き出したらめっちゃ強いですからね。そういう意味でいうと、彼らにとっての、スポーツの監督と選手の関係みたいのとか、しっかりとここで学習されると早くに試合できるんじゃないかな。
それはゴールの設定ですよね。それをせずに、謝れ謝れへんとか、謝り方が上手い下手とかというところに議論が行きがちです。それをテレビも煽ってます。
僕に電話してきては、「日大の選手の会見何点ですか?」と。「吉澤ひとみが出所した日は何点ですか? ちょっとマイクが遠くて声聞けなかったから点数低いですかね?」と、「どこ見とんねんお前らは!」、ですよね。
(会場笑)
「お前らそれやったらマイク延ばして録ったれや」言うんですよ。あれもショーアップしてるわけですね。数字が取りたいわけです。どの角度でどんなふうに撮れたかが大事だからっていうね。
あの人は二日酔いかなんかでよそ見してて、ひき逃げしたんですよね。ボクは彼女を犯罪者と見るだけです。でも芸能人はある意味、公人だから人前にさらされるし、さらされた中で彼女はものすごく疲れた中で反省して謝罪をやってるわけですから、それを「テレビ的に何点ですか?」というのはきっとね、数字に追われ過ぎてるんですよ。僕に頼らんといてほしいものです。
竹中:もうテレビとかもあんまり観ないですけども、たまに見ると必ず、大河ドラマの『いだてん』(NHK総合)の視聴率が何パーセントとかとか言うてます。あれ、いります? 「昨日おもしろくて、次どうなんのかワクワクしたわ」「昨日の終わり方は俺前から分かってたわ」とか、そんなんちゃいますん?
でもみんなパーセントで見てはる。いらんのやったらいらんと言ったらええんですよ。ひょっとしたらテレビ屋さんとかは、%の多いものをみんなもっと見てくれるんだと思ってるんじゃないですか?
テレビを観るにしても映画を観るにしても、そうじゃないですよね。悪い言い方をすると、観る能力が下がってると、みんなが観てるものを観に行ったり、パーセントが高いものを観に行きますよね。
批判という意味で捉えて欲しくないんですけども、『カメラを止めるな』(上田慎一郎監督)って映画ありましたやん。あれみんな観はったんですけど、僕は自主映画好きで観まくってましたから、自主映画30年とか40年ぐらい観てる人にとっては、どうってことないんですよ。
あれはぜんぜん悪くないですよ、ノンストップでカメラ回して「わー良かったね」っていうのもあるんで認めますけども、あないにヒットするかいうのんは、自主映画を観たことない人が一気に観に行きはったんでしょうね。
本屋さんで言うとあれですよ、(栗良平さんの)『一杯のかけそば』ですよ。あれ、本を読んだことがない人がいっぺんに買うたから売れたんです。本読みは読まないですよ。
竹中:みたいなことでいうと僕、数字とかに踊らされて過ぎてる感が、ものすごいするんですね。だからテレビも本当になんで毎日次の日、昨日のテレビは何パーセントだって、みんな気にしてはるんですかね?
自分らはいるでしょうね、スポンサー取らなあかんし営業のために10パーセント超えたから、このドラマにスポンサーつく、このタレントさんは価値が上がるとか、ビジネス寄りの人はそんでええけども。テレビや映画とかを観てる人は、好きで観たり感動したり感心したりいうとこで見てるはずやのに、絶対パーセントってくるんですよね。
昨日ちょっとおもろかったのにパーセント低かったら、おもろかったと思ってる俺が間違いやみたいになって。
(会場笑)
「いやいや、間違いちゃいますよ」って言いたい。数字が低いのをおもろいって言うたら、俺がアカンみたいになってるんですよね。数字がよかったら、俺の思った通りやな、20パーセント超えたな……「お前、評論家か」ですよね。ついついそういう癖がついてきたんで、先ほどのテレビの謝罪の、パーセントが取れるような絵が欲しいし、なんやったら泣いてほしいし、悲しんでほしいし、土下座してほしいんです。
しかし「土下座」をしたらしたで「何してんねん」言われて。またそう言うことを言うてる奴がまたたくさんいると、また僕に聞きにくるんんですね。全部放送はやめとけやと思うけどダメなんですね。あれで数字が取れる。朝のワイドショーは、どこへ行くんですかね?
福嶋:さっきの話に戻りますが、囲み取材の重大さを見てると、官房長官ていうのは“役”なんですかね。だから重要になってくればなってくるほど、官房長官から首相への道が開けて来るっていうか。
竹中:そうですよね。アメリカでもホワイトハウス、偉くはなれへんと言いながら、スポークスマンやってるやつは上手いですよね。
福嶋:福田さんもそうでしたよね。
竹中:パーセントを取るんじゃなくて、ちゃんと取材をしてる人向けではあるけど、読んでる人に伝わるような言葉とか、テレビ的にここ使えるな、っていうね。さっき言うてるメディアの向こうに居る人、テレビなら視聴者、ラジオなら聴取者、新聞・雑誌やったら読者、そこに何を届けたいのかというゴールを測る? 測ってるんですね。
「ここだけは刺したい」「ここだけは向こうに残したい」ということを知ってる人は、優秀なスポークスマンであり、官房長官と思うんですけどね。菅さんは白々しいところがあるから仕方ないですよね。サラッとやってあんまり人間くさくなくやってますもんね。
福嶋:ゴールっていうのが大事だという。
竹中:ゴールは決めにくい時もあるんですけど、目標を決めてそこに向かう手順は、仕事と同じように謝罪にも使えるってことや思いますね。
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