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いま捉えなくてはいけないクリエイティビティは、科学的思考のすぐ隣にある。(全4記事)

意表を突いた正解か、的外れな予定調和か 優れたクリエイティブを生む「問題提起」の力

2019年5月27~30日、「Advertising Week Asia 2019」が開催されました。マーケティング、広告、テクノロジー、エンターテイメントなどの幅広い業界が集い、未来のソリューションを共に探索する、世界最大級のマーケティング&コミュニケーションのプレミアイベントです。本セッションでは、経産省・特許庁から発表された「デザイン経営宣言」の座長であり、未来洞察を専門とする一橋大学大学院の鷲田祐一氏と、日本の広告界のトップランナーであり続けるTUGBOATの岡康道氏、ブランディングを専門とするクリエイティブディレクターの電通アイソバー田中信哉氏が登壇。クリエイティブや企業における未来洞察について意見を交わしました。

自動運転車が本当に実現するまでの過程を考える人は少ない

田中信哉氏(以下、田中):鷲田先生も右脳的な試行錯誤の重要性に触れられていて。これは企業や組織もですよね。未来洞察ということをやられていて、企業に「当たるんですか?」ということを聞かれると。

「当たるかどうかはわからないが、こうやって原因を多く知った上でさまざまな結果を考えてみた行為は、おそらくのちに(企業の)いい備えになるというふうにお伝えしている」というお話をうかがいました。

今日の裏テーマになりますけども、鷲田先生は、「細い因果律だけが正しいと思い始めると、未来を当てる力は下がっていくだろう」というふうにおっしゃっています。このあたりの「細い因果律」という言葉は、もしかすると今日のキーワードかもしれないな、と思っているんですけれど。それを見てきて、結果の厳しさも実験で見ているということですよね。

鷲田祐一氏(以下、鷲田):卑近な例で言うと、自動運転とかすごく話題になっているじゃないですか。でも、本当にまったくドライバーがいない車がやってきて、それに乗るかという(笑)。現実を考えたときに、やっぱり「怖い」と考える人は多いと思うんですよね。

それは慣れていって、それ(ドライバーのいない車)が当たり前になっていくほうが事故は減るだろう、という科学者の因果律はわかるんですけど、慣れるまでに簡単に何十年もかかるわけじゃないですか。そうすると、途中を考えたほうがいいというふうに思うんですね。でも、多くの方は途中を考えないんですよね(笑)。

岡康道氏(以下、岡):(笑)。

自動運転車が普及しなかったり、別の利用をされている未来

鷲田:運転しなくても、人が座っているだけでもずいぶん違うわけですし。あとは例えば、かなりの部分が自動で走っていても、少なくとも運転をしている人が「運転している」という実感を持てるような車を途中に作らないと、おそらく、せっかくの大事な技術も死んでいってしまうと思うんですよ。

でも、例えば「20年後に完全自動運転車を作らなければいけない」ということ(目標)をまず作って、そのために社会をねじ曲げて、何がなんでも「こういう社会でなければならない」というような話が、けっこうまかり通るんですよね。今の科学技術の中では(笑)。

それを目の当たりに見せられたときに、じゃあ「そういうシナリオは未来として当たるんですか」と聞かれたときに、「いや当たるとは思いません」というような話を普通に言うと「おかしい」みたいな話をされるんですよ。

そうじゃなくて、例えば「自動運転車なんかまったく普及しなかった未来も考えてみましょう」とかですね。「自動運転車がぜんぜん別の利用をされているような未来も考えてみましょう」みたいな。一つの技術をとっても、かなり幅広く未来を考えておけば、そのうちどれかが当たるわけですよね。

:なるほど。

鷲田:結果は必ず出るわけですからね。そのときに初めて、「あぁ、そういえば、そういうふうなことをあのとき考えていたね」ということで。さっきの話で「原因が違っていても結果が当たる」ということが発生したときに、さかのぼって原因のことをしっかり理解できる、というかたちができあがると思うんです。

そうしないとおそらく、どんな技術であって根付かないと思うんです。そういうプロセスが今、すごく抜けているんだなというのを、この「細い因果律」と呼んでいます。

広告会社は問題提起をする会社であることが大事

田中:未来洞察って、そういう幅広い検証や洞察ということをしていく、すごく大事な話で。まさにマーケティングそのものですよね。自動運転車をどういうストーリーでプロダクトに落としていくかという。例えば「安全なもの」として落としていくのか、「効率的なもの」として落としていくのか。いろいろなストーリーが書けて、それでいろいろ検証していないと、因果律だけではストーリーが書けないですよね。

それで、そのストーリーの書き方一つで、自動運転車のプロダクトとしての位置づけが変わると思うんですけれども。そういったことも含めて、すごく大事なお話だなというふうに思いました。

未来洞察の話をうかがっているときに、鷲田さんが「問題解決ばっかりやっている会社は苦しくなると思う」という話をおっしゃいまして、そのとおりだなと思います。未来洞察って、問題提起そのものだなというふうにも思います。

「問題提起の力が弱った広告会社の存在意義は厳しいものになる。あえてややこしいことを……」、ややこしいことというのは、問題提起のことだと思うんですけれども、「それ(問題提起)をしてくる会社であることが大事」だというふうにおっしゃられている。これもすごく印象深いお話だなと思っております。

それで、岡さんも同様に、やっぱりこれからマーケティングなり、我々のような業態の仕事がどの方向に向かっていくのかというところを議論したときに、情報技術で誰でも(理論)武装できるというようなところの中で、岡さんの考える未来について、「その商品や企業の未来のために、情報を与えられるかということを試されている」というふうにおっしゃられています。

繰り返しになりますけれども、未来のための情報というのは、問題提起だというふうに思います。未来洞察の話と岡さんの話と。それから因果の原因のところ、その幅の許容とか。それらを現実に落とし込んでいったときのクリエイティビティの出し方というもので、岡さんと鷲田先生の結節点がよくわかるなというふうに思っています。

岡さんも、未来の情報というものをお話しされていましたよね。

一人の生活者として肌で感じる未来をクライアントに伝える

:僕が言っているのは極めて直感的なことなんですけれども。「きっと子どもが少なくなった未来は、こういうことが起きるんじゃないか」。だから、「そのためにはこういう準備をしたらどうですか」ということを経営者に言ったりすると。それは前提をもとにした因果関係があるということよりも、(世の中の)様子を見ていればだいたいわかることって、たくさんあるじゃないですか。

それをクライアントのほうは、わりと上半期とかで考えてるから(笑)。そんな先のことは考えたこともない、というようなことが多いんだけれど。本当はすごく重要な、難しくない、肌で感じる未来。これを一人の生活者として、クライアントに伝えようとはしています。

田中:鷲田さんの未来洞察はやっぱり、問題提起になっていく?

鷲田:そうですね。岡さんがおっしゃったような順番にものを考えることって、そんなに簡単じゃないんだなということを感じました(笑)。「世の中がこう変わるから、そういうふうに技術なり事業なりを合わせていくべきだ」という、その順番で考えることが難しくなってるんですよね。「この商品を普及させなきゃいけないから、こういう社会にしたいんだ」という話だと。

:(笑)。おかしいよね。間違ってる。

鷲田:それはおかしいよな、と僕もよく思います。

田中:現在のスナップショットだけを見て判断しようとする、という状況が起きてるんだろうというふうに思います。最後になるんですけども、これは岡さんの著書にあった言葉ですかね。『ブランド』か……。

ブランド

:(笑)。

優れたクリエイティブとは「意表を突いた正解」

田中:「優れたクリエイティブとは」という議論を岡さんが書かれている中で、「意表を突いた正解」という言葉があります。優れたまま、意表を突いた正解があると。この言葉をずっと胸にしまいながら生きてきたんですけど(笑)。

さっきの「なぞっただけのもの」、それはたぶん予定調和なものであって。予定調和になっているんだけれども、誰の心にも響かない的外れなものになっている。そういうものが多く量産されがちだなというふうに思っています。

おそらく未来洞察(というのは)、問題提起もそうですし、例えば原因に対する許容というのもそうですけれども、意表を突いて偶発性をちゃんと生めるかどうかということ。偶発性によって目立てているかどうかということを、今一度立ち止まって考えてみてもいい機会かな、というふうに思います。

今日はちょっと、1冊の本を読んだような感覚になっていただければと考えながら、このお二人のインタビューの場を持たせていただきました。

蓄積というものも、それを発揮するにはやっぱりそれなりの責任感というものが大事だということも理解できましたので。今日のセッションが、みなさんが今一度立ち止まってクリエイティビティについて考える機会になればなというふうに思っております。

岡さんのこれからとか、鷲田先生もこれからの研究ですとか、そういったところにも注視しながら、見失わないように前に進めたらと思います。今日はありがとうございました。

:ありがとうございました。

鷲田:ありがとうございました。

(会場拍手)

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