2024.10.01
自社の社内情報を未来の“ゴミ”にしないための備え 「情報量が多すぎる」時代がもたらす課題とは?
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丸山裕貴氏(以下、丸山):ジェレミーもおうちにお風呂を作ったと。
ジェレミー・ハンター 氏(以下、ジェレミー):作りました(笑)。かなりお金を使いました。
(会場笑)
羽渕彰博氏(以下、羽渕):そう、バスタブっぽいやつ(笑)。
ジェレミー:追い炊きがない国でも使えるんですね。
(会場笑)
羽渕:そっか、ないんですよね(笑)。
ジェレミー:実はこの話にはもうちょっと先があるんです。20世紀、認知工学において素晴らしい功績を残されたドナルド・ノーマンのインタビュー時に「いいアイデアは全部バスタブから」と言っていたんです。
彼は、アイデアというのは、机に向かうことや一生懸命働くことではなく休憩からだと確信して、上司に「オフィスにバスタブを置きたいから12,000ドルくれ! そしたら数百万は堅いんだ!」とお願いしたが叶わず、「そのせいで1億5,000万ドルの損失が出てるぞ!」とも言ったんだそうです。
松島倫明氏(以下、松島):すごい。でもやっぱり、さっきジェレミーが冗談めかして「日本人は休まないよね」という話をしていたけれど。ジェレミーはたぶんそうやって、とくにアメリカの文化と、日本の文化という2つが見えているから聞きたいのですが。
松島:先ほどのスライドでも、「今ここ」というところにまずは意識が向いたとして、それでアクションがあって、リザルトがあって、というステップがありますよね。やっぱりそれがすごくロジカルです。でも、欧米的だとも思える。
今回well-beingの特集をしたときに、こちらのイベントにも出ていた石川善樹さんと一緒にやっているドミニク・チェンさんが書いている記事で、「幸福度」……「どのように幸福を感じるか」ということを各国で調査したそうです。
そうすると、日本や韓国などのアジア系と、あとはなぜか北欧もちょっとそうなのですが、幸せというものが「自分がなにかをやったから得られるもの」というよりは、ラッキーで「外から与えられるもの」としてある、という認識がかなり強いらしいんですよ。要するに欧米と比べると、そうした意識が強いというのがある。
だから、そうした認識の社会にいる人というのは、なにかアクションをして、そのプロセスがあって結果があって、それを受け止めて。それが、今、僕がアウトプットしたことへの見返りのようなものというよりは、もう少し外部にそれをアウトソーシングしちゃっているような気がする。
だから、ジェレミーがふだんこうした話をしたときに、なにかアクションがあります。結果があります。それを受け取ります、という話は……例えばアメリカの、それこそGoogleや大企業でやっていると思いますが、そのときのリアクションと、こうやって日本で話したときでリアクションの違いはありますか。お風呂の話から強引につなげてきた日米の差なのですが(笑)、どうですか?
ジェレミー:セルフマネジメントで自分を大切にするということについてでしょうか。まず、講義はエグゼクティブやエンジニアのためにデザインしているので、ロジカルであるのは必須ですね。私が思うのは、アメリカ人に比べて、ほとんどの日本人は自分がどう感じているのか説明できない時が多いなということです。自分の身体に何が起きているのかも説明できません。
自分が何をどう感じているかの説明がなぜ大切なのかというと、身体というのはクルマのダッシュボードみたいなもので、メーターがいろいろな情報を教えてくれるのと同様に、自分がどんなことを感じているのかを教えてくれるものだからです。
何を感じていて、何を体験していて、身体に何が起こっているのかを説明できないと、自分の意識、例えば「どこに行きたいのか」「何をしたいのか」などをはっきりさせて(自分に)正直でいるのは難しいでしょう。それが20年ほどこの仕事をしている中で、最も大変な部分だと思っています。
松島:どうして日本はお風呂があるのに、体のフィジカルな認識がそんなにできないんですかね。
ジェレミー:おそらく日本は、世界で最も「張り詰めている」国だと思います。それが世界が尊敬する日本の文化でもあるんだと思いますが、これについてはまた後で話しましょう。とにかく、アメリカより緊張度が高いんです。
それに、いつもその緊張が外向きなんですね。「適切にできているか」「適切な行動ができているか」に意識が向いていて、「自分がその行動をどう思っているか」はどうでもいい。このバイアスがこういった日本の文化を作っているんだと思います。
丸山:ちょっと、クリッカーを。僕もこの間、ジェレミーにインタビューをさせていただいたのですが、いくつか引用を紹介したいと思っています。
経験構築のクセということを理解することで、先ほどジェレミーにプレゼンしていただいたことをやることで、「ストレスを緩和する」というように思われがちです。それもあるんだけど、僕が一番すごいと思うのは、マインドセットを変えてくれるような気づきにたどり着ける可能性がある、というところなのです。
みんな、なにかしらのバイアスを持っている。ただ、自分のことを理解する中でそれを手放せるようになる。そうすると、なにかぜんぜん違う価値観を持った人や、新しいアイデアを持った人と会ったときに、それを素直に受け入れられたり、自分をうまく比較できるようになる。
そういったことができるようになる、とインタビューでおっしゃっていたことが、僕はすごくセルフマネジメントに可能性を感じたことなのです。まさにイノベーションにつながる話だなと。
羽渕:僕もすごくこれ(セルフマネジメント)をやっていて、本当にみなさんに超おすすめしたいのですが。今月どういった感情が沸き上がったかということを紙に書きだすだけで、この経験構築のクセのようなところをすごく理解することができる。
たいがい同じことで凹んでいたり、つらかったりしているんですよね。それをどうやればポジティブに直せるんだろう、みたいなところ。書き出すことで自分のバイアスや思い込みのようなものを手放せるというのは、すごく実感していますね。
体重計で自分の体重を測ることはありますが、自分の感情を体重計のようにログを付けていくことによって、改善していけるのではないか、というように感じていたりします。
松島:たぶん「DIGITAL WELL-BEING」という話でも、これから本当にあらゆる生体データが取れるようになってくる。そうすると脳内ホルモンや、「コルチゾールが増えたから今はちょっとストレスが高いですね」というような話が、たぶん普通にできるようになると思います。
だから、ある種の客観化というものができて、あらゆるデータが目の前にある。でもそうすると、それがセルフマネジメントなのかというと、たぶんまた、そこからずれていくものがあると思うんですね。
だから、これからある種の、「quantified self」と言うのですが、自分をすべて数量化していった先に、そうした数値と……一つ僕が思うのは、例えば「体調が良いです。血圧もすごくスイートなところにあって、あなたのマイクロバイオームもすごく調子が良いです」となったとする。
それで調子は良いんだけれども、例えばそれがwell-beingなのか、それが幸せなのかという話のときに、そことはまた違うのではないかということを考えています。
松島:今回のジェレミーのこれ(ライブ講義)を見て、トラウマのような話があるときに……雑誌の中でも言っていますが、例えば「痛み」。心の痛みや、なにか苦手なこと、あるいはつらいことなどがあったときに、どちらかというとそのことをちゃんと認識できるのかどうか。そのことをちゃんと自分で、手放すかどうかはわかりませんが。
手放せていなくても、そうしたもの(痛み)を受け取るということが、「もしかするとマネジメントなんじゃない?」というようなことを、今回の話を聞いていて思いました。
だから「セルフマネジメントでwell-being」のように、お花畑のようなものが浮かんできますが、きっと、たぶんジェレミーが言っているのも、そうしたこととは違うように感じますね。
ジェレミー:ここで一番怖いのは、あなたがおっしゃったように、私たちが教えようとしているのは、学校では習わないことです。学校で習わないことというのは「自分の魂は自分が作っているんだ」ということです。誰も教えてくれないことですが、経験は瞬間ごとに積んでいっているんですよね。
ここでトラウマの例を挙げてくださってありがたいです。「自分の魂を作っている」なんて自覚はないかもしれませんが、トラウマやバックグラウンドをもって経験を積む人は、それを通して世界に恐怖や危機を見ており、そういう世界を作ってしまっているんです。だから治療が大切なんです。
ジェレミー:しかし、別のケースもあります。均一にならされた社会において、人々が私たちと同じように世界を作りあげているというケースですが、このようにもし全員が同じように世界を作っていたら、どうやってイノベーションしていくのかということです。
みなが同じように見ている中で「違うものを作ろう」と言ったら「変なやつだな、何言ってるんだ?」となるでしょう。ですから、ダイバーシティが持つ力というのは重要なのです。違う世界を作っているということが、さらに大きい世界を見る助けになり、イノベーションや機会を生み出します。
瞬間ごとに世界を作っていることを理解するには、例えば、気難しい同僚が勇気を出して電話をかけてきて、「これはやっかいになりそうだな」と決めつけていたら、そうなってしまうということです。
私たちがやろうとしているのは、具体的に「これはあなたがやっていることですが、こうしたいんですか、他に望んでいる未来はありませんか?」とはっきり見せることです。
丸山:これも私が以前インタビューした、川上全龍さんという京都のお坊さんなのですが。彼も似たようなことを言っていると思ったのでご紹介します。
マインドフルネスと聞くと、最近日本で話題ですが、どうしてそれをやるのかというと、「注意をどこに向けるか」と書かれている。お坊さんなのに「バイアス」という言葉を使うことにもびっくりしたのですが。
人間はみんな、いろんな物事に対して「世の中はこうだ」という概念を作る。それがバイアスになっていく、と。僕がセルフマネジメントとつながると思うのは、まず自分の「こうだ」という概念に気づく。それも身体感覚レベルで気づけるようになるというところから、そのバイアスを外すことができるようになるのではないかと思って聞いていました。
これは本当にビジネスでも言えることだと思っています。多様性、多様性と言われていますが、それも自分のバイアスを意識してできないと、結局はぶつかったままになってしまい、なにも前に進まなくなる。そこを乗り越えるためには、こうしたことがすごく大事だと思います。
丸山:最後に、この話で終わりたいと思います。ジェレミーのプレゼンテーションで、日本の社長さんに「日本の良いところは?」と聞いてもぜんぜんなにもなかった、という話があったので。最後に、日本の良いところは?
ジェレミーは去年から日本でも教えておられます。生徒も育っていますが、そんなジェレミーから見て、日本の良いところは何でしょうか。これは、実際に私がインタビューで聞いたところで、ここも少しみなさんにもシェアしたいと思っています。最後にお話を聞かせていただければ。
ジェレミー:まず、どうして私がこんなに日本についてよく知っているのか、みなさん不思議に思っていることでしょう。私の母親は日本人で、曾祖父は力士でした。妻も日本人なので、日本とアメリカを行き来して、もう50年近くになります。
いま空前の日本旅行ブームが起きていますが、どうしていろいろな国の人が日本に行くのかを考え始めました。それは日本には世界に提供できる特別なものがたくさんあるからだと思うんです。その一つがアナログへの強いコミットメントです。
他方、世界のデジタル化が進んでいます。世界がデジタル化していき、フィジカルレスになっていったとき、他の国は日本人のように集中したり緊張感を持ったりする文化を持っていないんです。
おもしろいなと思うのは、日本人が目の前にあるものを味わうことを知っていることです。バスタブの話はできますが、バスタブをデジタル化することはできません。
一例としてですが、入浴する文化は身体を休ませ、癒す時間と場所、さらに言えば考えるための静かな時間をもたらしています。ですが、それよりももっと、この文化は注意力と安定を非常に発達させてきました。
ジェレミー:自分の内側を安定させるといったこと、例えば華道や茶道、弓道、書道などはすべて自分の中に安定を作り出すもので、そのために存在しています。
私たちはこういったデバイスを持っていて、私は携帯電話を置いてきてしまったようですが、これらは注意力を破壊するんですね。だから気が狂ってしまったように感じるんです。
この文化には世界に提供できるユニークさがありますから、資本化するべきです。このように触れ合える、美しくてフィジカルなものに世界は飢えています。どこの国にも似たような美しさはないんです。
日本が追い求めることのできる未来の一つとしては、well-beingをメンテナンスできるだけではなく、21世紀から22世紀という厳しい時代を生き延び繁栄できる、本当の意味でデジタルとアナログのハイブリッドな文化ではないかと思います。
丸山:ありがとうございました。今日のお話をきっかけに、ぜひみなさんセルフマネジメントを実践していただけれると嬉しいです。そして、今度「日本の良いところはどういうところか」と誰かに聞かれたら、自分の中で「日本はこういうところが良いんだ」と胸を張って言えるように。今日の会が、そのヒントになっていれば、非常にうれしく思います。
今日はみなさん、ありがとうございました。
(会場拍手)
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