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集団によるイノベーションは、一人ひとりが自身と 向き合う「セルフマネジメント」から始まる(全3記事)

日本人が教わらない「セルフマネジメント」 ドラッカースクール准教授が説く、より良い結果を導くスキル

2019年3月14日~15日にかけて、「Sansan Innovation Project 2019」が開催されました。「Sansan Innovation Project」は、あらゆる分野の専門家、最前線で活躍するプレイヤーを招き、組織を次のステージへと導くためのさまざまな 「Innovation」について紹介する、Sansan主催のビジネスカンファレンスです。本パートでは、「集団によるイノベーションは、一人ひとりが自身と向き合う『セルフマネジメント』から始まる」の講演をご紹介します。今回は、米ドラッカー・スクール准教授でセルフマネジメントの第一人者であるジェレミー・ハンター氏のライブ講義の様子をお届けします。

「セルフマネジメント」は変化が激しい時代に必要不可欠

丸山裕貴氏(以下、丸山):みなさん、こんにちは。Eightのメディア、BNL(Business Network Lab)の丸山です。今、知るべき最先端の情報やアイデアなどを伝えるのが私の仕事です。

今日はその中でも、今、もっともみなさんにご紹介したい人をお呼びしました。ジェレミー・ハンターという方です。

みなさんもご存知の、経営学者であるピーター・ドラッカー。彼がアメリカに大学院を設立しまして、ジェレミーはそこで16年以上にわたってセルフマネジメントを専門に教えています。

そういったわけで、今日はこのようなテーマを設定しています。「集団によるイノベーションは、一人ひとりが自身と向き合う『セルフマネジメント』から始まる」。

今、この2日間で「イノベーション」をテーマにしたいろんなセッションが行われていますが、私はこの「セルフマネジメント」というものが、イノベーションの根本に据えるべきものではないかと考えています。「変化が激しい時代にあって、セルフマネジメントは必要不可欠だ」と、ジェレミーは言います。それにもかかわらず、私たちはそのことを学校で学んでいない。ジェレミーはそれを大学院で教えています。

今日はジェレミーに、その導入編として、ライブ講義をお願いしています。そのあと、『WIRED』編集長の松島さんと、オムスビ代表の羽渕さんにご登壇いただき、一緒にディスカッションをする予定です。では、さっそくジェレミーを壇上にお呼びしましょう。拍手でお迎えください。

(会場拍手)

ジェレミー・ハンター氏(以下、ジェレミー): みなさん、こんにちは。本日お話しすることは、セルフマネジメントにおいて「みなさんがすぐに理解できるテーマは何か?」ということで「Yelling-Shacho(怒鳴る社長)」というのを考えてきました。

みなさん、「Yelling-Shacho(怒鳴る社長)」見たことありませんか?

(会場笑)

「Yelling-Bucho(怒鳴る部長)」や「Yelling-Kacho(怒鳴る課長)」、あるいは「Yelling-Otousan(怒鳴るお父さん)」とか(笑)。怒鳴る人。

今の日本に「いいところは何もない」と答えた社長

ジェレミー:(スライドの写真に写っている)この人が誰かは分かりませんが、数年前、日本人の卒業生が「Yelling-Shacho(怒鳴る社長)」と名高い上司と一緒に私を訪ねてきたことがありました。卒業生の彼から「どんなことをしている企業なのか」という話を聞いているときに、その社長にこういう質問をしました。「今の日本のいいところってなんですか??」

すると彼は5分くらい床を見つめてから、顔をパッとあげてこう言ったんです。「何もないです」。

(会場笑)

おそらく会場にいるみなさんの中にも、密かにそう思っている方がたくさんいるんじゃないかと思います。

話していくうちに、ものすごいプレッシャーが彼にかかっていることが明らかになってきました。強い責任感からくるものでもありましたが、同じくらい強い恐怖もあって、彼の可能性を見つける力は、その恐怖に飲み込まれていました。ですから、その時会った彼は、とても暗い世界にいたんですね。

彼が可能性を見つけられないために、その企業は新しい物事を取り入れることができずにいて、行き詰まりを感じていた、ということが私を訪ねる理由の1つでもあったようです。彼らは「変わらなくちゃいけない」と分かってはいましたが、何を変えればいいのか、どう変えればいいのか、それにどこに向かえばいいのかさえ分からない状態でした。

話をしたあとで、卒業生に上司(社長)とはどんな感じなのか聞いてみると、「チーム全体が怖がっています。上司の反応がだいたい怖くて、直面している問題ではなく、どうしたら上司が感情的にならないかばかり話しています。話をうやむやにして怒らせないようにしているから、誰も解決困難なことを話さない。だから変わらないんです」と言うんです。

原因の張本人である社長はというと、どうしてこんなことになっているのかさっぱり分からない上に、自分はうまくやっていると思っていて、しかもいざ会ってみるとそんなに悪い人じゃないんです。でも、彼自身が無意識にとっている反応で、会社が変わっていくのを阻む環境を作ってしまっていました。

人は自分が経験したことをもとに行動し、結果を得ている

ジェレミー:ここでピーター・ドラッカーのコアアイデアの1つ、「まず自分自身をマネジメントすることができなければ、他者をマネジメントすることなどできない」です。丸山さんもおっしゃっていましたが、学校でも教えてくれない「自分自身をマネジメントする」ことをどうやって学ぶのでしょうか。

企業のエクゼクティブ向けのセルフマネジメント講座を始めて20年ほどになりますが、楽なことではありませんし、楽しいものではありません。自分自身をマネジメントできないと、どんなものであれ反応として現れる自分の感情が周囲に影響するんです。自分が所属するグループや企業または家族が、あなたがマネジメントできなかった感情にさらされることになります。

私がセルフマネジメントのスキルを身につけたのは、もう30年くらい前のことです。20歳の時に不治の病の末期症状に直面していたのに起因します。私がマネジメントできたのは「瞬間」だけで、それは日本の文化である禅を通してどうすればいいのか学んだからですが、これは話が長くなるので割愛します。

さて、ここで強調しておきたいのは、「人は自分が経験したことをもとに行動し結果を得ている」ということです。そして、私たちはだいたいそれを無意識で行っており、意識されることはほとんどありません。

私が考えるセルフマネジメントならびにリーダーシップデべロップメントというのは、もちろん所属している団体やその動向、ストラテジー、ファイナンス、そしてお客さまなどの外界をマネジメントすることでもありますが、さらに「自分の内側で何が起こっているのか」に関してもマネジメントが必要だということです。

プレッシャーを、感情的な反応を、想像しマネジメントできるか。自分の思い込みやバイアスや期待やジャッジメントが何なのか、そして、それらが企業や家族のために選択肢を生み出しもすれば、制限もすることを理解できるか。こういったことです。

必要なのは、自分の外側にある世界と内側にある世界をどうマネジメントすればいいのかへの理解と、移り変わりの早いこの世界で、マネジメントを繰り返し実行することです。

人は自分がやっていることの9割は意識していない

ジェレミー:さあ、ここでやっとこの質問ができるわけです。「社長にできることはなんでしょうか?」

ある日、私の目には世界が「一続きの瞬間瞬間(series of moments)」として映るようになりました。生まれるのも、死ぬのも、その間にあるものも全て「瞬間」です。あなたが選び取っている個々の選択も、瞬間の出来事です。

つまり、社長にできることというのは「この瞬間に体験していることをどうやって理解するか」なんです。

例え話をしましょう。あなたは机に向かっています。電話が鳴りました。どうやら一番やっかいなクライアントからの着信のようです。やっかいなクライアントからの電話。さて、あなたには今、何が起こっているんでしょうか?(電話に)表示された名前を見て、あなたの身体に変化はありますか?

どんなことを思い浮かべましたか? 「はあ、またかよ」とかですか? どんな感情が出てきましたか? 怒りや不安でしょうか? 次の瞬間には電話を取らなければなりません。何が起こるでしょうか?

私が見ている世界はこんな感じです。他者や、今起こっていることによく注意を払えばいいだけのシンプルなことのように思うかもしれませんが、これらは普段「ほとんど見えていないもの」なんです。人は、自分がやっていることの9割は意識していないんです。実際、自分が何をしているかなんて見えていないんですね。

だいたい信じてもらえないので、今日はちょっとしたテストとして画像を用意しました。それから、何が見えるかお聞きします。では、ご覧ください。

何が見えますか?

では「地図が見えた」という方はいらっしゃいますか? 少しいますね。

「骸骨が見えた」という方はいらっしゃいますか?

「混沌が見えた」という方は?

(会場笑)

「牛が見えた」という方は?

最後にもう一度見てみましょう。数週間前にも同じ講義を100人に対して行いましたが、「牛が見えた」と答えたのはたった5人でした。今、牛が見えた方っていますか? あれ、牛なんですよ。

自らの一瞬のリアクションが未来を創っている

ジェレミー:私たちは「世界は、はっきり見えている」と思っているんですが、実は見えてないんですね。「何を今体験しているのか、そしてそれが自分の選択肢や次の行動、それから何よりもどんな結果を得るのかに影響してくる」ということを知覚できるようになることがセルフマネジメントのコア部分です。

いつも「結果」が重要なんです。「その結果を望んでいるのか、いないのか」ということですね。

では、また別の見方をしてみましょう。ああいったものに注意を払うようになったとして、またあのクライアントからの電話を取った時には怒らずに「おばあちゃんに話す時みたいに優しくしよう」といった別の選択を取ることができるわけです。それがもしかしたら、別の未来をもたらすかもしれません。

ですから、「どんな未来にしたいと望んでいるのかを考える」「自分が取ったリアクション、その一瞬が自分の未来を創っている」ということに尽きるのです。

自分自身に聞いてみてほしい質問があります。「自分の可能性を無意識に狭めている行動とはなんでしょうか?」「ネガティブな情動反応がコミットメントやイノベーションにどう打撃を与えるのでしょうか?」

あなたの怒りで、知らず知らずのうちに組織の可能性を絶っていませんか? 今よりも良い結果を生み出すことができると思いますか? 今よりも良くできますか? 日本語での質問を見たい方は、スライドをご覧ください。

「できる」と思ったら、「自分自身の状況をよくするために何をしているのか」そして「どうやって問題となっていることについて率直に話すのか」自分自身に聞いてみてください。そしてもしその先に興味があれば、私たちにご連絡ください。Transformは日本で去年立ち上げた組織で、明日1周年のお祝いをします。

(会場拍手)

丸山:いかがでしたでしょうか。では、お二人にも登壇いただいて、ディスカッションをしましょう。

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