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勝つためのセルフプロデュース(全5記事)

「彼女できた?」というツッコミが安心感を与える スポーツ指導の現場から学ぶ人心掌握のコツ

2019年2月9日、「SCJ Conference 2019 ~壁を超えて、繋がる~」が開催され、ビジネス界やスポーツ界の枠にとらわれず、多様な分野で活躍する第一人者が一堂に会しました。その中の分科会C「勝つためのセルフプロデュース」では、静岡聖光学院中学校・高等学校 校長・星野明宏氏、元電通で早稲田大学ア式蹴球部 監督・外池大亮氏、ソフトバンク株式会社人材開発部 部長・杉原倫子氏が登壇。指導・教育現場の課題や未来を語りました。

ズバリ「勝つ」とは?

杉原倫子氏(以下、杉原):では、私は真面目なので、時間もありますし、テーマに沿っていこうと思います。「ズバリ”勝つ”とは」ということで、改めて、試合での「勝ち・負け」だけじゃない、その先にあるものは絶対にあると思っています。

あとは高校・大学各々の違い。社会との接合、社会人として力を発揮し続ける人材へ。先ほどからもそういうお話が出ていましたので、この辺のところもお話が聞ければと。

勝ち・負けじゃないと言いながら、勝ちに導いているお二人なので、取材されている記事なんかも読ませていただくと、すごくいい感じのお話をなさっているので、今日もぜひサクセスストーリーを聞かせていただけます。サクセスストーリーだけでなく、本当のところはどうなのというところも含めて、ぜひぜひ教えていただければなぁと。まずは外池さん。

外池大亮氏(以下、外池):勝ち・負けということの前に、競技でいうと上手い・下手みたいなところが、まず評価というか。目の前にあるものがあって、やっぱり上手い・下手だけじゃないよというところが、どちらかができることかなと思っています。それは何かというと、競技をテーマにした組織ではあるんですけど、やっぱり上手い・下手だけで組織は作れないよねというところを、基準としてまず示します。

なので、サッカーの能力とか、サッカーの上手い・下手だけを評価基準にしないことを、僕は一番モットーにしています。どう組織に貢献しているか、どう違う基準を部に示しているか。要は部のなかの活動で、例えばサッカーだったら、ピッチ上だけじゃないところの活動で活躍したりだとか、そこ(の評価をすること)でそもそもモチベーションが上がったり。

例えば、彼女ができて急にやる気が出てきたみたいなときに、そういう人をフォーカスするんですよね。ただ普通にウォーミングアップをしているときにいるんですよ。急にスキップっぽくやっているヤツとか、なんか急に声出ているみたいな(笑)。

杉原:ああ(笑)。

外池:こいつらの上手い・下手というのは、だいたいわかっているので、僕はそういうところしか見てないんです(笑)。急に18歳から22歳の間に、確変するやつなんてそんなにいないんですよ。でも、何かきっかけがあってこいつが変わりたいとか、こいつ背中を押されているなとか。

杉原:「むっちゃテンション上がっているなぁ」みたいな(笑)。

外池:「昨日の夜いいことあったな」みたいな(笑)。そういうのをどんどん突っ込むわけですよね。この突っ込みが好きです。

選手の「安心感」をふだんのやり取りで獲得

星野明宏氏(以下、星野):どう突っ込むかやってもらえますか?(笑)。彼女ができたっぽくて、スキップしているのを、アップで見た時の外池さんをちょっと。

外池:じゃあ、スキップしてもらっていいですか?(笑)。「なんかいいねぇ。今日いいことあった?」みたいなことを言うのを見て、よいことがあったのを知っている周りがザワザワして(笑)。「お前あれだろ」みたいな。僕はそれをその場に留めないんですよ。ちょっと聞くと「えっなに、彼女できたの?」と。

星野:それ試合前のアップで、ですか?(笑)。

(会場笑)

外池:アップです(笑)。そういうのをずっと……練習中でも試合中でも、話しかけてもいいんですよ。「昨日どこ行ったの?」と聞くと「品川の水族館に行ってきました」とか。「品川まで行ったの?」みたいなことを、みんなで共有するんですよ。

(会場笑)

その1つのネタを起爆剤に、そいつにフォーカスをしていくと、意外と彼がピュアで、プレー面でも変化をし出すんですよ。そうするとみんなは「こいつ彼女できたからちょっと変わった?」みたいな。ただ彼女ができた、に留めない。

ピッチ外のことをピッチ外で終わらせないで、それがピッチ内でも意外に効果が出ているよと、まさに接続してあげることで、そこに変化を作り出せるんだという。ただ黙々と邁進する競技に向き合うことじゃないんです。

星野:たぶん今、外池さんは、後付けだからあまりうまく説明できていなかったと思うけど、事前の打ち合わせのときにすごく感じたのは、基調講演であった話で、やっぱり安心感ですよね。

杉原:ああ、それありますよね。

星野:「あっ、彼女作っていいんだ」「プライベートなところまで監督がちゃんとポジティブに受け止めてくれるんだ」とか。

杉原:「言っていいんだね」と。

星野:「彼女なんか作ったらだめなんだ」というのが、いわゆる紋切り型の指導者です。私は基調講演の安心感というところをプロデュースされているんだろうなと思いますよね。今言ったような、難しく深い意味はあまりないと思います(笑)。

外池:はい、そうです。フォローしてくれました(笑)。

杉原:でも、それを言える関係というのが、やっぱりいいなと思います。

Twitterでの交流は現代版「交換日記」

星野:Twitterとかもそうですよね。

杉原:そうそうそうそう。

外池:そうですね。目標設定というと「優勝したい!」とか「タイトル」とか、みんなあるんですけど、「本当にそれだけ?」と言ったら、何人かがボソッっと「注目されたい」「多くのお客さんの前で試合をしたい」という話が出てきました。「だったらまず、君たちに何ができる?」と言ったら「まず情報発信していくことだと思います!」と言うから、「じゃあ、やろうよ!」となりました。

今までだったら「じゃあやってみたら」みたいなので終わっちゃうんですけど、僕は「じゃあ俺もやろう」と。「俺、先やっちゃうよ」「『俺が監督になったんで、Twitter始めました』と言っちゃうよ」と、勝手にやり出したんですよね。それでみんなが様子を見ながらだけど、みんなもやっているじゃないですか。

小さくやっているなかで「この人が監督で大丈夫なのかな、何かやらかさないかな」みたいな、半信半疑なところからスタートします。でも僕はメディアにいるので、逆にそこの有効性とか価値みたいなものをやっぱり共有していっているとか、そこを見せていくことで、だんだんみんなが絡んできたり、接点を持つようになるんですよね。

そうすると、ふだんグラウンド上で「お前今日のプレイはどうだった?」といった真面目な話をするときもありますけど、Twitter上だと「いいねぇ」とか、そういう単語とかワードがすごく柔らかい感じでやるんですよ。

星野:明治大学ラグビー部の監督が、選手とメールでものすごく交流しているそうですね。昔で言うと交換日記ですよね。安心感と、チームの状態というより外池組の作り方だと思うんですよね。空気感というかですね。

杉原:空気をどうやって作るかですよね。

トライを褒めるのではなくて、プロセスを褒める

星野:昔の指導者だと、目立ちたいとか言うと、すごく目くじらを立てるんです。けど、すごく上手なやり方があって、例えば(ラグビー元日本代表・ヘッドコーチの)エディー・ジョーンズは猛練習で、1日4練、5練やるんですよ。彼はやっぱりすごく科学的で、今まで日本では普通、午前2時間半、午後2時間半の5時間熱中していたんですよね。

そもそもエディー・ジョーンズは、もともと校長先生をやっていた方なので、2時間半も集中できないだろうというので、1回の練習を1時間にしたんですよ。5コマやるということですよね。

毎回出し切られて出し切られて出し切られて、食事もすぐ。相撲部屋といっしょです。相撲部屋も見学されていました。カラッカラのところで栄養を入れて、ミーティングをしたあと、昼寝をさせられて、脳科学の世界で昼寝している間に覚えると。

五郎丸(歩)選手が「昼寝の時間まで指定されたって保育園以来だよ」みたいなことを言っていたそうです。何が言いたかったかというと、実はエディー・ジョーンズは上手で、「猛練習に勝つぞ」「だから苦しいことを乗り越えなきゃダメだぞ」で終わらなかったんですよね。

その1個上の概念で「五郎君よ、次のワールドカップでこの猛練習を乗り越えて、もし日本が勝ったらお前ものすごいスターになるぞ」と。単にスターだとお金持ちを目指したいなんですけど、「お前を見て、みんな五郎丸みたいになりたくてラグビーを始めて、いろんな公園でラグビーボールを持って、がんばる子が増えてくるぞ」「お前はそういう子たちの目標になるんだぞ」と。

あと「世界的にも日本みたいにレベルが低いところが勝つことによって、いろんな勇気を与えられるぞ」と。聞くだけでワクワクするじゃないですか。そういうロジックで持っていくのがすごく上手なんですよね。

昔の人は「目立ちたい」と言うと、「ダメだ」となっちゃいます。目立ちたいとなると、さっきの主体性と一緒で、リスクとして今度はトライを取りにいくだけを狙うとか、ゴールだけを狙うとか。

でもトライとゴールのプロセスには、ちょっと速く起き上がったり速くコミュニケーションをとったり、速く相手の動きを見たりという、複合的な要素が絡んで最後の結果が出ているんですね。だからそこのプロセスをとにかく褒めてあげる。

調子に乗らせる場合は、みんな結果を求めたがるので、かっこよくしたい。その場合には逆に、プロセスを褒めてあげる。「ナイストライ」「でもお前さ、今までだったら、そこで仲間を呼ぶのが少し遅かったけど、今ここで名前を呼ぶのが速かったよね」と。「今起き出しが速かったよね。そこがよかったんだよ」と。

つまりトライを褒めるのではなくて、プロセスを褒める。その表裏をいろいろ使いこなさないといけないんですね。外池さんが本当にふざけた人だったら、今頃早稲田は相当荒れ果てていると思います。Twitterで最近食品関係はいろいろありますよね。

外池:ある意味予兆かもしれない(笑)。

星野:予兆になっていちゃダメですけどね。そこは上手くマネージメントされていると思うんですよ。だからリスクをビビってそもそもやらないのか、やっていくなかでリスクを課題型で1個1個クリアしていくかというところが、本当は社会にどう求められていくかですね。

発信することでメンバーの「誇り」につながる

杉原:改めて思ったのが、注目されたいという当たり前の欲求というか、それはみんなのワクワクに繋がるじゃないですか。今、先生とか外池さんが、こうやって外に出て発信されることが、結果的にチームや学校が注目されることになるわけです。ソフトバンクなんかもけっこうそうで、社外のメディアでに取り上げられることで、社員はメディアで知ることがすごく多いのですが。

情報が入る順番が違うじゃないか、となるかもしれませんが、社外に取り上げられることが、結果インターナルで自分たちのモチベーションに繋がる。「ここで働いてよかった」という誇りに繋がる。お二方が意識して外に発信していることとか、発信するときにすごく気に留めていることなどがありましたら、ちょっと教えていただきたいと思います。

外池:そうですね。やっぱり僕もメディアだったりCSにいるので、発信するということは、逆に言うと誰でもできる時代になったと思うんですよ。

杉原:確かに誰でもできますよね。

外池:いかにそれによるインプットを導けるかがポイントです。それが発信のクオリティだったりするんです。タイミングだったり言葉だったり、言葉の数だったり、今どういうことがトレンドになっていて、ワードをどうやって引っ張り出して、そこと関連させることでその情報自体に意味を見い出せるのか。

それによって返ってくるものがないと意味がないというか、返ってきたら君たちは自分を磨けるよと。要は、普通は自分たちの部のなかだけでコミュニケーションを作り上げていて、外側に出ていくことって大変だけど、今そういうものを使って外からいただけるもの。

杉原:反応がいっぱいきますものね。

外池:そうです。それが要は、バランス感覚だったり、自分たちの立ち位置を見直すとか、自分の発信を考え直すきっかけにもなるし、それがもしかしたら評価かもしれないし、もしかしたら批判かもしれない。

杉原:それもありますね。

外池:それも返ってくるものとして考えましょう。さっき言ったバランス感覚が、僕はビジネス感覚だと思っています。それが世の中に出ていったときに、使える力、まさに営業みたいなところだと思うんですよね。そこをなんとなく、あまりかたくは言わないですけど、そういうものだよということでいくと、より実感、かつ成長を実感できるみたいなところになるのかなと思います。

杉原:ありがとうございます。

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