2024.10.01
自社の社内情報を未来の“ゴミ”にしないための備え 「情報量が多すぎる」時代がもたらす課題とは?
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石川善樹氏(以下、石川):最後に、日本のクリエイティビティ研究の第一人者でいらっしゃる、法政大学の永山先生です。今までの話を全部、整理してもらいましょう。お願いします!(笑)。
永山晋氏(以下、永山):はい、みなさんよろしくお願いします。法政大学の永山です。みなさん、もうそろそろ頭の中のメモリがパンパンになって、何も入らない感じになっているかもしれませんが、そこにさらに新しい情報を放り込みますので、よろしくお願いいたします。
ここまでのみなさんの話をまとめると、「アップデート」と「アップグレード」がありまして、2段階のThink Differentをするにはどうすればいいのかというお話でした。「アップグレード」の軸は、大人数とか客観とか、エグゼクティブネットワークとかがキーワードで進められる。ただ、この道に最初に行ってしまうと、「アップデート」には行けない。
「アップデート」はどうすればいいのかというと、個人とか主観とか、デフォルトモードネットワークがキーワードになっていて、こっちだったら行けるかもしれない。この全体を俯瞰するのは、個人とスモールチームの行き来みたいなものとか、サリエンスネットワークとか、俯瞰のようなものがキーワードになっているというお話でした。
ただ、ここで僕が疑問に思ったのは、「本当に個人や少人数であればアップデートできるのか?」ということ。もう1つが、「『アップデートしました』『アップグレードしました』『うまくいきました』……その後はどうなの?」という話です。この疑問に対して、それぞれ漫画と音楽の事例をもって考えていきたいと思います。
そもそも、我々日本人は「アップグレードしがち」という話なんですけれど、なんでアップグレードするのか。なんで最初からアップグレードするのはまずいのか、というところですけれども、これはみなさんご存知のとおり、「イノベーションのジレンマ」が起きるからです。
永山:先ほどもおっしゃっていただきましたが、なぜ「イノベーションのジレンマ」が起きるかというと、2つの要因が鍵になっています。「コンピテンシー・トラップ」と、「コグニティブ・エントレンチメント」。
学術用語なんですけれども、(「コンピテンシー・トラップ」は)アップグレードすると習熟してしまい、アップデートすること、つまりリスクを冒す、ジャンプすることのコスパが非常に悪くなるということなんです。アップデートよりもアップグレードし続けた方がコスパがいいという話なんです。
もう1つは、あまりにも専門知識が頭にたまりすぎ、認知の固定化が起こって柔軟な思考ができなくなること。これが「コグニティブ・エントレンチメント」というのですが、アップグレードするとアップデートが難しくなるという話なんです。ただこれは、どちらもアップグレードした後に起こる問題なんです。問題はそれだけじゃなくて、アップグレード前にも起こるんです。
その例として、川窪(慎太郎)さんという、『週刊少年マガジン』の副編集長をされている方からお話を聞いたんですけれども、写真がないのでイラストなんですが、この人は、おそらくみなさんが知っている作品の編集者なんです。それが何かと言うと、『進撃の巨人』です。
非常に絵は下手なんだけれども話はすごい。めちゃくちゃThink Differentであるという話です。『進撃の巨人』は大ヒットしたわけですけれど、この方は『進撃の巨人』を生む前にどういうことをしていたか。みなさんだったら「大ヒット漫画を作りたい」と思ったら、まず何をしますか?
石川:それはもう、大ヒット漫画を読みますよ。『ドラゴンボール』とかね。
永山:ですよね! 大ヒット漫画、(石川氏の話の流れで言うなら)「松尾芭蕉に学べ」という話ですよ。
石川:いきなり学んでいますね(笑)。
永山:大ヒットから学んでいますね!(笑)。この人も学んだんです。川窪さんは東大卒で、頭がいいんです。ヒットする漫画の要素を分析しました。そうすると「バディもの」といって「親友だったり兄弟だったりがコンビになっていること」、「ファンタジーであること」、「失われた何かを取り戻すという話の展開」がヒットするようだ、という要素をあぶり出したんです。
「これを新しい漫画にぶっ込むぞ!」とこの方は考えました。(スライドを指しながら)そして生まれたのが、この『反逆の影使い』という漫画なんです。どこかしら『進撃の巨人』の匂いが漂っています(笑)。
永山:本人の中ではすごく手応えはあったらしいんですが、なんと2巻で打ち切りになって大失敗するんです。Amazonレビューでは散々の書かれようで、『鋼の錬金術師』という有名な漫画がありますが、これとまったく同じ、(あるいは)劣化版なんじゃないかと受け止められたんです。
アップグレードした後の問題なんですけれども、何が言いたいかというと、どうしてもアップグレードに対する誘惑がすごいんです。他社の成功モデルを適用し、フレームワークに依存してしまったり、「前例はあるのか?」とか言って、前例がなかったら何もできなかったり。みなさんも「前例を持ってこい」と言われたことがあると思います。言っている人もいるかもしれませんね。僕もよく言われます。
そんなこともあると思いますけれども、少人数であっても大人数であっても、放っておくとアップグレードに向かってしまうんです。思想なき既存種の応用は、必ず同質化を招きます。そうすると、みなさんがよく言う「レッドオーシャン」みたいなところに突っ込むんです。
だから意識するしかないという話なのですが、じゃあ川窪さんはどうしたか。失敗から学んだ川窪さんは、ヒットの要素ではなくて、作家の強い情念をまず完全に抽出し、すべて出し切った後にフレームワークを適用して、内容を洗練化させていく方向に変えました。
それで生まれたのが、『進撃の巨人』なんです。『進撃の巨人』は、作家の情念を抽出しています。『進撃の巨人』を読まれた方はなんとなくわかると思うのですが、絵があまり上手くなくて、キャラの描き分けもできていないんですね。
漫画の世界では、「キャラとストーリーが立っていないと売れない」と言われていたんです。けれども、「独自の世界観」と「謎」だけで売るというまったく新しい漫画のスタイルを立てたんです。
川窪さんが「下手なりに、どうしたらマスに受けるか」と、マーケットに適応させるような形で『進撃の巨人』が生まれていった。そういう話を聞いたんです。これはまずアップグレードをやって失敗して、アップデートにいって、その後アップグレードをして成功した例です。
永山:もう1つの疑問です。『進撃の巨人』みたいにアップデート、アップグレードして上手くいったものの、また同じ「イノベーションのジレンマ」にはまってしまうのではないかということです。(上手くいった後に)そこから第2波みたいなことはできるのか。そういう話をしたいと思います。ここで、みなさんご存じである方、ない方いらっしゃると思いますが……。
石川:これは、たぶん知らないですね(笑)。
永山:知らないですかね!? (スライドを指しながら)マックス・マーティンというんですけれど、みなさんの中にこの人を知っている人、いますか? 誰も知らないんですね!? ここまですごいことを成し遂げていて、誰も知らない人って、なかなかいないですよ!
石川:現代の松尾芭蕉ですよね?(笑)。
永山:はい。このマックス・マーティンが何者かというと、音楽プロデューサーです。なんで有名か、何が代表作かというと、1990年代はバックストリート・ボーイズやブリトニー・スピアーズ。彼らは、みなさんご存知ですね? 2000年代は、ボン・ジョヴィやケリー・クラークソン。この辺は知らない方もいらっしゃるかもしれませんが、有名なところでは……。
石川:アヴリル・ラヴィーン。
永山:そう、アヴリル・ラヴィーンとか。2010年代。もっと増えます。マルーン5、テイラー・スウィフト、ジャスティン・ティンバーレイク、アリアナ・グランデ。(スライドを指しながら)ちなみに赤字になっているのが、ビルボードでNo.1をとった曲、この人が関わってNo.1になった曲です。
石川:世界版の小室哲哉みたい。
永山:世界版の小室哲哉ですね。マックス・マーティンという男は、1971年生まれのスウェーデン人音楽プロデューサーで、ビルボードでのNo.1獲得回数は22回です。これは歴代3位で、ポール・マッカートニー、ジョン・レノンに次ぐ順位です。
現在、1991年以降のNo.1(獲得回数)のシェアが6パーセント。6パーセントと言うとすごさが伝わりづらいのですが、すごいんです。現在、地球上でポールを上回りうる、唯一の人間なんです。
石川:すごいじゃないですか!(笑)。ロックを作った男を超えるみたいなことですね。
永山:そうなんです。
石川:30年間、活躍し続けているんですね。
永山:そうなんです。音楽業界において、その活動歴の長さでまだ第一線でNo.1を出し続ける人はなかなかいないんです。この人は「ポップスの権化」みたいな人なのですが、ポップス一筋かというと、そういうわけではないんですね。
実はこの人、メタルバンドのボーカリストだったんです。1985年にメタルバンドのボーカリストとしてデビューして、成功を確信していたがゆえに高校を中退してしまいます。なので、この人は中卒なんです。
(そのバンドは)アルバムを出したのですが全然売れなくて、1995年に「メタルもボーカルもダメだった!」と脱退します。この失意の中、「メタルのマックスは死んだ。ポップスのマックスになる!」とアップデートしたわけです。この人が考えたのが、「歌い心地がよければ、歌詞の意味はどうだっていい!」ということで、小室哲哉とまったく一緒なんですよね(笑)。
(会場笑)
石川:確かに(笑)。
永山:それで生まれたのが、ブリトニー・スピアーズとバックストリート・ボーイズのデビュー作です。いきなりヒットを出して、「メロディのマックス」として世に名を轟かせたんです。
石川:「メタルのマックス・マーティンじゃなくていいんだ!」ということですね。
永山:そう。「メロディのマックス・マーティンだ!」ということですね。ただ、2001年でこの快進撃は止まってしまうんです。2002年に快進撃が(完全に)ストップして、「もうマックスはオワコンだ!」とみなさんに言われたんです。2006年、2007年くらいまで、あまりヒットが出なかったんです。
この間に何をしたかというと、いろいろと試行錯誤して「歌い心地がよければオッケー」というところから、「キャッチーなのに歌うと非常に難しい」という音楽作りをし始めたんです。
何を目指したかというと「1回聴かれて終わり」ではなくて、「何回も何回も聴いてしまう中毒性をいかに生み出せるか」というのを探り始めた4年、5年なんです。それが功を奏していろんなアーティストをヒットさせることができて、すでに今の音楽業界は「マックス・マーティンに学べ!」となっています。
石川:スルメというか、「噛めば噛むほど味が出る」みたいなものですね(笑)。
永山:スルメのマックス(笑)。みなさん知らないという話なんですけれど、この人は情報が全然出ていなくて、まったくインタビューを受けないことでも有名です。ほとんど情報がないんです。少ない情報の中から無理やり考えて、スルメのマックス(笑)。この人は、なんと2回アップデートしたという稀有な例です。なんでこういうことができたかが気になりますよね。なぜでしょうか。
(スライドを指しながら)それがこれです。これは、2007年から2017年の終わりまでにマックス・マーティンが関わった人、共作した人たちをネットワークで結びつけたものです。要は新しいネットワークが、イノベーションのジレンマを脱出する鍵になっているんです。
石川:完全に孤独であったわけではなくて、誰かがいたわけですね。コラボする相手がいた。
永山:そうです。今回のSansanのテーマと結びつきますよね。
西田:そうですね。
石川:「出会い」と「イノベーション」ですね。
永山:そう。「出会い」と「イノベーション」。今日でみなさんは「イノベーションのジレンマ」から脱出できるはずなんです(笑)。
(会場笑)
永山:ちょっとここで、もう1つ重要なポイントがあるんです。(スライドを指しながら)この写真を見て、何か思いつく特徴はありますか?
石川:スモールチーム。先ほど西田さんがおっしゃっていた、スモールチームの方が革新的なことがしやすい。
永山:はい。そうですね。
石川:(写真の)下の二人がコラボ相手ですよね?
永山:そうです。
石川:何か、若いですね。
永山:もう下の人なんて、マックス・マーティンの息子なんじゃないかというね(笑)。
石川:長髪ですね。
永山:ちなみにこの人は、スウェーデン人でメタル出身です。デスメタルバンド出身で、いまアリアナ・グランデとかとやっていますからね。
石川:へえー。
永山:もう、よくわかんないですね(笑)。ポイントは「幅広い知識や経験を備えたシニア」と、「カッティングエッジな知識を持つ若手」の組み合わせなんです。これは研究でも示されていて、「幅広い知識」は年齢とともにだんだん価値が出てくるという結果が出ています。一方で、「専門的な知識」は年齢とともにだんだん価値がなくなっていくんです。
石川:なるほどね。「最新の深いこと」っていうのは若者の方が詳しいですものね。
永山:そうなんです。(スライドを指しながら)これがもう1つの重要な研究なのですが、少し見方が難しいので端折って言うと、緑のポイントが、「めちゃくちゃ引用数が多い論文」をプロットしたものです。緑のものは、若い知識と古い知識を同時に組み合わせた時に、ヒットの現象が起こりやすい。
石川:先ほど西田さんは「古くて人気のないアイデアがスタート」と言っていましたけれども、最新の研究だと、両方大事なんですね。
永山:そうですね。古いと新しいを同時に組み合わせるのが大事ですよね。(先の話にも出た)電気自動車のテスラみたいなものですよね。ポイントとしては、自分が窓際に追いやられてしまうから、シニアは「カッティングエッジな知識を持つ若手」を避けがちなんです。
石川:(シニアからすると)若い人って、何を言っているかわからないですもんね!(笑)。
永山:そんな若手も、(シニアに対して)「こいつ何も理解してねえな!」と思いますよね。
石川:確かに。(シニアは若手が)何を言っているか、わからないですもんね!(笑)。
(会場笑)
永山:この壁をいかに乗り越えるかが、Think Differentになるんじゃないかというわけです。
石川:なるほど。じいさんばあさんになったら若い人と組んで、若い人はむしろじいさんばあさんと組む。
永山:そういうことです。ただ、(シニアは)経験豊富で、(若手は)カッティングエッジな知識を持っていないとダメですよ。
石川:賢者と勇者みたいなものですかね。
永山:そういうものですね。
石川:いろいろ知っている賢者と、何も知らない勇者っていうことですね。なるほど。ありがとうございました。では最後、ピッとやっていただいて……。(スライドを指しながら)西田さん、これはどこですか?
西田:会場を出ていただいて、展示会場というのがありますので……。
石川:どういう展示があるんですか?
西田:(スライドを指しながら)星がついているところ、右下のグレーになっているところなんですが、そこにデータビジュアライゼーションの……。
石川:3面スクリーンがあるところですね。
西田:そうですね。3面スクリーンがあるところに、今回私が開発したデータビジュアライゼーションの作品が置いてある展示会場があるんですけれども、そちらに私たちがいます。
石川:突っ立っている。
西田:はい。
石川:そういうことで、もし今日インスパイアされたり、質問なり文句があるという方は、ここにいらしていただけたら、突っ立っています。
西田:そうですね(笑)。
石川:ということで、あっという間の45分間でしたけれども、「Think Differentとは何か?」を駆け足でご紹介してきました。45分間、ありがとうございました!
西田:ありがとうございました!
永山:ありがとうございました!
(会場拍手)
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