2024.12.19
システムの穴を運用でカバーしようとしてミス多発… バグが大量発生、決算が合わない状態から業務効率化を実現するまで
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西田貴紀氏(以下、西田):はい、DSOCの西田と申します。DSOCはSansanのデータ統括部門で、そこの研究員をやっています。見た目でわかると思うんですけれど、今ご紹介にあったとおり、めちゃくちゃファッションが好きなので、今日はファッションを通じて「Think Differentとは何か?」という問いに対して答えを出したいなと思っています。
石川善樹氏(以下、石川):今日の服は全身、入れ墨みたいですね(笑)。
西田:そうですね。レギンスとカットソーがあるんですけれど、会社に着ていった時はもう、「西田さんが入れ墨を入れた!」みたいに言われました(笑)。
石川:「入れ墨を入れたんですか!?」って言われる、肌着のような服ですね(笑)。
西田:はい。肌着のようなものです。僕がファッション界で「最もThink Differentしたな」と思っているブランドがあります。それが今日も着ている、コムデギャルソンというブランドです。コムデギャルソンは何がThink Differentで、すごかったのかというと、後に「黒の衝撃」と言われる、1982年のパリコレクションです。それが最もすごくて、僕が「最もThink Differentしたな」と思っているコレクションです。
石川:ファッションというのは白かったんですね。黒を扱うのはもってのほか。
西田:そうですね。その当時のパリコレクションでは、黒はタブー視されていたんですが、そこで初めて黒を使ったのがコムデギャルソンです。
石川:クラッシュしたんですね。
西田:そうですね。それがコムデギャルソンの「黒の衝撃」というコレクションです。「黒の衝撃」というのを先ほどの2軸を使って説明してみます。(スライドを指しながら)一般的な服がここにあるとすると、縦軸にアップグレード、(つまり)質の高さを取ると、当時のパリコレでは黒は使わず、エレガントというのが「質の高いもの」だとみなされました。それが1つの基準だったんです。
横軸にアップデートという軸を取ります。コムデギャルソンが何をしたかというと、黒を使うのが1つと、もう1つがボロルックです。ほつれ、かぎ裂き、穴開き。今日、僕が着ているこのパンツです。これがまさにかぎ裂きになっています。
石川:さっきの俳諧みたいなものですね。下品なものをあえて使うという。
西田:そうですね。この貧乏っぽいのを見せてしまうところであり、下品だということです。それに当時のエレガントさを踏まえてデザインを整えたことで、「黒の衝撃」が生まれた。この例をとっても、(先の松尾芭蕉の話のように)まずアップデートしてからアップグレードすればいいんじゃないかな、と僕も考えています。
石川:コムデギャルソンは日本のブランドですよね?
西田:そうですね。日本のブランドで、川久保玲さんというデザイナーが設立しました。
石川:松尾芭蕉的なことをしたということですね。
西田:そうですね。僕の人生のテーマでもあるんですけれど、「どうしたら『黒の衝撃』のようなThink Differentができるのか?」ということですね。
(コムデギャルソンが)パリコレで初めて黒を使って、その後、当たり前のように黒がパリコレで使われる時代が来るのですが、どうしたらそういったすごいイノベーションを起こせるのかと考えていく中で、今日の答えを出していこうと思います。まず、「服の中にそもそもヒントがあるんじゃないかな」と思い、服を見てみたんです。
(スライドを指しながら)これは僕が着ているTシャツなんですけれど、「メッセージT」と言われているTシャツです。これに書いてある言葉にヒントがあるんじゃないかなと思いました。「My energy comes from freedom and a rebellious spirit.」とあって、訳しますと「自由と反逆精神が私のエネルギー源です」という意味です。
石川:ちなみにこれも、コムデギャルソン?
西田:コムデギャルソンです。川久保玲のインタビューを読んでみると、「強い信念を持っている人が好きです」と回答していて、「反逆精神があって、独立心みたいなものを持つのが『Think Different』するには必要なマインドセットなんじゃないかな」と思いました。(それで)「そんな研究はあるのかな?」と思っていろいろ調べていたんです。
石川:独立心の?
西田:そうですね。独立心とクリエイティビティについての研究がなんと、ジョンズ・ホプキンズ大学で行われていました。ある実験で、「地球外生命体を描きなさい」というタスクをもとにクリエイティビティを評価するということで、(被験者に)そのタスクを与えました。その時に、2つのグループを用意したんです。
1つは「グループで作業するように」という集団A。もう1つの集団Bが、「グループからあなたは拒否されたので、一人で取り組んでください」という、すごくかわいそうな感じの集団です。
石川:非常にかわいそうですよね(笑)。わざわざ「拒否された」と言うんですね。
西田:わざわざ「拒否されていますよ」ということを明確にしたグループを用意したんです。そこで絵を描いてもらったところ、集団Bで「一人で描いてください」と言われた人たちの方が、クリエイティブな地球外生命体を描いたという研究があったんです。
石川:これは直感に反しますよね。普通はブレストといって、「みんなで考えた方がいいんじゃないか?」となります。だけれども、一人の方がいいんですね。
西田:なおかつ、拒否されて(笑)。強い信念を持ちながらやった人たちがクリエイティブだった。これがマインドセットなのですが、次に、具体的にどう考えているのかをもう少し詳しく見るべく、今度は脳科学の研究も調べてみました。
脳の中で考えるプロセスを簡単に図式化すると、まずアイデアを思いついたりアイデアを生成してきて、いっぱい出てきたアイデアの中でそれを結びつけたり、さっきの2つの軸で俯瞰してみたりします。
(そうして)アイデアの選定をして、最後にそのアイデアが良かったのか悪かったのかといったことや、いいのか悪いのかを考えます。そして1つに絞って、形にしていくというのが思考のプロセスなんじゃないかなと思うんです。
石川:わかりやすく言うと、最初にアイデアを100個くらい生成して、それを3つくらいに選定して、最後に一つひとつ評価するということですね。
西田:そのプロセスが脳の中でどのように対応しているのかを見てみると、少し難しいんですけれど、脳の中には「デフォルトモードネットワーク」と「サリエンスネットワーク」と「エグゼクティブネットワーク」という、アイデアの生成に必要な3つの領域があることが研究でわかっています。
石川:よく左脳とか右脳と言いますけれども、「左脳タイプの人は左脳だけが活性化している」「(右脳タイプの人は)右脳だけが活性化している」ということではなく、人の脳は、普通に起きていたら左脳も右脳もいっぱい活性化しているわけです。
それをよく見ると、アイデアを生成している時に活性化している部位があって、これを結んでネットワークにしたのが「デフォルトモードネットワーク」ということですよね。
西田:そうですね。
石川:要は「活性化している部位を結んでみると、3つありましたよ」ということですね。
西田:そうですね。この研究で何を見たかというと「クリエイティブな人の脳の動きは、どんな領域が活発になっているのか」ということなんですけれど、まずは凡人の脳です。
凡人の脳は、「アイデアの生成」「アイデアの選定」「アイデアの評価」、それぞれで活発になるネットワークの結びつきが弱かった。一方で天才の脳を見てみると、その3つの結びつきが強かった。そういうことが研究からわかりました。
石川:凡人は、どれか1個くらいしか得意じゃないということなんですよね。
西田:そうですね。
石川:天才、クリエイティブな人は、いろんなモードを自由自在にできるということなんでしょうね。
西田:そうなんですよね。「脳の強いつながり」を作ればいいのですが、それを一人でやることはできないし、どうトレーニングしていいかもわからないわけです。これを誰でもできるようにするにはどうしたらいいのかを、かなり深堀りして考えてみました。
注目したのは脳の動きなんですけれど、このネットワークには少し特徴がありまして、アイデアの生成に必要な「デフォルトモードネットワーク」は、一人の時に活発になりやすい。
一方で「エグゼクティブネットワーク」という、アイデアの評価に使われるようなネットワークの部位は、複数人の時、外に注意が向いている時に働きやすいことが研究でわかっています。かつ、これは一般的にどちらかしか働かないという特徴もあって、スイッチみたいにオンオフで「デフォルトモードネットワーク」「エグゼクティブネットワーク」となるのも、脳の動きの特徴みたいです。
これらを踏まえ、「天才の脳を再現するには、一人の時と複数人の時を行き来すればそれにかなり近いものができるんじゃないか」と私は考えました。具体的にどういうことかというと、一人の時にアイデアの生成や選定をして、そこで複数のアイデアを結びつけるような内省のプロセスをしっかり組んだ上で、複数人でのミーティングに参加することです。一人で考える時間を大切にすることが、Think Differentする上での第一歩なんじゃないかなと思います。
石川:芭蕉も一人でいっぱい歩いていましたからね。
西田:そうですね(笑)。世の中で、「シャワーをしていいる時にいいアイデアが思いついた!」とか「歩いている時に思いついた!」ということがあるのは、この「デフォルトモードネットワーク」が関係しているのかなと思います。そのようなことをサポートする研究が今年、『Nature』誌にも出ていて、これはどういう研究かというと、過去の論文や特許を見た研究なんです。
論文の中で革新的な論文、アイデアを出している論文は、少人数のチームで研究が行われている。一方でアップグレードする、何かを改善するといった研究に関しては、大人数のチームで行われていたという研究があります。
石川:ここで言う、「少人数」というのはせいぜい3~5人くらいですか?
西田:そうですね。今の経過をもう一回簡単に図式化すると、アップグレード、アップデートを(それぞれ)縦軸と横軸に取ると、大人数で考えるとアップグレードの方に行きやすい。一方で、少人数で考えるとアップデートの方に行きやすいということです。
西田:かつ、この研究はさらに「どういうアイデアをもとにアップグレード、アップデートしていたのか」が明らかにされています。アップグレードする人たちは、新しくて人気のあるアイデアをもとにしています。一方で少人数の時は、古くて人気のないアイデアをベースにしているということも、研究からわかってきています。
現代の例で例えるなら、AIやブロックチェーンがすごく流行っていますが、何かを自動化したり効率化するというアップグレードは簡単にアイデアが出てくるのかなとは思うんですけれど、なかなかアップデートには行きづらいかなと思っています。
石川:例えばビジネスの世界でいうと、最近は、ガソリン自動車から電気自動車へのアップデートというのがそうかもしれないですね。
西田:そうですね。
石川:もともと(ニコラ・)テスラという人が電気自動車を考えていて、それはガソリン自動車の普及とともに「古くて人気がない」となっていたのに、イーロン・マスクが「電気自動車だ!」とアップデートしたわけですね。
西田:そうですね。今言った電気自動車のようなものは、アップデートの例に値する感じです。これをファッションでも考えてみたのですが、これに該当するのはマルタン・マルジェラというブランドです。このブランドがまさにこういう考えでやっていたんじゃないかなと思っています。マルタン・マルジェラの有名なアイテムに、「足袋ブーツ」があります。
日本人が履いていた足袋をブーツにしたというものがあって、パリコレやそういうファッションが好きな人はみんなこのアイテムを持っています。僕も持っているくらい、このアイテムは(ファッションの)業界ですごく流行っています。この「足袋ブーツ」で最後に考えてみます。
「足袋ブーツ」は、おそらく日本でしか履かれていないであろう「足袋」という、人気がなくて、かつ古いものに着目していて、その古さが一周して新しいんです。ベースとなる足袋にシリンダーという筒をつけたり、(素材を)レザーにしたり、銀色にしたりということで、エレガンスさを加えて「足袋ブーツ」ができた。
これがファッションにおける、「古くて人気のないアイデアを用いてイノベーションを起こした例」と思っています。最後に僕のセッションをまとめると、「独立心を持って一人で考えるというステップを踏んだ上で、チームでディスカッションをすること」がThink Differentへの第一歩。……というのが、「Think Differentとは何か?」に対する答えです。
石川:はい、ありがとうございます。
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