2024.12.19
システムの穴を運用でカバーしようとしてミス多発… バグが大量発生、決算が合わない状態から業務効率化を実現するまで
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石井龍夫氏(以下、石井):みなさんこんにちは。今ご紹介いただきました、アドビのエグゼクティブフェローの石井でございます。今日は消費財業界についてお話をさせていただきたいと思います。
今日は「デジタルが変える社会」、それから「データ活用とマーケティングの変革」、最後に「カスタマーエクスペリエンスの提供」という、この3つのセンテンスでお話をしたいと思います。
まず最初に、「デジタルが変える社会」でございますが、ここしばらく中国、例えば上海とか北京とかに出張なさった方はここにいらっしゃいますか?
(会場挙手)
(スライドを指して)これは3年前なんですけれども、上海の市内に行ったときにこのような風景があちこちにありました。「モバイク」という名前の、いわゆるレンタルの自転車ですね。街頭に自転車が置いてあって自由に借りることができます。
そのときに、大変失礼なことなんですけれど、「中国で自転車を貸し出して返ってくるんですか? みんな盗んで持ってっちゃうんじゃないですか?」なんてつい言ってしまったのですが、「いやいや、これ全部ちゃんと返ってくるんですよ」というお話です。
どういうことかというと、自転車の一つひとつにQR コードが付いています。その自転車を借りるときに自分のスマホでQR コードを読み取ってあげると、それが当然のように「アリペイ」とつながっていて、だれが今どこでその自転車を借りたかがカウントされるんですね。
自転車にはGPS が付いていますので、お客様が借りたタイミングや、どこの場所で借りたかがわかる。そして、いわゆる乗り捨てることができるわけなんです。乗り捨てたときに、今度はどこで乗り捨てられたかがアリペイ側に伝わって、その人のアカウントに課金されるという仕組みになっています。
ですから、自転車を借りた瞬間にお金がチャリンチャリンと落ちてくるような、そんな仕掛けになってます。結果的に、乗り続ければお金がどんどん出ていくだけだから、ちゃんと返すと。そうなっているわけですね。
それをちゃんとやっていくために、今お話ししたような仕組みがスマートフォンと連続してできている。実際に、上海市内の通勤手段として、ごく当たり前のようにこの「モバイク」が使えるようになっているわけです。
従来だったら、渋滞が非常にすごいなかでバスを使ったり、車を使ったり電車を使ったりしているわけです。それが「モバイク」というデジタルの仕組みを使って、決済システムとつながったものが出ることによって、上海市内の通勤のあり方が変わってきたということですね。
つまり、ある種社会の仕組み自体が変わってきたんですね。もうちょっと意地悪な言い方をすると、今まで中国では「人の見ていないところでは払わなくてもいいよ」みたいなことをしているように言われてきました。それが、仕組みが入ることによってきちんと利用、支払いをするということで、社会全体のあり方が変わってきたという状況になっています。
(スライドを指して)それからもう1つ、これもよく見かけるものです。(中国では)街なかでスナックというか、ピン(餅)というパンみたいなものを売っているわけですが、小さな夜店みたいなところでも、そこにはQR コードがぶら下がっています。自分のスマホでスキャンすれば、アリペイで支払って買うことができる。
例えば現金を持っていって、「これ何十元?」と聞いて100元札を出して、お釣りくれと言っても、お店側は「いやいや、俺お金なんか持ってないんで釣り銭って出せないんですよ。スマホ持ってないの? アリペイで払ってよ」という状況になっているわけです。
結果的に、露店や夜店で小銭を持って歩く必要もないし、お店側も売上金を持って歩く必要もないので、強盗に遭ったりすることもない。そういう状況になっています。
日本よりも大陸側のほうが、はるかにキャッシュレス社会が進んできている。デジタルを使うことによって、サービスのあり方とかサービスの安全性とか、そういうものが変わってきてるということですね。
(スライドを指して)あと、今年中国に行った方がいらっしゃったら、見たことのある方もいるしれませんけれど、街頭にこういうブースがあります。これは、いわゆる無人のコンビニエンスストアです。お客様が1人で入っていって、商品を手に取ってアリペイでスキャンすれば、それが支払えてしまうんです。
世の中の決済システム自身が大きく変わっていくことによって、サービスのあり方も変わってきているという状況ですね。
(スライドを指して)それから、さらにもう1つ。これは中国ではなく日本です。サンスターさんは、歯ブラシや歯磨きなどで有名な会社ですけれども、この会社が数年前に出したものです。歯ブラシではなくて、歯ブラシの柄の先に付いてる機械のほうなんですね。
これがスマートフォンと連携していて、歯磨きをしたときに「前歯の裏側がちゃんと磨けていない」とか「奥歯の磨き方が少ないですよ」とか知らせてくれます。
例えば、お子さんが歯を磨くときに、ちゃんと磨けていないところはどこかをお母さんがスマホで見ながらチェックして、「もうちょっとここはちゃんと磨いたほうがいいよ」と言えるようになってきているわけです。
(スライドを指して)そしてもう1つ。これは写真だけだと、なんの変哲もない洗濯機に見えるんですけれども。これはGEが出したもので、Amazon DASHが組み込まれた洗濯機です。洗濯機のなかに洗剤を保管しておけます。
使うごとに、洗濯の量に応じて洗剤が出てくるのですが、洗剤が終わると自動的にAmazon DASHで発注されます。ボタンを押す必要がないんですね。これは、ひっくり返すと消費財メーカーにとっては非常に厳しいことです。一度洗剤を『アタック』じゃなくって『ハイジア』と決めてもらえれば、常に『ハイジア』の売り上げが自動的に上がる仕組みになっているんですね。
そうなると、この洗濯機に、あるいはこのお客様に、自分たちの商品がまず最初に選ばれるかどうかが、その先の売上や存在自身を規定してくるようになってきています。
3つの事例をお見せしましたけれども、デジタルが暮らしの中に入っていくことによって、消費やサービス、あるいは消費財といったものすべてが大きく変わっていく可能性を持っている。そういう事例の1つではないかと思います。
ただ、そうなってくると「私たちはどうやったらお客様に選んでもらえるんだろう?」ということを考えないといけなくなります。「やっぱりこれが便利なんですよ」「自分にとってこれが価値があるんですよ」という話を、きちんとお客様に伝えていかなくてはいけない。
つまり、顧客体験をどのようにサービスや商品と絡めながら作りだしていくかが大事になってくるわけです。よく言われることですけれども、「お客様はドリルを買いたいのではなくて、ドリルによって開けた穴を使いたいから買うんだ」という話があります。
あるいは、ジョブ理論という言い方がなされることもあります。「お客様は商品やサービスを買うのではなくて、それによって達成されるジョブみたいなものを買うんだ」というものです。そうなってくると、このデジタルを含めたところで私たちがお客様に対してどのような顧客体験を作りだしていくのかが大事になってきます。
商品やサービスにデジタルを絡めた新しい提案をしていくには、「お客様にどんな価値を出していくのか」を考えていく必要があります。
(スライドを指して)これは私が花王で『ビオレ』のブランドマネージャーをしていたときに発売した商品です。ここにいらっしゃる方で、高校時代にこれ使ったという女性の方もいらっしゃると思います。ビオレの『さらさらシート』という商品ですね。
実はこれ、研究所から「この商品発売したいんですけど」と提案されたときは、「夏場でお風呂に入れないときに使う、簡易的なシャワーみたいなものです。紙で身体をこすって、汗や汚れを拭き取ってさっぱりするものです」と言われたんです。
当時ブランドマネージャーだった私は「そんなもん、売れるはずねーじゃん。それよりターゲットを女子高生に絞って、カバンや部室のロッカーに必ず入ってるようなものをつくろうよ」「彼女らが毎日持っていたくなるような、かわいい入れ物にしましょうよ」みたいな話をして、今こういう商品になっているわけです。
例えば今日、みなさんは電車などを使ってこの会場に来たと思います。昨日は台風でしたよね。エアコンが効いているとはいえ、やっぱり通勤電車の中はけっこう暑いし、湿気も多かったと思います。
隣につり革にぶら下がっているおじさんがいて、その横で「ああ、臭いな……」なんて思ったこともあるんじゃないでしょうか。この状況って、たぶん女子高生にとっても同じなんです。
「隣のオヤジの脇が臭い。でも、もしかしたら自分も汗かいてるから……」と思った瞬間に、目の前にステッカーが貼ってあって「ビオレさらさらシート、汗拭き取ってさらさら、匂いもなし」と書いてあったなら、すぐに買いたくなりますよね。
つまり、その商品が必要だと思った瞬間に、どうしてこの商品をあなたが使わなきゃいけないのかを伝えていくわけです。こういったことが、最終的にはお客様に対してこの商品を買ってみたいと思わせることだと私は考えたわけです。
そういった意味で、ストーリーをつなげてお客様に商品の価値、顧客体験の意味を伝えていくことが、消費財にとって非常に大事だと思いました。
そのときにもう1つ大事なことは、「そのお客様ってだれなんですか?」ということだと思います。
顧客体験をつくりだしていくことは、だれかに対してその顧客体験をきちんと提案していくかということです。先ほどの女子高校生なのか、おじさんなのか、あるいは主婦なのか。そういったことに対し、提案する顧客体験の内容は変わってきますよね。
顧客体験ビジネスでは「顧客体験をつくりだすことが大事ですよ」と言っていますけれども、じゃあその顧客体験は、だれに、どのようなかたちでご提案していくんですかということを考えることが大事になってまいります。
そこで必要なのは、やっぱりデータですよね。花王はお客様を知るためにさまざまに調査をする会社でした。たしかに従来だと、いわゆるパネル調査とかグループインタビューとか、そういうことでお客様のことはわかったかもしれません。しかし今は、そんなに簡単にお客様のことはわからないと思います。
なにが言いたいかですが、今ではお客様自身の手に届く情報ってすごく増えましたよね。必要なもの、欲しいものがあれば、自分で検索すればいろんなことがわかる。従来であれば、「いい商品が出たよ」「その商品使うと、こんないい暮らしができるよ」という情報はみんなテレビで知ったわけです。だけど今は、テレビの広告を見ても、こういう商品は他にもあるんじゃないとか調べてしまいます。
「日本で初めて発売しました」とか言っているけれど、アメリカではもうとっくに出てるよとか、ヨーロッパではもう普及してるとか、簡単にわかってしまうわけですね。
それに、例えば「スズランの花のいい香りですよ」と言われても、「いやいや、私はストレスがあるからネロリの香りがいい」とか「いや、カモミールのほうがいい」だとか、そういうことをお客様が言ってくる時代になっているんです。
そうなってくると、私たちはお客様のことをもっと細分化して理解して、お客様それぞれに対して最適化された顧客体験を提案していくことが必要になってきます。そのために必要なのは、やはりデータです。
私たちがお付き合いしたい顧客は、普段どんな暮らしをしていて、どんな悩みを持っていて、どういう通勤をしているのか。それをきちんと理解したうえで、最適なタイミングでお客様に情報をお届けすれば、それが結果的に顧客体験をつくることになっていくと。
データを使ったデジタルマーケティングと聞くと、けっこうみなさん勘違いされることがあります。デジタルマーケティングでは、検索履歴などに基づいてリタゲしたりして、お客様に対して製品のことをお伝えすることですよね。もっと単純に言ってしまえば、刈り取りです。
「車が欲しい」と思ってらっしゃる方が、車とか日産とかトヨタとかで検索しますよね。その人に「うちの車がどうしていいのか」を、例えば広告や動画で伝えるのがデジタルマーケティングですよねと言われる方が多いんですが、私は違うと思います。
デジタルでは、さまざまなデータを使ってお客様のことを理解することができる。つまりこの絵でいうと、今の刈り取りはいちばん向こう側ですね。
例えば花王であれば、『エッセンシャル』というシャンプーを買おうと思った人がいるとします。広告を見て「ちょっといいな」と思ったので買いたいけれど、家の風呂場にまだ『パンテーン』があるから、使い終わるまで待とうかなと考えているお客様を見つる。そのお客様に対して「今日買いに行きなさい」と訴えかけるのが、先ほどのデジタルの刈り取り型の広告だと思います。
そういう人たちは、たぶん反応率は高いけれど、人数は少ないですよね。「もうエッセンシャルを買おう」と思っている人ですから、当然(規模は)小さくなっていきます。
それよりもう少し、反応率は低いけれどユーザーのボリュームが多いのは、「今度シャンプーを買い替えたいんだけど、エッセンシャルにしようかパンテーンにしようかと悩んでいる」っていう人ですよね。
そういう方にとっては、自社のWebサイトなどで「エッセンシャルのほうがあなたの髪には合っていますよ」みたいなことを情報として伝えていったり、あるいは検索におけるバナー広告みたいなもので連動広告を出していったりします。
もうちょっとボリュームが多くなると、情報収集層、つまり「今度シャンプーを買い替えたいけど、ダブかエッセンシャルにするか。あるいは他になにかいいシャンプーはないのかしら?」と思っている方になります。
こういう方には、先ほどお話しした検索の連動広告やスマホのバナーみたいなかたちで、シャンプーに対して興味関心を持っている人に対して情報を届けていくことになります。
さらに潜在欲求層になってくると、例えば「自分の髪の毛はまとまりにくくて困っている」「朝、家を出るときにどうしても時間がかかって嫌なんだよね」と思っている方です。解決策としてシャンプーなのかトリートメントなのか、それとも美容院に行くのか、どれかがまだ決まっていない方。たぶん、そういう方のほうがボリュームが多いわけですね。
そういう方に対して「あなたの悩みはシャンプーで解決できるんです」ということを伝えなければいけません。いわゆる疑似広告、ないしはコンテンツマーケティングと言われているかたちで、お客様自身の需要を掘り起こすようなやり方がデジタルの手法のなかでできるはずです。
つまりデジタルマーケティングというのは、お客様のことを理解できる限り、そのお客様の理解に基づいて購買層を増やしていけるんです。もっと平たく言ってしまえば、「マーケティングのゴールってなんでしょうね?」ということです。
私は、マーケティングのゴールは市場を創造して売上とROIを上げていくことだと思っています。そういう意味では、今ある売上を企業間で取り合うよりは、お客様に対してその商品の価値をお伝えして購買を喚起するやり方がマーケティング本来の目指すべき方向ですし、そのときの大きなモチベーションが顧客体験になると思います。
実際そういうことをやるとなると、やっぱり私たちはさまざまなデータを集めていかなければいけないわけですね。ありがたいことにデジタルの場合は、私たちはさまざまなデータを手にすることができます。認知から購買という、さまざまな点でお客様と接点をつくりながら、そこでデータを取ることができる。
例えば、一番手前の認知ということであれば、お客様がどんなバナー広告や動画広告に対して反応していただいたのか。同じクリエイティブでもどのWebサイトに載せたものの効果が良かったか、といったことがわかります。
実際にクリックしてWeb サイトに行く、あるいはキーワード広告で、もしくは検索して行く。どのようにして自社のWeb サイトに来るのか。または、どんなキーワードで来て、どのページにどのくらい滞在して、次どこに行ったかを見ることによって、お客様の商品への関心などがわかるわけですね。
また、ソーシャルメディアでは、私たちの商品カテゴリーについてどのようなことが語られているかを理解することによって、お客様の潜在的あるいは顕在的なそのカテゴリーに対する欲求や悩みがわかります。
さらにはEコマースですね。自社でやっている場合も、Amazonさんとか楽天さん、LOHACO さんとかでやっているところもあるかと思います。例えば私どもの商品を買っていただいたお客様がかつてどのような商品を買ったのか。あるいは、私どもの商品と競合の商品をカートに入れたにもかかわらず、私どもの商品を外して競合商品を買った方は、一体どんな商品をかつて買っていたのか。こういったデータを見ることができるわけですね。
マーケティング上、一番わかりにくいデータはなにかわかりますか? それは買わなかった理由です。買った理由はお客様を見つけてインタビューすればわかるわけです。だけど買わなかったお客様はわかりませんから、情報がないわけです。
ところがEコマースのデータであれば、競合商品と一緒にカートに入れたにもかかわらず、私どもの商品を外したのはどうしてか、といったことをデータから推測することができます。そして推測することができれば、検証することもできるということです。
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