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AI時代を生き抜く(全5記事)

「頭の柔らかさ」はブレストとディベートで磨かれる 教育改革実践家が語る、伸びしろのある人になる方法

2018年9月7日~17日にかけて、日本財団「SOCIAL INNOVATION FORUM」と、渋谷区で開催した複合カンファレンスイベント「DIVE DIVERSITY SUMMIT SHIBUYA」が連携し、都市回遊型イベント「SOCIAL INNOVATION WEEK SHIBUYA」が開催されました。本セッションでは「AI時代を生き抜く」と題し、藤原和博氏が登壇。将来なくなる仕事となくならない仕事についてのディベートを通して、頭の柔らかい人とはどういう人なのかを解説しました。

この20年で人がいなくなった職場とは

藤原和博氏(以下、藤原):「なくなりにくい仕事」についての議論を本当に深めていきますと、「よのなか科」という言い方をするんですが、一条高校でやったよのなか科の中では、徹底的に議論を深めていきますと、当然「人間とはなにか?」というところまでいきます。

だって、そうじゃない? ロボットのような身体の機能の代替、それからAI、脳の機能の代替というのと、人間との対比をするわけだから。そうすると、人間じゃなきゃできないものが明らかになるわけですので、「人間とはなにか?」がはっきりするわけですよね。

全部(ロボットに)取られてしまうのであれば、つまりロボット的な筋肉や脚力などの物理的な力を代替する機能と、脳の代替をする機能だけでいいんだったら、人間はいらないという話になりますよね。これちょっと相当悲しくないですか。そうすると人間はどこで残るのかですね。これをぜひ(議論していただきたいと思います)。

今日はそこまで最終的に深まらないとは思いますが、それをイメージしながら議論をしてもらいたいということなんです。いいですか?

まず、なくなる仕事を議論してもらいたいのですが、このなくなる仕事は、「ここにもある。あそこにもある」というようなことを言い出しますと、その議論がちょっと散漫になるんです。なので、企業でやるブレストでもそうなのですが、こういうブレストの場合は、テーマを絞ったほうがいいです。グッと絞ったほうが議論が深まるんです。

今日は、この20年ぐらいで激しく(人が)いなくなった職場、人間がやっていたのに、もう人間がまったくいなくなった職場をイメージしてもらい、そこをちょっと深く議論してもらいたいと思います。

なにかというと駅の改札です。わかりますよね? 今いるのが大学生以上の人であれば、駅の改札で物理的に切符を買って、その切符をハサミで切っていた時代を、わずかに覚えているんじゃないかと思うんです。どうですかね?

銀行全体で数十万人がいなくなる

高校生がけっこうギリギリで、中学生以下は完全に知りません。地方の高校生はまだそういうものは残ってて知ってるんだけど、都会の高校生は知らなかったりします。わかります? 日本全国で中学生以下は自動改札以降なので、人類として違うと思ったほうがいいです。わかりますか?

じゃあ聞きましょう。こういう切符を切ったあとの白いゴミが出たわけだけど、もしかしたら若い人たちは、本当に小さな頃のフッとわずかな、「ああ、その風景」というイメージがあるかないかですよ。「ある」という人は、ちょっと手を挙げてください。

(会場挙手)

はい。たいがいですよね。今20代以上で手を挙げなかった人は嘘つきですよね。見てないわけないよね。

(会場笑)

というわけで、もしかしたら海外に行ってたりすると違うのかもしれませんが、いずれにしてもそういうことで、改札は見事に機械化されてなくなりましたよね。あれがあっちこっちで起こるわけですよ。

それが見えないところでものすごい勢いで起こっているのが、銀行の内部の事務処理業務ですよね。テラーという人がいますよね。振込のときにけっこう高額だと、銀行の窓口でも預金の処理をしたりすると思うのですが、テラーという人もあの仕事も、たぶんなくなると言われています。

僕らの見えないところで銀行の中間的な処理業務がごそっと抜け落ちて、今はみずほでも数万人、銀行全体で数十万人いなくなると言われています。もう実際にその仕事はリストラが始まっていますよね。みなさんも知ってますよね? 

そういうこともあるわけです。見えるところ・見えないところはいっぱいあるわけですけど、とにかく改札で起こったことがいろいろなところで起こっている。

渋谷の駅から次に消えてなくなる人は誰か

藤原:では今日、非常に身近な駅と鉄道会社をイメージしてもらって、駅と鉄道会社、渋谷駅でもいいです。渋谷駅でもいいんだけど、改札の(駅員さんの)次にいなくなるのは誰か。わかる? 改札で(人が)いなくなったでしょ? 次にいなくなる駅の人は誰なのかをブレストしてもらいたいと思います。いいですか?

まず駅に入ったときのイメージをしてみて。ホームに行くと、コンビニやキオスクがあるじゃないですか。あそこにおばさんやお姉さんがいますよね。それもありますよね。

それから、駅員さんがいて、列車が入ってくると手を上げたりしてるじゃないですか。信号の光で合図したりもしてるじゃないですか。その人たちはどうか。それからもちろん、運転士・車掌はどうか。駅長がいるはずですよね。忘れ物係みたいな人もいますよね。それはどうなのかとか。

そういう感じで、僕らには見えないけど、例えば車両を製造する人もいるでしょうし、それからダイヤを組む人、運行管理する人も絶対いますよね。

そういうようなことで、ちょっと想像力を膨らませてもらって、次に誰がいなくなるか。これをもうワイワイワイワイ騒いで議論してください。1分半ぐらいです。ちなみに、鉄道会社に勤めている人いる? いたらちょっと傷ついちゃうかもしれない。

(会場笑)

いないようだから、遠慮なく「いなくなるいなくなるシリーズ」でいってみましょう。いきましょう! 3、2、1、ハイ、どうぞ!

(ブレストタイム)

モノレールの運転手、パラリーガル、今後なくなる仕事について

はい、じゃあそこまでにしてください。これについては、オックスフォード大学と野村総合研究所の研究が非常に有名で、新聞の1面トップを飾って、「なくなるかもしれない仕事ランキング」という感じで派手に発表されていました。

ハーバード大学の調査研究でもMITでも、ほぼ同じように上位に来ているのですが、自動車でさえも自動運転になるので、レールの上を走る列車の運転士(の仕事がなくなります)。

これはいなくてもいいんじゃないのと。本当かどうかはともかく、これは相当ランクの高いところにあります。というわけでまず運転士ですね。実際に、お台場に行くゆりかもめは開業当初から無人運転ですよね。あれはモノレールでもうレールが決まっていて方向転換する必要がないわけです。だから、余計そうなんですよ。

まあ「そういうようなものだな」というのは何となくイメージがわくんじゃないかと思うのですが、高度に知的な仕事と言われる弁護士と医者。最初にちょっと言いましたけど、これは(なくなるのか)どうかという話ですよ。

これはあらかじめみなさんに知識を与えてしまいますが、弁護士の仕事は相当なくなると言われています。つまり、ランキングですごく高いところにあるんですね。

例えば、人間と人間が交渉をしたり法定で弁論したり、記者会見したりしますよね。ああいう場では、やっぱり人間のコミュニケーション能力が非常に大事なので、あれは残ると思うんです。

ですが、背後にパラリーガルな仕事があるんですよね。このケースの場合は判例がこうだから調べます、その資料を揃えます、というのはAIのほうが得意ですよね。それはそうだと思うんです。だから、相当弁護士の仕事も変質していくという感じ。調べ物だけが得意な弁護士は非常に厳しいんじゃないかと思いますよね。

患者が本当に知りたいのは、自分と同じ症例が実際どうだったか

医者はどうでしょうか。医者は診断と治療がありますよね。治療についてはもちろんいろいろな主義もありますので、それでさえも慶應義塾大学などは、ダビンチというすごい(手術支援)ロボットを入れて、今ロボットがやる手術というのはとても増えているみたいですけれども。

昔だったら、こうやってがーっと切らなきゃならなかったじゃないですか。手先の器用さでやらなきゃならなかったものを、今はちょこちょこちょこと3箇所、4箇所穴を開けて、内視鏡で手術したりしているじゃないですか。そこにロボットなどが相当入っているということなので、これも変わっていく。

とはいえ、それでも内科の医師のところに行ったら「熱があってお腹が……」「あなた寝不足じゃないですか」とか言ってね。「充分に寝て、ちゃんと食べていれば治りますよ」というようなことを言ってくれると、安心みたいなものがあるじゃないですか。そういうものこそ、やっぱり人間がやっていてほしいですよね。そういうものは残るかもしれないね。

一方で、治療ではなくて診断の部分がすごく大事なんですけども。例えばこういうイメージです。僕が肺がんを疑われて、レントゲンを撮りました。その写真を見せられて、この黒い影か白い影か知らないですけど「これはもうステージxxですから、藤原さん、これは僕の経験で言いますと、この薬と放射線を何クール照射します」ということになりますね。

そういうことをベテランの医師が言うじゃないですか。それを20年、30年(の付き合いがあって)信頼している僕のホームドクターだったら、そのまま信用するかもしれないけど、たいていの人はおそらくセカンドオピニオンをとりますよね。

あるいは、僕は本当はなにをしてほしいかと言ったら、その時点で世界中のデータベースに多言語で検索かけて、僕と同じケースの人を20でも30でも200でも300でもがーっと選び出してもらって。それがその薬を投与している、あるいはその放射線を照射してどうだったかというのを全部証拠を見せてほしいと思うんですよ。違います? その証拠を見せてもらって、それでこういうふうにしましょう、というのならわかるよ。

AIには「高度に知的な仕事は奪われない」という嘘

目の前の医師の経験によって、「自分はこう判断する」と言われても困りますよね。みんな頷いてますよね。もし多言語での解析を一瞬でやるのに、もちろん2週間経ってもいいんだけども、「これは100万円かかりますけども、保険が効きません」と言われても、恐らく命がかかっていれば僕は出しますよね。あるいは1,500万円かかりますと言われても。

自分の子どもや孫のことだったら、絶対にお金を借りてでもそれをやるでしょうし、あるいはその辺で渋谷の街頭で寄付を募っても絶対にやると思うんですよ。自分がそういう立場だったらそうであろうという人だけ、ちょっと拍手してくれる?

(会場拍手)

ですよね。結局これは絶対にニーズがあるんです。それで、IBMのワトソンというコンピューターです。AIはいまアメリカでは実践配備されていて、もうこの分野でどんどん効果をあげているんですよ。これはもう時間の問題ですよね。医者も診断というところに相当AIが入ってきて、協業になるというイメージを持ってもらったほうがいいと思います。

わかりますよね? 高度に知的な仕事は奪われないというのは嘘だと。じゃあ、どういう仕事をAIやロボットが奪っていくか。なんとなくこの議論のなかで、「つまり、なくなる仕事って、こういうタイプの仕事だよね」ということがイメージできたんじゃないかと思うんです。

それをいまから1分ちょっと意見交換してもらって、「この1つの条件がそうじゃない?」とか、「この3つの条件が当てはまるとなくなっちゃう可能性があるね」とか。

もちろん、すぐなくなるか、5年かかるか、10年かかるかはタイプによっていろいろだと思うんだけど、こういう種類の仕事はなくなるんだねと。本来は人間の仕事じゃないんだねというものを導き出してもらいたいので。これはちょっと難易度の高いものなので困るかもしれないんだけど、ちょっとやってみましょう。

いきましょう。3、2、1、はい、どうぞ。どんな仕事がなくなりやすいかですね。なくなりやすい仕事、なくなる仕事の条件ですね。どんな仕事がなくなりやすいか。

(会場ワーク中)

2030年の電車に車掌は乗っているか?

はい、じゃあそこまでにしましょうか。大学の授業だと、教授がここで講義するようなことを言うと思うんだけど、僕は言わないようにしておきます。自分で考えてみようと。

ただ、あとでもう1つ整理してヒントになることは言いたいと思います。その前になくなる2分野の仕事は、たぶんみなさんの議論の中に出てきていると思うんだけど、これを深めてもらいたいなと思うんです。

いいですか。せっかくですから、先ほどの駅と鉄道の仕事の延長なんですよ。これは絶対におもしろいから、議論してもらいたいのですが、車掌の仕事がどうかです。さっき、車掌どうなのという話が出たと思うんですよ。運転手がいなくなっちゃう可能性があります。

ですが、車掌がいなくなってしまって、もうあの列車の後ろに誰も乗っていないということでいけるのか。新幹線はどうなの、山手線どうなの、という話ですね。

それをちょっと思い浮かべてください。さきに自分の感覚的な意見を言ってみて。いい? どっちかなのね。そうだな。2030年でいきましょう。今から12年後の2030年に至っても、まだ人間が(電車に)乗っているか、あるいは一切乗っていないか、というようなことです。いいですか? どっちかという感覚でいいですからね。別にあっていても間違えてもかまいません。誰もそんなの確かめませんから。

12年後に、それぞれ1人ずつ。おもしろいと思うけどね。全員記名で住所も書いてもらって、往復はがきで「あなたは正解しました」って、12年後にとってみれば最高におかしいエンターテイメントだけど、そこまで手間をかけられないので、ちょっと手を挙げてみてくださいね。「いやいや、ロボット、AIに決まっている」と。「もう人間が乗っているわけはない」と。「車掌の仕事は置き換えられる」という人。はい。

(会場挙手)

はい。降ろしてください。「いやいや、人間はけっこうしつこいぞ、と。ロボットにはこういう仕事はできないんじゃないの」ということで、「人間は残る」という人。はい。

(会場挙手)

すごくおもしろいですね。半々に割れているんですよ。では、ここでディベートをやってみたいと思うんです。今度は2人です。すみませんが、2人で座っているところは2人ね。あと後ろのほうは、少し後ろを向いたりしてもらって、3人になったりするところがあってもいいです。カメラの人以外は全員やってね。

人格攻撃さえしなければ、役に没頭して興奮して議論してほしい

誰1人傍観している人がいないようにしてほしいんです。強制で分けます。今日は、学校の先生とかもいるかもしれないんだけど、ディベートについては最初から強制、強制、強制でやっちゃったほうがいいので自由にやらせない。強制でやる。つまり、立場をはっきりさせます。前後でやる場合は勝手に判断して。こっち側の人はロボット派。「AI、ロボットがやるに決まってるじゃん」と。

「あと10年後に人間なんて要るわけないじゃん」という派閥はこっち側に来てもらいます。それで、次にこちら側は「そうは言っても人間派」。人間弁護派。車掌は人間主義の人。

やっぱりプレゼンしないと説得力がないですから。説得力が大事ですからね。ぜひ人間じゃないとできない仕事を、少し論理的に議論してもらいたいと思います。

自分のオリジナルの意見と反対の役を演じる人のほうが、後で絶対に考えが深まります。そっちはラッキー。ぜひ議論してもらいたいんです。1分ちょっとしかあげません。

ディベートを今までやったことがない人もいるんじゃないかと思います。言葉のバトルですから。やっちゃいけないことは1つだけです。相手の人格攻撃のみ。

「てめーはなに言ってるんだ」「おめえ、ハゲのくせしやがって」と(笑)。こういうのがもう負けですね。即座にサドンデスですね。こういうメンバーで大学で(講演会を)やっているわけですから、まあやる人はいないと思います。小学生でたまにいますね。要するに自分の論理が行き詰まると、興奮して人格攻撃に走るわけですよ。「お前のかあちゃんなんて」という感じで(笑)。

(会場笑)

さすがにこのメンバーでそれをやる人はいないと思うので、ぜひ盛り上がって自分の役割を演じてください。これは要するにロールプレイですから、役割を演じるわけですよ。なので興奮したふりをしてもらって、もう胸ぐらを掴む寸前までいっていただいてかまいません。いいですか。ぜひそれぐらいやってください。そうすると、相手から出てくる意見に対してまた反論するというような感じなのですが、最初にやっぱり仕掛けるのは、ロボット・AIですか。

「そりゃ人間が乗っているわけがないと。これはもう絶対にロボット、AIになっちゃうよ」ということをバッと言ってもらって、それに対して人間派の人が「こういう仕事は人間じゃなきゃできないんじゃないの?」と言わないと説得力がないですから。いいですか? 1分ちょっとしかないので、激しくすごくスピーディにやり合ってもらいます。

いいですね。大丈夫ですか? 後ろのほうの方、すいません。途中から入ってこられた方もいるので、上手くやってくださいね。係の人というスタッフが入って、全体誰1人傍観しないようにお願いします。いいですね。3、2、1、はい、どうぞ!

(会場ワーク中)

議論することで、人は「新しい世界観」を獲得できる

藤原:はい、すごく盛り上がっているんだけど、そこまでにしてください。いま非常に短いディベートをやりました。その間に、当初「こうかな」と直感的に思っていた解とはちょっと違ったり、反対になっていたり、あるいは少し動いていたかなという感覚のある人は、ちょっと手を挙げてみて。

(会場挙手)

はい、いいですね。要するに議論することによって、新しい視点を得まして、視座が高くなり、視野が広くなったことで、新しい視点を獲得したということです。

「新しい世界観を獲得した」と言ってもいいですから。頭が良くなったわけです。わかりますね。頭が良くなった。開けたんです。これは非常に大事なことです。だから、脳を繋げて自分の脳を拡張しなければだめだということなのです。

それがブレストとディベートという手法で可能になります。というわけで、こういう手法を繰り返して、自分の脳がさっと繋がるように、あるいは自分の脳をすぐに拡張することができる人が伸びしろが非常に大きい人なわけです。

あるいは頭が柔らかい人と言っております。こういう機会にさっと脳が繋がる人のことを、頭が柔らかい人というわけですね。というわけで、いま、なくなる仕事となくなりにくい仕事の両方について議論してもらいました。

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