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「マーケティングは死んだ」のか? 井上大輔 ×奥谷孝司 ×岩井琢磨 ×逸見光次郎 トークイベント (モデレーター:徳力基彦)(全3記事)

死につつある既存のマーケティング手法と、生き延びる道 5人の現役マーケターによる徹底討論

2018年7月9日、青山ブックセンター本店の大教室にて「『マーケティングは死んだ』のか? 井上大輔 ×奥谷孝司 ×岩井琢磨 ×逸見光次郎 トークイベント (モデレーター:徳力基彦)」が開催されました。世界の広告主ランキングのトップ5「P&G」「サムソン」「ネスレ」「ユニリーバ」「ロレアル」が要するブランドは、Best Global Brand 2017において、サムソン以外はすべてトップ10圏外。これは「マーケティングの死」を意味しているのか。5名の現役マーケターがそれぞれの視点から議論を交わしました。本記事ではその前半の模様をお送りします。

本当に「マーケティングは死んだ」のか?

徳力基彦氏(以下、徳力):アジャイルメディア・ネットワークの徳力と申します。本日はよろしくお願いします。

今日は「『マーケティングは死んだ』のか?」というテーマでセッションさせていただきたいと思います。先にアンケートをとったほうがいいですかね。「マーケティングは死んだと思っています」という方は? 

(会場笑)

徳力:手を挙げにくいですかね(笑)。もちろん、マーケティングは死んでないぞ、と思ってる方はたくさんいると思うんですが、今日は、「マーケティングは死んだ」という前提で、日和らずに議論をしていただければと思っております。

タイトルが過激ですが、話の内容はオープンです。ツイッターのハッシュタグもご用意しております。「#マーケティングは死んだ」です。日和った議論にならないようにあえて「死んだ」で止めておきました。

余裕があったら、質問はハッシュタグから拾うかもしれませんが、たぶん余裕がないので、あとで質問の時間を作ります。質問がある方は考えておいていただいて、ぜひ手を挙げていただければと思います。

登壇者は5名の有力マーケター

徳力:では、ご存知の方が多いかもしれませんが、ここでパネリストの方々のご紹介を簡単にお願いしたいと思います。まず、お1人目は井上さんです。よろしくお願いします。

井上大輔氏(以下、井上):アウディジャパンの井上大輔と申します。

アウディジャパンでのポジションは、メディア&クリエイティブマネージャーということでメディアとクリエイティブをスルー・ザ・ラインで見ています。その前はユニリーバにいたり、ニュージーランド航空にいたりと、ずっと外資のマーケティング畑でやってきています。よろしくお願いします。

徳力:2人目は奥谷さんです。

奥谷孝司氏(以下、奥谷):みなさん、こんにちは。Engagement Commerce Labという会社もやっています。

(スライドを指して)「オイシックスドット大地」と書いてありますけれども、ここも7月1日から会社名が変わって、「オイシックス・ラ・大地」。通称、オイラ大地です。

(会場笑)

奥谷:ちょっと変わっている会社なんですけれども、今日は「マーケティングは死んだのか」ということについて語りたいと思います。よろしくお願いします。

徳力:3人目は岩井さんです。

岩井琢磨氏(以下、岩井):こんにちは、岩井と申します。さっき、奥谷さんが言ったEngagement Commerce Labという奥谷さんの会社で、(奥谷さんと)一緒にやっています。

奥谷:無給です!

岩井:無給社員です。いわゆるボランティアというやつです。

(会場笑)

岩井:変わった立場ですが、本来の所属先は広告会社の大広です。プロジェクトプランナーをやっています。広告会社にいますが、広告は作っていません。チャネル開発や企業ブランディング構築などのプロジェクトを支援しています。縦割りの組織に横串を通して、1つのプロジェクトとしてやろうというときに、プロジェクトプランナーとしてプロジェクトの設計、ファシリテーションといった支援をさせて頂いています。。広告会社にいる人間が、「マーケティングは死んだ」なんて言うと、「あなたのところにマーケティング活動を頼んでいるのに、何を言っているのか」と怒られると思うんですが。

(会場笑)

岩井:でも、従来のマーケティングが変わってきているのは確かです。そんな話をできるだけ柔らかく話したいなと思います。よろしくお願いします。

徳力:最後に逸見さん、お願いします。

逸見光次郎氏(以下、逸見):逸見光次郎と申します。本日はよろしくお願いします。

ABCさん(青山ブックセンター)で喋るとは思わなかったです。もともとは三省堂書店という本屋にいて、20年前の1999年にネットの世界で(仕事を)始めて以来、6社くらいにいて、お店とネットをどうやって一緒にするか、どうやって仲の悪いところと仕事をするか(ということに取り組んできました)。

直近でマーケティングの本も書かせていただいたんですけれども、私自身がマーケターとはぜんぜん思っていません。どうやって物売りをしていくのか、どうやってお客さんとつながるかということしか考えずにずっと来たので、今日はそんな話ができればと思っております。よろしくお願いします。

徳力:さっき買った本はここに持ってこなかったんですか? 逸見さんは、(会場の)青山ブックセンターで、さっき10冊くらい本を買っていたんですよ。打ち合わせにも来ず、本屋の棚を見ているから、何を見ているのかなと。

逸見:この店に来て本を買わないほうがおかしいじゃないですか(笑)。

徳力:(笑)。セッションが終わってからでも、ちゃんと店は開いています。ぜひ、皆さんも書店を見て帰ってください。良いものがたくさんありますから。なお、僕はアジャイルメディア・ネットワークの徳力基彦と申します。今日はモデレーターとして、4名の方に突っ込んでいきたいと思います。

76%以上が1年以内に棚落ちするヨーロッパの消費財

徳力:それにしても、今日のテーマはデカすぎますよね。「マーケティングは死んだのか」ですよ。一応、先に言い訳をしておきます。このタイトルとパネリストが決まった状態で、私のところにモデレーターの依頼が来たので、僕はこのタイトルに一切関わっていないということを強調しておきます。

(会場笑)

どちらかというと私は、日本ではマーケティングは死ぬも何も、まだちゃんと始まってないんじゃないかという立場ですが。

まずは、「マーケティングは死んだ」という議論の前提のところから始めたいと思います。まず、このタイトルを決めた4人に、どこが死んだのかという話からしていただきたいと思います。1人目の井上さんから。

井上「マーケティングは死んだのか?」ということですが、いくつかデータがあるんです。一番上のデータはヨーロッパのマーケットを対象にした2014年のリサーチで、76%以上のFMCG商品が、1年以内に棚落ちすると。最近マーケティングと言うと、消費財企業のマーケティングが一番進んでいると思われていたりしますよね。

徳力:P&Gとか。

井上:P&Gだったりユニリーバだったり。確かに進んでいると思うんです。その消費財の商品開発って、ゲートシステムというのがあって、何重にもリサーチをかけて、慎重に商品を開発して世の中出すんです。それでも76パーセント以上が、1年以内に棚落ちしてしまっている事実がある。。

徳力:これは海外の数値ですか?

井上:ヨーロッパです。

徳力:日本だったら下手したらもっと多いかもしれないですよね。

ブランド体験の95%以上は、企業がコントロールできない

井上:かもしれないですよね。あるいは別のもので、ハーバードビジネスレビューの、アメリカを対象とした調査では、一般にFMCGで成功の定義と言われている、5000万ドルを超える商品というのは、年間でなんと3パーセント以下です。

それだけ、しっかりマーケティングをやって、リサーチして入念に計画をして計画を進める進めるわけなんですけれども、それでも3パーセントくらいしか成功しないんです。これは成功の定義であるだけなので、いわゆるブロックバスター、大ヒットになる商品はもっともっと少ないです。本当にしっかりやっても、おそらく1パーセントくらいしか大成功しない。

この記事にも、あのP&Gですら繰り返し空振りしている、と書かれているわけですね。ということで、すごく優秀な人たちが一生懸命にマーケティングをやっても、結局成功する確率は、これ数字を覚えておいていただきたいんですが、3パーセントくらいというのが現状です。

これを「マーケティングは死んでいる」と言わずして、何と言うかというところが1つの問題意識です。さっきの3パーセントという数字を頭に入れていただいた上で、我々が実際、日々生活をしていて、何かしらの形でブランドを感じる瞬間を全てブランド体験だとすると、1日に起こるブランド体験は無数にあります。

例えば、朝起きてNIKEの靴を履くなんていうのも、NIKEのブランド体験です。誰かがスタバ(の商品)を飲んでいるのを見たら、それもスタバのブランド体験。無数にありますよね。

私が作ったフレームワークに「カスタマイズエクスペリエンスダイアリー」というのがあるのですが、これは一言で言うと、消費者が1日に体験するブランド体験を日記形式で記録していくというものです。 そうして調べて見ると、1日に起こるブランド体験の実に95%以上は、企業がコントロールできないタッチポイントによるものなんです。

既存のマーケティングは、ほぼ死んでいる

井上:例えばアウディの例で言うと、街中でアウディを見る、誰かがアウディの時計をしているのを見る、アウディのディーラーさんの前を通りかかる、あるいは自動車雑誌の記事でアウディのことを読む、ソーシャルメディアで誰かがアウディのことをしゃべっているのを聞くといった、タッチポイントは企業がコントロールできない法としてカウントしています。

逆にいうと、TVCMとかそういう企業が制御できるタッチポイントで起こっているブランド体験は5%くらいということです。5%という数字とさっきの3%という数字は、近いですよね。

企業がコントロールできるタッチポイントで起こるブランド体験は全体の5%しかない。それにもかかわらず、その5%にほぼすべてのマーケティング予算と努力をつぎ込んでいる、というのが今の現状なのではないかと。3パーセントくらいしか成功しないというのは、まあそうだろうなという気もしてきませんか?

最後に、マーケティングは死んだのか、というところで、ハッシュタグ上では、「マーケティングは死んだ」と記載されてしまったんですけれど、オリジナルのタイトルは、「マーケティングは死んだのか?」とさせていただいていて。

心としては、「マーケティングは死んだ」と言い切ると、正直ちょっと誇張しているかなと。それは2つあって、今までのマーケティングは……さっきの図で言うと、例の5パーセントにとどまっているマーケティングは死んだというのが1つ目の誇張ポイントです。

もう1つは、死んではいないのかなと。One Foot in the Gray(棺桶に片足を突っ込んでいる状態)というか、限りなく、ほぼ死んでいる状態。全体の5パーセントしかないので、そこで仕事をすること自体が間違っているよね、ということです。既存のマーケティングは、ほぼ死んだと言い換えさせていただくと、正確かなと思います。

4Pすら実践できていないのは、フロー型のマーケティング思考のせい

徳力:ありがとうございます。よくぞ、ひよらずに「マーケティングは死んだ」という前提で議論を進めていただきました。その調子で、次も期待したいと思います。奥谷さんと岩井さんは2人セットで……。

奥谷:「タコヤキブラザーズ」です。よろしくお願いします。

(会場笑)

岩井:まずは、「マーケティングって死んだの?」と言われると、いろんな人が憤慨するのではないかと。特にそれを言ったら、一番怒るのはこの人というのが、きっとコトラーさんですね。

奥谷:この人はもう死にましたよね。

岩井:死んでへん。

(会場笑)

登壇者一同:死んでいないですよ(笑)。

岩井:怒られるで、そんなことを言うたら。コトラーさんが「こら! タコヤキ! おまえらは何を言うとんねん!」って。

奥谷:天からね。

岩井:天ちゃうがな。で、4Pの話ですが、今、従来のマーケティングの4Pから進んで、いろんなコンセプトが出てきています。

奥谷:マーケティング4.0とかね

岩井:そう。4Pは、もっとも基本的な考え方でもあります。しかし日本で、その4Pですらちゃんとできているかと言うと、なかなかできていないというのが、前々からのコトラーさんの指摘ですよね。それは「フロー型のマーケティング思考」が原因なんではないかと。

日本のマーケティングにはプロモーションしかない

岩井:マーケティングを4Pで言うと、どんな手順で考えているかという思考フローですね。おそらく多くの場合、最初にプロダクトあるいはサービスが来る。

奥谷:良いものを作るために。

岩井:そうですね。ちゃんと一生懸命考えましたと。同時にいくらで売るのかと。

奥谷:値段をつけてですね。

岩井:その次にどうやって売ろうかなと。

奥谷:広告をするとかですね。

岩井:そして、どこで売るのか。コトラーさんが指摘したのは、実は日本のマーケティングには、プロモーションしかないのではないかということ。もともとモノづくりがあり、それは所与のものという前提です。

特にプレイス(チャネル)は流通経路が決まっていたり、自社のお店があればその形が決まっていたり。だいたい最後に考えてきたんではないかと。

この考え方は、たぶん死んだ。もしくは死につつあるのではないかというのが、我々の考え方です。では、どうなっていくかと言うと、「場(チャネル)の革命」が起こっていくのではないかと。

奥谷:ここが僕らの本ではまだ書ききれていなかったところで、これから極めていきたいのが、「場の革命」ということなんです。これから僕らが考えなければいけないものは、マーケティングの4Pにおける場(プレイス)の役割。もう、コトラーさんが亡くなられて5年くらい……。

岩井:亡くなってへん。

(会場笑)

マーケティングのエンゲージメントループ

奥谷:僕らはオンラインとオフラインのビジネスをやってきました。さっきも言ったように、これまでは良いものを作って、良い値段でプロモーションして、最終的にはプレイスになるのですが、4Pの中でプレイスが一番中途半端だったと思うんです。

でも、オムニチャネルなどと言われるようになって、オン・オフの環境を考えれば考えるほど、本来は「優れた場」が起点としてすごく大事です。いわゆる「優れた場」は、必ずしも小売店舗を指していません。

あらゆるタッチポイントを含んだパッケージであり、、ここでしっかりエンゲージメントを作って、そこから良いプロダクト・プライス・プロモーションをやっていく。この「プレイスとエンゲージメント」そして「エンゲージメントとプロモーション・プライス・プロダクト」、この2つのつながりができると、エンゲージメントを高める良いループができる。

これが、「まさに、マーケティングのエンゲージメントループやぁ!(彦摩呂)」と言うことです。

(会場笑)

奥谷:このエンゲージメントループを作らないといけないということです僕らはフロー型ではなく、顧客とのエンゲージメントをいかにストックできるか、という視点から「ストック型マーケティング」というものを考えていかなければいけない。これから、メーカーさんもそうですけれど、自社の「場」が提供できる体験価値が下がれば、他社のダイレクトマーケティングがいっぱい入って来ると思うんですよね。

なので、小売りも危機感を持たなければいけないし、メーカーさんもむしろ、流通を通り越して、優れた場を作ればいいのではないかと。そこでつくるエンゲージメントのストックが大事であると。ありがとうございました。以上です。

フレームやロジックにこだわりすぎている

徳力:いいコンビ芸を見させてもらいました。では、この勢いでそのまま逸見さん。

逸見:さっき、自己紹介のところで言わなかったんですが、通販の千趣会さんやホームセンターのカインズさんなど、流通系の新しい仕組みといったもののコンサルをやっています。このタイトルだったので、言わなければいけないなと思ったんですが……マーケティングという言葉に違和感があって。なぜかといったときに、5つくらい理由があります。

今回マーケティングの本を書いてくれと言われて思ったことは、マーケターはフレームワークやロジックの話が大好きだということです。それは否定しないですよね。でも、そこにすごくこだわっている気がしていて。

例えばニーズ、ウォンツ、シーズという言葉の分け方があります。でもだんだん分からなくなってきました。帰国子女の妻に、「英語のもともとの意味は?」と聞いたら、「識別できない。ニーズだけで十分じゃないか?」と言われました。

また、ペルソナやカスタマージャーニーについて相談を受けていて、「カスタマージャーニーを100個も書けと言われました。どうしたらいいんでしょう」と私のところに来るんですよ。

(会場笑)

逸見:「本当に100個書いちゃったの?」って。他にも、マーケターは学説が大好きだったり。例えば、奥谷さんは実務もやりながら、これを学説にしていく(んですよね)。

奥谷:逸見さんはマーケティングが嫌い。

逸見:(笑)。

その施策、財務諸表に置き換えたらどういう価値があるの?

逸見:ビジネスでは、都合の悪いところを見ないんですよ。でも、奥谷さんのようなスタンスなら、ビジネスをやったあとに振り返ったときに、都合の悪いこともPDCAで明確にして、学説的に振り返りますよね。それはぜんぜんOKなんです。

でも、ランチェスター(戦略)だったり、いろんな話を持ってくるんです。もちろん読んだんですが、そのときどきで、みんな使い分けたりするので、「それを会社の中でどう説明するの?」と。ランチェスターを変なところでとられてしまったりして。

それから、マーケターはデジタルな道具が大好き。よく定義される「デジタルマーケティングは何?」というような、マーケティングのデジタル化です。

DMPとMA、OSPとSSPとアドエクスチェンジ、しかもbotとアドフラウドと言っても、誰がわかるんですかと。1個1個の意味は分かるんだけれど、会社の財務諸表に置き換えたら、どういう効果があって、誰の役に立っていてという話が、いつも飛ぶんですよね。だから最後は、マーケターは売上、利益責任の話を避ける。

20年前から小売りをやっていますが、なぜかマーケティングはいまだに、例えば、「リーチがこうです」「GRPをこう稼いでます」という話をするんです。別にマーケターが悪いのではなくて、その中でも、利益責任の話をする人はちゃんといます。でも、代理店さんなどからいろんな話を持ってこられると、こういう話になるんですね。要は、商売寄りの話ではないなと、いつも思ってしまうんですよね。

90年代以前には「顧客満足で飯が食えるか!」と言われていた

逸見:そうは言いながらもマーケティングの本を書いたときに、どういう定義をしたかと言うと、「自社の商品・サービスを世の中、市場に知ってもらう」と。買ってもらって、使ってもらって、顧客になってもらうんですね。その後、継続的な顧客になってもらえるよう、継続的なアプローチを行って、顧客満足度は絶対にあげないとダメですよね。その結果が、企業の利益・収益になる。

新規をひたすらとるためにお金をかけるよりも、既存顧客が安定的に買ってくれたほうが、販促費的には費用対効果が良くなりますよね。でも、90年代くらいまでは、普通に「顧客満足で飯が食えるか!」と言っていましたからね。そんなものよりも、「四の五の言わずに、商品を積み上げて売るんだ。たくさん仕入れて、原価を下げて売るんだ」と。今は通用しないロジックですよね。

もう1つ、巷で言う「オムニチャネル」とは何か。まさに奥谷さんの話にあった通りだと思っていて、顧客接点。一般的な情報チャネルと購買チャネルの話をしていたんです。私はもともと本屋だし、紙でもデジタルでもいいと思っています。そのために、各チャネルの情報を統一しようと。

ただ、この購買チャネルで1つ差別化をしているのは、ちゃんと消費者の手元に届くまでを追うんです。よく、これを間違えられて、ロングテールまで全在庫を抱えてしまえという話になるんですが、そんなことをしてもお互いが大変。それこそ、誰も追えない。

そうではなくて、メーカーさんに在庫があるのか、廃番になってない商品マスタなのか確認して、取り寄せがちゃんとできるようにする。それが、いつごろ入ってくるのか見える化する。こういうふうにオムニチャネルはマーケティングの一部とも言えて、サプライチェーンまで指すと。つまり、企業全体の活動を指すと思っています。

たくさん作って安く売る方法では、もう回らない

逸見:(スライドを指して)これは、サンリオさんで社内セミナーをやったときの、さっきの視点ですね。4P、4Cの話があるというときに、「そもそもサンリオ商品だったら誰が買うの?」と。親御さんやお子さん本人、おじいちゃん、おばあちゃん、もしくは好きな人ですね。

用途としては、ギフトであげたり、自分が欲しかったり、行事のノベルティだったり。これを考えたのは、コンサルに入ってからで、メーカーさんから、すごくコンサルの相談が来るようになったからです。

小売りとメーカーは何が違うのかと言ったときに、根本的に、商品開発して、誰に使ってほしいか(というところが違います)。技術力は、差別化がけっこうわかりますよね。こんな新技術が入っているといったように。でも商品力は、ものすごく言葉の定義が曖昧です。「誰に買ってもらう」「誰に使ってもらう」という定義がない限り、(商品として)出せないなと。

もう1つがマーケットボリューム。セブンのときに教え込まれた、国民が1億2000万人だったら、そのうちの何パーセント、さらにそのうちの何パーセント……と繰り返すものですね。まず、ターゲティングをしましょう。これができている前提で、どうやって情報を伝えるのかという話が、情報チャネルに生きてくる。お店の中でも、実は、自社でやっているところもあったり、ライセンス先もあったりするわけですよね。

これも含めて、お客さんにどうにか知ってもらって、閲覧してもらったうえで、最後に購買チャネルの話が来ると思っていて。このときに、どのチャネルで買ってもらっても別にいい。それは、会社全体の利益として、財務諸表の数字が上がっていればいいわけですから。顧客のリピートが上がっているという情報があってはじめて、また、モノづくりのところに戻れるんですよね。

昔だとこの思想はなかったと思うんです。とにかくたくさん作って、価格設定は、原価から積み上げる。「いくらで売る?」という話をしていて、メーカーにリベートを出してもらって、小売りが売るというような。「たくさん作って安く売る」みたいなサイクルがあったんですが、もうそれでは回らないというのが前提としてあると思っていて。

経営者視点で考えるマーケティングとは

逸見:最後に、この本のAmazonの書評を見ると、書いた人ががどうこうではないのですが、ディスられているレビューがあります。なにかと思ったら、マーケティングに期待している定義が違ったんです。その人たちは、「私はマーケターなんですけれども、この本には、財務諸表や組織の話のように、マーケティングに関係のない話が書いてあります」と。

徳力:なるほどなぁ。

逸見:実は、この本を書くときに、20冊くらいのマーケティングの入門書の本を読みました。もちろん、さっきのコトラーさんも、ぜんぶ読んでいるんですけれど、わからなかったんですよ。この本を読んで、翌日からマーケティングができる気がしない。なぜかと言うと、さっきのフレームワークの話がだんだん複雑になってきて、現場でできる話になっていないんですよ。

だからこの本でも、入口では3Cなどの定義をやって、それからマーケティングの準備とアクションと言っているのは、組織内でどうやって一緒に動かしていくのかが重要だから。たとえばITに協力してもらったら、ITの指標をマーケティングのプロジェクトの指標に一緒に持たなければいけない。お店もですよね。関係者の指標をちゃんと持ってあげないと動かない。

そのうえで、そもそもマーケティングはビジネスのために存在しますよね。だからよく経営者視点で考えようという話が出てきますが、Eコマースやマーケティングの部分は、いつも横串で見なければいけない。商品も知らなければいけないし、販促の仕方も知らなければいけない。プレイス、どこの場所でというのも知らなければいけない。それが経営者視点だと思う。

ここだけを書きたくて、入門者向けに入り口から丁寧に書いたら、ああいう本になったという。こういった意味で、「マーケティングが死んだ」という話が、もしかしたら、さっき徳力さんがおっしゃっていたように、まだ始まっていない要素もあるかもしれない。でも、もうちょっと、ちゃんとマーケティングというものを大事に考えていかなければ、今までの指標のマーケティングの話になると、本当に死んでしまうのではないかなということです。

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