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『ブランド』は、“つくれる”のか?―新しい、ブランディングのアプローチを考える(全2記事)

デジタル時代に強いのは“思い出してもらえるブランド” スタバ・アウディに学ぶ価値の伝え方

2018年6月5日~6日、「宣伝会議インターネット・マーケティングフォーラム2018 Indsutry Innovation~新しいルールをつくる人たち~」が開催されました。デジタルテクノロジーの浸透は、ビジネスのルールを大きく変えようとしています。本パートでは、「『ブランド』は“つくれるのか?”―新しい、ブランディングのアプローチを考える―」と題して、スターバックスコーヒージャパンの長見氏、アウディジャパンの井上氏が意見を交わしました。

グローバル企業でブランディングに携わる両氏の登壇

谷口優氏(以下、谷口):みなさま、おはようございます。よろしくお願いいたします。今日は、「『ブランド』は“つくれる”のか?」という非常に大きいテーマです。

ちょっとどこに議論が行きつくのかわからないですけれども(笑)。論客のお二人といろいろ議論して参りたいと思いますので、よろしくお願いいたします。

ディスカッションに入る前に、お二人に簡単な自己紹介をいただきたいと思います。改めて、スターバックスコーヒージャパンの長見さん、よろしくお願いいたします。

長見明氏(以下、長見):はい、よろしくお願いします。

谷口:今は、スターバックスさんの中でも、比較的デジタル領域のことを担っていらっしゃるということですよね。

長見:そうですね。

谷口:広告会社含め、いろんなブランディング・マーケティングにずっと携わっていらっしゃったキャリアをお持ちということで。

長見:そうですね。広告業界出身で、今はスターバックスで働いてます、デジタルやってます。という感じですね。

谷口:ソーシャルから、いろいろと決済の部分から。今いろんなことを見てらっしゃるということで、お話をお聞かせいただこうと思います。よろしくお願いいたします。

長見:よろしくお願いします。

谷口:続きまして、井上さんのご紹介です。井上さんもいろいろと、まさにブランド側でマーケティングの実務をされてこられて、なかでもデジタルに精通してらっしゃるところもおありで、今はアウディさんでこういった肩書き(メディア&クリエイティブ マネージャー)でお仕事をしていらっしゃる。

ちょっと簡単に、今の職務というか、どんなことをしてらっしゃるかお聞かせいただいてもよろしいでしょうか?

井上大輔氏(以下、井上):輸入車のマーケティングは、新車のローンチやモデルチェンジを中心に動いて行きますが、それぞれのプロジェクトにおいて、全体のリードをするのが主な仕事です。

谷口:ありがとうございます。それではさっそく、お二人にお話をお聞かせいただこうと思います。

ブランドをつくるのは広告宣伝かビジネスそのものか

谷口:私どももよく、例えばマーケティングの担当の方とか宣伝部長の方にアンケートを取ると、だいたい重要項目の1位に上がってくるのが「ブランディング」とか「ブランド力の向上」とか「ブランドの確立」とかです。

それが重要なテーマであることは間違いないと思うんですけども、そもそもブランドは「つくれる」ものなのだろうか、というのが今日お二人とディスカッションしていきたい内容です。

非常に大きいテーマなんですけど、お二人が今、ブランドやブランディングについてどんなお考えをお持ちなのか。いろいろな従来のブランディングのセオリーとかブランド論とかあると思うんですけど、そこのお考えをまずお聞かせいただきたいなと思います。長見さん、いかがですか。いきなりすごく大きい(質問ですか)……?(笑)。

長見:なんかバクッと、アレですよね(笑)。

谷口:はい、バクッとしてますが。すいません(笑)。

長見:スターバックスは、小売・飲食、リテールのブランドです。アウディさんとかだと、「アウディ」という大きなカテゴリーのブランドがあって、なおかつ車種別のブランドがあるという階層的な構造を持っていると思うんです。スターバックスは、フラペチーノみたいな商品はありますけど、その前にやっぱり看板のブランドがダントツに強いと思うんですよね。

通常のメーカーさんに比べると、広告宣伝費がマル1個くらい小さい、みたいな状況があるので(笑)。広告戦略でブランドをつくっているというよりは、お店でブランドがつくられていくというところがたぶん、いわゆる広告でブランドをつくっている会社様との大きな違いかなと思います。

僕はブランドは「生き様」だと思ってるんですけど、イメージでつくるというよりは、ビジネスそのもので(ブランドを)表現していくものだと思っていますね。

谷口:ありがとうございます。

「PL的なブランド」と「BS的なブランド」

谷口:プロダクトを持っていらっしゃる企業さんとスターバックスさんのようなリテールのビジネスで、もしかしたらブランドの捉え方に違いがあるのかもしれないですけれども。長見さんのお話も踏まえて、井上さんのブランドやブランディングについてのお考えをお聞かせいただけますか。

井上:ブランドの定義という意味では、みなさんもよくご存じだと思うんですけど、語源としては「焼印」、あの牛の体にジュッと押す熱い鉄のコテですよね。自分の牧場の名前を牛に銘打つ。あれを英語で「ブランド」と言うわけです。

(ブランドを)日本語にすると何なのか、という議論がよくあると思うんですけど、私はシンプルに「名前」なのかなと思っています。名前とそれに付加された価値。そのうえで、2種類のブランドがあると思っています。「PL的なブランド」と「BS的なブランド」です。

例えば「認知」は名前に付加された一つの価値ですが、シェアの目標を達成するためにはこのくらい売らなきゃいけない。そのためにはこのくらいトライアルしてもらい、このくらいリピートしてもらわなくてはならない。

そして、そのためにはこのくらい「認知」がなきゃいけない。こういった文脈での認知は、最終的には一定期間における売上やシェアというPL上の指標をゴールにしているので、PL上のブランドと呼んでいるんですね。

それとは別に、認知と言うのは人々の記憶に定着し、10年・20年と残る場合があります。それはある意味、「資産」のようなものです。資産というBS上のストック指標をゴールにしているので、この場合のブランドをBS的なブランドと呼んでいます。いつもこの2つを区別して議論しています。

谷口:ありがとうございます。先ほど長見さんのお話の中で、「店舗での体験がブランドをつくっている」というお話がありましたが、昨今、「ブランド体験」という言葉は、かなりキーワードとして出てくるなと思っています。

ブランドは初恋の思い出のようなもの

谷口:ブランドと体験。例えば今のお話だと、スターバックスの場合、広告はそんなにブランド構築につながるような体験にはなっていないんじゃないか、というお話がありました。ブランドをつくる体験において、広告が与える影響力については、どうお考えですか。

長見:どっちからいきましょうか?

(一同笑)

そうですね……さっきの、BSのブランドなのか、PLのブランドなのかというのは、おもしろいなと思います。なにかこう、「昔の青春時代に好きになったブランドは嫌いにならない」と言うじゃないですか(笑)。

井上:そうなんですよね。

長見:もう初恋の相手のようにきれいな思い出があるんだけど、「最近買いましたか?」と言うと「買ってない」みたいな。でも、やっぱり思い出の、初恋の人みたいなブランドは、たぶん……なんて言うんですかね、感動なり、気持ちが揺さぶられるものがあったから、きれいに記憶の中に残っている。

「気持ちが揺さぶられるイコール体験」じゃないですか。なので、それがあったかどうかというのがたぶん、大事だと思うんですよね。リテールのビジネスはハコ(店舗)があって、劇場型に場所をつくれるので、そういうことは起こしやすいんだろうなと思うんです。

車も空間はあるかもしれないですけど、じゃあ車の空間の中で起こったことが広告起因で起こるかというと、微妙だなと思うんですよね。なので、たぶん(車を販売する)お店は建てれば、交通量が多ければ、偶然も助けてくれてお客様が入ってくれるかもしれないですけど、モノは主体的に選んで買っていただく必要があります。

たぶん、買っていただくまでの道筋を、広告できっかけづくり(をする)というか、ブランディングをしていかなきゃいけないんだと思います。でも、積み上げられるところは、たぶんユーザーさんの体験で積み上げられると思うんです。

ハコを持っている強さというのは、リテールの場合はあるんじゃないかなと思いますね。体験をつくりやすい、という感じですよね。(井上氏に)どうですかね?

井上:今回のテーマについて、自分のスタンスを最初に明確にさせていただくと、BS的なものは、つくれないとは言いませんが、制御するのはかなり困難だと思います。PL的なものは、ある程度コントロールできると考えています。

BS的なブランドは、人の心に定着する「思い」や「思い出」のようなものなので、それがコントロールできたら逆に怖いですよね。心に定着する「思い」は、通常無数の体験に基づいています。

ブランド体験をコントロールするのは難しい

井上:例えば、車で通勤してる時に、前をアウディの車が走っているとします。その運転手の運転が、非常に丁寧である。これもアウディのブランド体験です。ショッピングモールでアウディがとても丁寧に駐車されていた。友達がアウディのことを熱を込めて語っていた。これらもすべて、アウディのブランド体験。

そういう無数にあるブランド体験の中で、コントロール可能な広告宣伝が作り出せるものは、そのごくごく一部でしかない。それでも短期的な「認知」や「イメージ」を作るPL的なブランディングはなんとか可能かもしれませんが、ストックとしての「認知」や「イメージ」を作るBS的なブランディングはほとんど制御不能に近いです。

谷口:今、「体験はコントロールできないし、しづらくなっている」という井上さんのご意見がありました。スターバックスのようなリテールのビジネスとは少し異なるかもしれないですけど、長見さん、今のお考えをお聞きになってどうですか?

長見:うちの商品も、お店の外に持ち出されてしまうとコントロールができないのは確かです。コーヒー豆を買っていただいて、たまたま淹れ方が上手くなかったがゆえに、残念ながらおいしくなかった。そういうケースはSNSなどに投稿されることは十分あり得ると思います。

でもその点は、ハコがあってそこでサービスが完結するので、店舗型のビジネスはたぶん、コントロールはしやすいんだろうなと思いました。

井上:確かにそうかもしれないですね。

長見:そこで完結するのでね。

谷口:でも、コントロールできないとしたら、どういうスタンスでそこに向き合えばいいんでしょうか。

井上:まずPL的なブランディングでは、キャンペーンの設計図という意味でのカスタマージャーニーを書きます。ここで認知してもらい、ここで想起してもらって、などと(お客様の)態度変容をデザインしていきます。

デザインと言いましたが、そもそも「お客様の心の動きをマーケターがデザインする」という考え方は非常に不遜ですし、実際にはできっこありません。なので、ここは100点を狙わない。

40点くらいでいい、と割り切って、制作・運用を手がけていくチームの共通認識を作っていくことを主眼とします。ただ、そこでつくった認知は、必ずしも資産になる訳ではありません。

BS的なブランド価値はどうすればつくれるのか

井上:じゃあ、「BS的な価値をどうつくっていくのか」というと、「制御できない」といっている以上、正解はないですよね。1つのヒントとしては、英語で「オーセンティシティ」、なかなか日本語に訳しにくい言葉なんですけど、強いて言えば「自分らしさ」みたいなキーワードがあります。

谷口:(打ち合わせのときに)中国におけるウーロン茶のお話をうかがって、例えがすごくわかりやすかったです。

井上:例えば、子ども用の粉ミルクとかおむつとかで、「中国製」となると、ちょっと避ける方もいらっしゃるじゃないですか。でも、ウーロン茶の場合は、中国製というのはむしろなんか良いですよね。福建省産ウーロン茶、なんていわれると、非常に良い感じがする。

ウーロン茶において「中国産」というのはブランドたり得る。それはやっぱりオーセンティックだから。ウーロン茶の「自分らしさ」「正当性」「オーセンティシティ」があるからですよね。そんなイメージです。

例えば、Appleは常にstatus quo(ステータスクオ/現状・既存の勢力)に挑戦しているようなイメージがあります。一方、例えば日本の非常に伝統的な安定志向の企業に、「我々は常に常識を疑い、挑戦し続けています」などといわれるとシラーっとしてしまいます。

常に自分らしさを意識する、自分らしさから出発する、というのが一つの鍵だと思います。その上で、ブランド体験を、広告宣伝に閉じたものとしてではなく、ホリスティックに捉える。可能な限り、「自分らしい」ブランド体験を、あらゆるタッチポイントで提供していく。これが「善処」と言えるでしょう。

谷口:ありがとうございます。

一貫性のない情報はすぐに見破られる

谷口:先ほど長見さんの「ブランドは生き様そのもの」みたいなお話がありましたけど、やっぱり虚構とか、ちょっと嘘の姿というのは、本当にみなさん見破られるので、今のオーセンティックというのはなにか、相通じるところがあるかなと思います。

長見:そうですね。SNSがこれだけ普及すると、企業の内情がどうなっているかを隠すことはほぼ不可能ですよね……。この間、新卒採用をやっている関係で、採用の口コミサイトみたいなのをポロッと見てたんですけど、「この会社は企業理念は素敵だけど、ちょっとブラックかも」みたいなことが書いてある(笑)。

(一同笑)

そういう場合もあるわけですよね。それで、内情も全部見えちゃいますよね。たぶん会社案内とかで、新卒向けに輝かしい未来が描かれていたとしても、中の声がもれてきてしまうというようなことが起こるわけです。

「本当に従業員を大事にしてます」といっていても、「本当はどうなの?」みたいなことがやっぱり気になって、みんな調べるんですね。そこでのコントロールはある程度まではできるかもしれませんけど、でも、完全なコントロールは無理ですよね。

隠蔽するとかは絶対あり得ない。昔はね、たぶん広告ぐらいしか、メディアからの情報ぐらいしかなかったので、(ブランドの)コントロールができたと思うんですけど、今は情報のコントロールは無理だと思うんですよね。ということは、本当に生き様を美しく(笑)。言ってることとやってることが一致してないといけない。

でも、人の表現のスタイルで、みんななにかしら小さな嘘はつく。けれど、その人らしいズレ、あるいは「この人ちょっと豪快に話しちゃうから、よくそんなこと起こるよね」くらいのズレだったらたぶん、お客様も受け入れられる。それが「らしさ」になることはあると思います。でも、嘘はつけない世の中になっているのは確かだと思います。

ブランドの「らしさ」を教えてくれるのは消費者

谷口:井上さん、いかがですか。

井上:難しいと思うのが「オーセンティックとはなんぞや」というのが、自分だけでは定義できない場合があるということです。例えばAppleみたいなカリスマ的な創業者がいて、その人がすべてをコントロールするような会社だったら、「自分らしさは俺らしさだ」みたいなことが言えるじゃないですか。

なので、Appleらしさはスティーブ・ジョブズらしさだったり、ジョナサン・アイブらしさだったりする。その場合は良いと思うんですけど、あくまでレアケースですよね。

そうじゃないケースのときに、「オーセンティシティ、自分らしさとは何なのか」というのは、たぶん自分だけ、つまりマーケティング担当者だけではわからないと思います。自分の生き様とはどんなものであるか。私は40歳ですが、いまだにわからなかったりします。

例えば、生まれつき非常に落ち着きがない子どもがいたとします。落ち着きがなくて、学校では授業中も黙ってはいられない。それがその子のオーセンティシティだと思うんですけど、たぶん成長していく過程で、どこかで先生に注意されたり友達の振る舞いを見たりして、ちょっとずつ大人しくなっていったりすると思うんですよね。

そういうときに、自分らしさに気付かせてあげることは親の仕事だと思うんです。たぶん、ブランドにもそういう「親」的な人が必要です。先ほども話した通り、カリスマ的なリーダーを擁するブランドだったら、話は別なんですけれど、大半のブランドにとって、「自分たちのオーセンティシティとは何なのか」というのは、やっぱり親がいないとわからないと思うんです。

そして、ここでいう「親」は、ブランドにとっては「消費者」なんだと思います。親である消費者と対話をしながら、自分らしさを逆に消費者から教えてもらう、みたいなダイアログがないと、多くのブランドはその自分らしさに気付けないのではないでしょうか。

谷口:ありがとうございます。

ブランドが認知されていない企業はどうするべきか

谷口:ちなみに、今ブランドの議論をしているんですけど、ちょっとお二人にお聞きしたいのが、例えばアウディさんもスターバックスさんも、世界に名だたる有名なブランドだと思うんです。

もしかしたら、そもそもブランドが認知されていない状況の方も来場者の方にいらっしゃると思うんですけど、ある程度認知されているブランドのお二人だから、こういう「ブランドはコントロールできない、つくれない」という議論ができ得るのか、それともすべてにおいて共通して言える議論なのか。ちょっとそこもお聞かせいただきたいなと思います。

長見:うーん……。でも、ねぇ。うちは創業者が引退するという発表があったので(笑)。

井上:そうですね、昨日ですね(笑)。

長見:ちょうどホットな状況ですけど(笑)。結局、創業者がつくったカルチャーというのは偉大ですよね。それで、NTTの方から、やっぱり創業者がいない環境で働いてるから、「創業社長の文化が強いところってどういう感じなんですか?」と聞かれたことがあります。

やっぱり、会社のトップの人がつくっている社風みたいなものはすごく影響すると思います。そこからのヒエラルキーの中で影響を受けるので、社長の人柄とか、そういったものはたぶん、ブランドデザインの初期設定上とても大事だとは思いますよね。

そのあとは、やっぱりカルチャーが出るじゃないですか。「大阪人はツッコまなきゃいけない」みたいものは(笑)、何十年経っても引き継がれるわけですよね。これが文化まで昇華すると、たぶんその中での共通言語ができる。行き過ぎると村社会的になってしまうことはあると思うんですけれど。

なので最初は、強いリーダーシップ、カリスマ性みたいなもので動き始めると思うんですけれど、そこから先はもう文化ですね。企業文化というところで維持されると思います。小さい会社はそれをどうつくるかというのがたぶん、大事なポイントです。それが人を引き付けるのか、というところがポイントになると思います。

どうブランディングするかよりも「差別化できる価値」があるか

谷口:じゃあ、外に向けて発信して認知をつくるというよりは、まずは内向けにカルチャーを共有していく、みたいなところのほうが、第一歩としてある。

長見:そうですね。どんなに莫大な投資をしても、広がらないサービスもあるじゃないですか。やっぱり、まずは魅力というか、どう差別化をするかのほうが大事だと思うんです。それは「らしさ」とさっきお話しされたのと一緒で、「自分が何者なのか」と同じです。「この会社は何者で、お隣さんとどう違うのか」。

「ポテトチップスになったと思ってください」とたまに採用面接で聞くんです(笑)。「お隣りにポテトチップスがたくさん並んでいて、あなたを見つけて僕が手を伸ばさなきゃいけない理由はなんですか」と。それは「どう違うかを説明してください」ということですよね。

学校なんかだと「浮きたくない」と思うかもしれないですけど、マーケティング上、ブランディング上は、浮かないと目を留めていただけないです。みんなが目を留めたくなる、そして手に取って食べてみる、使ってみるともっと気持ちいい。そんな商品なりサービスなりを生み出すのがカルチャーですよね。それをつくるのが最初で、その上でどう大きくできるかだと思います。

「ちょっと良いな」と思うと(お客様が)絶対に広げてくれる。SNSとかできっかけをつくれるところはあると思うので、まずは差別化。ブランディングをどうするかというよりも、その根幹をどうつくるかだと思いますね。

谷口:ありがとうございます。井上さんにも(お願いします)。

井上:例えば私が、まったく無名のミネラルウォーターのブランドを1からつくるとしたらどうするか、という話ですね。まずアウディやスターバックスさんがすでに認知を持っている、というのはおっしゃるとおりだと思います。

認知というのは、アウェアネスですよね。アウェアネスには、エイデッド・アウェアネスと、アンエイデッド・アウェアネス、大きく二つの種類があります。助成想起と非助成想起ですね。

グローバルブランドでは、大半のブランドにおいて、助成想起には問題がない。「アウディを知ってますか」といわれたら、「はい、知ってます」となります。しかし、「SUVで高級車といえばなんですか」といったときに、「アウディ」というふうに出てきてくれない。

非助成想起が弱いということですね。ここに課題を抱えているグローバルブランドは多い。その意味で言うと、グローバルブランドでも認知に課題がある、ということは変わらないというのがまずありますね。

認知の先にある想起を目指す

井上:ただ知ってもらうだけだったらすごく簡単なんですけど、今のインターネットの時代には、消費者はその商品を知ったら、自分で探索します。検索エンジンでいろいろ情報を調べたりするので、「想起される」ことの重要性が、過去にも増して高まっています。

ひとたび想起されれば、インターネットで検索して情報を調べてもらえる。オウンドメディアで待ち構えることで情報を提供できるし、アーンドメディアで口コミをなるべく醸成して間接的に情報提供することもできます。想起されることで、その人に提供できる情報量に格段の差が出てきます。

例えば車でいうと、2ヶ月くらいが平均的な購入検討期間なので、その間に繰り返し情報に触れることによってマインドシェアというか、心の占有度を高めることができます。

改めてですが、いかにして想起してもらうか、ということが非常に重要。そういう意味で言うと、実はアウディのようなブランドでも状況は変わりません。認知に課題がある。

その上で小さいブランド、例えばまったく無名のミネラルウォーターのブランド担当だとして、そのブランドを立てるとしたらどうするか、ということで言うと……。やっぱり同じような気がしますね。広告を使って認知ぐらいだったら取れると思うんですけど、想起してもらうというところまで持ってくのが難しい。そこが課題になる。

ターゲットに対して単純な認知を取るところまではそれほど難しくない。だけど非助成想起までいくとなると、広告乱発では大きなブランドの予算規模を持ってしても無理なので、小さなブランド、まったく名前が立っていないブランドでやるとすると、より一層、トラディショナルな方法は取らないと思いますね。

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