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知名度=ブランディングではない!VOCEが購買行動を起こすメディアになった理由(ワケ)(全2記事)

思い込みの「自分らしさ」がブランディングの邪魔をする VOCE躍進のウラで取り組んだ3つの施策

2018年6月18日〜20日、赤坂インターシティコンファレンスにて「NIKKEI XTREND FORUM 2018」が開催されました。20日に行われたセッション「知名度=ブランディングではない!VOCEが購買行動を起こすメディアになった理由(ワケ)」では、美容専門誌VOCEのWeb版編集長である三好さやか氏と、GPSとBeaconによるデータプラットフォームを提供するunerry株式会社CEOの内山英俊氏が登壇。本パートでは、好調な成長を続けるVOCEのメディアブランディングについて三好氏が語ります。

VOCEウェブサイト編集長が語るメディアのブランディング

司会者:本日は「知名度=ブランディングではない! VOCEが購買行動を起こすメディアになった理由」と題しまして、講談社第二事業局デジタル戦略部 VOCEウェブサイト編集長の三好さやか様とunerry代表取締役CEO 内山英俊様にご講演いただきます。

それでは三好様、内山様、よろしくお願いいたします。

(会場拍手)

三好さやか氏(以下、三好):みなさまこんにちは。本日はお越しいただきましてありがとうございます。VOCEの三好と申します、よろしくお願いします。

内山英俊氏(以下、内山):unerryの内山でございます。本日はよろしくお願いします。

三好:今回のテーマは「知名度=ブランディングではない! VOCEが購買行動を起こすメディアになった理由」ということで、まず最初に私のほうからお話しをさせていただければなと思っています。

簡単に私のプロフィールを紹介すると、大学を卒業後、講談社に入って8年間広告の営業をやっていました。その後は紙の編集者を3年務め、今はWebサイトの編集長になって3年目になります。

今回は女性もけっこういらっしゃってるのでご存知かもしれませんが、簡単にVOCEとはなにかについてお話させていただきます。

ガチで選ぶベストコスメへの信頼度がVOCEの価値

三好:VOCEは1998年に創刊した美容専門誌です。VOCEが出る前まで、いわゆる「美容だけの専門誌」というものは世の中にありませんでした。「美容だけで雑誌を作る」という業界のパイオニアとしてスタートし、今年で20周年を迎えております。

位置づけとしては「コスメ好き・美容好きが集っている、美容ヲタクのためのビューティマガジン」となっておりまして、目玉企画の「ベストコスメ」への信頼度はナンバーワンだと自負しています。

上半期・下半期・年間で「1番ベストなコスメはなにか」を各カテゴリーで選ぶのですが、他社さんがどうこうというわけではなく、ガチで選んでいまして(笑)。誰が何点入れたかも明示されていますし、「広告もらったから賞をあげる」なんてことはまったくないです。「VOCEのベストコスメに選んでいただけると、すごくモノが動くんです」というお声もいただけるようになりました。

VOCEのメディアの概要を簡単にご説明いたしますと、月刊誌として発行している本誌がありまして、Webサイトとアプリ、SNS各種、それから外部メディアで提携しているものがあります。ちょっと変わっているのは、テレビ朝日さんで番組を持っているということと、TOKYO FMさんの『LOVE CONNECTION』という番組で週に1度VOCEのコーナーを持っていたりと、多角的に展開しております。

雑誌・Webともに順調な成長を続ける

三好:続いて「数字で見るVOCE」ということで、VOCEの本誌についてお話しさせていただきます。「雑誌は厳しい」と言われてはおりますが、美容業界全般の調子が良いこともございまして好調に推移して実売を伸ばしております。

Webサイト・アプリのPVに関しましても、2015年度から13倍にジャンプアップしております。まだまだ成長過程ではございますが、順調に成長しているというところです。

また広告収入に関しましても、デジタル広告が増えている中、おかげさまでVOCEもかなり増収をしております。動画だったりインフルエンサービジネスだったりと、多角的な広告を頂戴しております。

VOCEは女性の認知度はありまして、聞いたことある・見たことある・美容院で読んだことある、なんてお声をよくいただきます。そこで今回のテーマに沿って、今のような成長を遂げたのはどうしてなのかを、今日はぜひ共有させていただきたいなと思っています。

読者と編集、それぞれが思うVOCE像の乖離

三好:好調なVOCEですが、2015年ごろは低迷期でした。Webサイトをリニューアルしたりしたんですけれども、うまくいってなかったポイントがありました。「VOCEらしさ」、それに「VOCEの読者層」というものの捉え方が、編集部員の中でバラバラだった時期があったんですね。

さらに、先ほどテレビやラジオまで含めた展開をお見せしましたが、VOCEブランドにおいて「どのポジションのメディアがなんのためにあるのか」が曖昧でした。「読者」「ユーザー目線」の微妙なズレが生じていたんじゃないかと今になっては分析できます。

具体的な「ブランド戦略の課題をどのようにクリアしていったか」ということについてですが、私たち編集者は「これってVOCEっぽいよね」と思うことを誌面に落とし込み、いろんな企画を作っていきます。そこで、私たちが思う「VOCEっぽさ」と、隣りの人が思う「VOCEっぽさ」に大きなズレが出てきていたんですね。

競合の美容誌もあるなかで、「VOCEっぽい」っていうものを「モード」「媚びてない」「クール」だという印象をもっていただいている読者も多いし、私たちもそう思って作っていました。でも、じゃあその「モードっぽい」とか「クールっぽい」とかって、アウトプットすると一体どんなものになるのかというブランディングがきちんとできていませんでした。

座談会と書店ウォッチによる実地調査

三好:そこでやったことがフィールドワークと率直な意見交換でした。かなり地道な作業ですが……実はこれ、5年間毎月欠かさずやっています。具体的には、読者の座談会をやっています。

来ていただくのはVOCEの読者さんが多いですが、場合によってはVOCEよりも競合誌をよく読んでいる読者さんだったり、逆にぜんぜん美容誌を読んでいない方だったりもします。毎月毎月お招きして編集者が1対1でその子と話すことで、実際にどんな読者に向けて作っていくかをかなり研究をいたしました。

それから「書店ウォッチ」をやっています。毎月22日が本誌の発売日なんですが、その日に編集部員がそれぞれ各書店に出向いて行って、1~2時間ずっと佇んでます。それだけなんですけど(笑)。男性だとちょっと変な人になっちゃうんでアレですが、我々は8~9割女性なので。

何をやっているかというと、女性誌の売り場に行って、夕方OLさんが買い物してる時間帯に自分も立ち読みをしているフリをして1~2時間ずーっと佇んでいます。読者がどのページから読んでいて、どのページで手を止め、どのページを読み飛ばしていて表紙はどのくらいじっと見ていて……など、デジタルでいうところの「ユーザビリティ調査」みたいなものに近いと思うんですけれども、その実地調査を書店で行っていました。

編集部内に営業部門の席を設けてコラボレーションを図る

三好:他にもすごく重要なことがあります。私はたまたま営業出身なので広告のことには多少明るいんですけれども、編集の人ってずっと編集だけをやってる人がやっぱり多いんですね。そうなってくると「こんなビジネス展開をしたいけどどうしたらいいんだろう」とか、「付録を作りたいけどいくらかかるんだろう」みたいなことってけっこうわからないんです。

そこで、営業部門の販売や広告部、業務部にマーケティングの部門など、そういった営業の部門の人たちの席を編集部内に設けて、毎日一緒に座ってもらうようにしました。そういったことで、コミュニケーションがかなり増えました。

編集者ってタネを見つけてくるのは得意なんですけれども、それをマネタイズしていくのが不得意でした。その部分のサポートを、同じ部屋で、同じ部署のところに座ってもらうことでクリアをしていきました。

内山:営業部門だけじゃなくて、僕たちデジタルをやらせていただいてるところも参加させていただきましたよね。

三好:そうですね、はい。

読者がVOCEを後ろから読み始めていた理由

三好:率直に意見交換や実地調査を繰り返していくことによってなにを変えたかと申しますと、雑誌の開き方を変えました。創刊以来……何年前かな? VOCEって実は3~4年前まで左開きの雑誌だったんですよ。

ほとんどの日本の女性誌って右開きなんですね。なぜなら、右開きって縦組みで文字が取れるので。それに日本人って縦の行のほうが読みやすいじゃないですか。なので右開きが多いんですけど、オシャレっぽさとか「外資っぽい雑誌」を作ることからスタートしたので、左開きになっていたんですね。

実はこれ、書店に行って気付いたんです、「みんな逆から読んでる」って。「あっ、すごい後ろの読み物ページから読んでる!」みたいなことに気付いて、開き方を変えたりもしました。

編集者って、突き詰めていくとやっぱりどんどんオシャレなものとか、自分の好みのものっていうのをすごく作ってしまいがちなんです。これが実際にOLさんがするメイクなのか、OLさんのお財布の事情に合ってるのかといったところなど、誌面の細かい部分もすり合わせ、かなり作り直していきました。

こうして綴じ方や内容を見直していくことによって、本誌の部数も伸びていったのかなと思っています。

チャンネルごとに発信するコンテンツを整理した

三好:本誌はそのようにして立て直しましたけれども、他にもWebがあってアプリがあってSNSがあって……それに「VOCEST」というインフルエンサーも130名程度抱え、Youtubeチャンネルも作っています。いろんなことをやってるんですけれども、紙と紙以外の部分をどうやって連動していくかがすごく曖昧でした。

3年くらい前は「紙からデジタルへ」みたいなことがすごく叫ばれていたなか、女性誌のホームページみたいなものって、紙の宣伝用としてしか機能していませんでした。デジタルメディア化はされていたんですけれども、あくまで紙の延長線上にしかないものだったんですね。それを「紙」と「デジタル」の両輪で、並列でものを作っていくというようなことを始めました。

先ほどのスライドにもありましたけど、本誌ではトレンドを打ち出し、Webでは「悩みに答える」という切り口にすべてコンテンツを作り変えました。これは検索流入が多いことも関係しています。SNSでは最新の情報を出すとか、テレビでこういうふうにするといったことなど、それぞれのメディアの役割と連携の仕方をかなり整理いたしました。

デジタル→紙への逆輸入コンテンツも登場

三好:Twitterやインスタなどにも力を入れていますが、それぞれ住民ががぜんぜん違うんですよね。どういう気分で見ているかは、かなり違います。同じユーザーでも、Webを見てるとき、インスタを見ているとき、それからTwitterを見てるときでマインドが違うので、それぞれに向けたコンテンツの提供をうまく分けていくようにしています。

さらには、デジタルから紙という今までとは方向性の違う逆輸入コンテンツも今すごく増えています。例えばYoutubeのVOCEチャンネルですごくヒットしている動画で、「はらちゃん」っていう芸人のメイク動画がありあます。

すごい失礼なんですけど、ご本人のスッピンって素朴なお顔をされていらっしゃるんですけれども、セルフメイクや自撮りがものすごくうまいんですね。

それでめちゃくちゃ変身するっていうのが今流行ってるんです。それを動画で作っていたんですが、動画がヒットしたことで本誌にも彼女の企画が出てきたり、そういったかたちの連携を取れるようになっていっています。

ヲタクユーザーにはより濃いコンテンツを

三好:それから今はやっぱりアプリですね。私たちも注力してやらせていただいています。アプリはWebサイトよりもさらにヲタクなユーザーがいるっていう指向が見えてきているので、アプリのユーザーに向けては、アプリユーザーでしか参加できないようなコスメのお試し会みたいなイベントをやっています。

普通の会議室の机にファンデーションを30ブランド全色並べまくって、それを粛々と試すだけっていうイベントなんですが、ヲタクにすごく刺さっていてですね。ものすごい静かで、誰もコミュニケーションとらないヲタクなイベントなんですけれども(笑)。

コスメが好き・美容が好きな人も、気分と濃度のレイヤーみたいなものでうまく棲み分けるようにしています。

ちなみにちょっと宣伝なんですけど、机に置かせていただいたクリアファイルにあるピンクのシールには、VOCEのアプリがダウンロードできるQRコードが付いているので……(笑)。ぜひみなさんにも、今日はダウンロードして帰ってもらえるとうれしいなと。男性の方は奥様とか彼女とかに渡してください(笑)。よろしくお願いします。

内山:ぜひお願いします。

常に世間をウォッチし、現実とのズレを修正する

三好:「読者」「ユーザー目線」から微妙なズレが生じていたというところでは、先ほども申し上げましたように感覚の違いがあります。他にも、事務職のOLがして怒られないメーキャップは実際どこまでなのか、時間がない朝にできるのか、みたいな部分がなかなか……。

メイク好きって「これでもか!」ってやりたくなっちゃうので、その部分をきちんと整理するようにいたしました。編集者と呼ばれる方はわりと無意識にやってることだと思うんですけれども、そのために私たちがしているのは、常に世の中の女性をウォッチするということです。

今もこうやって会場を見渡していると女性がけっこういらっしゃるので、ついついちょろちょろ見ちゃいます。どんなアイライナーの引き方をしてるか、どんなバッグを持ってるか、髪の毛をどうやって結んでいるのかとか。じゃあヘアアレンジはやっぱりここまでしかできないんだなとか、そんなことを日々見ています。

「読者と同じ美容好きとして楽しむ」というブランディング

三好:編集部員が自ら体を張るというところでは、今うちでは「部員が自らなにかを試してる」というコンテンツがすごく流行っています。もともと編集部員って黒子なので顔を出すってことはほとんどしてこなかったんですけれども、今は積極的に自分の好きな美容を伝えるっていうことをやっています。

やっぱり今は、メディアを作っている編集者自らがどれだけ楽しんでいるかがキーになってきていると思っています。

例えば私にはすごく好きなブランドのアイシャドーがあるんですけど、それを15色くらい全部家に持ち帰って、土曜日に全部自分の目に塗って比べるっていうのをやりました。ちょっと硬めに塗ったんで、ものすごい目が腫れたんですけど(笑)。そのコンテンツはすごくヒットしましたね。

あとは「崖っぷちVOCEシリーズ」というのをたまにやっています。べつに悪口とかじゃないんですけど(笑)、40代のうちのライターとかエディターが「40代、崖っぷち、どうするか」っていう企画を体を張ってやっているんですね。やせたりスキンケアしたりメイクしたりするんですが、これもすごくヒットしました。

つまり、私たちがトレンドを提案するというよりは、同じ美容好きさんの先頭に立って物事を楽しむようにしたというところが、VOCEブランドをうまく確立しヒットさせていけたというところなのかなと思っています。

内山:編集部の方が自分で顔出しするってすごいですよね。

三好:ですよね、はい。

内山:三好さんもけっこう出られていますよね。

三好:はい、出てます(笑)。なんなら半裸みたいな状態でちょっとしたエステを受けたりもしています(笑)。やっぱり自分が楽しいって思えることは伝わるんだなと思いますね。

美容から、より大きなビューティ事業にチャレンジ

三好:VOCEは認知度はあったけれどブランディングはなかなかうまくいってなかったので、いろんなことを整理いたしました。20周年を迎えた今年は、1歩先にあるビューティ事業に着手していきたいなと思っています。

メディアの役割を整理し、中に入れていくコンテンツの内容も見えてきたというところで、今年秋にローンチしたいと思っているコミュニティビジネスが1つあります。さらに、VOCEというメディアに集う美容好きさんが濃度濃く交流できるコミュニティのようなものを作ってまいります。

施策はいくつも進めていて、例えば「美容好きさんとコスメを語りたい!」というところでは、毎月インスタライブをやっています。これも、部員が出てメイクさんと一緒に新しいメーキャップを試したりテクニックを教えてもらう、みたいなものです。すごく人気で、インスタライブ終わったあとにだいたい100~200件くらい、投稿にコメントをくださったりしています。

「美容好きさんとコスメを試したい!」は、先ほど申し上げたようなリアルなイベントですね。リアルな場でのイベントもやっています。

それから「美容好きさんをもっと増やそう!」という取り組みも20周年の事業としてやっています。「VOCEST」というインフルエンサーのオーディションも春・秋でやっておりますし、今年は関西コレクションさんと組んで、8月に大きな専属モデルのオーディションも控えております。

コミュニティと先ほど申し上げましたものは、(スライドを指して)この4番に該当する「美容愛をより深めたい!」というところですね。「コスメLOVERSクラブ」という企画を今年ローンチしていくことも進めています。

「コスメLOVERSクラブ」もですが、システム的なことはいつも全部内山さんにサポートいただいてるんですけど、具体的なところは内山さんのパートに譲ります。

VOCEを変えた3つの施策

三好:今までのところのまとめですけれども、認知度はあってもブランディングがうまくできてなかった私たちがやったことは、この3つなんじゃないかなと思っています。

まず、「思い込んでいる“らしさ”というものを捨てる」。捨てるっていうのはすごく勇気がいるし本当に大変な作業でしたが、まずは捨てました。

次に「メディアを整理し、各住民に寄り添う」ということをしました。例えば、SNSは今部員全員でアカウントを共有して運営してるんですけれども、インスタでは必ず投稿した人が全コメントを返すっていう制度にしていています。

実はWebメディアのほうで、社員の担当が私1人しかいない時期が1年くらいありました(笑)。都合丸2年間、24時間365日ずーっとインスタのコメント返し続けていたんですね。

地道な作業ですけど、そうしているうちに「このメディアはこういうユーザーが使ってくれているんだな」とか「なにが喜ぶんだな」っていうのがけっこうわかるようになってきました。その気持ちがわかることによって作れるコンテンツがなにかも見えてきたかなと思っています。

そして3番目、「運営者が自ら楽しんで、熟成させていく」ということですね。この「熟成させていく」っていう部分が、新しく立ち上げるコミュニティになってきています。

ということで、ちょっと簡単ではあるんですけれども、VOCEがやっているブランディングについてお話させていただきました。

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