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編集者特別対談(全3記事)

情報爆発時代、なぜコミュニティビジネスが有効なのか? 幻冬舎・箕輪厚介氏

2018年3月16日、第3回目となる「読者が選ぶビジネス書グランプリ2018 」が開催されました。受賞作の著者や担当編集者が登壇し、授賞式やトークセッションが行われました。セッションではマネジメント部門賞を受賞した『HIGH OUTPUT MANAGEMENT』の担当編集者である日経BP社 中川ヒロミ氏と、リベラルアーツ部門賞を受賞した『お金2.0 新しい経済のルールと生き方』の担当編集者である幻冬舎・箕輪厚介氏のトップ編集者2人が特別対談。両名は昨今のビジネス書業界をどう見ているのか? 数々の名著を生み出す2人が自身の信条やノウハウを明らかにします。

『お金2.0』が金融リテラシーのない人にも刺さる理由

荒木博行氏(以下、荒木):『お金2.0』を出す前と、出した後の手応えって? 「新しい空気を作った」というような。

お金2.0 新しい経済のルールと生き方 (NewsPicks Book)

箕輪厚介氏(以下、箕輪):それが、『お金2.0』で感じたものはなくて。『お金2.0』は書籍も本当に良かったんだけど、結局NewsPicksBookの若者のバイブルみたいになっていて。そしたら佐藤(航陽)さんが「電車広告出しましょう」って言って、電車広告出すことになって。5,000万くらいかけて、本当に冷静にジャッジして。

やっぱり佐藤さんは頭がいいから。(佐藤さんが)言ってたのは、「NewsPicksを読むネットリテラシーが高くて能動的な人と、新聞を読む年配の人で能動的な人は取り切った」と。その時点で5万部以上売れてたんで。「でも、ただ普通に働いてて、なんで今、仮想通貨とか言ってるんだろう、と思ってる人には、電車広告以外でリーチできませんよね」って。

ああ、なんかその通りだなって。それで電車広告やったら、もうなんか異常なことが起きてるんじゃないかというくらい数字が入って。それは、はたから見てもわかるもので、うちの母親はもう本当に普通のおばさんなんですけど、「ビットコインが下がって不安」ってメールがきて。

(会場笑)

箕輪:いつもはメール来ないんだけど、なんかで『お金2.0』を読んで、ビットコインを知ってるんです。それから女優の黒木瞳さんがラジオのゲストで佐藤さんを呼びたいといっていると聞いたりして、これはフェーズ変わったなと。だから違う面を完全に取ったなと思いました。

荒木:1.0から2.0へ、かえって金融のリテラシーがあったりすると、「なんかわからない世界」みたいなことになっちゃいますよね。

箕輪:そうです。『日本再興戦略』もそうなんだけど、普通の人ほど、なんとなく今まで自分が信じていたものが、ゆるやかに崩れているという不安を完全に捉えている。それをお金で捉えているのが『お金2.0』で、国家で捉えているのが『日本再興戦略』なんです。そんな感じです。

『HIGH OUTPUT MANAGEMENT』大ヒットの背景

荒木:なるほどね。ありがとうございます。じゃあヒロミさんの方は、30年前のアンディ・グローブの『HIGH OUTPUT MANAGEMENT』ですけど。

HIGH OUTPUT MANAGEMENT(ハイアウトプット マネジメント) 人を育て、成果を最大にするマネジメント

中川ヒロミ氏(以下、中川):初版が出たのがそうですね。

荒木:ここであらためて取り上げていただいて、大ヒットってことなんですが、その経緯などを教えていただければ。

中川:2年前くらいに、ベン・ホロウィッツさんの『HARD THINGS』という本を出しまして。その本は最初はそんなに期待はされてなかったんですが、10万部を超える本になって。その本のなかでベン・ホロウィッツさんが「(『HIGH OUTPUT MANAGEMENT』は)すごく名著だ」と何回も紹介していたんです。

(『HARD THINGS』は)そもそもCEO向けに書いた本で。こうすればうまくいく、という本はいっぱいあるんだけれど、こういう大変な時にどうしたらいいのか、本当に死にそうになった時、潰れそうになった時に会社はどうするのか、親友を降格するとか首にする時にはどうしたらいいのかとか。ベン・ホロウィッツさんが、そういうCEO向けに、本当に深い本を書いたんです。

「そんなCEO向けの本なんて日本で売れないよね」とか、「CEOって何?」みたいな、「経営者しか読まないんじゃないの?」みたいなことを言われたんですけれど。でも、CEOじゃなくて、なにかにすごく立ち向かっている人とか、新しいことを作りたい人にとってはすごく響いて、すごく売れたんです。

そのベン・ホロウィッツさんが、「部下を教育したり、後進を育てる時にはこの本(『HIGH OUTPUT MANAGEMENT』)が一番の教科書だ」って書いていたので。読みたくなる人もいるよねって思っていたんです。ただ、もともと絶版になっている本なので。

荒木:そうですよね。

翻訳本をヒットさせる「目利き力」

中川:30年前の本を読みたいという人はいるけど。

箕輪:そこの目利き力ってすごいっす。NewsPicks Bookって翻訳本ないんで、今年から入れていきたいと思っていて。

中川:やめてください(笑)。

(一同笑)

箕輪:給料を年収の1.5倍出すから来てください。

中川:誰が雇ってくれるんですか?

箕輪:えっ、NewsPicks。僕、翻訳をがちがちやってるんだけど。僕は、さっき言ったみたいにコミットタイプだから、エージェントから要約本とか送られてきても、いい気もするし、よくない気もするし、わからない。本人と会ってもいないのに。

中川:そうですね、本人には事前になかなか会えないですよね。

箕輪:翻訳本をヒットさせる方に対する……僕はできないなというのがあるんで、すごいです。

中川:いいえ、そんなことないです。

箕輪:もう大尊敬してます。

荒木:もともとの本は『インテル経営の秘密』というタイトルで出てたんです。僕も当時、それは読んでましたけど、すっげぇいい本なんだけれども、まったくこうセクシーじゃないというか。なんか本質詰まってるんだけど……。

箕輪:(荒木氏に)セクシーだよね、若干。

(一同笑)

荒木:だからもうちょっと見せ方を作ればけっこういけるかな、と思ってたら、この本がバーンと出て。始め、あれと同じ本だとは思わなかったです。

中川:そうですね。

箕輪:作り方うまいですよね。

中川:褒められると弱いです(笑)。『HARD THINGS』があったおかげです。

箕輪:(本の表紙を指して)マーク・ザッカーバーグって、名前、勝手に使っていいんですか。

中川:これ、もともとの本を推薦してるので。

箕輪:マーク・ザッカーパークとかだったら書けるのかな(笑)。

中川:まあ確かに。編集もマーク・ザッカーバーグさんも推薦していて。

箕輪:いいなあ。

NewsPicks Comicでビジネス書が漫画に

荒木:会場の方で、これ読んだことある人はどれくらいいますか? 『HIGH OUTPUT MANAGEMENT』。

箕輪:誰も読んでねぇのかい(笑)!

中川:もっと読んでください。

箕輪:『お金2.0』は? おお。これは箕輪信者に近い。集客にも貢献してますよ。

(一同笑)

中川: そういう意味では『HIGH OUTPUT MANAGEMENT』はまだ売れるってことで。

荒木:まだ売れますね。これ本当にね、いいっすよ。

箕輪:俺がプロモーションしたらマジ売れますよ。

中川:本当ですか? 売って下さい。

箕輪:日経BPさんは、僕と業務委託。

中川:本当にいいんですか?

箕輪:いいよ。

中川:本当? いくらで?

箕輪:20万。

荒木:(笑)。

箕輪:月20万で。

中川:じゃあ『HIGH OUTPUT』、2倍にしてくれたら。

箕輪:あっ、2倍……まあ、だから。

荒木:あとでにしましょう(笑)。

(一同笑)

荒木:これ、本の書き出しが経営を朝食工場にたとえているんですよね。

中川:そうなんですよね。

箕輪:朝食工場ってなに?

荒木:朝食工場ってなに? って思うじゃないですか。要するに目玉焼きを作って、お客さんに出す。

箕輪:さすが!

中川:私じゃないですけどね。著者のアンディ・グローブがすごいんです。

荒木:そういうのが、これが経営の本質だという出だしなんです。

中川:(箕輪氏に)読んでください。読んで。

箕輪:flier(フライヤー)で読みます。時間ないんで。

中川:いやいや、ちゃんと読んで(笑)。

箕輪:ほんと時間なくて。本を読む時間ないですよね。

荒木:その時は僕はflier。

箕輪:でしょ。

(一同笑)

箕輪:ちょっといいですか。僕、相談したくて。こういう本とか、『LIFE SHIFT』とか『サピエンス全史』とか、漫画にしたいんです。漫画ってまた(出版権は)別なんですか?

中川:そうです。権利があります。

箕輪:じゃあ、これ絶対、漫画で出しますんで。NewsPicks Comic立ち上げたんで。そういう絶対いい本で洋書で翻訳されてるんだけど、読むのがちょっとしんどいなぁというのを全部漫画にしたいんで、よろしくお願いします。

中川:やめてください(笑)。

(一同笑)

箕輪:NewsPicks Booksに来ちゃえばいいじゃないですか。給料倍出しますよ。

中川:誰が給料出すんですか?

箕輪:NewsPicksの佐々木(紀彦)が。

中川:俺、じゃないんだ(笑)。

箕輪:NewsPicks副業でいいんで。日経BPで言っちゃダメですよ。

中川:日経BPもいい会社ですよ。

箕輪:いい会社かもしれないけど。

中川:じゃあ、箕輪さんが日経BPに来てください。

箕輪:行こうかな。

(一同笑)

1億円もらったら行く。

中川:1億円は無理かなぁ。

「OKR」というマネジメント手法

荒木:ヒロミさん、ちょっとここで『OKR』、入れておきましょう。ちょうど昨日、新しい本が出ました。

OKR(オーケーアール) シリコンバレー式で大胆な目標を達成する方法

中川:そうです。

箕輪:あれ、すごくおもしろいです。

中川:(箕輪氏に)読んだ? 読んでないよね。読んでないよ。

箕輪:読んだ、読んだ。おもしろいよ。

中川:じゃあ宣伝してください。

箕輪:いやOKRですよね。5回泣きました。

中川:ほらこうやって、絶対読んでないじゃないですか(笑)。

(一同笑)

まじめに。OKRって『HIGH OUTPUT MANAGEMENT』の中でアンディ・グローブが目標を達成するために、どういうマネジメントをするかというのを紹介してるんですけど。

例えば、今よくある、KPIを何倍伸ばすとか、本を来月何万部にするとか、数字目標はよくあるんですけど。それだと数字に振り回されちゃって、なんのためにやっているのかおもしろくなくなって、モチベーションも上がらないわけです。

だけど日本を変えるとか、そういう大きな目標があって。その上で、じゃあこの本を2万部売るという二段階でやると、その大きな目標と目の前の何をするかという小さな「Key Result」って言うんですけど……。

箕輪:それ、おもしろい! NewsPicks Bookで……。もう出ちゃった?

中川:出ちゃった。昨日、出た。

箕輪:ひと月でも休ませてください。

中川:1年くらい休むといいですよ。

箕輪:本当だよ。来年とか休もうと思ってて。

中川:ぜひ。

荒木:(笑)。

箕輪:俺、アル中になって、酒のんだくれて死ぬと思う。

中川:ホント? あ、それでOKRの話。

(一同笑)

中川:なのでOKRはすごくおもしろいテーマなので。

荒木:そう。Objective and Key Resultの略。

箕輪:売れるわ。

中川:売れます?

箕輪:僕が売りましょうか?

中川:ぜひ20万円で。

箕輪:え、まじで?

中川:うん。

箕輪:本気で売るよ。NewsPicksとか箕輪編集室とかで宣伝したら絶対売れるから。

中川:本当ですか? 業務委託で。

箕輪:はい。お願いします。

荒木:ちなみに昨日出たということですけど、買った方、いらっしゃいます? うわぁ、これはまだまだマーケット、ありますね。

中川:そうですね。ぜひ。本屋さんに並んでるんで。

箕輪:そんなにおもしろい本を買わないってやばくない?

中川:やばいです。

箕輪:ねえ。これ、ガンガン言っていきます(笑)。

中川:はい。

情報が爆発してる時代、コミュニティを作らざるをえない

荒木:そこから話をどんどん広げていきたいんですが。本の未来だとか、読書、読者、どうなの? みたいな話を、ぜひ、お二人としていきたいな、と思います。(箕輪氏に)NewsPicksアカデミアってあるじゃないですか。

僕、NewsPicks Bookとかを見てても思うんですけど、なんか「入口」という感じがすごくして。この本で完結しないというか。コミュニティにどうやって導線をひっぱっていくかとか、本の位置づけが変わってきているなと、すごく感じて。

箕輪:でも、それはビジネス目線で分析するとそうなだけで。最初は本当にただ「月1冊届けよう」ってがむしゃらにやってただけで。それを識者が見ると「NewsPicks Bookは体験への導線だね」と分析するというのが現実なんですけど。

でも、コミュニティというのは本当にその通りで。今、本が売れないとか、テレビが見られていないのは、何が起きてるかというと、ただ1点、情報が爆発してるんです。

正確な数字は忘れたんだけど、もう10年前から、数万倍くらい情報が爆発してて。昔は、仮想通貨に興味があるとしたら、webもなければ、本もちょっとしか出てないし、「どれか選ぼう」って感じだったんです。そうすると、仮想通貨が話題だったら、仮想通貨でいい本書けば100%売れてて。

でも今って、仮想通貨に興味があっても、その日1日で出る仮想通貨のweb記事、新聞記事、本……絶対読みきれないでしょう。だからもう選びきれないんです。選ぶという行為がもう辛すぎて、「もう無理」ってなっている。テレビでも動画でも、見きれないというか。

要は、人間が1日で処理する能力が、もう限界を迎えている。そうなると、飲食店では食べログでみんながいいねというものを選ぶようになるのと同じように、人の紹介でモノを買うようになる。

コミュニティを信頼してるから、そのコミュニティが紹介するものを読もうというふうにするしか、決断の数を減らせなくなってきている。「この人がいいと言ってるならいい」というジャッジしかもうできないんです。

そうなってきたらコミュニティを組織するしかなくて、それで言うとNewsPicks Bookも、「仮想通貨もういっぱい出てるけど、もうようわからん。NewsPicks Bookが出してからそれを読もう」とか。「箕輪が出してるから買おう」とか、コミュニティベースでモノを選ぶ。そういうフェーズに入らざるをえなくて。

だから結果的にですけど、NewsPicks Bookとか僕の作ってる本は、コミュニティを作らざるをえない今の状況で選ばれる設計をしてる感じなんです。

頭の中に円を描く

荒木:ファンがいる中に投げ込むみたいな、そんな感じなんですかね。

箕輪:そうです。僕は頭の中に大きな円を描いてて。箕輪のファン、NewsPicksのファン、ビジネス書のファン、ホリエモンのファンとか。それがこう重なってるわけです。ホリエモンのファンと箕輪のファンは半分以上重なっているし、箕輪のファンにはあちゅうのファンもちょっと重なってるし。その面を取っていくイメージです。トン、トン、トン。

取っていくためには、ここと対談するとかして、コミュニティを一面ずつ埋めていく。『お金2.0』でいうと、もう(もともとのファンの面は)埋めきった俺らがいて、電車広告出したら、僕がどんなにツィートしても絶対見ない主婦とかの面にバーンと刺さる、って感じです。

だから落合陽一さんは完全にホームタウンなので、(本を)出した瞬間、箕輪、ホリエモン、NewsPicks、ってこっちのファミリーの面をダダダダって取ったって感じでした。

まだ売れてますけど、『日本再興戦略』をもう1回売るためには、もっと違う面、次のフェーズ(に踏み込まなきゃいけない)。100万部目指すためには(小泉)進次郎さんが紹介するみたいに踏み込まなきゃいけないし、進次郎さんに『日本再興戦略』って言わなきゃいけない。

この前、進次郎さん会った時に、僕、酔っててそれを言うのを忘れてしまったという事件があって。

(一同笑)

でもそういうことをやるんです。政治家が「日本再興戦略」って言ったらお年寄りの面を取れる。

だから、大きな丸がいっぱいあるって感じで世の中を見てます。この面を取る、この面を取る、という感じ。

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