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トークイベント「忙しい大人のための『児童書』入門」(全5記事)

「ビジネス本を数冊読むだけでは仕事に役立たない」 ライフネット出口氏が語る、本との付き合い方

本当に優れたものは、子どもも大人も楽しめるようになっているーー。ライフネット生命の創業者である出口治明氏が著書『教養は児童書で学べ』の出版トークイベント「忙しい大人のための『児童書』入門」を開催しました。大人になった今だからこそ知っておきたい新たな読書論とはなにか。“大の読書好き”とも言われる出口氏が自身の読書法や本を選ぶ時のポイントだけでなく、「大人にこそ児童書」と語る理由などを明かしました。(写真提供:光文社写真室)

基本的にベストセラーはトンデモ本だと思っている

出口治明氏(以下、出口):僕は、実はベストセラーをほとんど読まないです。なんでかと言えば、ベストセラーで5年後に書店に残っている本ってほとんどないので。ベストセラーは、やっぱりトンデモ本が多いですよね。ついつい買うんですけれど。

僕はもう古希を迎えたので、体が固くて前屈とかなかなかできないのです。ある時、本屋に行ったら『どんなに体がかたい人でもベターッと開脚できるようになるすごい方法』という本があったので……。

(会場笑)

怪しいと思いつつ、買ってしまったんですよ(笑)。それで、1ヶ月近く書いてある通りにやってみたんですが、痛いだけであまり進化しなかったので、「やっぱりな」と思ったんですよ。

でも冷静に考えてみたら、だれでもできるんだったら、ジムに通った人は全員できますよね。あるいは、ライザップに行っている人は全員できますよね。ということは、やっぱりできないからこそ人間ってこういう本に惹かれるんですよね。

英語のコーナーに行ったらすぐにわかると思うんですが、「こうやったら英語を話せるようになる」「あっという間にヒアリングができる」とかいう本ばかりでしょ? でも、どう考えても全部嘘ですよね。

(会場笑)

だって日本人って、英語がヘタでしょう? 「どうやったら英語が上手になりますか?」って先生に聞いてみると、「毎日コツコツとNHKのラジオ講座を聞く」「勉強してがんばるしかありません」という答えが返ってきます。みなさんがもし本屋に行って、英語のコーナーに行って、「英語なんか、毎日コツコツ勉強しやへんと絶対うまくならへんで」という本を見つけて、買いたいですか?

(会場笑)

買いたくないですよね(笑)。だから、ベストセラーは基本的にはトンデモ本だと思っていて。もちろん中にはいい本もあると思うのですが、いい本はすぐに新聞の書評に載るだろうから、それまで待ってたらええというのが僕の考えです。

たまに『ベターッと開脚』のように、ついつい買っちゃうんですけれど(笑)。基本的にはあんまりベストセラーには手を出さないですね。

本を読むこと=人の話を聞くこと

あとはたくさん本を読んでいると言うと、「速読するんですか?」とか聞かれるんですがしたことはないですね。それはなぜかといえば、最初の10ページを読んでね、そこでもう見切りをつけるので。

例えば、友人が本を送ってくるんですが、全部読むんです、最初の10ページは。でも、最初の10ページを読んでおもしろくなかったら、「○○くん、今回はごめんね」と言ってそこで止めちゃうので、見切りはわりと早いほうです。

なんで速読しないのかといえば、速読するんだったらWikipediaを引くほうが早い気がするんですよね。

本を読むというのは、人の話を聞くことと一緒で、著者と話をしていると僕は思っているので。速読したら失礼だし、たぶんみなさんも、だれかとしゃべっていて、「速読したいからはよしゃべってくれ」とか言われたらムッとしませんか?(笑)。

(会場笑)

もちろん、資格試験の勉強とかで速読はありだと思いますから、100パーセント速読が悪いとは思いませんが、僕は速読したことがないですね。最初の10ページで、全部読むか読まないかを決める。

あと、本の読み方で「線を引くんですか?」といろいろ聞かれるんですが、僕は線も引かないし、メモも取らない。昔からそうなんですけれど、学校の講義でも、先生の話を一所懸命聞いて、1回でできるだけ覚えてしまおうと。めんどくさがりやですので、そういうタイプなんで、線も引かないしノートも取りません。

ライフネット生命の僕のパートナーの岩瀬(大輔)は、線を引きますしノートも取ってますから、本の読み方には「こう読むべきや」という読み方なんかないんですよね。勉強と一緒で、楽しく身についたらそれでいいのです。正しい本の読み方なんて、僕はないと思います。どんな読み方でもいいと。

この前、僕よりはるかに有名な読書家の、一橋大学の楠木(建)先生と読書についてパネル対談をやったんです。楠木先生は18時に学校から帰って、24時に寝るまで、毎日2冊本を読んでいらっしゃるという、ものすごい読書家です。

楠木先生は、寝転がっておせんべいをポリポリ食べながら本を読むのが好きらしく、「僕が読んだ本は、そこかしこにおせんべいの粉がついています」という話をされていて。そうしたら聴衆のだれかが、「その本が欲しいです」とか言って。変な人がいますよね(笑)。

(会場笑)

「いや、売りません」とか、そういうやりとりがあったんですが(笑)。僕はやっぱり椅子に座らないと読めないし、本を読んでいる時は夢中になるんで、なにも食べられません。だから読書にはいろんなパターンがあっていいと思うんです。

本は共通テキストを自然に増やしてくれた

僕は読書に熱中するタイプなので、1度すごく焦ったことは、本を読んでいて、新大阪で降りるはずが新神戸まで行ってしまって。これはもうめちゃくちゃ焦ったんです。そのときはたまたま午後の講演で、大阪で大好きなきつねうどんを食べようと思って1時間早い新幹線に乗っていたので、なんとか講演には間に合ったんですけれど。

おもしろい本を読むと、夢中になって外が見えなくなるんですよね。だから、今でも地下鉄で座れたら必ず本を読むので、1週間に1回か2回は乗り過ごしているんですよね。

でも、まあ地下鉄は1駅2駅乗り過ごしても、大したことはないですよね。新幹線は、よく新神戸で気がついたと思って。それからもう僕の秘書には、大阪へ行くときは「頼むから新大阪止まりにしてくれ」「広島止まりとか福岡行きはアカンで」と言っているんですけども(笑)。

あと、本で役に立ったことはないのかとよく聞かれたりします。仕事かなにかの役に立つだろうと思って本を読んだことは一度もないんですが、結果的に仕事に役立ったことはたくさんありますね。

僕は43歳で初めての海外勤務でロンドンに行ったんですが、英語はそこから勉強を始めたので上手く話せなくて大変苦労したんです。でも本好きで同じ作家が好きな外国人とはすぐ仲良くなれますよね。

人間のコミュニケーションってなんだろうと考えて、共通テキストの数だと思っているんです。

ライフネット生命が業務提携しているKDDIが、金太郎、桃太郎、浦島太郎のテレビCMをやっていますよね。あれがなぜ人気があるかと言えば、ほとんどの人が金太郎や桃太郎や浦島太郎の話を知っているからですよね。なにも知らない外国人が見ても、「あれなんや?」ということでおもしろくない。だから、人と人とのコミュニケーションって、共通テキストの数だと思うんです。

そういう意味では、いろんな本を乱読していると、同じ本が好きな人と出会ったら、英語が多少下手でも片言の英語で会話ができます。やっぱり本がなんの役に立ったかと言えば、共通テキストを自然に増やしてくれたんだなという、そこがポイントだという気がしますよね。

読みたいもの・好きなものを読んだほうがいい理由

これは嘘だと思うんですが、僕の友人の先生で「英語下手やで」と言っている先生がいるんです。その先生は国際プラトン学会への会長を務めていたんですよ。

それで「英語が下手で、なんで国際学会の会長が務まるんですか」って茶々を入れたら、「プラトン学会に集まる人は、みんなプラトンをギリシャ語で読んでいるので、英語なんかどうでもいいのです」という答えだったので、これも共通テキストの問題ですよね。

同じ物を読んでいる人が集まったら、確かに英語とか日本語がなくても通じるものがたしかにある。僕は「この本を読んだら仕事の役に立つで」「この本を読んだらためになるで」は、むしろないと思っています。

本を数冊とか10冊とか読んだくらいで仕事に役立ったら、そんな甘い世界はありませんよね。世の中ってそんなに甘いものじゃないと思っているので、むしろ「好きなものを読んでなにかの折に仕事に役立ったらラッキー」ぐらいに思っておいたら、ちょうどいいくらいじゃないですかね。

だから仕事に役立つ、人間関係をよくする、そういう「ためにする読書」よりも、読みたいものや好きなものを読んでテキストを増やしておく。そうしたら、いろんな人に会ったときにそれが共通テキストになって、あるいは仕事に役立つかもしれない。そのくらいのものだという気がします。

これもあるときの講演会で、「毎週本を読んでいるんですが、なに1つ頭に入りません。どうしたらいいでしょうか?」という質問が出て、変やなと思って「大事なことは忘れないので、忘れてしまっていいんですよ」って答えようと思ったんですが。

「どの本を読んでいるんですか」って聞いたら、「上司が無類の本好きで、毎週いっぱいおろしてくるんです」「それを読むだけで精一杯です」と言われるので、「それがすべての原因です」「上司からおりてきたものは、即刻すべてブックオフに持って行きなさい」と。

(会場笑)

「自分が読みたいと思った本だけ読んだら、絶対になにか残りますよ。好きこそものの上手なれなんで」と答えた記憶がありますが、そんなもんですよね。

だから、「これを読んだら役に立つで」と勝手に言うことはいくらでもできますが、そんなことはたいして役には立たない。やっぱり好きな本を読んでいれば、それで十分ですよね。それがなんらかのはずみで、仕事とか人間関係にちょっとでも役に立ったらラッキーと思えばいいですし、立たなくてもおもしろかったのならそれで充分ですよね。

そのように本と付き合っていただければ、僕としてはすごくうれしい気がします。

じゃあ、僕が話をしてばかりではたぶんみなさんが退屈でしょうから、これで僕のプレゼンは終わって、この後はみなさんと質疑応答を行いたいと思います。どんな質問でもけっこうですし、しゃべらなかったことでもけっこうですから、どんどん聞いてください。どうもご清聴ありがとうございました。

(会場拍手)

自分がおもしろいと思った本を子どもに与えればいい

司会者:出口さん、ありがとうございました。では、これから質疑応答に移りたいと思います。ご質問などある方は挙手にてお願いします。

出口:なんでもけっこうです。はい、じゃあどうぞ。

質問者1:お話をありがとうございました。先生は現在も、児童書をふだんの生活の中で読まれているのかということと、それとお孫さんの話も出たんですけど。児童書を子どもですとかお孫さんとかにプレゼントするときに、どういう観点で選ばれているのかを教えていただければ。

出口:最近は忙しくなってなかなか本屋に行けないんですが、本屋に行ったら児童書のコーナーには必ず行きますね。それから、子どもとか孫には僕がおもしろいと思ったものだけをプレゼントしています。僕、児童書を買ったら先に読んじゃうんですよ。

汚さないように読んで、子どもや孫に渡すんですけれど、それぐらいは親の特権だと思うので。親が読んで、これはおもしろいから読ませたいなっていうので十分じゃないですかね。

子どもは子どもでものごとの本質がわかっていますので、おもしろくなければ読まないと思います。だから、なにかの役に立つという発想よりも、おもしろくなければ子どもは興味を持たないんで、みなさんがおもしろいという本をお子さんに与えるのが一番じゃないですかね。

質問者1:ありがとうございました。

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