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10年後、君に仕事はあるのか?~未来を拓くための「情報収集力」~(全7記事)

正解を出す力より「納得させる力」が求められる 藤原和博氏が示す“成熟社会”で必要なスキル

学校の先生たちが社会とつながる場を提供し、新しい視点を届けることを目的とした「先生の学校」が1周年イベントを開催しました。テーマは「Think Day~未来の私を考える日~」。セッション2で行われた「10年後、君に仕事はあるのか?~未来を拓くための「情報収集力」~」では、リクルートで数々の新規事業を手がけた後、東京都初の民間人校長にもなったという異色のキャリアを持つ藤原和博氏。子どもたちはもちろん、教師を含めた大人たちに必要となる「情報収集力」について解説しました。

10年以内になくなる仕事で動機づけしても意味がない

藤原和博氏(以下、藤原):僕が気をつけたほうがいいだろうと思うのは、先生という仕事をしているのであれば、塾の先生であっても、キャリアに関わるそうした仕事だし、それからそういった話題(10年以内になくなる仕事)が出るときがあると思うのです。

今、例えば小学校でやっているキャリア教育は本当にプリミティブなもので、「どんな仕事に興味があるのかな?」と聞いて、「美容師」と言えば「じゃあそれを調べてきてプレゼンしてください」などと言ってみる。みんなが同じGoogleにあたって、だいたい最初の1つにしか開けないですよ、子どもたちは。

僕みたいなプロだと「もっと個人でおもしろいサイトがあるはずだ」と2つも3つも、探すのですが、そんなことはしないから。

みんな同じ資料にあたって、それを切り貼りして発表する。そうすると「プレゼンできましたね」などと先生が褒めて終わる。これ、やらないよりやったほうがいいかもしれないけど、僕はまったく意味がないと本当は思います。

つまり「なくなっちゃう仕事に動機づけしないでくれる?」ということ。こうした話と、それからどんな仕事でも絶対にAI化するロボットの影響を受けざるをえない。

税理士の方がここにいますが、税理士なんかは危ないですよね。もう9割方の仕事はおそらく持っていかれるのではないかと思います。あと1割は人間じゃなきゃという部分がおそらく残されると僕は思うの。だから、力のある人は絶対残ると思うのですが。

そういうことで、すべての仕事が変質していく。むしろこうした議論を、僕は小学校の高学年だってよろこんでやるのではないかと思うのですよね。

「長く考えさせる=深く考える」ではない

子どもとやる場合は、テーマを絞ったほうがいいです。なくなる仕事というときになんでもいいと言わずに、鉄道シリーズなどといって「改札はなくなったのよ」「最初はいたのよ」と。最初は人間がいたということをできれば写真かなにかで見せたほうがいいと思いますが。

それで「運転手がどうか」「車掌がどうか」「じゃあ駅の中にあるコンビニみたいなところはどうか」といったように、鉄道シリーズで潰していくほうが意見は出るのではないかと思います。要するに、アイデアを募るときに、子どもの場合はものすごく絞ったほうが深くなります。

それから先ほどからの経験でもうわかったと思うのですが、「長く考えさせる=深く考える」と思ったら大間違いです。2分です。だいたい2分。子どもたちだったら2分以上与える必要はありません。

どんな深いテーマでも、例えば「人間にとって宗教とはなにか?」というテーマでさえも、2分の時間を10回深めたほうがいいわけです20分考えさせるなんていうのはもう愚の骨頂。OK?

ということで、ストロークが早いほうが、今の子どもたちの脳内ヘルツは非常に早いのです。だってニンテンドーDSをやるときに、1秒間に8回もボタンを押しているときがあるのですよ。ヘルツが早いので、ぜひ早いストロークでやったほうがいいです。

最近の最新技術は「目に見えない」

あとね、この図はあの本にも載っている図ですが。子どもたちって実は、ロボットやAIが仕事を奪うなどと言っても「はぁ?」ということがあるのですよ。

要するに、ロボットやそういうものに対するもちろん恐怖感もないし、ぜんぜん馴染んじゃっているから、なんでそれが奪うのかみたいな、わからないことがあるの。この図を示してあげたほうがいいかもしれないなという、その図なのですね。

ちょっと解説しますが、僕らは、ここにいるすべての人は、僕も含めて、左側の社会に育ちました。どういうものかというと、未来というのが目の前に巨大なものとして開けていく、そういう未来感なのですよ。その組成する物質はだいたい鉄とコンクリートでした。つまり鉄とコンクリートによって未来が開けてきたのです。

でっかくてすごい高速道路ができて、そこに車をビュンビュン飛ばす。それから新幹線がどんどん早くなる。それからバンバン高いビルが立つ。大型船が就航する。飛行機がドンドン大型化するといったような。

そうした未来だったじゃないですか。だから大きな夢というのが抱きやすかったとも言えるのですよ。わかります? 大きな未来が鉄とコンクリートで目の前に見えたから、ドンドンニョキニョキ出てきたから。

ところが、今はどうなっているかというと、今の世代というのは半分の建設がネットの中で起こっているのです。ここが非常に大事なところなのです。ネットの中だから、その巨大さが見えないのですよ。本当はすごく強大なものなのだけど、見えないでしょ。

さらに言うと、最先端の技術がiPS細胞だったり、ナノテクノロジーだったりする。今の最先端のものは、全部見えなくなっているわけです。わかります? だから、子どもたちは夢を見にくいの。「大きな夢を持て」と言っても「はぁ?」となっちゃうのです。わかります? 僕らが住んでいた世界と違うのです。

だから、これがわかればわかると思うのですが、例えば10年後と言うけど、10年後にもう1回ここに来ても、五反田の駅前を見ても、僕はそんなに変わっていないと思います。

つまり、AIやあるいは……ごめんなさい。あのスピルバーグの映画の『A.I.』、あるいは『バック・トゥ・ザ・フューチャー』のように、このビルの壁を車が駆け上っているようなシーンを見ることはできないと思いますね。30年経っても見ることはないのではないかと僕は思います。

つまり、外見はそれほど変わらないのよ。外見はそれほど変わらなくて、10年後に来てもいつものとおりの五反田かもしれない。だけど、こっちがガラッと変わっちゃっているという。そういうこと。これが要するに、人間の仕事に全部影響していきます。

人間の勘より全データを一瞬で調べ上げるAI

例えばなのですが、弁護士の仕事も絶対に変質しますよね。だって、法律の関連法規を調べたり、「この判例だったらこうだ」と調べるのは絶対AIが得意に決まっているじゃないですか。そのため、対人セッションは残ると思いますが、パラリー以外の仕事はなくなるでしょうね。税理士もさっき言ったとおりだし。

もっと言うと、医者の仕事も変質します。イメージでわかると思いますが、医者の仕事に診断と治療がありますが、治療はともかく、診断のほうにはものすごくAIが入ってきますよね。

どういうことかというと、例えば僕が肺がんの疑いがあってレントゲンを撮りました。レントゲンを見て、白い影か黒い影か知らないけど、医者の前で相談をするときに、どんなに僕がその医者のことを信頼していたとしても、その医者の経験だけで言われては困ると今後の僕は思うでしょう。

だって、世界中にその症例があるわけなので、もう一瞬にして多言語で世界中から僕と同じ症例と段階で、どういった薬を投入すると、どうなったか。どういった放射線投射をした結果、どうなったか。これを一瞬にして調べ上げるAIを信頼したいです。僕は。

逆にいうと、それに例えば保険以外に100万を払えと言われても、自分の命に関わるのであれば払うでしょうし、1,000万でも、もし自分の子どもがそうだったら、それは金を借りてでも使うんじゃない? そのようなニーズがすごく強烈にある。

今、アメリカではIBMのWatsonというコンピュータがもうすでにがんの診断に使われていて、有効だということが確かめられています。

仕事が猛烈に変質していくという、そのことはもう否定できないのですね。ですから「こういう議論をやることのほうが、同じキャリア教育でも大事なんじゃないの?」ということですね。

一条高校で実施した「未来の授業」

今日のメインコンテンツで一番大事なところは、このなくなりにくい仕事について、“車掌”をヒントに、もうちょっと考えてもらいたいのです。

一条高校でこの授業をやったときには、ここで生徒に2✕70センチぐらいで横長のポストイットを配りました。

それから、各班にA3以上の紙を配り、1人5個以上、できれば10個ぐらい、なくなりにくいほうの仕事を思い浮かべて、1枚のポストイットに一個書く。それを自分で溜めていきます。5人いれば50枚、20枚から50枚は集まるので、それをA3用紙に張り込んでいきます。

調べてもらう分類ですね。このとき、求人法やなにやら難しいことを学ばせなくても、3つの原則できれいにまとまります。それはなにかというと、仲間だし、別に先輩後輩だろうとなんだろうと失礼なことは関係ないので、同じものを書いたら上に貼っちゃってと伝えること。

例えば、看護士というのがあったら、そういうのは全部上に貼っちゃう。次に例えば、介護や教育支援が出てきたら、それはもしかすると関連しているので近くに貼っておいてと。それに車掌が出てきたらこれはちょっと違うじゃん。そうしたら、遠くに貼ってという。関連したものは近くに、ちょっと遠いかなと思ったら遠くに貼る。

そうするとなにが起こるかというと、20枚から50枚を貼り終わった段階で、グループができましたね。これを、グルーピング、分類というのですが。

子どもたちはどちらかというと、グループなどと言うよりは、ポケモンカードゲームをみんなやっていますから、“〜系”という言い方をしたほうが一発でわかるのね。水系、火系などがあったじゃないといったように。

そうして、関連で20枚貼られたグループを線を引いてこうやって囲う。そうすると、それに名前を付けていって、今度はグルーピングからネーミングという段階です。名前を付けます。

実際にあるグループは、先ほど僕が言ったような仕事に対して、「癒やし」という名前を付けていました。なるほどなぁと僕は思ったのですが。そうではなくて、3つ、4つ、5つ、6つぐらいあってもいいのです。

人間がやるべき仕事=人間とはなにか

本当はこのまとめをやってもらいたいのですが、今日はちょっと時間がないので、軽い1分半ぐらいのブレストの中で、まずはとにかくなくなりにくい仕事を、車掌以外にいろいろと挙げてもらいます。

今、ヒントも言っちゃったのですが、それらに共通する要素。これもあるじゃない。これとこれとこれといったように、この3つの要素があればロボットに勝てるというように。

そうすると人間としての尊厳をあおる三種の神器のようなものがわかると思うのですが、この理論を突き詰めていくと、本来人間がするべき仕事はなんなのかということが見えてくるはずですよ。

それ以外は、本当はロボットがやったほうがいいのです。この10年から15年で、人間がやるべき仕事にみんなが集中できるようになるという、すごい時代が来るわけですよ。

もっと突き詰めれば、人間とはなにかというのが見えてくるのですよ。人間とサイボーグとを並べたときに、人間というのはいったいなんなのかということを突き詰めるだけのネタなのですが。

ですから、しっかりやってもらいたいと思います。そして、もう僕はそこに20分もかけません。1分半です。いきましょう。いいですね。なくなりにくい仕事をガッと挙げ、その特徴を述べよ。行きましょう。3、2、1、どうぞ。

(議論)

「生きる力」を示す3つの輪

藤原:そこまでにしていただいて。この議論は、生きている限り続けていただきたいですね。この10年ぐらい、本当にこれが大事になってくるのです。

ここに逆三角形の図がありますが、これは生きる力の逆三角形というものです。僕は今回の本の中ではっきりと示しているのですが、この図が何度も出てきます。

20年前から僕がずっと言っていることであり、実はお気付きの方は気付くと思いますが。文部科学省が生きる力というのを相当あいまいなやり方でずっとやってきたのです。

しかし、去年あたりから3つの輪で表現するようになりました。それが、この基礎的人間力と情報の処理力、知識、技能の下、情報の編集力、思考力、判断力、表現力です。

どうしてそういうことになるのかというと、誰がどっちをリードしているのかということに気付くと思うのですが、要するに嘘だと思ったら確かめてみて。この通りの図が3つの輪っかで描かれていますから。

とにかくここで僕が言いたいのは、みなさんが学校でも塾ででもいいのですが、子どもを前にしてどういった力を付けるかというと、この3つでしょう。基礎的人間力には体力から、忍耐力、精神力といろいろあります。

これはでも、51%は家庭教育でつける力だと思うのですね。学校では補助的に学級活動や、あるいは部活などを通じてこれを強化することはできますが、基本的な人間力というのは、僕は家庭が51%以上だろうとは思います。

学校でつける力のうち一番大きなものは、教科の学習を通じて、この知識、技能のほうですよね。情報の処理力。つまり、正解がある前提の問題に対して、正解を早く正確にきちっと当てる力。この力が高ければ、だいたいサラリーマンになっても、処理的な仕事については任せられると思うのですよね。

だから、例えば大手企業の人事を中心に、なぜ大学の銘柄で選ぶかというと、結局、大学の偏差値が高いほうが入試を突破する力が強いわけだから、会社でもう1回テストをせずとも、情報処理能力レベルが高いといった評価ができるわけですよ。わかりますよね。

人事部は大学でなにを学んだかなんて気にしていないのです。その前の入試がどれぐらい難しいものだったかという、ちょっと寂しい話なのですが、これが現実ですよね。

正解のない時代を「情報編集力」で納得解を紡ぐ

それに対して今、成熟社会へ入ると、鈴木寛の言葉で「板挟み問題」ね。僕は想定外という言い方をしますし、正解のない時代とも言いますが。その中で、自分が納得し、かつ関わる他者が納得できる納得解をどれぐらい頭を柔らかくして紡げるかという、この情報編集力が大事になるわけです。

この情報編集力のリテラシーの中に、コミュニケーション、ロジカルシンキング、シミュレーションロールプレイ、プレゼンテーションといったものがありますが、これは、くわしくはこの本を読んでもらえればわかります。ですから、今日のところではくわしく解説をしません。

とにかく、これは遊びのリテラシーなのですよ。つまり、想定外のことに対処できる力というのは、はっきり言いますが、10歳ぐらいまでにどれぐらい遊んだかということがベースになる。

その後、遊びの感覚がない人には、こっちのことはわかりませんね、たぶん。予定想定外のことに対応するわけだから。「遊びの中に存在をつくるということから、この3つが非常に大事ですよね」ということがまず頭に入ったら、どういった仕事が集まりにくいのかということも、これでもうだいたい明らかになっちゃうのですよ。

それからもう1つは、インスピレーション、イマジネーションを含めて、複雑な問題をある種の勘でさばいたり、板挟み問題においてなんとか人を説得しながら妥協点を見出すといったことも含めた納得解を生み出す力は、しばらくは人間がやる仕事で一番大事なものだと思いますね。

「しばらく」と言いましたのは、今、AIもディープラーニングという技術によって急速に自分で学ぶ力を身に付けているからです。要するに、囲碁で勝つようになっちゃったので、これはやばいぜという話になっています。

15年、20年後にはもしかするとこちら側の力も相当付けてくるのではないかと言われています。

その辺りが2050年の手前、2045年ぐらいでやられちゃうかもしれないという問題もあるのですが、まず当面はこちら側に振るということですね。こちら側に振っておかないと、こっちはどんどん取られていくわけですから。

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