2024.12.19
システムの穴を運用でカバーしようとしてミス多発… バグが大量発生、決算が合わない状態から業務効率化を実現するまで
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高木健一郎氏(以下、高木):校閲部と他の部署との違いでもあるんですけれども……。
例えば編集者だと取材をしなきゃいけない、ライターと取材先とあとカメラマンと日程を調整して取材に行かなきゃいけないといったもので、そういう予定をようやく調整してその日を迎えようとしたときに、ライターから「今日は行けません」みたいなものがある(笑)。
あとは取材先から「今日はかんべんしてください。明日にしてください」と言われると、また調整しなきゃいけない。取材が終わるまで息が抜けないんですね。編集者だと、やっぱりそういった心配というのが常に頭の中を巡ってるわけです。
ところが、校閲の場合はそういう心配はありません。会社に来れば、仕事が山のようにあるわけです。確かに1つミスを見逃せば0点。0点が積み重なると本当にうんざりするんですけれども。
取材記者にしても、「この企画を本当に書かなきゃいけない」「これを取材してとにかくまとめなきゃいけない」という時間との勝負だったり、そういう心配は常に頭の中にある。休みの日も「あの原稿どうなってる?」とデスクから電話があったり(笑)。本当に休んだ気がしないです。
でも校閲の場合、それがほとんどないんじゃないかなと思います。
ただ一番のつらいところは、達成感がないと言いますか。要するに間違いが自分はないと思ってその日を終えても、翌日に会社へ来たら、「実はここの部分が間違っていた」と訂正になってしまうかも……という心配がどこかにあるんですよね。それはやっぱりつらいところなんです。
紙面になってしまえば、あとはもうどうすることもできないので。校閲の立場からはもう紙面が降りて(印刷に回って)しまえば、まあいいかということで、比較的気持ちの切り替えがしやすい仕事じゃないかと私は思っています。
平山泉氏(以下、平山):そうですね。一応「点を取り返すことはできない」ということで、私、ゴールキーパーに例えました。私の父はゴールキーパーを昔やっていたものだから褒められたんですけど。そういうつらさはありまして。実際に校正をやっている方に、その点を取り返すことができないというところに共感したと言ってもらえたのはすごくうれしかったです。
でも、そんななか若手もすごくがんばってくれているので、私はそれにまた励まされたりしています。
平山:リカバリー法とも関係あるかもしれないんですが、誰か周りの人に助けてもらったとか、なにかそういう経験はありますか?
渡辺みなみ氏(以下、渡辺):常に周りと助け合っていると思うんですけど。1人では本当に読んでいなくて、いろんな人と一緒に仕事してて。
この鳩山由紀夫(のミスの件)なんですけど、鳩山首相は岩佐デスクだったと思うんです。その時は岩佐デスクが間違いを見つけたような記憶があるんですけども。そういう感じでミスをカバーし合ってみんなでやろうという感じで、常に助けられていると思っています。
斎藤美紅氏(以下、斎藤):私も本当にまったく同じで、いつも助けてもらっていて。一緒に読んでくださるデスクとかキャップにも助けられているんです。
例えば新聞の降版間際に「ミサイルが撃たれた」とかいって記事がわーっと入ってくることがあって、ぜんぜん調べが追いつかない時に、周りのもう自分の面が降りて手が空いている先輩や後輩が「調べるところあったら言ってね」と言ってくれるのは本当にありがたいと思っています。
平山:どうしてもニュースを扱っているものですから、予定と違うことが突然起こったときにもなんとかそれを記事にしなきゃいけない。そうすると時間がないときだと、どうしても校閲の時間が相当短いという。
そうすると、もうその面の担当だけではとても追いつかないというときに、ちゃんと声をかけて、若手同士で「ここ見ようか」「ここ調べようか」とか、そういうことをやってくれているようなので、それはとても頼もしいなと思っています。
平山:なんか暗い話が多くなったので(笑)。ちょっとね、みんなほら、「よくがんばったな」というちょっと成功体験というか、自分はあまり成功体験ってないんだけど。直して当たり前なので、当たり前のことをやっているだけなんだけど。ちょっとうまいことやったなとかっていうのはなにかない?
渡辺:本当に事前に質問を教えていただいて考えたんですけれども、本当に見つからなくて(笑)。
でも、さっき高木さんがおっしゃっていたんですけど、毎日けっこうギリギリで生き延びて、締め切りが来て「あー、終わった。お疲れ」みたいなので、たまにあとから重大な間違いが見つかって「ガーン」みたいなサイクルで毎日毎日やっているので。
重要なニュースを読んだ感想とかあまりなくて、わりとどの記事も同じぐらい価値があって。すごく小さい記事でも間違いが出たらがっかりみたいな感じなので、そんなにこれといってないんですね。
でも、最初の中島らもの例の小説(『今夜、すべてのバーで』)でも書いてあったんですけど、赤字を入れる仕事って続けていくうちにけっこうだんだんハイテンションになっていくんです。
外見上は本当になにをしてるかわからない、退屈そうに見えているんですけど、ぜんぜんそんな退屈の入り込む隙がなくて。そういうハイの中で気持ちよくなっていくというのはあります。
そういう「がんばったな」を毎日毎日積み重ねているという感じで、一つひとつがとくに重大とかいうことではないんですね。
平山:以前、選挙の時とかExcelを使って準備したり……。
渡辺:あ、はい。いや、でもあれも……選挙の記事はたくさんの分析があるんですけど。選挙のデータは全部公開されているので、それを使って表計算したりして、記者の人たちはそれぞれでやっているんです。校閲でも同じ計算をしてそれが合っているかどうかを確かめようというのをやったんですけど、あれも本当に積み重ねでした。
一発勝負なんですよね。事前にけっこう表計算の関数を組んだりして準備はしたんですけど、当日一発勝負で、あまりうまく走ったかどうかは(笑)。役に立つ部分もあり、がっかりした部分もありみたいな感じです。
でも、あれはけっこうがんばったと言えばがんばりました。どのくらい役に立ったかどうかはわかりません。
平山:実は大きい選挙、国政選挙なんかの時には、もちろん記者の人たちはデータを自分たちで調べたり作って記事を書いてくださるんですけど。
それを確かめるときに、以前はその都度いっぱいある候補者リストから数えたりしていました。例えば、女性だったり党だったりはもちろんですし、何党かとかちゃんといちいち数えていたんですね。
それをなんとか当日の時間がタイトな中で効率よくできないかということで、チームで……というか1人か2人という。
渡辺:1人でもやってました。
平山:ねえ、1人でやった時もあったよね。
渡辺:その時もありますね。
平山:要するにExcel班を作ったんです。Excel班という名前もどうかと思うんだけど、事前にデータを自分たちで作って、当日すぐデータ的なことを数えていられないときに、「Excel班! これわかる?」みたいな感じで言うと「はい」と答えるみたいなことを、実は最近の選挙でやっています。
解散になってしまって総選挙でまた大変なのですが、その時はまたExcel班に活躍してもらう、というようなことも実は校閲でやっています。
平山:美紅ちゃんはどうですか?
斎藤:さっきから出だしが渡辺さんとまったく一緒で申しわけないんですけど、私もあまりがんばったことを覚えていなくて。記憶に残りにくい仕事だとは思うんですが、あまり「あれがんばったな」というのは記憶から出てこなかったんですが。
仕事をしている上での達成感というのは、運動面とかやってるとものすごい量の記録や記事など、扱わないような記事とかすごいいっぱい出てくるんですけど。それを降版時間までに全部ちゃんと調べて読み切ったというのはものすごい達成感があって、「やった!」と思います(笑)。
渡辺:ゲラ(原稿)が分厚いと「よし、やった!」みたいに思いますよね(笑)。
斎藤:(笑)
平山:「全部調べきれたぞ」って。それでも落とし穴がたまにあったりするんだけど、とにかく一通りやれることはやったというときはやっぱり達成感ある。
平山:なかなか時間がなかったりする中なので、けっこう大変だと思うんだけど。そういうときに独自で工夫しているとか「こういう道具をけっこう使ってます」みたいなものはなにかありますか? なにか仕事で役に立つこと。まあなければないで。あとは「あの人のいいな」とか。
渡辺:だいたいその日の紙面のメニューというのは、突発的な事故以外はわりと最初の編集会議で示されるので「今日はこういうニュースが来るな」とはなんとなくはわかっているんですね。記事の中身まではわからないんですけど。
先輩でその日の下調べをしている人がいるんですよね。例えば、過去の記事を見て重要な名前を書き出しておくとか。そんな先輩を見て「いいな。すごくコツコツした感じでうらやましいな」って、それをやってみたんですけど、けっこう飽きっぽくてですね(笑)。
(一同笑)
でも、たまに記事が出てくることが確定してる場合は、本当に仕事の前に過去記事などをかなり読んだりはします。
あと、編集局ってけっこう「わーっ」とお祭り騒ぎみたいになるんですけど、そういうときに自分も一緒にお祭りをしちゃうと必ずなにか間違いを見落としちゃうので、なるべく……落ち着いて。違う、空気を読まない感じでいようかなとは思っていて。
平山:それはすごく大事だよね。
渡辺:はい。それはいつも気をつけようと思っていますね。
平山:なんかミサイルが飛んだとかいったら「わーっ」となるけど、そこを聞いていないかのように。
渡辺:そうですね、「へえ」みたいな。
平山:それ大事だと思います。美紅ちゃんはどうですか?
斎藤:言ってくださったんですけど、自分のペースを崩さない(笑)。自分のペースを崩さないというのは本当にたぶんみんな心がけていることだと思うんですけれども。
自分が焦ると本当にケアレスミスが増えることを自覚しているので、わーって読んで「読んだ!」と思ったら、デスクからすごい間違いが返されてきて、「うわっ」ってなったりとか本当にあるので、それは最近、本当に気をつけているところです。
斎藤:あと運動面の工夫の一例なんですけど、ノートを作って(ノートを見せながら)これはぜんぜん(小さくて)見えないと思うんですけど。ラグビーのポジションがものすごく複雑でわかりづらかったので、自分で番号をふって書いてみたりして。ラグビーの校閲をするときはこれを見ようとか、そういうのをたまに自作したりはしています。
平山:めちゃくちゃいろいろ書いてあるね。
斎藤:はい。
平山:鉛筆で手書きでびっしり。
斎藤:手書きで。
平山:やっぱり自分で作ると自分で使いやすいということもありますしね。
斎藤:そうですね。書くことでちょっとだけ覚えたり、「これ書いたな」と思い出せるので。
平山:みんな苦労しているようです。
峯晴子氏(以下、峯):私も質問があるのですが、実際にそのノートはもう何冊もあったりするんですか? ジャンルごとに分けたりするんですか?
斎藤:いえ、最近は1本化しようと思って。前は間違えたことと、このいろいろ自分の資料用と分けてたんですけど。最近は1本化しようと思って全部一緒のノートに書いています。そんなに何冊もまだないです(笑)。
峯:ベテランの平山さんにも、工夫している「お仕事グッズ」や、仕事の効率化のためにやっていることなどはあるのでしょうか。ぜひうかがいたいです。
平山:私、完全にアナログなので。以前、アルバイトの子に「平山さん、どんな電子辞書を使ってますか?」と聞かれて、「私は紙です」と言ってがっかりさせたことがあったぐらいなんですが(笑)。
だから、それこそ書いたら覚えるというのがあるように、切り抜いて貼るという作業をするだけでもなにか役に立つかなみたいな資料を作ったり。しかも作ると、いつ役に立つかわからないからってどんどん増えちゃうんですね。
ちょっと今日はあまりにあるので持ってこなかったんですけど、このくらいの大きさの丈夫な布袋にファイルがいっぱい入ってて。こっちは選挙、こっちは言葉系とか、いろいろ大きく分けてはいるんですけど。
それより、きっと若い人だったら、さくっと検索するほうが早いってなるかもしれないんですが、私もそういうときもあるんですけど、でも意外と手元にあると役に立つこともあるので、相変わらずその荷物が減らない。というか増えるという状態になっています。
平山:じゃあ言葉の面で1個だけ。一応、私たちは用語の決まりにしたがっていろいろ直すし、慣用語句もこれは直しましょうみたいなふうにしているんだけれども、「それって決まりだから直すけど、実はふだんは普通に使うよね。直すのちょっと違和感ある」みたいな言葉ってありますか?
斎藤:これは先に先輩に言ってほしかった(笑)。
渡辺:じゃあ言いますね(笑)。
自分で使っちゃう言葉、私は愛知県出身なんですけれども、「ら抜き言葉」はけっこう周りが、おじいちゃんおばあちゃんもみんな使っているので、本当に違和感がなくて見逃してしまうことがたまにあります。
硬めの文章などの地の文で「ら抜き言葉」、可能の意味とかで出てくると気になるんですけど、話し言葉とかぜんぜん気にならないんですね。
私の地元だと「こんなもの食べられないよ」を「こんなもん食べれえせんがや」「食べれんわ」とか言うんですね。「食べられせんがや」は言わないんですね。なので、むしろ入れるとちょっと「ん?」ってなっちゃうので、これはやっぱり感じたりします。
平山:私はしゃべるときはけっこう適当だけどね(笑)。どうですか?
斎藤:ふだん硬いメールを打つことはあまりないのでぜんぜん気にしなくて。友達とのメールのやりとりでも普通にら抜き言葉を私も使いますし。
この間、そこの岩佐デスクに仕事のメールを打った時に、「各~ごと」という書き方を普通にしてしまって。送った直後に気づいて「あっ……」と思って、ちょっと恥ずかしかったです。
岩佐義樹氏(以下、岩佐):すみません。気がついた覚えはないです(笑)。
(会場笑)
平山:私とかも友達にメールをすると「メールをするのが緊張する」とか言われちゃって。「私も見てわかるように適当に書いてるから」って言うんですけど。
さっきの「各~ごと」というのは、用語集には「各国ごとに」が載っていて、「おのおのの国ごとに」というのは「各」と「ごと」がダブりというか、片方なくてもいいだろうということで、どちらかは取りましょうねみたいなことになっているんですけど。まあ別に普通に言いますしね。
ダブリというのは新聞だからとくに厳しいんだと思います。やはりシンプルにわかりやすくということが特にあるので。それが誤りだということは、あまりに見た目が「馬から落馬」となるのはどうかなというのはあるかもしれませんけど、必ずしも誤りじゃないのでぜんぜんいいと思います。
斎藤:ありがとうございます。
平山:こんな感じで、まだたぶんみなさん、聞きたいことがあるのではないかと思いますが、私が用意したのはこれだけです。
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