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SNS時代の劇場アニメの変化への対応(全8記事)

信仰は理不尽にこそ宿る––『マクロスF』の例に見る、長く続くコンテンツの特徴

2017年7月20日、Tokyo Otaku Mode渋谷オフィスにて、株式会社シェアコトが主催するアニメカルチャーを活用したプロモーションに関するセミナー「NED」が開催されました。イベントには、シェアコトにてアニメコンテンツマーケティングを手がける武者慶佑氏と、株式会社ウルトラスーパーピクチャーズのプロデューサー、平澤直氏が登壇。劇場アニメが増加する理由や宣伝方法の変化まで、実際の作品を例にアニメビジネスの裏側を紐解きました。

Web動画のトレンドは?

武者慶佑氏(以下、武者):こんな感じで、一応90分ほどお話しさせていただきました。

平澤直氏(以下、平澤):もうそんなになりますか。

武者:質疑応答ということで質問をいただいています。どれにしますか?

平澤:どれにしましょうか。この質問の順番って、申し込みが早い順ですか?

武者:これは順は申し込んだ順ですね。

平澤:申し込んだ順ということは、ご熱心な方がきっと上から順だと思うので、じゃあ上から順に回答します。

武者:上から順にいきますと、「Web動画のトレンドなどをぜひ知りたいです」。

平澤:難しいな(笑)。

武者:いきなり概論的なことになりましたね。

平澤:私もWeb動画の専門家かと言われると、なかなか。

武者:でも、Webの動画は尺は短いですよね。めちゃくちゃ。

平澤:そうですね。尺は短いのが多いのと、これも大きな流れになっているのでみなさんご承知とは思いますけど、やっぱり地上波で放送されないタイプのものがWebでバズることは多いですよね。

あとは、例えば今、『たけしのお笑いウルトラクイズ』みたいな番組って、ちょっといろいろ世の中の事情が変わってなかなか地上波で流しきれないところがあったりするかもしれないですけど、例えばそういうところの、まさに『お笑いウルトラクイズ』みたいな番組が満たしていたニーズは、今はWeb動画になっている。

武者:なるほど。ちょっと危ない橋をギリギリ渡ってるか渡ってないか……(笑)。

平澤:ええ。「〇〇してみた系」の。

武者:はいはい、YouTuberとか。

平澤:この前聞いてびっくりしたのは、海外には投石機のマニアの人がいて、世界中のいろんな投石機を再現していて。その中で一番すごいのが、「中古車を百何十メートル投げる投石機作りました」みたいな映像があって。ちょっと前だとディスカバリーチャンネルに流れてそうなんですけど、今はYouTubeに載ってるそうです。

武者:へえ。

平澤:海外YouTuberってわりと体を張る系の人が多くて。南米には噛まれると痛いアリが何匹かいるので、それに噛まれに行ってみて、どれが一番痛いか。

武者:今、日本ではちょっとタイムリーすぎるのであんまりやめたほうがいいですね。

平澤:タイムリーすぎる。そうですね。みたいな動画があげていらっしゃるプロの方もいらっしゃったりして。

武者:へえ。

平澤:そのあたりってやっぱり確かに耳目を誘うなというか。

武者:確かに。

平澤:よりパッと聞いてすぐ見たくなるみたいな、欲望に訴えかけるものは強いかもしれないですね。

武者:確かに。ストレートな欲望はありますね。

平澤:ですね。

スマホシフトで尺が短く

武者:でももう尺の話になると、GIFでもいいという傾向もありますね。

平澤:そうですね。

武者:GIFレベルでもOKみたいな。GIF画像を作れるアプリも増えていますし、今、FacebookのメッセンジャーでもGIFを送れるじゃないですか。そういうこともあるのかなと思っていて。欲望に直球で超短い、みたいなものもありかなと。

平澤:そうですね。超短かければ今度はコミュニケーションに使えますからね。そういうのもかなり大きなニーズがあります。スタンプみたいに使うということですね。

武者:声がなくてもわかるというのも大事かなと思ってます。

平澤:確かに。声がなくてもわかる、大事ですね。これも大きく言うとスマホシフトの影響ですね。

武者:確かに。移動で。

平澤:みたいなのはあるかなというのが1つですかね。こんなんでよろしければ、すいません、ご参考になればという感じですね。時間があるのでどんどんいきましょうか。

信仰は理不尽にこそ宿る

武者:そうですね。次。「一過性のブームで終わってしまいがちなアニメコンテンツに長く人を惹きつける、エンゲージメントを高めるためのエッセンスなどがあればお聞きしたいです」。なんか横文字がいっぱいありますね。

平澤:おお。難しい。

武者:(笑)。

平澤:これはまず作品とお客さんの関わりで申しますと、僕の大好きな宗教学者の言葉がありまして。「信仰は理不尽にこそ宿る」という言葉があります。

武者:それちょっと、横文字じゃないけど、わからなかったですね(笑)。

平澤:なにかを信じる強い気持ちは理不尽にこそ宿ると。だから、実は全部をお客さんの思いどおり予測どおりにしてしまうと、実は愛着が生まれなかったりする。

武者:昔でいうエヴァみたいな、補完要素があったほうがいいとか、そういうことですか?

平澤:例えば、最後の最後でお客さんの期待どおりにしない。

武者:裏切るっていうこと?

平澤:とか。

武者:未完みたいな?

『マクロスF』は三角関係が解決しなかったのが良かった

平澤:例えば、『マクロスF』という作品ですごくうまいなと思ったのは、あれって散々三角形関係引っ張っておいて、結局解決しなかったじゃないですか。

武者:そうですね。劇場までやっておいて、「どっちだったんだっけ?」みたいなところを若干残して。まあ、「こっちなんだろうな」というのはありましたけど、明言はしていないみたいな。

平澤:ですね。例えばあそこで、恋愛関係の決着というのはお客さんが望むもので、ストーリー上望むんだろうなと思うけど、解決しない。

それによってお客さんのある種の集中が続いたのではないかと。たぶんテレビシリーズで三角関係が解決しちゃってたら、「劇場行かなくてもいいや」って思う人いたかもしれないですね。

武者:なるほどね。「どうせ好きならこっちでしょ」というところが。

平澤:みたいな。もうこれは恋愛関係の確定で、片方を選んだということで、まあそれはどっちのお姉ちゃんでもいいんですけど。

すいません、わからない方いらっしゃるかもしれません。簡単にいうと、男の子をアイドルの女の子2人が取り合う話なんですけど。

武者:一切宇宙の話省きましたね(笑)。

平澤:省きました(笑)。

武者:ロボットの話も省きましたね。

平澤:ロボットの話も省きましたね。という作品なんですけど、普通はどっちかを選ぶけど、選ばせないと。逆に選んじゃったら、そのストーリー終わっちゃうし満足しちゃうので、次なる欲求が生まれないんですよね。

なので一番大事なのは、やっぱりフェチズムだったりわかりやすさだったりという基本的なものがあって、お客さんを惹きつけて惹きつけて、最後の最後にお客さんの思いどおりにしない、みたいなところが入ってると、それによって印象に残ったり、ある種のエンゲージメントが長く続く部分があるのかなというふうに思いますね。

フォントや色だけでエヴァだと分かる

武者:確かに。僕はプロモーションといったところから考えると、エヴァンゲリオンに少し関わらせていただいたことがありました。

エヴァンゲリオンのプロモーションって、もはやストーリーがなかったとしても、エヴァンゲリオンのキャラクターがなかったとしても、色とか言葉とかフォントとか、そういったものだけでプロモーションを設計できるという特徴がありまして。

もうその次元までいくと、エヴァの周りにあるコミュニケーション、文脈をエヴァと認識できると。

平澤:なるほど、なるほど。

武者:だって、こういうフォントがあったらエヴァでしょ?

平澤:はい。そうですね。紫と緑だとエヴァですね。

武者:そうですよね。だから、そういったかたちでできるとまたいいのかなと。例えばTokyo Otaku Modeさんも着物を開発されていたりとかありましたけど、エヴァの柄が思いっきり入ってなかったとしてもエヴァになるようになってるし。というのこともあるのかなとも思いますよね。

平澤:おっしゃるとおりです。

武者:下手したら白地に黒で、「これエヴァなんじゃねえか」って僕思いましたもん。今。「予告?」みたいな。

平澤:おお、なるほど。確かに。本当に書体揃えちゃうともうあっという間に。

武者:そう。だから、こういった単純なキャラ消費ではないプロモーション設計ができると長く続くのかな、と考えています。

平澤:おっしゃるとおりですね。確かにキャラとキャラ以外。まあガンダムも、モビルスーツとモビルスーツのパイロットのように、ダブル主人公みたいな部分がありますよね。

武者:そうですね。敵にも魅力があって。

平澤:おっしゃるとおり。そういう意味でいうと、キャラクター以外にこれ見てこの作品だとわかる要素が入っていると、確かにエンゲージメントは長引くかもしれないですね。

武者:そう思います。あとは最近だと、『けもフレ』だと特別な言葉を言うだけでも友達になれる感はありますしね。

平澤:そうですね。はい。それでもう大丈夫だよねという感じ。

武者:そのあたりの再現性はちょっと難しいかもしれないですけどね。

平澤:それは、作品が「作品とお客さん」という関係から、「お客さんとお客さん」のコミュニケーションの間にどう入り込んでいくか、という時代になってきているので、まさにそういった日常会話等で使えるキーフレーズがあると、なんとなく長く使えるようになるかもなと思います。

アーカイブ消費という発明

武者:それで思い出した。二次創作。

平澤:ああ、そうですね。

武者:やっぱりイラストやコスプレがずっと続くものは、長く続くと思っていて。それってコミケと一緒に伸びていくから、「半年は保つ」みたいなことがあるんですよ(笑)。

平澤:確かにそうですね。pixivに比べるとコミケは更新回数が少ないので。

武者:そうです。だから、それで長持ちさせるという方法もあるかなと。また、「じゃあ二次創作がたくさん発生する作品ってなんなんだっけ?」という分解もできるかなと思っています。

平澤:そうですね。現状においてはやはりあれですね、まだまだアーカイブ消費が2000年年代後半から10年代に入り始めたあたりから一気に本格化して。

やっぱりアーカイブ消費って、キャラクターの背後にいろんな情報が付加された状態で入ってくるし、そこに異論の余地がない状態で始められるので関係性がすごく作りやすいというのはありますよね。いまだそれを超える発明ってなかなかというところがありますかね。

あっ、この場合、アーカイブ消費というのは例えば戦艦とか刀ってことです。すでに世の中にある種類の多いものを、例えばキャラクターにするということです。ねえ、だって刀剣乱舞ってアニメ化されるまで、1キャラのセリフって30ぐらいとかですよね。

武者:うん。しゃべるということがありえない、みたいな。

平澤:すごかったですよね。『刀剣乱舞-花丸-』が始まった時。ファンたちが「今日だけで何回しゃべったかわからなくて、ちょっと脳の処理が追いつかない」みたいなところまでいってらっしゃいましたし。

武者:(笑)。

平澤:そうですね、なにが言いたかったか。確固たる歴史や特徴があったりすると、やっぱり長く使えるところはありますかね。

武者:確かに。作品の単体じゃなくて、もう少し深掘りしたところで作品としての理解ができる。刀を見ただけで「これ刀剣なんじゃないか」って思っちゃうみたいな。

平澤:まさに。そこにアーカイブ消費においてはストーリー性よりもキャラクター性のほうが強くなるので、そこにキャラクターをいかに掛け合わせるか、組み合わせるかということですごく多い。

武者:二次創作もしやすい。

平澤:しやすいというところもありますね。なので、いまだアーカイブ消費スタイルのコンテンツを超える発明はまだまだ少ないかなと思いますね。

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