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SNS時代の劇場アニメの変化への対応(全8記事)

『君の名は。』はどれくらい規格外だったのか? ツイート数で分析する、劇場アニメの変化

2017年7月20日、Tokyo Otaku Mode渋谷オフィスにて、株式会社シェアコトが主催するアニメカルチャーを活用したプロモーションに関するセミナー「NED」が開催されました。イベントには、シェアコトにてアニメコンテンツマーケティングを手がける武者慶佑氏と、株式会社ウルトラスーパーピクチャーズのプロデューサー、平澤直氏が登壇。劇場アニメが増加する理由や宣伝方法の変化まで、実際の作品を例にアニメビジネスの裏側を紐解きました。本パートでは、「劇場版アニメの分類」をテーマに、昨今の劇場アニメ作品をカテゴライズ。TVシリーズ放映後に劇場版になる作品と、はじめから劇場向けに制作される作品の宣伝手法にはどのような違いがあるのか? あの話題作も例に用いて、アニメビジネスを紐解きます。

『君の名は。』が業界に与えた影響

武者慶佑氏(以下、武者):ではさっそくにこれついて聞きたいんですけど、『君の名は。』。

平澤直氏(以下、平澤):きました。

武者:これどうですか? これは恋愛映画ですか?

平澤:まさにこれはもう青春映画・恋愛映画ですよね。青春・恋愛・SF。でも、このSFが珍しいですよね。青春・恋愛では実写もいっぱいありますけど、それに加えてSFで、しかもアニメでやるのはおもしろいアプローチなのかな、と思いますよね。

武者:この『君の名は。』が出ちゃったことによって……出ちゃったなのか、狙って出してるのかわからないんですけどね。

平澤:ああ、なるほど。

武者:そこはどうなのかなと思って。『君の名は。』が与えた影響って、製作側の方からすると……。「こんな感じで作ってね」みたいなのもあったりしますよね。

平澤:あの……いや、いっぱいあるみたいですね。

武者:けっこう、これが影響を与えていることはあるのかなと思うんですけど。

平澤:おっしゃるとおりですね。これまでアニメが映画になるためには「やっぱりアクションシーンがあったほうが」とか「実写でできないことをやるべきだよね」みたいな話がどうしても企画開発の段階でありました。

でも、今回は実写でも対応不可能ではない題材で、それがドカンと大規模に公開されて、しかも当たったというのは、すごく大きなインパクトがありましたね。

中高生向けと言ってもいいかもしれない。もちろん大人も見れますけれども、恋愛や青春を主題にしたこういった作品をアニメで大規模公開できるんだ、しかもオリジナルで、というのはやはり極めて大きなインパクトを残した作品だと思いますね。

武者:世の中的に言うと、『君の名は。』も含めてアニメというものが受け入れられて、かつ、劇場でみんなと一緒に観るということ自体、コミュニケーション化するということも受け入れられて一般認知を獲得しているというところもあると思います。

劇場版アニメを分類してみる

武者:でも、劇場版アニメってそれだけじゃないですよね。なので、少しこう題で打って見ました。「劇場版アニメの分類」ができるんじゃないかなと思っていて。あとは、製作側がなぜそれを作ったのか。その狙いとか、あとは企業が狙うべき劇場版アニメとはなんなのか、もう本題に近いことをいきなり話したいと思います。

平澤:いいですね。まいりましょう。

武者:はい、まいりましょう。いろいろある劇場作品を一覧してみました。『君の名は。』『この世界の片隅に』、あと『モンスターストライク THE MOVIE』も入れていますし。

平澤:ありがとうございます。

武者:あと『ソードアート・オンライン』『ひるね姫』『夜は短し歩けよ乙女』『KING OF PRISM』『魔法科高校の劣等生』とか、『きみの声をとどけたい』『打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?』ですね。

この1年くらいで公開したものを中心に並べてみましたが、これはざっくりどうですか? 分類できたり、「こういう狙いで作ったな」みたいなこととかってわかったりします?

平澤:まず劇場作品は、先ほどお伝えしましたとおり、お友達を誘っていくタイプのいわゆる体験消費、お祭り消費に近い部分があると思っています。ではどういうお祭りなのかというと、大きく2種類あると思ってまして。テレビ版を先にやってから劇場になる作品と、そうじゃないやつ、と言えばいいですかね。

武者:『ソードアート・オンライン』とか『魔法科高校の劣等生』はテレビ版が先にありますよね。

平澤:そうですね。なので、テレビでついたお客さんの、ある意味の総決算というか、1つの区切りとして、劇場の大きな画面でこのタイトルを観る体験を届けたいという、いわゆる「ファンムービー感」というとちょっとあれですが、「好きな人はみんな集まれ!」っていうタイプの作品ですね。

武者:この場合の狙いは、やはり今まで作品を見たことのあるファンの人たちに、もう一度最後のビジネスチャンスじゃないけど、そういう感じなんでしょうか? 集大成のビジネスチャンスみたいな。

平澤:それぞれの(製作)委員会に関わっていないのではっきりしたお答えは申し上げかねますが、例えば宣伝のスタイルであったり、どういうところで宣伝を打つか、どういう場所に路上広告を置くか、というところを拝見してるとやっぱりそうですね。

基本は、テレビシリーズを愛してくださったお客さんに、まずはよりハイクオリティでより感動できる体験を提供したい、というふうに設計されているのではないかと思います。

ファンがいる作品はどのくらいツイートされているのか?

武者:僕、このファンムービーについてちょっとデータを取ってみたんですけど。

平澤:おっ。

武者:データはこれです。

これは『ソードアート・オンライン』の略称「SAO」とつぶやいている人が、1日あたり何人ぐらいいるかという数字です。2016年11月から2017年の公開まで、1年ぐらいずっと取ってるんですけど。

平澤:これはTwitterですかね?

武者:Twitterです。めちゃくちゃ安定してるじゃないですか。

平澤:安定してますね。

武者:ええ。ずっと5,000ツイートくらいされています。だから人ではないですけど、要は1日5,000ツイートぐらいの熱量がベースにあるよね、と。これがファンですね。

平澤:そうですね。まさに。

武者:というのがあるかなと。

平澤:おっしゃるとおりですね。これ、わかりやすいですね。ファンの方々がずっと煮えてて、それで劇場版が決まって「みんな集まれー!」ってなって「劇場初日です!」というピークの作り方ですよね。

武者:そうですね。それがたぶんファンムービーというか、この人たちに最大消費をさせて、「やっぱりSAOだね」というような、もう一度「SAO」って言いたくなるような人たちというか、観たくなる人たちをどれだけ最大化できるのか。でも、ベースがあるという話なのかなと思っています。

平澤:おっしゃるとおりですね。

プロデューサーから見た劇場アニメの違い

武者:一方で、ファンのベースがない作品もありますよね。『君の名は。』もそうですし『この世界の片隅に』にも、『ひるね姫』とか『夜は短し歩けよ乙女』とか。

平澤:このあたりはそうですね。おっしゃるとおり、まったくのオリジナルと、あとは同名タイトルで過去に名作があったり。『打ち上げ花火、下から見るか? 横から見るか?』は、岩井俊二さんの昔の名作テレビ番組でしたよね。そこから始まって。

ということで、いわゆるファンムービーは、すでについているお客さんをさらにドンとはねさせるというか、作品そのものについてるお客さんをはねさせるという形になります。ですがその他の作品は、それぞれのクリエイターについてるお客さんとか、もうちょっと別のタイプのつき方をしてるお客さんに「みんな集まれ!」というタイプの映画とは言えるかもしれません。

武者:製作側の人間としては、どちらのほうがやりやすかったり、やりがいがあるのか。そのあたりはどうですか? 『モンスト』はちょっと間をとっているようなところもあるかと思うんですが。

平澤:おっしゃるとおりですね。『モンスト』はYouTubeではありますが、一応シリーズ40何本を通して劇場に、というストーリーをひいたので、どちらかというとファンムービー感が強いかもしれないですね。

ほかの『君の名は。』や『この世界の片隅に』『ひるね姫』といったタイトルは、本当に垂直立ち上げ型というか。もちろんすばらしい監督さんたちだったり、集まっているスタッフさんやそのほかの要素によって話題を作ります。ファンがいる状態ではあるんですけれども、「蓋を開けてみないと……」という側面はやっぱりそっちのほうが強いですよね。

手堅くというか、プロデューサーとしてはテレビシリーズやってるような作品だと、やっぱりある程度安心してやれますし、そうでないやつは「さあ、がんばるぞ!」と。

コアファン→マスに話題を広げるには?

武者:なるほど。「さあ、がんばるぞ!」という作品が一般的にはマス向けになるんですか?

平澤:そうですね。結果的に見ても、わりとそういうふうに作られがちではありますね。これも映画の製作資金を出し合ってる(製作)委員会さんの狙いにもよるのですが、よりマスまでどんどん広げていこう、というパターンを考えがちです。

例えば、すでにテレビシリーズでずっとやってた作品であれば、マスをいきなり狙うというより、基本的にまずはコアのファンに全員観てもらって、コアなファンの評判を聞きつけた人に次に来てもらう、というふうに考える傾向にあります。

武者:『この世界の片隅に』なんて、まさにそのコアファンづくりから始めましたよね。

平澤:そうですよね。いわゆるクラウドファンディングのやつですよね。

武者:そうです。だから、僕も最初に『この世界の片隅に』のプロモーションを一部お手伝いさせていただいた時に、「コアファンはいる。ではそのコアファンに対して新しいファンをどうやって作るのか?」ということをソーシャルの軸に置きました。

どうやって新しい人たちを取り込んでいくか。原作ファンとか、なんかしらのコアファンは絶対どこかに存在しています。例えば『君の名は。』の場合は新海誠さんがいて、とか、あるんですよね。

だから、そのあたりのプロモーションの仕方は違うのかな、ということとか、企業さんはどっち側のアニメにつくのかなということで、届けるものによって届け方も違うのかなということを探りたいんですよ。

平澤:なるほど。おっしゃるとおりだと思いますね。

クリエイターの名前をプロモーションに使う

武者:これは『この世界の片隅に』の数字です。

『この世界の片隅に』の場合、最初はやっぱり声がないんですよね。これをどうやって上げていくかという作業が必要です。さきほどは5,000がベースにあったわけですよね。ですがこちらの場合は、ないところから5,000に上げていく、最初の斜めの上がり方が必要です。

平澤:そのフェーズというか、5,000を作るフェーズと言えばいいか。

武者:そうそう、5,000を作るフェーズが必要なんですよ。これって、どういうやり方があるのかはともかく、けっこう難しいことなんでしょうか? 製作側からだとどういうことを考える、ということはありますか?

平澤:やはりこれまでの映画の宣伝手法の多くは、スタッフの名前を出すことで、お客さんに「じゃあきっとこんな作品だな」と思ってもらう部分が強かったんです。それはこれまでの映画の宣伝のなかで監督名が前に出るような大ヒットタイトルがわりと見えがちなので。

大ヒットって、やっぱりクリエイターさんのある種のクリエイティビティに大きく依存するんだ、という考え方がやっぱり根強くあります。ゼロから立ち上げる場合はどうしてもクリエイターさんのお名前をうまく使わせてもらって。

武者:ジブリ作品なんかまさにそういうところがありますよね。

平澤:まさにそうです。例えばクリエイターさんに自信のあるアニメの場合、テレビや劇場を問わずクリエイターの掛け算をしますよね。「〇〇さん×〇〇さん」みたいなものがよくポスターに載りますけど。そういうものが、まさにゼロから立ち上げていくときに「クリエイターさんの名前でお好きな方々に見てもらおう」というやり方になってくると思います。

「クリエイターで見る」からの変化

武者:これゼロとは言わないんですけど、普通の作品の場合は、本当に小さなところからちょっとずつ上げていくという作業があったと思うんですけど。アレにおいては……。

平澤:ああ、なるほど。

武者:この作品では、最初から3,000もありました。もともとっていうのは1ヶ月前ですよ。

平澤:はい。

武者:3,000あって1ヶ月間で2万5,000まで上げていく。これはもうサイヤ人レベルの戦闘力の上げ方じゃないですか。

平澤:これすごいですね。改めてすごいな。

武者:そうそう。「何回も死ぬ危機に遭って、復活」ってやらないと、この上がり方できないだろうなと思うんですけど。

平澤:はあ、すげえ。

武者:順当に上げていこうと思ったりしたら、この上げ方はすこし難しくないですか?

平澤:製作者としてひしひしと感じているのは……これあれですね、前向きにとっていただきたいんですが、やっぱりクリエイターの名前で作品を見てくださるお客さんから、「お友達と一緒に見れるかな」とか、なにかしら、より自分事に近い興味で作品をチョイスされるお客さんに人数のシフトしたということは言えると思っています。

武者:そうですよね。

平澤:なので、これだけの人数を確保するには、新海さんをはじめとしたすばらしいクリエイターさんが集まってるんですが、たぶんそこに、さらにいくつかの手練、手練というと言い方あれだな、テクニックとかいろんな試みがあってこの数字になってるというのは間違いなく言えると思います。

武者:そのテクニックの部分は、もうすこしいろいろと読み解けるといいなと思っています。

例えば『SAO』の場合のように、ベースになるファンの人たちがいて、ファンの方々にちゃんと文脈があって「こういう作品だよね」とわかっているなかで与える情報のやり方と。

あとはベースがないなかで「こんな作品なんですけど興味ありませんか?」という問いかけ型を使っていきながらやっていく方法とか。これらは、コミュニケーション設計の仕方が違うと思うんです。

平澤:おっしゃるとおりですね。

武者:なので、こういったことを見ていくと、けっこうおもしろいことがわかってくるんじゃないかと思っています。もちろん、これがすべて興行に関係しているというわけではなくて、あくまでソーシャルの声、Twitter上の声ということなんですけど。どんな戦略を打とうとしてるのかであったりとか、どんなタイアップだったら向いてるのか、ということをもう少し読み解けないかなと思っております。

平澤:そういったポイントでいうと、例えばお客さんがSNSでよくつぶやくタイプのお客さんが多い作品はすごく有効ですね。一方で、例えばテレビへの接触時間がまだまだ長いお客さんをいっぱい呼びたい映画の場合は、やっぱりテレビで露出を稼いでおく、みたいな。たぶん呼びたいお客さんによってさらに戦略が見えてくる部分もあるかもしれないですよね。

タイトルは短いほうがいい?

武者:ちょっと話ずれちゃうんですけど、ソーシャルでつぶやいてほしいなら、僕的には「タイトルは長いのやめてほうがいいんじゃないかな」というのがあって。

平澤:ああ、なるほど。

武者:これなんて言ったらいいのか……、「『打ち上げ花火、下から見るか? 横から見るか?』見に行く?」ってなかなか難しいじゃないですか。「『打ち上げ花火』見に行く?」みたいなところになると「花火見に行く?」と一緒に混ざってしまいますし。

まあ、「打ち上げ花火、見に行く?」ってなかなか言わない。「花火見に行く?」ですよね。だから、この作品はハッシュタグに「#打ち上げ花火」を使っています。

平澤:ということは、なんかほかのものも混ざってしまいそうな。

武者:でも、雑音が混ざったとしても、「#打ち上げ花火」という単語はあんまり言わないので。

平澤:なるほど。

武者:そう、ハッシュタグは「#打ち上げ花火」というのを使ってるんですね。例えば『この素晴らしい世界に祝福を!』は「#このすば」じゃないですか。

平澤:「#このすば」ですね。はい。

武者:最近だと「#イセスマ」(『異世界はスマートフォンとともに。』)とかいろいろありますよね。その略称みたいなのはあってもいいけど、『君の名は。』の場合は使わない単語だけれど言いやすいみたいな。

平澤:そうですね。文字数も少なくて。

武者:そうそう。なので、それはすごくいいな、と思っています。僕的には、あの「。」はいらないなと思ってますが。「モーニング娘。」のあそこの「。」みたいな。あそこはいらないと思っています。

ソーシャルでつぶやきやすい言葉の数は、実は非常に重要な1個のネタになるのかな、とこっそり思っています。これは余談でした。

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