2024.10.01
自社の社内情報を未来の“ゴミ”にしないための備え 「情報量が多すぎる」時代がもたらす課題とは?
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庵野さんが言ってたことで、「アニメーションの画面の7割は背景美術でできあがってる」と。普段、アニメーションを観てると、キャラクターに感情移入して観ていくわけでしょうから、背景美術っていうのはそれこそ背景に退いているわけで。
で、庵野さんが背景美術っていうものに対して、作品を作る側として、どういう関わり方をされているのか、あるいは、どういう思いがあるのかっていうことを、ちょっとお聞きしたいなと思ったんですよね。
庵野:そうですね。背景美術がその作品の世界観を決めますからね。だから、今トリガーにいる今石(洋之)っていう監督が好きなんですけど、彼がやりたいのは全部セル(注:セルロイドの略。作画されたものに色をつけて撮影するための透明なフィルム板)なんですよ。
西村:セル。
庵野:セルっていうか、こういう線があって単色の塗りでできてる世界のアニメーションをやってみたい。
川上:背景も含めてですか?
庵野:ええ。背景も含めて、全部セルの絵にしたい。
で、そういうのもあれば、僕はなるべく実写の感覚もほしいので、そういう……なんて言うんですかね、業界内で「BGオンリー」って言うんですけど。
背景だけのカットでどれだけ長回しが持つかとかですね。そういう、雰囲気をやるにはやっぱり背景がいいんですよ。
セルで描いてるキャラクターは、どうしてもキャラクターにしかならないんで。そのキャラクターがどういう所にいて、どういうことをしてるか、っていうのを説明するのは、やっぱり周りの風景だったり、その場所だったり、そういうのが大事だと思うんですよ。
西村:そうですね。アニメーションの、なにか品格を決めるって言いますよね。背景なんかも。
庵野:だから、宮崎(駿)さんとかすごい美術にこだわるのは、そこですよね。美術にこだわった演出と、美術にこだわれない演出とか、そういうのもどんどん、やっぱり美術によって分かれますから。監督の作法というか。
西村:美術にこだわった演出。
庵野:ええ。美術が良ければ、長回しがきくんですよ。美術が厳しいとなると、長回しが持たないんですよね。カットを切り分けて、キャラクターのアップで持たせるとか、あとはこう……。
西村:なるほど。
庵野:とにかく、「これはこういう所です」っていう説明をするためだけに、ずっとパンをするっていうかですね。「パン」っていうのは、カメラがずっと動くことですけど。だから、じっくり見せない。そういう手法にもなったりするわけです。
庵野:はい。
西村:そうすると、美術が良い悪いでジャッジをできる前に、映画全体の、まあ、「ここのカットはこうだ。ここはこうだ」って決めていくわけじゃないですか。
庵野:ええ。だから、キャラデを誰がやるかと同じぐらい大事なことなんですよね、美監を誰がやってくれるかって。美術をどこがやるかっていうのは大事なんですよ。美術でいいとこがやってくれるんだったら、「これは長回しを入れる演出にしよう」って。
で、美術に問題があったら、美術にそんなに予算とか時間が取れないんだったら、そういうのがなくてもいいような、要するに美術にあまり頼らない背景、もしくは、「もう200カットあっても、ちゃんとした背景10カットあればいいです。あとの190カットは、もうどんな背景でもいい」っていう演出をするとか。
西村:なるほどですね(笑)。美術監督が大事っていう話が出ましたけど、川上さん、ずっとジブリに、かれこれ何年ぐらい……?
川上:けっこう長いんですよね。
西村:10年ぐらいなります?
川上:10年にもならないですけど、6年……。
西村:プロデューサー見習いっていう肩書で入ってらっしゃって、ジブリ作品もずっとご覧になってきたでしょうけども。僕ら、ジブリを離れて映画作ってるわけですけども。
今回、美術監督が久保友孝くんっていう31歳の美術監督なんですよね。若手なんですけど。川上さん、ジブリ作品観られてきた中で、今回の作品の美術ってどうでしたかね?
川上:いや、僕にあんまりそういうことを聞かれても……。
西村:(笑)。
川上:そんなに……(笑)、個別でいい悪い言えるほど絵はわからないんですけど。ただね、僕が思ったのは、今回の話を聞いた時にいろいろ思ったのは、ジブリって背景とかってすごく大事にするんですね。
庵野さんもすごく背景大事にするんですけども。で、ジブリの場合は、実際お金もかけてますよね。
西村:そうですね。
川上:アニメ業界って、「美術が大事だ」って言ってるわりに、まったくお金かけてないじゃないですか。全予算の中でも、美術にかけるお金ってすごい少ないですよね。
西村:うん。
川上:で、僕はこれちょっと……、僕の感覚では「ないな」っていうふうに思ってて。僕はWebサービスやってるわけなんですけど。
Webサービスだとやっぱり、品格決めるっていうのは言ってみれば世の中に見せる部分ですよね。見た目だとか。
そういったのって、普通すごくお金かけていいところなんだけども、必ずしもそれっていうのはプラスアルファの部分なので、どうしてもみんな端折るところが多いってところでね。
それで、そこの部分をなんとかするっていうのが目的だったんだけれども、とはいえ、ジブリほど予算があったわけじゃないじゃないですか。だから、今回の作品観て、すごい安心しましたよね(笑)。
西村:あ、そうですか。
川上:はい(笑)。もうぜんぜん、そういう意味ではちゃんと、少なくとも僕みたいな素人から見たら、ちゃんとジブリの背景のクオリティと違いがわからないものになってたなっていうので。
西村:いや、それこそ庵野さんに作品単体のこと聞くのはね、庵野さん、監督ですから。
庵野:あ、僕に聞かないほうがいいです。
川上:(笑)。
西村:背景美術なんかは、個別の背景美術。今回の背景美術って、どうご覧になりました?
庵野:ええとね、部屋が上手。部屋の描写が上手だな、と思いました。
西村:最初の?
庵野:最初かな……、全体的に。でも、もうちょっと壁紙とか凝ったほうがいいかな、と。
西村:描きこみを(笑)。
庵野:もうちょっと壁紙にフェチズムを入れたほうがいいかな、と。
西村:絨毯なんかはけっこうね、描きこんだりしてたんですけど。
庵野:でもね、絨毯よりもね、みんな、壁にいくわけですよ。だって、アップになった時の向こう側って、壁じゃないですか。そんなに床映んないから。
西村:今回、イギリス原作なんで、最初に企画をした時に、監督と美術監督の久保くんと、それこそ美術設定の型と、イギリス行った時の雰囲気をすごい出したんですけど。
庵野:あとは、……まあ、細かく言うと。
西村:なんでも、はい(笑)。
庵野:もうちょっとね、飛ばしたほうがいいですよ。
一同:(笑)
庵野:描きこみすぎ、全体的に。
西村:みんな、最後すごく大変でしたから。
庵野:いや、がんばりすぎだっていう。
西村:がんばりました。すげーがんばってましたね。
庵野:もうちょっとね、メリハリがついたほうが、アニメーションの場合は、とくにこういうアニメはいいと思いますよ。
川上:「描きこみが」っていうのは背景が?
庵野:背景。ディテールがありすぎる。ディテールのあるところとないところのメリハリがきいたほうがいい。
川上:はいはいはい。
庵野:あと、光と……あれの使い方も、もうちょっといろいろあったんじゃないかな、と思いますね。まあ、美監がまだ若いんで、これから、30でこんだけできたら。
西村:いや、楽しみだと思いますね、本当に。
庵野:いや、それはすばらしい。これからがいいんじゃないですかね。
川上:男鹿さんが言われてることですよね。
庵野:もっと手を抜くやり方と、要するに描きこまなくていいところを、「あ、これはいい。もう白のままでいい」みたいなところと、あとは光をもうちょっと感じさせるにはどうすればいいか。
影を強くするとかじゃないんですよね、光源を見せるのは。そういう技術がどんどん出てくれば、すごく良くなるんじゃないですかね。最初でこれだと、本当大したもんですよ。すばらしい。
西村:そのアニメーション背景っていう時に、川上さん、著作かなんかで、情報量のことを書いてあるものがあったと思うんですけど、描きこむ、描きこまないって、情報量……。
川上:僕はそういうふうに認識してるんですけど。
庵野:僕もそういうふうに。そこは一緒なんですよね。
川上:そうですよね(笑)。
庵野:アニメーションの画面は、やっぱ情報量なので。情報のコントロールができるっていうのが、アニメの一番いいところですよね。
川上:そうですよね。
庵野:実写だと、まあ、できますけど、難しいんですよ、情報のコントロールが。お金かかるし。アニメの場合はいらないものは描かなきゃいいし、CGだと作らなきゃいいんですよね。
その代わり、ディテールもどこまでも増やせるし、どこまでもなくすことができて、なくても別に大丈夫じゃないですか。だって、キャラクターの目がパチパチして、口が3枚で動いてるだけで、その人がそこにいると感じてくれるわけですから、お客さん。
川上:そこらへん、ちょっと僕は素人として、ジブリとか庵野さんから聞いた話とかを僕なりにまとめると。
アニメーションの現場って、みんなね、「情報量」って言うんですよね、もともと。それこそ「情報量」っていう言葉を使い始めたのは、庵野さんが最初らしいんですけども。
結局、お客さんが絵を見て何を思うのかっていうのが、情報量なんですけど。それは単純に線の数っていうこと……、基本は線の数を増やせばいいんですけど、その線を単に増やせばいいってことじゃなくて。
例えば、男鹿和雄さんの絵の場合、なんなのかっていうと、お客さんの見ないところってあるらしいんですよね。
画面を見た時にパッと目がいくところと、それとあんまり視線がいかないところがあって、視線がいかないところは徹底的に手を抜くんですよね。そして、視線がいくところだけ、とにかく描きこむ。
西村:それが難しいんですけどね(笑)。
川上:そう。それが上手い人じゃないとできない、っていうことなんですけど。これってやっぱり、人間がどういうふうに絵を見てるかじゃないですか。
だからこれが、僕の中では、今流行りの人工知能、ディープラーニングとかでやっている特徴量の抽出っていうこととまったく同じだなっていうことを思って、そういう話を聞いてたんですけども。
西村:背景美術を描きこむ、描きこまないっていう時に、それこそ今お話出てた「どこを見て、どこを見てないのか」っていうのが、基本的に職人によってるわけじゃないですか。なんか技術的なものとは別に……。
男鹿さんに話を聞いてすごくおもしろかったのが、男鹿さんって今回なんかも優れた背景美術をいっぱい描いてくれたんですけど、「なんでこんな背景描けるんですか?」って話をした時に、「男鹿さんはいろんなこと観察されてるからでしょうね」って話をしたんですね。
そしたら、「いや、それじゃないんです」って、「目の前で見ちゃだめなんだ」って、「目の前で見たものじゃなくて、ここの目の端っこにとらえたものを描くと背景美術になるんですよ。
なぜかっていったら、映画の主役ってやっぱりキャラクターじゃないですか。人物だ、と。あくまで背景なんだから、背景が主役になっちゃいけないんです」って言ってて。
で、目の端っこで描くっていうことって、そんなのよくわかんないですよね?
川上:いや、だから、それが僕からすると、本当ディープラーニングの話、人工知能の話にしか聞こえないわけですよ。
要するに、人間がどういうふうに絵を認識してるのかっていう。人間が絵を見る時に、脳に入ってくる情報量を再現するように描く、っていうことですよね。
西村:うん……、よくわからないです、僕。難しくて(笑)。
一同:(笑)。
庵野:まあ、画面のコントロールっていうのがあって、まずお客さんが、このカットが3秒12コマあった時に、その3秒12コマでどれだけ認識してくれるかですよね。7コマだったら7コマで認識できる情報量をそこに与えていれば、お客さんはそれで満足するわけですよ。
でも、「7コマなのにこんなに動いてて、なにがあったのかさっぱりわかんない」っていう人もいるし、「7コマにしては、そんなになにもなかったなあ」と思う人もいるんですよね。
7コマっていうのは、人が認識する最低限のコマ数だし、なにかを認識させたい時は最低限7コマないとわかんないですよね。
そういうコマ数……、時間と画面のなにを切り取ってるか、なにを映してるか、なにを描いてるかっていうのをすべてコントロールできるのが、映像のいいところなんですよ。それは音も含めてですよね。
だから、お客さんにとってどう感じてほしいか。それをなるべく誤差を少なくして見せていくためのコントロールには、アニメーションが一番向いていて。そのために、美術っていうのも、背景がここにいて……。
まあ、極端な話、キャラクターさえ見てればよければ、白コマでもいいんですよね。背景は白でもいいし、黒でもいいんですよ。演出的にそういうところもあります、「黒ベタ」って言いますけど。
BG(背景)、BL(黒)で、そこにキャラクターだけいれば、お客さん、キャラクターしか見ないですよね。そういうふうにコントロールができるんですね。
西村:そのコントロールっていう点で、手描きとデジタルってあるじゃないですか。昨今、やっぱり手描き背景って、みなさんわからないかもしれませんけど、今もう、アニメーション背景の9割5分ぐらいデジタル背景ですよね。
庵野:デジタルで描かれてるところが多いですよね。
西村:手描きで描く時の情報量の精査というか、それとデジタルっていう、写真をもし仮に参考にした場合っていうのは、写真っていうのは全部基本的には焦点が合ってるっていうか、そういう絵ですよね。
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