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市場をつくる戦略PR ―市場創造にテクノロジーは必要なのか?―(全3記事)

これからの市場創造にテクノロジーの力は必須か、否か--ヒット仕掛け人らの答えは?

2017年2月14日、資生堂・音部氏とブルーカレント・本田氏が登壇した「 市場をつくる戦略PR ―市場創造にテクノロジーは必要なのか?―」が行われました。さまざまな技術が登場&進化する中で、新たな市場を作るために「テクノロジーの力」は必須か否か。アリエールやデンシアといったヒット商品を手がけてきた両者の答えとは?

製品イノベーションを伴わない市場創造

本田哲也氏(以下、本田):まさにそれが今日のテーマですね。市場創造っていう。市場創造とテクノロジーというのは切っても切り離せない側面があるかもしれないですけど、こういう話というのは結局テクノロジーとか技術的なイノベーションなく。

もともとは洗剤もヨーグルトもあるわけですけど、市場創造してるという意味では、音部さんこれP&Gさん用語ですか? 「コマーシャルイノベーション」という言葉は、あれはP&Gさん用語ですかね。テクロジーのイノベーションに対してコマーシャルイノベーションという。

音部大輔氏(以下、音部):製品イノベーションを伴わない市場創造みたいな感じで、最近P&Gの外でもまあまあ使われるようになってきた単語かなと思います。

本田:はい。ということで属性順位転換に寄与する戦略PRということで、事例を紹介しました。古いものと新しいものと2つご紹介したのですけども、残りの時間は今日のテーマについて音部さんとディスカッションというかお話したいと思います。

今日は限られた時間の中で自動車の話、それから洗剤それからヨーグルトみたいな食品ということで。基本的にはB to Cですし、一部の領域ですけど、音部さん今日いらっしゃってるみなさんってB to Bの方も多いかと。

音部:聞いてみましょうか? それ。

本田:そうですね。B to Bのお仕事をやられている方お手を挙げてもらってもよろしいですか? では、B to Cの方は? 半々ぐらいですかね。

音部:B to Bでクライアントさんだったり、カスタマーさんだったりの向こう側もまだB to Bだという方もどれぐらいいらっしゃいますか? なるほど。B to Bだけどもその向こう側はまだ消費者という感じですね。

本田:B to B to Cということですね。ありがとうございます。

「いい」の定義は明確じゃない

どうでしょう。そういうビジネスモデルB to B、B to B to Cというところまで広げて考えた時に、この考え方はどれだけ応用可能なんでしょう?

音部:ちょっと自己紹介短めで焦り気味でスタートしちゃいましたが、私ももともとP&Gというところに16年ほどいて、その後ダノンというヨーグルト屋で3年くらいいました。

同じぐらいユニリーバでマーケティングを2年ぐらいやって、1年だけ日産自動車でお世話になりつつ、資生堂に2年ぐらいいるんですけど、ずっとブランドマネージメントをやり、マーケティングチームの指揮をとってます。

以前、学者の人たちと話をしていて、いわゆるブランドマーケッターたちの能力の限界はB to Cで終わりかみたいな議論がたまに出るんですね。

ある学者の方がおっしゃっていて「ああ、なるほどな」と思ったのですが、B to Bで完全に機械が自動発注できるもの。スペックがガチガチに決まっていて、そのスペックを超えちゃダメだし、足りなくてもダメと言う物は機械が発注できますよね。

機械が発注できる類のものはマーケッティングを作用させるのはけっこうきついかもと聞きました。確かにそうかもしれません。でも、B to Bでありながら、新しい社内イントラのプラットフォームを買います、みたいな時に、買う側がものすごくそのプラットフォームを熟知しているかというとそうじゃなかったりすることがあります。ということは、B to Bなんですが買う側は、もちろんビジネスは代表しているんですけど、初めてのこともあります。

なにをやらなきゃいけないかはわかっているけど、具体的にどうしたらいいかわからない。これは手法としてはB to Cとほとんど一緒だよという話をされていました。相手は一個人、あるいはグループを形成している人間が買う限りにおいては、この属性順位転換が効くようです。

会社にとっていいコミュニケーションプラットフォームが欲しいというニーズは明確なのだけれど、そのいいの定義があまり明確じゃなかったりすることがある。

本田:そうですね。今の「いいの定義」。これだと思ってまして。

洗剤とかヨーグルトはわかりやすいとして、結局、世の中で自動車と言えば、ヨーグルトと言えば、なにがいいんだっけっていう、「合意」があるかどうかです。理想的な状態だと、例えばおじいちゃんに聞いても、お母さんに聞いても、誰に聞いても、学校の先生に聞いても、「自動車って言えばこうじゃないの?」「ヨーグルトといえばこうじゃないの?」」ってなっているのが一番です。

それがB to Bでも、例えば導入企業の中で、テクノロジーのサービスであればCTOみたいな人が今時導入しなければいけないプラットフォームはこういうものであるとか。それをもっと広く言うと、従業員のみなさんがある程度そう思っていたり、CEOもそう思っていたりする。

人間は「いいものを買ったな」と思いたい

これは先ほどの家族の話に通じるんですけど、そういう「いいXXは○○である」という定義。これを、ご購入される方とか、導入されるキーパーソン以外の周りにも上手くPRしていくのが1つの市場創造にも繋がるんだろうなと思いますよね。

音部:とても重要ですよね。その自分が買って終わり、というビジネスオーナーさん向けではなくて、その相手がビジネスオーナーさんの部下であったり、部下の部下だったり。

最終的に買われた方、あるいは採用された方の上司だったり、関係者、ステークホルダーが、みんな一斉に「これはいいものを買いましたね」と言ってくれないといけない。そういう意味では、今おっしゃったような周りの空気づくりというのは、非常に重要なことになってくるのではないかと思います。

本田:「根回し」と言ってもいいですね。

音部:そう、根回し。

本田:PRだと「ステークホルダー」って考え方、日本語で言うと利害関係者って言うんですけど非常に大事ですね。いわゆる広告的なマーケティングだと狙うべきはターゲット。そのターゲットというのは、購入者あるいは潜在購入者です。

その人たちになにかを伝えていくことに終始してしまいがちなんですけども、PRの発想はもうちょっと広い。その周りにいる人たちになんらかの情報を与えた時に「売上伸びるんじゃないの?」という発想=PR的な発想だとありますね。

例えば、売りたい先は男性のビジネスマンなんだけども、実はそれは男性のビジネスマンにあーだこーだ言うよりも、恋人とか奥さんにもアプローチしたほうが早いんではないかと。奥さんの決断力すごいぞ、と。そういう領域ってけっこうあると思うんですよね。それはB to BもB to Cも、案外共有できる発想ではないかなと思います。

音部:そうですね。まだマスが主流だった頃の概念かもしれませんが「購買後確認行動」と言って、買った後に「私はいいものを買ったな」という確認をしたい。それが人間にはあります。そのために広告を流すということもありました。すでに買ってる人向けに流すんですね。

それにはなんの意味があるかというと、「ああ、いいものを買いましたね」と確認できること。加えて、その周りの人、奥さんとか子供とかご両親とか友達が「おっ、あのテレビでやってるやつだね」と言ってくれることで確認行動になる。

個人を具体的に撃ち抜けるデジタルがコミュニケーションの主流になってきてます。昔のテレビみたいに広範囲に一気に影響を与えるのは難しいですけども、購入者の周りにいるステークホルダー向けには、あまりコミュニケーションをしてないかもしれません。これは戦略PRの概念下にあるデジタルの使い方としては、きっと出てくるものですね。

本田:そうですね。今、話がそちらに始まりかけましたけども。デジタルトランスフォーメーションで、マーケティングがデジタル化する。というか企業活動全てがデジタル化するという中で、今日はいろんなセッションが行われているわけですけども。

SNSの力で属性順位転換の手段は広がった

この属性順位転換を起こすという発想において、音部さん、デジタルの役割というか、単純にデジタルメディアがという狭い話というよりも、属性順位転換が起こりやすくなる要素とか、そういうのはどうなんでしょうね。このデジタルトランスフォーメーションの中にいくつかヒントがあるんですかね。

音部:属性順位転換が起こる時は、属性順位転換が変わってから欲しくなるというよりは、欲しくなっちゃうことが先にくると思うんですね。

これは趣味が変わると似たことなので、今まで黒っぽい服が好きだったのに、急に黒じゃない色が好きになったり、今までこういうタイプが好きだったのに、どこかのタイミングでああいうタイプが好きになったりっていうことって、「ああ、好み変わったかも」と思ってから変化が起きるんじゃない。

「ああ、これがいい、これが欲しい」って思ってから属性順位の変化が起きてくるんじゃないかと思うんです。一気にかくかくしかじかの理由で欲しいではなく、一気に「欲しい」のステージまで持っていっちゃう。

本田:わかります。

音部:これはデジタルだと、先ほども申し上げたみたいに、継続的に同じ人に当てたり、ものすごく正確にトラッキングができたりするので、一気に購入以降までもっていくことがやりやすいんじゃないかと思うんですよね。

本田:非常にいいポイントだと思います。ご覧になってない方もいらっしゃると思うんですけど、前のセッションでアクセンチュアの加治(慶光)さんがお話しされてて、企業と生活者の「相互観察社会」っていう話題が出てきて、それはデジタルによっていろんなものが可視化されていく。

我々も企業の行動を見やすくなったし、企業もいわゆるソーシャルリスニングしたりして消費者がなにを考えてるかっていうのをリアルタイムに見るようになった。だからお互いに観察するようになった。それってプロセスが見えていくってことです。

つまり、なにか急にヨーグルトだとこっちのほうがいいぞという空気が見えてきたりだとか「どうも最近の洗剤はこっちのほうにきているらしい」みたいなことがですね、昔よりも可視化されるんですね。

人間っていうのはなにか決まってしまったものに参加するよりも、動きが起きているところに参画するほうが、ワクワクするしその一部になろうという本能が働く。実はその大きなムーブメント自体が属性順位転換を起こし、その中に参画しているみなさんが、結果的にお客様になっていくというそんな考え方なんですかね。

音部:そうですね。そうかもしれないですね。例えば10年、15年前だったら、この属性順位転換影響を与える手段というのが、新聞、雑誌、あるいはちょっとラジオ。テレビはあまり使いにくかったですよね。

本田:そうですね。

音部:なんで使いにくいかというと、テレビで見るニュースっていうのは、当時重要なニュースだったので「洗剤のなにがどうなの」はあまり一生懸命見るような話でもなかったわけです。

それが今デジタル化されて、SNSのニュースフィードでさほど重要でないような話題を適当に出しても、露出できるようになってきている。属性順位転換の手段が広がったというのは間違いなくそうだと思います。

「属性の種」はどうすれば見つけられるのか

本田:それで言うと私は「ビッグデータ」も、その1つのヘルプになるものだと。ビッグデータになって嫌っていうぐらいデータが見られるようになったわけです。けれど、どう使うかが大事だと言った時に、いろんな使い方があるわけです。

今日みたいな話でですね、次にくる属性っていうのはなんなのかとか、あるいは自分たちに有利なほうにこの属性を動かしていきたいときのヒントはなんなのか。そこでビッグデータの使い道として1つあるんじゃないかと思うんですね。

音部:間違いなくあるでしょうね。昔だとその属性がどのぐらい重要ですかというのを半年に1回とか1年に1回とか定点観測してたんですね。それの変化があったところっていうのは注目しなきゃいけない。

今はビッグテータがあるので、一番売れてるもの、売れてないものの、それぞれ売れているものの属性がどこら辺にあるのかというのはもっと頻繁に測れると思います。難しいかもしれないですけど。

本田:今日はマーケティングに関わっている方がいらしてると思うんですけど。基本的に部門とか部署とかはいろいろなんじゃないかなと想像するのですが、これは音部さんのご経験上、企業の部門、部署はどういうふうに連携すべきでしょうか?

音部:いろんな考え方があると思うのですが、私はアリエールを担当していた時は、「R&Dが除菌できるよ」って持ってきてくれたんです。「除菌って誰も欲しい人いないんだけど」と返したら、「でも除菌ならできるよ」って。除菌がなんて誰も欲しがってないからダメだよっていう考え方もありましたが、では除菌でなにとかしてみようか、となりました。

両者の間にはまあまあ差が出るんだろうな、と思います。それはR&DといえばR&D主導でもいいし、でもマーケッターがちゃんとそこは受け止めることができると、よりちゃんと一緒にできるかなとは思います。

本田:そうですね。PRという側面だとみなさん、企業には広報部っていう部門とかも関係してくるわけです。でもやっぱり、なかなか難しいなと思うのは、特にこういう話になると今のR&D、研究開発、間にマーケティングなり事業部、それから商品企画、宣伝部みたいなのがあって、実は世の中を相手にするという戦略PRやるときに、本来であれば広報機能を企業と社会を繋いでいます。

「属性の種」みたいなのが出てくるのがR&Dだとするならば、それをどう世の中の関心とか空気に繋げていくかは本来的には広報部門の役割。ただ、どうしても日本企業だとですね、なかなか広報部がそのように位置づけられてなかったりする。

あとやっぱり宣伝部さんなんかも実はそういう役割を担うんだけども、なかなかPR、広報の知見がそれほどなかったり。実際問題、けっこうチャレンジすべきことはまだありますよね。

音部:そうですね。会社によってはマーケティングと広報が一緒に働く環境ができているといいですが、広報もあまり大きな組織でない、という時は、営業の一部分がそれをやってもいいかもしれないです。営業の中に、そういうセクションを持ってもいいかもしれません。

本田:特別なチームを営業におくということですね。

音部:特別なチームは持ったほうがいいです。なぜなら知識を蓄積していかなきゃいけないので、1回だけやって異動っていうのはちょっともったいないですよね。

1回やって2回やって、3回も4回もやっていくと、どんどんその人あるいはそのセクションに知識と経験値が貯まっていくので強くなれます。この類のことも経験値は高ければ高いほど成果を出しやすいんじゃないかと思います。

テクノロジーがなくても「属性順位転換」で勝負できる

本田:ありがとうございます。時間も迫ってきているんですけど、今日、音部さんが所属されております資生堂さんの事例が出てきてないんですね。みなさんご存知の通り、資生堂さんはものすごくマーケティングの改革をこの2年ぐらいされてますけども、どうですか? 動きとして。

音部:いいヨーグルトの定義を変えてみたり、いい洗剤の定義が変わったように、「いい○○」の定義換えというのは、いくつか起こってくるんじゃないかなと思ってます。それは本田さんと今一緒にやってもらっている部分でもありますよね。スキンケアかな。ちょっとずつ変わってきているのかなという感じはあるんではないかしら。

本田:そうですね。日本を代表する世界企業ですから、マーケティングの改革も進むことを祈ります。

音部:ありがとうございます。

本田:ありがとうございます。と話していると、あっという間に時間がきてしまいました。テクノロジーがなくとも、属性順位転換って発想で勝負できるってことはあるわけですし。

具体的なやり方として、そこはマス広告のアプローチよりも戦略PRっていうものが貢献できているという軸で今日はお話をしました。

さらにご興味がある方は、ぜひ我々の書籍をお読みいただければ。音部さんの最新刊『なぜ「戦略」で差がつくのか。』、そして私の最新刊『戦略PR 世の中を動かす6つの法則』をぜひ。PRですいません(笑)。

なぜ「戦略」で差がつくのか。―戦略思考でマーケティングは強くなる―

最後に前のセッションで、どんどん我々の仕事がAIとかロボットに奪われていくという話があって、マーケティングオートメーションも進みますから、戦々恐々な方もいらっしゃるかもしれないですけど、ぜひこういうところこそ。

音部:人間が。

本田:そう人間がやらなきゃいけないですし、「AIに属性順位転換はできない」と音部さんにこの場で断言して欲しいんですけどもできませんよね(笑)。

音部:非常に難しいと思います。あるいはAIは他にやらなきゃいけないことがあるので、ここまで入ってくるには時間が掛かると思います。AIができるようになったら脅威ですけどね(笑)。

それまでまだ時間が掛かるでしょうから、マーケタープロフェッショナル。みなさんもそうでしょうけども、知恵を使って考えていくという仕事をしていきたいと思います。というところで終了の時間がきてしまいました。ありがとうございました。

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