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パフォーマンスが高まる、脳の使い方のヒント(全4記事)

今日“一番印象的だったこと”はなにか--予防医学者・石川氏が語る、ビジネスに効く質問

ビジネスをうまく回すための“究極の質問”とはなにか――。2017年1月26日に開催された「楽天カンファレンス2017」の中で、「パフォーマンスが高まる、脳の使い方のヒント」というセッションが行われました。登壇したのは予防医学者の石川善樹氏と、楽天大学学長の仲山進也氏。本パートでは、石川氏が本当に精度の高い質問とはなにか、そして組織やビジネスに効果的な質問について語りました。

「最近、おもしろいことありました?」でスタート

仲山進也氏(以下、仲山):楽天の仲山と申します。今日はどちらかというと私は聞き手で、石川さんの話をうかがっていこうと思うんです。このコンビでやらせていただくのは、2回目で。

石川善樹氏(以下、石川):そうですね。

仲山:2016年、福岡の会場で1時間、フォーラムをやったんです。そこでの石川さんの話が1時間でおもしろすぎて「時間が足りなさすぎる」という苦情がものすごく多かったんです。

石川:(笑)。

仲山:苦情……?(笑)。「もっと聞きたかった」ということですね。そのあと「この2人でもうちょっと話したいよね」「じゃあ、今度は3時間くらいにしてみましょうか」と言って、3時間の会をやってみたんですけど、また……。

石川:あれも足りなかったですよね。

仲山:足りなかったのです。今日に関して、僕の中の位置づけでは、またさらにその延長という感じです。このフォーラムでは毎回違う話で、しかも事務局から「3回以上で、(場所は)東京・大阪・福岡で、誰かと対談するようなやつをやってほしい」とオーダーをいただきまして。3会場ですべて違う人と打合せするのも大変だし、同じ話を3回するのもなんか嫌だなと思って。誰かいい人いないかなと思ったら、……石川さんがいた。

石川:そうですか。

仲山:打ち合わせなしで、3会場すべて違う話がおもしろく聞ける。そういう企画でございますので、今日は打ち合わせなしの状態でここに臨んでいます。ここの会場にくる時に「最近、なんかおもしろいことありました?」と聞いて、そこから始まる感じですね。

石川:そうですね。

仲山:今、歩きながら始まりかけた話題、なんでしたっけ?

石川:僕は予防医学を研究していて。……要は、みなさんがご機嫌に生活できるようにサポートするのが仕事なんです。

仲山:そうすると、結局は健康で長生きできるのがいい、みたいな。

石川:そうそう。いろんな研究をふだん見ているんですが、ここ1週間で一番おもしろかった研究の話をさっきしたんですね。

仲山:補足しておくと、石川さんの趣味が論文を読むことでして。毎回しばらくぶりというか、(会うまでの間が)空いたら、「最近なんかおもしろいことありました?」「こういう論文があって」「こういう研究があって」みたいな話から始まったりする感じです。

石川:そうそう。

精度の高い質問は人の内面をはかる

この1週間で見た論文なんですけど、これはものすごくブレイクスルーを起こしたなという研究が出てきて。それはなにかというと、ハーバード大学のビジネススクールにいる心理学者の先生の研究なんです。まず、心理学者とはどういう人たちかというと、誤解を恐れずに大胆に言うと、質問項目を考えている人たちなんですよ。

仲山:質問項目?

石川:質問項目。この質問をしたら人間の深層心理、あるいはその人がよりよく生きるための手がかりになるような「(そういう)質問はないか?」と、もうずーっと探している人たちです。だから、心の体重計みたいなもんです。心でとらえたいものを質問することで、内面をはかろうとする。なんて言うんですかね、精度の高い質問項目を見つけようと命を懸けているのが、心理学者という人たちなんですね。

仲山:なるほど。

石川:(論文の筆者は)ビジネススクールの心理学者だから、「日々、ビジネスがうまく回っていくための究極の質問はなにか?」という話なんです。この質問を自分、もしくは部下の方、会社組織の方に1日の終わりにすると、いろいろわかるよ、と。その質問はなにかというと……、結論を聞くと「そりゃそうだよ」と思うんですけど。

仲山:じゃあ、クイズっぽくします?

石川:クイズ(笑)。でも、仲山さん、なんかありますか? 1日の終わりに、決まって問いかける質問とかあります?

仲山:あー……、決まって問いかける質問はない。では、自分1人でもいいし、近くの人とおしゃべりしてでもいいんですけど、今のお題……1日の最後にこの質問をすれば……。

石川:そうですね、手挙げ方式で聞いてみましょうか。1日の最後に決まって自分に問いかける質問がある・ないで言うと、「あるぞー」という方、どれくらいいらっしゃいますか? あれ? 毎日、毎日……。(会場を見て)1人もいない?

仲山:じゃあ、ない方。

石川:ないという方は?

(会場挙手)

仲山:僕もない。ないです。 

石川:そうなんですか、ありがとうございます。それは、あのダイエットの理屈で言うと、毎日、体重計に乗っていないと(笑)。

仲山:乗ってない(笑)。

石川:やはり心の体重計に乗らないと、自分なり組織なりがヘルシーかどうかがだんだんわかりにくくなっちゃうんですね。そういう発想がおもしろいなと思ったんです、そのハーバードの先生。

仲山:うんうん、体重計の……。石川さんは、ちなみにダイエットの権威でもあって。

石川:そう、ダイエットも研究しているんです(笑)。

仲山:絶対にリバウンドしないダイエットを研究しているんですよね?

ビジネスが良好かどうかわかるたった1つの質問

石川:そういったことをやっているんですけど。(PCモニタースクリーンを指して)これ、もしかして映ります?

仲山:映ります。なにを開いたらいいですか?

石川:僕のFacebookページが映っているじゃないですか? これ、下へいってもらって……もうちょっと下。

仲山:(モニターを見て)新刊が。

石川『仕事はうかつに始めるな』という新刊が出るんですよ(笑)。ダイエットの研究をしていた、と。そんなとき『マネジャーの最も大切な仕事 95%の人が見過ごす「小さな進捗」の力』という本がちょうど出たんです。これはおそらくですけど、ビジネス心理学といわれる分野では、ある意味、革命的な1冊になるかと思いますね、結果的に。この本を監修された方が……。

仲山:中竹(竜二)さんですね。

石川:中竹さんです。エディー・ジョーンズ監督という方がいましたよね、ラグビーに。その下でずっとやられてた方が監修されているんです。

仲山:早稲田のラグビー部の監督をやられたりして。清宮(克幸)監督というカリスマ的な監督の後に、中竹さんが監督になるんですけど。売り文句が「日本一オーラのない監督」。

カリスマで引っ張り、作り上げてきたチームなんですけど、ぜんぜん自分にはそういうカリスマ性がない。選手に混じっていたら「どこに監督がいるかわからない」といつも言われる、と。「日本一オーラのない監督です」と自分から言ってらっしゃる方で、あまり指示や命令はしないで、みんなで考えるスタイル。

石川:人をサポートすることの専門家ですよね。そこで、この本が出たんですけども。結局、この本で一番重要なことは、「この本を別に買わなくても、僕が今からお話しすることさえ知っていただけたらすべて」なんです(笑)。なにかというと、こういう質問なんですよ。「今日1日を振り返って、職場で印象的だったことを1つだけ挙げるなら、それはなにか?」。

仲山:職場で一番印象的だったこと?

石川:なんか、すごく簡単な質問ですよね。「今日1日で、職場で一番印象的だったことを1つだけ挙げてください」。そういう質問を何百人のビジネスパーソンの方にして。1文字でもいいし、2〜3行でもいい。それをずーっと書いてもらって、分析することをやられている方なんです。

それでなにがわかったかというと……。そこには、みんないろんなことを書くんですよ。「なんか今日はむかついた日だったなー」「印象に残ることが1つもない日だったなー」など、いろいろあるんですけど。振り返った時に「今日はちょっとだけども仕事が進んだな」と思えた人が多ければ多いほど、その会社のビジネスは非常にうまくいっているし、個人としても充実感を持って仕事ができることがわかったんですね。

だから、このイベントも終わるころになって……。たぶん1時間、これから僕らが話すじゃないですか。「印象に残ったことを1つだけ挙げよ」と言われて、ちょっとでも学んだことがあれば、それはOKなんですよ。逆にそれがない日が続くと、ビジネスも自分も停滞していくことを発見した人でもあります。

仲山:これは実際に調べて、その割合で、その会社の数字や業績みたいなものと関係があると?

石川:そうそう、関係があるんですよ。結局、この本はなんに対するアンチテーゼかというと、大きな目標に対するアジテートなんですね。というのは、大きな目標ややる気は、短期的には「よっしゃ!」という気になるんですけど、続かないんですよね。

仲山:わかります。

継続的に成果を出すために必要な「小さな進歩」

石川:継続的に成果を出すために大事なのは、大きな目標ではなく、小さな進捗です。自分が進捗したかどうかは、1日の終わりに振り返って、印象的だったことを1つ考えたらいいんです。という本ですね。本というか、そういう研究なんですけど。

副題に書いてありますね。マネージャーにもっとも大切な仕事は「95パーセントの人が見過ごす『小さな進捗』の力」「小さく小さく毎日毎日進捗してると感じられるようにサポートするのが、いい上司の役割だよね」みたいなことを書いている本、というか研究で、これはすごいおもしろいなと思いましたね。

仲山:今の話を聞いて思ったのは、僕、楽天大学でチームビルディングプログラムという講座をやっていて、3ヶ月にわたって全部で5日間あるんですけど、1日の最後に「今日1日で一番印象に残ったことと、感想をなんでもどうぞ」と言って、全員丸く座って1人一言ずつバトンを渡しながらしゃべるというのをまさにやっていて。

石川:やっているんですね。

仲山:だいたいそれを聞いていると、ポジティブなコメントがある人はOK。OKというか、フォローする必要も別にない。あと、そこがなんかこう、しっくりきてなさそうな人とは、その後おしゃべりをしたりするようにしているというのはあります。

石川:あー、すばらしいですね。それはチェックアウトということですね。

仲山:はい、チェックアウトです。

石川:脳科学的に見て、こういうチェックアウトすることがいいなと思うのは、僕らの脳はやり残したことがあると、それがずーっと気になって頭の中に残る特徴があるんですね。

未完了の課題は、僕らの脳の興味を引いちゃうんですよ。そう考えると、私たちがやってる日々の仕事は基本的にあまり終わりがないことが多いというか(笑)。

仲山:そうですね。

石川:自分で決めて終わりにしないといけないことが多いと思うんですね。脳科学的に、その未完了の課題を「終わらせる」と認識させるためにはテクニックがあります。

それはなにかというと、未完了で終えた時にはその次のことをやるんじゃなくて、終えた時に数分でいいから時間をとって「明日、自分はどうやってこの仕事をやるんだろう?」と、その未完了の課題をどうやって終わらせるのかというプランを作る。そうすると脳はすっきり「仕事が終わりました」と認識してくれるらしいんですね。

なので、この本と今の知見を足し合わせると、たぶんルールにしちゃったほうがいいと思うんです。1日の終わりに、職場で仕事で印象に残ったことを1つ脳で考えて、「明日、自分はどうしようか」とプランニングする。ここまでやると、たぶん1日がすごくすっきり終わるんじゃないかなと思いますね。

仲山:なるほど。目覚めのいい朝を迎えられやすいと。

石川:目覚めもいい。やり残したことがあると、だいたい悪夢として出てきますからね(笑)。

仲山:はいはい。無意識にずっと脳が考えちゃうんですね。

石川:脳が考えてくれてるんですね。

仲山:未完了のものがどんどん……、1個だけじゃなくてたくさんになってくると、なんとなーく重たい感じがするんですよね。それはわかりますね。そういったことが書いてあると。

石川:そうなんです。

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