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ヒットを生むプロデュース(全5記事)

制約への抵抗がヒット作を生む--ドワンゴ横澤氏「予算が出にくい今を楽しめないとダメ」

2016年12月7日に開催された「IVS 2016 Fall Kyoto」のなかで、ヒットを生み出す秘訣や思考について語るセッション「ヒットを生むプロデュース力」が行われました。登壇したのは、モーニング娘。の生みの親であるつんく♂氏と、数々のサービスのプロデュースに関わってきたドワンゴ横澤氏。モデレーターを務めたのはSHOWROOM前田氏。本パートでは、なぜ制約の中でヒット作が生まれやすいのか、ヒットメーカーはそういった環境をどう捉えているのかなど語られています。

どこを残し、どこを引き算するか

前田裕二氏(以下、前田):つんく♂さんが一貫して言われてることには2つある気がしています。そもそも本質的にコンテンツが優れてるかどうかという話と、それの伝わり方やマーケティング論の2つです。

後者のマーケティングの在り方、どうやって視聴者やオーディエンスに伝わっていくのかという方法や方式は、現代において、たぶん変わってきているということですが、本質的なものの良さや、いわゆるコンテンツの価値みたいなものは、昔から変わらないっていうことなんじゃないかなと思っているんです。

ちょっとこれ、個人的にすごく気になる質問なんですけど。たぶんここにいる会場のみなさんの印象もそうなのでは、と推測するのですが、先ほどの引き算の話に戻って考えた時に、モーニング娘。は、アイドルのなかでは、むしろ引き算的じゃない側である印象が個人的にあります。

というのは、つんく♂さんはアイドルのことを歌手と表現されていたじゃないですか。ちゃんとミュージシャンとして、歌の練習も誰よりも厳しくやって、表現者として人前に経つ以上の鍛錬をちゃんと積みなさい、と。

ライブなどを拝見していて思うのは、演者さんのビブラートの感じやビートのとり方に、すごく共通点があるというか、僭越ながら似ているように感じるところがあるんです。先ほどの引き算の話と「自分がなんとかしなきゃいけない」と思う気持ちの話で言うと、かけ離れているわけじゃないですか。

「エンターテインメントコンテンツとして完璧なものを出していく」というつんく♂さんのこだわり部分と、横澤さんが言う引き算の理論でいう「大丈夫か? おいおい」みたいなところですね。例えば、SHOWROOMでは50歳の女性が毎月売上を出していて……、という話が、昨日のセッションで村本さんからありました。まさにそれこそ、「不完全性が巻き起こす共感によってファンを増やしていく」という事例だと思うんです。そこは、どう思われますか? 

横澤大輔氏(以下、横澤):僕は、観点が人にあるか、ということだと思うんです。要は、人が完璧だったら、今度はストーリーに余白を作ればいいと僕は思うんですよ。人が完全じゃなければ、ストーリーは完璧にするべきで。……など、もうちょっとプロジェクトを俯瞰で見ると、その余白をどこに作るかっていうのが出てきますよね。

前田:なるほど。

横澤:アーティストとは、勝負するものが大きいじゃないですか。それこそ、演歌歌手の人とも戦わなければいけない。本当に歌が上手い人、ダンスがうまい人と戦っていかなければいけない。そのアーティストの本質が、そもそも表現者としてある。ここは完璧にしていくのが、当然の方向性だと思うんですよね。

ならば、なぜアーティストになったのかという背景だったり、踊りをどういう方向性にするのかを、今度は引き算していく。余白を作って、お客さんの感情移入をどこに入れていくかを、今度は俯瞰で作っていくんじゃないですかね。

前田:俯瞰でもっと多面的にいろんな要素を見て、どこを引き算するのか。どこを残すのかを精緻に考えていく。そういうことですね。

横澤:そうですね。だから、つんく♂さんはたぶん、本当に長くこれを続けていかなければいけないときに考えたのが、一番勝負するコンテンツはアーティスト本人でなければいけないというところ。そうすると、オーディションもされてたと思うんですけど、ユーザーが入り込む余白を、作られてきたんだと思うんですよね。

「ちょっと頼りないところ」を全面に押し出す方法

前田:なるほど。つんく♂さんも、「職人である僕がそこにいるとして、とにかくここにある食材でなにか作ってよって時に、その時の最高のものを作るしかないと」。

つんく♂氏(以下、つんく♂):僕もがんばるけど、材料である君らもめっちゃ良い出汁出るまで熱湯の中でがんばってね、みたいなやり方でやってきたんだよね。その時に思ってたのと違う出汁が出てきたら、そのに即座に対応していく。それの繰り返しでしたね。

前田:つんく♂さんのなかで、そういうのもおありなんですかね? 意識的にマイナス部分、例えば、「歌は完璧にするんだけれど、この子のキャラクター的にちょっと頼りないところを全面に押し出していこう」というプロデュースの仕方ってあり得るんですかね?

つんく♂:俺はもともとちょいよわが好きなんよ。

横澤:それ、タイプなんですかね(笑)。

前田:女性のタイプなんですかね(笑)。

横澤:育てる、っていう意味ですよね。

つんく♂:男女問わず。

前田:つんく♂さんのコメントをくり返すと、「俺もがんばるけど、材料である君らもめっちゃ良い出汁が出るまで熱湯の中でがんばってね、みたいなやり方でやってきた」。なるほど。熱湯ってすごいですね。「その時に思ってたのと違う出汁が出てきたら、その時に即座に対応していく。それの繰り返しです」。

つんく♂:大阪にいても、阪神より近鉄が好き。

前田・横澤:(笑)。

(会場笑)

前田:わかりやすい(笑)。

つんく♂:キョンキョンより菊池桃子が好き。こんな感じ。

(会場笑)

前田:これ、わからない人もいるかもしれないっていうのが、おもしろいですよね。

横澤:ね、いいですね。

前田:たぶん20代の経営者にはわかんないと思うんですけど。「こんな感じ」と。なるほど、すごいわかりやすい例をいただきました。

再現性がないヒット=まぐれ

横澤:それ、どこが好きなんですかね? 「ちょいよわ」だとなにがいいんですかね?

前田:横澤さんの視点だと、当事者意識じゃないですか。「ちょいよわ」だからこそ、自分がいないと成り立たないんじゃないか、という。

横澤:守ってあげよう。うんうん。

前田:けっこう、昨今のアイドルプロデュースの鉄則でもあると思うんですけど。

つんく♂:いや、それはさっきの大輔のと同じで、そこには余白があるってことです。

前田:すごい、これ、個人的にはけっこう意外なんですよね。

横澤:だから、「技術は完璧であるんだけれど、人柄としては余白がある」ってことですよね。つんく♂さんの場合はね。

前田:それを意識的に、もしくは無意識的かはわからないんですけど、再現性のあるかたちでつんく♂さんがプロデュースをされてるというのは、僕はすごい意外でした。やはり天才じゃないですか、印象として。だから、天才的に、かなり右脳に寄ってコンテンツを作っているんだろうなっていうイメージを、客観的にずっと思ってたんです。

結局、今起こっているヒットに共通する裏側にあることを、つんく♂さんも抽出されている。そして再現性を高めていっているのは、なんかすごく、プロデューサーでもあればビジネスマンでもあるな、と感じていますね。

横澤:まあ、再現性がないと、それをプロデュースした本質をわかってないことになりますよね。

前田:なるほど。まぐれだった、運だった、と。

横澤:そうですね。

つんく♂:たぶん、当時、新人だった宇多田ヒカルを預かっても、俺、「何したらええ?」ってなったと思うんよね。

前田:なるほどね(笑)。

横澤:うんうんうん。

ルールがあるからいいものを作れる

前田:まあ、なりますよね。それは。すごいおもしろい話が聞けました。時間ももうちょっとで終わってしまうっていうこともあって、もしよろしければ、会場のみなさんにご質問を取ってもいいですか?

つんく♂:(頷く)

前田:もしこの会場にいらっしゃる方々のなかで、つんく♂さん、または、横澤さんにご質問がある方は、挙手をいただいてもよろしいでしょうか。

(会場挙手)

質問者1:あの、僕もものを作ってる人間なんです。僕は、ヒットはわりと制約のなかから生まれてくることが多いかな、というふうに思うんですが、お2人はどんなふうにお考えですか?

横澤:じゃあ、僕からですか。ええと、制約は多いほうがいいと思います。もう、こんな諸先輩方を前にして、僕がこんなことを話すのは大変恐縮なんですけど(笑)。

野原に好きなものを建ててもいいよ、というのは、一方通行の自我だと思ってまして。でも、抵抗が存在することは、なにかの意思が働いてそこに抵抗が存在する。その抵抗をどう……なんて言うんでしょう、自分の中に入れるか……と言いますか。

例えば、野原のなかに大きな木があったり、岩があったり、小川が流れていたりしたら、それがある意味、誰かの意思の抵抗と考えた場合、それを自分たちに「柔(やわら)」と言いますか。

例えば、木をちゃんと借景として、窓からきれいに見せる。もしくは、小川がむしろ家のなかを流れるなど。なんかわかんないんですけど、その制約を自分からは出てこない発想に変えてしまうことを、僕はけっこう常に考えます。ネットの場合、すごく抵抗が多いと思ってまして。例えば、iモード時代を遡りますと、例えば、待受画面を1つ制作するにしても、何キロバイトという制約のなかでやっていたり。

ほかにも、2コマまでしか動かせないみたいなところで、「じゃあ、アーティストのムービーというものをどういう概念で作っていくのか?」といったときですね。人が写真を見た時とき、なぜ、「このアーティストは本人じゃない」「ここには存在しないものだ」と、「二次元のものだ」と思うのかをすごく考えたことがありました。ならば、2コマという制限のなかで、まばたきをさせたらどうなるのかを考えたとき、アーティストがものすごく、なんか生きているように見えたんです。

これこそ、そういう賜物だったんじゃないかな、と思ってまして。そういう抵抗があればあるほど、それを自分の知恵に変えていくというような、まあ、癖を作ってるような気がします。

前田:つんく♂さんも、「ルールがあるから作れるんですね」と書かれていますね。確かに、ルールや制約に助けられて、自分の発想をさらに……なんですかね、自分が思いもよらなかったところから出てくるみたいなことは、あるんだろうなと思います。

つんく♂:それは私立高校の校則と同じですね。校則が厳しいほうが、遊びも燃えるんですよね。門限があるからデートも楽しいし。燃えるし。

自由な校則で、「バイク乗っていいよ」って言われたら燃えないけど、校則でダメって言われたら、ちょっとまたがるだけでテンション上がるわけですね。なので、今も予算がない中で、本当はなにか作るのに良いチャンスなんだと思います。

前田:なるほど。また、励まされるコメントが。

横澤:いや、本当にそう思いますよね。予算ないないっていうのが、楽しめないとダメですよね(笑)。

つんく♂:(笑)。

前田:むしろプラスだ、と。でも、そうですよね。

横澤:楽しめないけど、楽しまないとダメかもしれないですね(笑)。

天才とは、まさに子供

前田:でも、おっしゃる通りですね。制約があるからがんばれるって、すごいそうだなと思ってますね。

例えば、なんて言うんですかね、家に潤沢なお金があって、いつでも留学もできるし、英会話教室通えるという人よりも、絶対に海外に行けない、貧乏だし英会話教室へ通えない人のほうが、頑張って勉強してできるようになったり。

横澤:まあ、そうですね。

前田:勉強とかいろんな分野においても、制約の理論は通ずるものがあるんだろうな、と感じますね。

横澤:その抵抗の本質を知る、ということですよね。なぜ、それが抵抗としてあるのか。というのも、けっこう考えることが多いかもしれませんけど。

前田:なるほど。

つんく♂:でも、さっきも言ったけど、天才にはそんな制約も関係ないんだろうな、って思います。

前田:そうですね。天才はたぶん、もしかしたら今の話でいくと、自分自身で自由自在に自分の中に制約を作り出してしまえる人、でもあるかもしれないですね

つんく♂:(首と手を横に振る)

前田:あ、違う。

(会場笑)

前田:天才はもう制約は関係ない?

つんく♂:(首を縦に振る)

前田:なるほど。そもそも制約という概念さえ関係ない。

つんく♂:制約を気にするのは大人だから。

横澤:つんく♂さんという天才に言われると、ちょっと困りますよね。

前田:困りますよね(笑)。「制約を気にするのは大人だから」とつんく♂さんからコメントがあります、なるほど。じゃあ、つんく♂さんのなかでの天才の定義っていうか、イメージは子供のままやってて、そのコンテンツが世に受け入れられている状態、っていうイメージですかね?

つんく♂:大人というのは、常識のある人という意味ね。

前田:なるほど。

つんく♂:天才というのは、まさに子供。

横澤:でも、すごい人って、子供みたいな人、多いですよね。

前田:確かにそうですよね。

横澤:なんか……。

前田:いつの間にか、大人のフォーマットにはまり込んでいって、制約や常識にとらわれていくのが通常ですけど。

つんく♂:3〜4歳の子にルールを言っても、聞かないでしょ。「そこに書いたらダメ」っていうところに書くでしょ。天才はそれと同じやと思う。

前田:そういうところから、人が生み出せないコンテンツが生まれてくるということなのかもしれないですね。興味深い質問、ありがとうございます。

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