2024.10.21
お互い疑心暗鬼になりがちな、経営企画と事業部の壁 組織に「分断」が生まれる要因と打開策
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伊藤羊一氏(以下、伊藤):HR Techの未来ということで、話をしていきたいんですけども。SmartHRさんとTalentioさんが、業務提携を?
佐野一機氏(以下、佐野):はい。先週、発表しましたね。
伊藤:そもそも、ここらへんが切り口になってくるんじゃないかと思うんですけども、なにを目指して、今提携されたのかということを簡単にお話しいただいてよろしいですか?
佐野:まず、Talentioでは、応募から内定までをマネジメントしているサービスなわけですね。内定までいったら、SmartHRにデータを送るボタンというのがあるので、APIでデータを連携でできるようになっています。
つまり、いちいち、Talentioからデータをローカルに落として、それをメールに添付して労務系の人に連絡する、みたいなことは一切なくなって、ワンクリックでレジュメなどがSmartHRのほうに飛びます。そうすると、通知が来るので、労務担当者も漏れなく処理ができるというような便利機能ですよね。
最近だと、労務のレポートラインと、人事のレポートラインが違うみたいなことってけっこうあるわけで、より情報の集約がしにくかったりするのですね。そうなると、入社初日に来て、「今日、入社する者なんですけど」って言うと、下手すると、労務が聞いてないみたいなことがあるわけです。これが、いわゆる「労務担当が聞いてなくて変な空気になる問題」ですね。
(会場笑)
これ、誰も悪いことしてないのに、全員不幸せなんですね。採用がんばった人事も労務から怒られるし、労務も情報共有されていなくて気分悪いし、今日からがんばろうって思って来た候補者も「俺、来ちゃまずかったのかな」みたいに思うわけじゃないですか。これは不幸ですよ。
宮田昇始氏(以下、宮田):けっこうあるんですよ。これが。
伊藤:そうなんだ(笑)。
宮田:連携してほしいという要望を、けっこうユーザーさんからもらって、「なんでですか」というのを深堀りしていくと、採用担当者さんが労務担当者さんに伝えてなかった問題みたいなのが、一番根深い問題としてあるなという発見があって。
佐野:このあたりは、(メルカリの)石黒さんに聞いてもらうのがいいと思うんですね。
伊藤:石黒さん、両方やってた?
石黒卓弥氏(以下、石黒):僕は採用だけですね。
伊藤:労務の担当の方は?
石黒:労務が2名いて、採用が6名です。
伊藤:やっぱりそこに連絡取り忘れていた問題というのが起きたりする?
石黒:今、ちょうど労務から、「これ石黒さんから聞いてなかったんで、明日(説明)お願いします」って連絡がありました。
(会場笑)
伊藤:やっぱりなんかそういう情報の……。
佐野:やり取りがうまくいかないケースはあるんですよ(笑)。
伊藤:結局、採用は採用の仕事だし、労務というのは、さっきの書類なんか見てもあるように、ものすごく専門性を求められるから、どうしても断絶というのが生まれちゃうんですか?
石黒:はい。本来やるべきものに時間を割くために、それをつないでもらうとか、自動化するというのは、すごくありがたいというのはありますね。
伊藤:そういうことですよね。
佐野:今、効率化というのを1個キーワードで出してますけれども、こういった効率化というのは、間違いなくテクノロジーが得意とするところだし、やるべきところだと思っていて、まずは、ここをとことん追求するというのが、HR Techとしての使命だなと思っていますよ。
伊藤:だから今は、提携の前は、Talentioは採用を徹底的に効率化する、SmartHRは労務のところを効率化するという動きをしていて、その2つがつながりましたと。で、つないでなにするのって言ったら、ここの連携をすることによって、効率化をさらに徹底的にしていくという流れがまずあるわけですね。
佐野:そうです、そうです。宮田さん、なにか補足することある?
宮田:いや、便利ポイントがもう1個あったんですけど。
伊藤:教えてください。
宮田:えっと、履歴書。採用担当から労務担当に渡すときに困るよねというのがあって。採用管理ツールでせっかくクラウドに置いてるのに、また労務担当者に渡すときには、1回ローカルに落として、メールかなにかで送って、自分のところで消す。っていうめっちゃめんどくさい作業が必要なくなって、ワンクリックでピッと履歴書を渡せる。個人情報やセキュリティの観点から言っても、連携して便利になりましたねというのが、1個あります。
伊藤:なにせ便利になるということですね。ただ、徹底的な効率化をしていくというのは、まぁそうだよねっていうことなんですけど。効率化を進めるだけだと、ちょっとなんかおもしろくないなというか。Techというからには、別のなにかに活用されてさらにハッピーみたいなことだと嬉しいのですが。
佐野:「つないでいく」ということは、1つ、非常に重要なキーワードだと思っています。「人」を軸に、どうデータをつないでいくのかみたいなのは、とても興味があるところで、APIで連携していくことによって、効率化だけではなくデータも共有していこうというのがあるんですね。
このセッションで「効率化」に加えて「予測」というキーワードをもう1個あげています。
効率化の先には予測があると。データをたくさん持っていないと、機械学習でも深層学習でも有意義な学習ができないわけですよ。つまり、AIが発展していかない。
なので、つないでいけば効率的になるよねと。それに加えて、データもつないでいくことによって、人を軸にしたあらゆるデータが溜まっていって、それを学習していくことによって、HRの分野にも、いろいろな予測ができるようになっていくんじゃないかみたいなことを考えているわけです。
伊藤:ちょっとそこを掘り下げていきたい。データを溜めていくと。そうですね、全部をつないでいくと、データが溜まっていく。人を切り口にしてデータを溜めていくと、いろんな予測ができるということなんですけども。例えば、どんなような情報をどんなふうにつなげていくのですかね?
宮田:例えば、Talentioさん側で、どのエージェントさんから内定率が高いかとか、どの媒体からたくさんとれているかというのがわかったりするんですけども。それから先、その方が入社をして、どれくらい活躍されて給与が上がっていって、どれくらいの期間在籍されたかというのは、採用管理ツール側ではそこから先が追えなかったんですよね。ツールを使うプロセスが内定のところで終わっていたので。
逆に、SmartHR側で言うと、どっから来たかというのが追えてなかったりしてですね。入社後のデータは取れてるけど、入社前のデータはない。Talentioさんは、入社前のデータはあるけど、入社後のデータがないという感じで、このデータを今後共有していきたいなと思っていてですね。
Talentio側で、どの媒体、どのエージェントから採用されましたというのがわかります。そのデータをSmartHRに入っている従業員のデータと紐付けて、どのメディアから来てる方が長く在籍してくれているのか、会社のなかで評価されて給与が上がっているのかですとか、どのエージェントさんから来る従業員さんは早く辞めがちなのかとか、そういった入社前と入社後のデータをつなぎこんでいく。そういったことをやっていきたいなと思っています。
伊藤:そうすると、エージェントさんは、これまでは、「いえーい、入社決まったぜ」というところまででオッケーだったのが、その後、どのくらい定着するかとか、そういったところもわかってくるのですか?
佐野:そうですね。それは健全だと思いますよね。関係性として。そもそものこの2つキーワードに関して、どういうふうにHR Techを作っていくかという話だと、戦略的には大きく2つあるんじゃないかなと思っています。
1つは、全部自分たちでやる、ですよね。労務管理にしても、勤怠管理にしても、採用管理にしても、こういったHRに関わるシステムというのを全部自前で1社で作って、それを「ワンストップソリューション」で提供する、というやり方が1つあるだろうと。
そういうふうにやられている会社さんもあります。ただ、僕らの提携の意味というのは、そうではないやり方があるんじゃないかということでもあって。そういう意思表示という意味合いは強く意識しています。
つまり、得意なところ、得意なサービスに集中して、そこをがんがんに鍛える。あとは、オープンな思想でつながっていく。そうすることによって、データをたくさん溜めていくという「オープンインテグレート」という考え方ですね。
この2つの戦略でいうと、我々はそもそもオープンなかたちでやっていくと。
Talentioはいろんなサービスとつなげていきたいし、たぶん、SmartHRさんも、TalentioだけじゃなくてほかのATSとつなげるということも、どんどんオープンにやっていくと思うんですね。それでいいと思ってるんですよ。それで発展していけばいいなというふうに思っている。
じゃあ、それで、いろいろなHRに関する会社さんと、いろいろなデータをやり取りしていくことによって、どういうことが可能になっていくかっていうと。予測っていうことの範囲でいくと、例えば、レジュメをアップした瞬間に、自社とのマッチ度っていうのが、分析やAIの技術によってバシっと出ると。
加えて、ユーザーがどんどんフィードバックしていくことによって、さらに精度が上がっていくわけです。もう、情報をアップした瞬間に、ある程度の判断が自動でされるので、書類選考であったりとか、面接みたいなことのエネルギーというのは、かなり少なくなる。こういったことは、近い将来あるんじゃないかなと思っていますね。
伊藤:そうすると、例えば、エントリーシートが出されました。いろんな情報が出ました。それによって、その人がどれくらいうちの会社にマッチしてるとか、マッチしてないということが、出された段階でわかっちゃうというようなことになってくるのでしょうか?
佐野:そうですね。それが大企業だったら、自社のデータだけでできると思うんですけど、日本の9割以上がやっぱり中小企業なわけですよ。そうなってくると、中小企業の人たちにも、ちゃんと使えるようなインフラが必要になります。
Talentioはすべてのデータから自社に合うものを解析して採用活動に活用してもらいたいと思っています。そうすると、10人の会社さんでも、20人の会社さんでも、大企業並みに解析したうえでの情報を扱えるようになる。
伊藤:1社1社だけでやったら、例えば、10人とか20人とかというデータしか溜まらないけど、TalentioとSmartHR連合がプラットフォームになって、どんどんデータが溜まって、そこから示唆が得られる?
佐野:そうですね。
伊藤:例えば、採用と労務ということでつながりましたと、2社が。ほかにどんな情報がつながる可能性があります?
佐野:例えば、エージェントさんや媒体さんとつながる可能性は、僕らとしてはかなりあると思っています。別の言い方をすると、Talentioで絶対にやらないって決めているのは、エージェント業務や媒体業務。
なぜかと言うと、利益相反になるのですよね。コンフリクトが生まれちゃうんですよ。自分たちの媒体を使ってくれてるから、このATSをセットで使ってくださいみたいになっちゃうと、他の媒体とは連携しにくいですよね。つまり、オープンにつなげにくいわけです。なので、利益相反になりそうなところは、僕らは戦略的にやらないというふうに決めている。
では、例えばエージェントさんと提携を強化するとどうなるのか。エージェントさん側のいつも使っていらっしゃる基幹システムから、ワンクリックでTalentioに追加する、みたいなことができれば、エージェントさんとしてもすごく簡単になります。そのあとも共通の情報をTalentio上でやり取りしていけば、かなりスピーディーになります。加えて、Talentioではどういった歩留まりかもわかるので、エージェントさんもよりマッチした人材を紹介しやすくなるのではないかなと。
伊藤:それ、でも、エージェントさんと採用側がつながるって、めっちゃ怖いですよね。なんか。エージェントがつながって、自分たち、全部ガラス張りになっちゃうっていうことですよね。
佐野:情報の非対称性はなくしていかないといけないなと思っています。情報の非対称性を使って商売をし出すと、本質じゃないところでお金が生まれる可能性も高いのですよね。それはなんか、インターネット的じゃないというか、おもしろい世界にはならないし、業界自体をインターネットの力でアップデートさせてくみたいなことにはならないんじゃないかなと、個人的に思うところかな。
家入と話していて、「インターネットは民主化のツール」という話をよくするのですけど、情報の非対称性というのも中央集権的な発想の一部のように思います。やっぱりできるだけフラットにしていかなとダメだよねみたいに考えるのは、家入の影響を受けているところもあるかもしれないけれども。
伊藤:とにかくチェーンを、最初から最後まで全部つなげるという。
佐野:そうですね。
伊藤:例えば、労務以外で、社内の、こういうところもつなげられる可能性があるよねっていうのはあります?
宮田:SmartHRで言うと、従業員さんのデータをいろいろなサービスと紐付けることができます。身近なもので言うと、勤怠管理ソフトと連携して、従業員さんの勤怠データもつなげることができると思いますし、あと、評価システムとかをつなげて、この人は評価はどうなのかみたいなデータもつなげられると思っています。
ちょっと突飛な話で言うと、MITとかが研究しているやつで、従業員さんに、プラカードみたいに、なんて言ったらいいんですかね。ネームカードのなかになんかデバイスを入れて配ったりしている。
伊藤:チップね?
宮田:そうです。で、その人の発話の状況とか、しゃべっているトーンとか、会話のなかでイニシアチブをどう取っているかみたいなのが分析できるらしいんですよ。そういうので、その人のパフォーマンスとか退職予測とかができたりしているらしいんですけど。
いわゆる生体データと紐付いたパフォーマンス予測みたいな、そういったようなものまで、全部つなげていけたりしたら、すごく未来的でおもしろいなと感じています。
佐野:退職の予測もちょっとホットな領域ですよね。
伊藤:そうすると、例えば、HRのフレームワークで言うと、採用をして、登用をして、育成して、評価するというところがあると思うんですけど、それを全部つなげていって、それだけじゃなくて、日々のフローのコンディションとか、そういう情報までつなげていっちゃうという、そういうイメージ?
佐野:そうですね。一部の大企業さんでは、すでにメールの文面を全部解析して、退職の傾向がある人のデータを溜めて、アラートを出すみたいなことをやっていますからね。
伊藤:人事情報と全部つながると、それって、でも、別に従業員を監視するとか、コントロールするということではないんでしょうね。
佐野:ぜんぜん違うんですよね。
伊藤:違いますよね。社員のハッピーのためにプラスになるといういうイメージですかね。
佐野:やっぱテーマとしては、最初の羊一さんのマクロデータがすべてで、労働力がみるみる減っていく中で、いかに一人ひとりが生産的に働くかじゃないですか。
人事って、それを願っている人たちですよね。従業員が幸せに働いているのって、すごく大事なことなんだけれども、それが見える化されたりとか、自分の意思決定を助けてくれたりとかっていう。そういうHR Techというのが、明るい未来かなというふうにも思うよね。
宮田:さっき、従業員さんがハッピーになるためにみたいな話があったとおもうんですけど、入社後のパフォーマンスとかでデータが溜まっていくと、あなたはこの会社に合う合わないみたいなのが、たぶん精度高くできていくようになると思っているんですね。
僕が個人的に、一番不幸だなと思うのが、相性が合わない人が入社しちゃうことって、けっこうお互いにとってアンハッピーだと思っていて。会社としても、その方のフォローがしんどくなったり、その方としても、せっかく大事な自分の1年間、2年間くらいを相性の悪い会社で潰しちゃうみたいなのはもったいないことだなと思っていて。
そういうところが、テクノロジーである程度予測できると、もちろんそれだけではないんですけれども、事故みたいなものというのは、少なくとも減らすことができるんじゃないかなと思います。従業員さん側にも十分メリットがある試みなんじゃないかなというふうに思っています。
伊藤:はい。お時間になりました。
佐野:あ、そう? どうりでみんなが疲れてると思った。
(会場笑)
伊藤:HR Tech、現状はサービスにおいての「効率化」が進んできていると。それが、効率化するアプリ同士、サービス同士がつながっていくというかたちで、効率化を目指すと。
その先には、データの活用。データが、いろんなデータ、採用とか、評価だけのデータじゃなくて、労務だけのデータじゃなくて、日々の活動みたいなところまで、データがつながっていくと。それはなんのためにやっているかというと、コントロールするんじゃなくて、ハッピーのためにやっていくと。そういうところをお話しいただきました。
最後に、たぶんここにいらっしゃっているみなさんって、そういうHR Techの今後を一緒に作っていく仲間になっていくと思うんです。そういう仲間たちに、一言ずつメッセージを出していただいて、終了したいと思います。宮田さんからいきますか。
佐野:僕、クロージングがあるので、それでしゃべりましょうか。
宮田:今日は、本当にお忙しいなか、ありがとうございました。HR Techという言葉、たぶんみなさんはご存知だと思うんですが、世の中的には「なにそれ?」みたいな感じだと思っています。ただ、今後、確実に、Fintechとかみたいに重要な潮流になっていくと思っています。
やっぱり日本って、どんどん人口が減ってっちゃうんですよね。人の取り合いになると思っています。人事、大事。その人事の方が、誰がやっても変わらないような業務に追われているのはよくないなと思っていてですね。誰がやっても変わらない業務だったら、機械に任せてしまおうと。
その上で、本来、集中すべきことに集中できる、そんなようなことを、このHR Techというのを盛り上げて、実現できたらいいなと思ってます。本日は、ありがとうございました。
伊藤:どうもありがとうございました。
(会場拍手)
佐野:このままクロージングもさせていただければと思いますが、みなさん、今日は、本当、長時間ありがとうございました。会場をお借りしたエウレカ様、ありがとうございます。運営していただいたメンバーのみなさんもありがとうございます。HRが大好きなひとたちと、こんなにHRのことを話せて、すごく楽しかったです。
みなさん、一人ひとりが、Talentioを使うとか、SmartHRを使うとかっていうことではなくて、こういうテクノロジーを積極的に取り入れていくということとが、とても大事だと思います。HR Techを推進するのは、ここにいるみなさん自身だと思うんですよ。
例えば、僕がTalentioをTwitterで検索して、そこで、「すごく便利」というふうにつぶやかれている一言があったら、すぐ、浅野くんというCTOに、共有して喜び合うわけですよ。そういう気分で仕事をするだけで、僕らの生産性が上がるんですね。
(会場笑)
これは、すなわち、日本のHR Techを1歩進めるわけですよ。なので、そういう時期なんです。僕らもすごくがんばって、いいプロダクトにしていければなと思いますけど、みなさんと一緒に作っていきたいなと思っていますし、ここにいる全員が当事者だと思っています。
このあと、お飲み物もありますし、軽食もご用意してますので、ぜひ、みなさまと、ネットワーキングというか、情報交換などいろいろとさせていただければと思います。
本日は、どうもありがとうございました。
(会場拍手)
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