2024.10.21
お互い疑心暗鬼になりがちな、経営企画と事業部の壁 組織に「分断」が生まれる要因と打開策
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小林せかい氏(以下、小林):気づけばもう1時間以上経っているという。
出口治明氏(以下、出口):あ、そうですか。それでは質疑応答に移りますか。みなさん、自由に手を挙げてください。どなたでも、なんでも聞いてください。
小林:(笑)。
出口:さっそく手が挙がりました。後ろの方。
質問者1:どうもありがとうございます。小林さんに質問させていただいてよろしいですか? 本を読ませていただいて、すごく計算されたというか、考え抜かれていてオープンされたように印象を受けました。その上でおうかがいしたいんですけど、実際にやってみて一番想定外だったことってなんでしょうか?
小林:そうですね、ここまでみなさんの心を掴んだというとちょっと断定的ですけれど、正直なところ、お店を始める前から「有名になるな」とは思っていたんですよ。
今までにないことをやる……メニューがなくて、お客さんの好みを聞いて作るのは、すごくテレビ映えしそうじゃないですか。お笑い芸人が来て「イチゴと海苔でなんとかして」とか言いそうじゃないですか。
テレビのお笑い芸人や、あとは企画として「ふざけ半分に50分間働いてみた」など、そういう感じに有名になっていくのかなと最初は覚悟していたんですよ。おもしろおかしいネタで使われるのかと思っていたら、ぜんぜんそうじゃなくて。これは意外だったという意味で一番なんです。
例えば、先ほど話のなかにも出てきた、私の経歴として理系だったことや、そのほか店の動線があり、結果、こういうかたちで回転ができている。そういった、まともなところを評価してくださる方がすごく多かった。いい意味で、そこは想定外でした。おもしろいほうのネタにされる覚悟はしていたんですけれど、よかったと思いましたね。
なかなかやってみないとわからないこと、ありますね。
出口:それは僕もまったく一緒ですね。8年間、想定外の連続でした(笑)。
小林:(笑)。先日、8周年だったんですもんね。質問、ありがとうございます。すみません、こんな感じで。
質問者2:出口さんに質問させてください。ライフネットで想定外の連続とは、どんなことでしょうか?
小林:ベスト2くらいで。
出口:もう全部が想定外ですけれど。
例えば、ごく最近の例で言えば、今年4月に、KDDIさんとともに1年間考えに考え抜いて、割引を始めました。そうしたら、すぐにほかの保険会社から「これはおかしい」とクレームがついて、もう一度作り直したんです。
結果論で詰めが甘かったとも言えないことはないのですが、考えて考え抜いても、そういった反応が出ることなどはわかりません。これが最近の想定外では、一番大きいですね。
4月に売り出した商品ですが、結局12月1日にもう一度商品の構成を作り変えることになりました。でも、この想定外だけでもシステムをすべて変えるので、ものすごくコストはかかります。今年一番の想定外でした。
毎年そんなことが起こっていますよね。でも、これもあるベンチャーキャピタルの方に言わせれば、「どんなに優れた計画を持ってきたベンチャーでも、そのとおり進んだベンチャーってゼロやで」と言っていますからね。世のなかは、やってみなきゃわからないことが多いんだと思います。
質問者2:ありがとうございました。
質問者3:ちょっと時事ネタかもしれないんですけど、アメリカで(ドナルド・)トランプ氏が当選したり、イギリスがEUから離脱したり、保護主義的な流れがあると思うんです。出口さんは今のこの流れをどう感じていらっしゃいますか?
出口:ひと言で言えば……。でも、今日の主人公は(小林)せかいさんですからね(笑)。
(会場笑)
小林:私も聞きたいです。なぜ聞きたいかというと、出口さんは教え方がすごく上手なんですよ。わかっているから「なんでこんなこともわからないの?」は絶対にないんですね。だから、教えてもらうのが楽しいんですよね。個人的に聞きたいですね(笑)。
出口:「グローバリゼーションの象」という絵を見たことあります? これはグラフの形を象で言い表しているものなんです。例えば、こちらから見ると鼻の長い象に見える。これをグローバリゼーション……あ、ちょうど象があるじゃないですか。
小林:あ、本当だ。象がいる(笑)。
(会場笑)
出口:ここの部分、世界の中間層の増え方が実はすごく大きくて。グローバリゼーションの象は鼻を上げているんです。この鼻を上げている先進国のトップの人もものすごくお金持ちになっているんですよ。ところが、鼻が下がっている根本の部分、新興国の市民、労働者が貧しくなっているんです。
これが「グローバリゼーションの象」と呼ばれているものです。簡単に言えば、中国で工場生産が進んだら、日本の工場で働く多くの人が失業してしまう。一方、中国の人は豊かになる。世界全体で見ると、圧倒的多数の新興国の人がお金持ちになっている。昔に比べれば豊かになっている。それはいいことなんですよね。象全体で見たら。
でも、先進国だけで見たら、トップの人はお金持ちだけれど、普通に働いている人は、新興国に仕事を取られて貧しくなっている。この現象がたぶんトランプであり、Brexitだと思うんですよね。
人間の歴史をみるといつも振り子のように振れている。今回はちょっと振れ幅が大きくなったということです。僕たちは、なんとなく歴史はまっすぐにいい方向に進むと思っちゃうじゃないですか。でも、実際の歴史を見ていると、実はジグザグなんですよ。振り子も大きい振り子があったり、小さい振り子があったり、揺れていくんです。
そう考えれば、この象だと思えばいいんじゃないですかね。鼻を上げている象だと。Google検索したら出てくると思います。「グローバリゼーションの象」と。
質問者3:ありがとうございます。
小林:ちなみに、トランプと中国というのはなにか関係があるんですか?
出口:例えば、メキシコを含んださまざまな新興国の工場で、アメリカの経営者は安い労働力を使います。その分、アメリカに住んでいる人が失業したりする。そういうふうに考えたら、わかりやすいんじゃないでしょうか。
グローバリゼーションがなかったら、国内でみんな仕事があったのに、工場がなくなったら、工場で働いている人は失業しちゃう。でも、工場の経営者は同じようにお金儲けができる。
小林:ありがとうございます。わかりやすかったです。すいません、追加の質問で。助かりました。
出口:じゃあ象を戻しておこう。
小林:(笑)。
質問者4:出口さんに教えていただきたいことがあります。世のなかにはたくさんのハブを持った方がいらっしゃいます。
ところが、なかなかそのハブ同士がつながらない方が多いと思うんです。出口さんの生き方をみたり、ずっとご講演を見させていただいたりしていると、いろんな方とうまくつながっている印象があります。コネクトするコツみたいなものについて、出口さんはなにかお持ちなんでしょうか?
それと、小林さんはそういった出口さんを見て、どういう印象を持たれているかもあわせてお聞きしたいと思います。
小林:まさに、本当にそこは、真似できないところなんですよね。私も、出口さんに聞いたことあるんですよ。
先ほどもお話しましたが、メディアなどの取材を20回以上受けていると、なんかもう嫌になってきちゃったんですよね。新しいことだったらいいんですけど、同じことを何回も聞かれると……「本当にしんどいな」となったんですね。
そこから今、例えば「FAQを作っておこう」とか、改善はあるんですけれども。
実は悩んでいるとき、出口さんに相談をしたことがあるんですよ。「出口さん、何回も講演されたりいろんなところでお話しされたりしているんですけれど、しんどくないですか?」「自分はしんどいっす」と言ったんですね。
出口さんは覚えていないかもしれないんですけれど、そのときの答えは「やはり相手によって違うし、いつでも楽しい」でした。それを聞いて「本当にポジティブな人だな」と思ったんです。
出口:それはそうですね。今でも一緒です。たぶん、同じことを聞かれてしんどいと思うのは、自分を基準に考えているからだと思うんですよね。
僕の場合は、すべて一期一会だと思っているので。今日も何人か知っている方に来ていただいていてすごくうれしいんです。でも、考えてみたら、このメンバーで会うことは、もう二度とないんですよね。とくに68歳にもなっちゃったら。小林さんは大丈夫だと思いますけれど(笑)。
(会場笑)
本当に一期一会だと思うんですよ。だから、同じことを聞かれても聞いている人が違うから。それこそ、先ほど小林さんが言われたみたいに、どんなお客さんにもフラットに対応しようとするのと同じように……。
僕、わりと自分で決めることができるタイプなんですよ。今日についても「一期一会だし」「休日にも関わらず、みなさんこの1時間半のために集まっていただいているわけだし」「ならば、この1時間半を一所懸命やろう」と決めたら、そのとおりにわりと動けるタイプなんです。そうすると、同じことを聞かれて嫌だという気持ちはなくなるんですよね。いつもどんなご質問いただいても、思ったとおりのことを言えばいいわけだから。
それから、僕はわりと動物学や生物学、脳の話も大好きなんです。単純に考えると、人間はいつ死ぬかわからないんですよ。それから、済んだことは返らないんですよ。今ここでパネルをやると決めたのは僕なんだから、自分で決めたことは変わらないわけだから、それだったら楽しんだほうが自分も楽しい。そういうふうに思うタイプなんです。
小林:人のつながりというところでも、本当に耳が痛いというか目が痛いんですけれど。出口さん、本当にいろんな方とお知り合いになったり、逆に人と人とをつないだりしているところをお店でもよく目にします。
では自分はどうなんだと言われると、「Facebook、小林せかい」で検索していただくと、プププと思われるかも……。基本的に「仲の良い人からの友達承認をお願いしています」と書いているんですね。知らない人からわ~っと来ると「ちょっとなんかなー」と思ってしまって。そこがぜんぜん違うんです。
出口:そこは僕も考えずに、最初は全部にイエスを言っていたら、あっという間に上限に達して(笑)。今は、「申し訳ありませんけれども、フォローしてください」と伝えています。今では「考えておけばよかったな」とか思ったりしているんです。
基本的には、別にかっこいい言い方をしているんじゃないですけれど、「来る者は拒まず、去る人は追わず」なんですよね。来る人は用事があっておもしろいと思って来てくださるんだから大事にすればいいし、去っていく人はおもしろくないと思っているかもしれない。それは、僕に責任がある。でも、そこまで考えてもしょうがない。
もうこの歳になったら変わりようがないので、自分に正直に、その場その場を一所懸命やっていけばいいのかなと思っているんです。それくらいですよね。
「つなげている」と言われましたが、意識しているわけじゃないんです。ただ「こんなことに困っている人がいる」と聞くと、「あ、そう言えば、この人が得意だったな」「紹介したら、助けになるかもしれない」と思うくらいですよね。
だから、普通なんです。当然ながら、忙しいときはやりませんし、時間が空いたときに「あ、そういえば」と思ってつないでいるだけです。そのほうがみんなも楽しいですし、役に立つ。
質問者4:出口さんが無意識で行動されているというところが、やはりすばらしい。
小林:そこが伝わった気がしますね。一歩一歩の小さなイエスのくり返しですよね。その段階までいくには幅があるようにも思いますが、「出口さんだったらここは受けるかな」というのは、自分の中の1つのロールモデルみたいになっていたりしますね。変な言い方ですが、いい手本のように感じています。
出口:光栄です。
質問者4:ありがとうございました。
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