2024.10.21
お互い疑心暗鬼になりがちな、経営企画と事業部の壁 組織に「分断」が生まれる要因と打開策
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谷口マサト氏(以下、谷口):ちょっと余談ですけど、かっぴーさんに仕事をお願いしようと思っていて、でもまだしていないのは、さっきみたいに広告とコンテンツの融合ができちゃうからなんですよ。私は、そこの分野に挑戦していることが多いので。かっぴーさんは完成されているんです。だから、どうタッグを組めばいいかと。
かっぴー氏(以下、かっぴー):そうすると、絵だけをお願いするとか。でも、絵じゃないんですよね(笑)。
藤崎実氏(以下、藤崎):かっぴーさんの魅力は絵だけじゃなくて、セリフや構成、着眼点も含めて総合的なんですよね。
谷口:素晴らしいところですよ。
かっぴー:この絵はちょっと……。ちなみにボールペンで描いているんですよ。
藤崎:そうなんですね。江口寿史さんもボールペンでしたっけ?
かっぴー:ボールペンだったかな?
谷口:『ジョジョの奇妙な冒険』の荒木飛呂彦さんが著書で書いていたのは、「漫画家で売れるのは、うまい絵か、誰が描いた絵かすぐわかるやつだ」と。
かっぴー:ああー、いい逃げ道みつけた(笑)。
谷口:誰が描いたか、ぱっとわかるじゃないですか。
かっぴー:わかりますね。「このボールペン感は!」(笑)。
谷口:それはいいなあと。
藤崎:すごいですよね。アイコンになっていますよね。素晴らしい。
かっぴー:バズは戦闘機で爆撃するイメージで、ヒットは泥臭い地上戦みたいな感じで描いています。
谷口:では、対談に入る前にちょっと一歩戻していただいて、今の話です。例えば、バズは笑いには強いですけど、でも、広告には落ちにくいんですよ。「笑って終わり」みたいな。
かっぴー:そうなんですよね。
谷口:泣くまでいかないと、落ちないですよね。おそらく「笑いから泣き」は感情の振れ幅で、ユーザーのほうでそれくらい心が動かないと、商品に対する態度も変わらないんですよ。振り幅がなくて「バズればいいや」という考えだと。
かっぴー:多いですよね。そういうのね。
谷口:バズればいいから誘導費ゼロ。「えっ?」みたいな(笑)。
藤崎:虚しくなりますよね。バズればいいというのは、「なんかバズネタないですか?」みたいな。
谷口:あと、ワンパターン化してくるんですよ。例えば、ニュースサイトでよくあるのは、「誰だれ激怒!」みたいなものがウケるんです。みんな激怒と言っている、怒っていないのに(笑)。しまいには、使いすぎて使用禁止になる。
かっぴー:そういうのを漫画にしたいな。「みんな怒ってるやないか!」みたいな。
藤崎:確かにバズることは大事なんだけど、それだけだとぜんぜん心に残らなかったり、むしろ「それで一体なんですか?」が残りますよね。実のところ、「じゃ、なんですか?」が大事ですよね。
谷口:本当に楽じゃないですけど、愛というか、もう少し笑いだけじゃないことが必要だと思いますよね。
藤崎:では、お2人の接点を見つけていきたいので最後に。「漫画は最高のヒットコンテンツなんでしょうか」というディスカッションに入りたいと思います。谷口さんから、いかがでしょうか。
谷口:ちょっと紹介しますと、これも山科ティナさんに描いてもらったんですけど(笑)。
かっぴー:これもだ。全部だ。全部じゃないけど(笑)。
谷口:「LINEギフト」という、LINE上で贈れるプレゼントサービスをPRするためのものです。もらって嫌なものをあげる行為を「プレゼントハラスメント」と勝手に命名しました。でも、プレゼントをあげている本人に自覚はないんですよ、
いろんなパターンを集めて「こんなウザいプレゼントするくらいだったら、LINEギフトを使ってみれば?」というやつなんですけど。おもしろいと思ったのは、これを見たTBSさんから「これ、もうそのままドラマ化させてください」と連絡があって。
BSなんですけど、実際に映像にしてもらいました。そのときパッとみて、「あっ、漫画は絵コンテとしてそのまま使えるんだ」と思ったんですよ。映像化はかなり距離が短いと思いました。後にも話したいんですが、来年はどんどん映像化をやっていこうかと思います。
もう一方で、さっき言いました写真と漫画の使い分けです。私、3年前から写真で描いてけっこうヒットしたものがあります。
かっぴー:これ、すごいですよね。もう先駆けですよね。
谷口:ありがとうございます。『ライフ・オブ・パイ/トラと漂流した227日』という映画がありまして、このDVDをPRしてと言われて作ったものです。「大阪のおばちゃんを探してきて、美少年を裸にして放り込めば、どんなことが起こるのか」というものなんです。実際に、大阪でロケしたものです。
これ、ウケたんです。でも、たぶんウケたのはドキュメンタリーのようだったからだと思うんですね。実際にこれ、素人のおばちゃんですし、探すのが大変だったんですよ。大阪のおばちゃんみたいな強力なキャラクターが、リアルにいないと成り立たないんですよね。漫画はどんどんキャラを作れますし、その意味では自由が効くと思うんですね。
藤崎:そうですね。「大阪のおばちゃんを呼んでくる」という段階で、ある種企画ができちゃっているんですよね。あとはどう探すかだけだから。
谷口:ヨッピーさんみたいな、本人のキャラクターがある場合もすごくいいと思うんですけど、それ以外の方法だと、本当にいい人を探さないといけないのがけっこう大変です。しかも、それを広告とどう組み合わせるかは、ナイーブなんですよね。
例えば、1つよかったのが『きょうは会社休みます。』という、主人公が処女の少女漫画のPRを作るときに、55才のカリスマ童貞、山口明さんに出ていただいたんですよ。すごい方なんです。
かっぴー:カリスマ童貞?
谷口:カリスマ童貞。エッチする前から「俺、エッチに飽きている」という。脳内でいっぱいしているから。本当にすごくおもしろいキャラなんですけど(笑)。世界中が童貞なら、戦争は起こらないと言ってました。優しいから。
藤崎:平和主義ですね。
かっぴー:絶対に起きるよ。そもそも生き残れない。
谷口:なにが言いたいかというと、そういうキャラクターがいないと成り立たないです。
かっぴー:そうですねえ。
谷口:では、ここから座談したいんですけど。かっぴーさんは、キャラクター作りがすごくうまいと思っていまして。名前もぱっと出しますし、そのあたりの秘訣をおうかがいいしたいんですよね。
かっぴー:基本的に、ほとんど自分なんですよ。かなり最初のころにインタビューでも答えたんですけど、『SNSポリス』はSNSのあるあるギャグ漫画なんですけど、「Facebookでサッカーの話題ばかりのやつなんなん?」などを描いていたんです。
あと、テリーヌという食べ物があって、「テリーヌって食べ物、Facebookのタイムラインでしか見たことないんだけど」というのも、漫画で描いていたんですよ。いろんな方面の人をディスっているように見える。僕はディスっているつもりじゃないんですけど。
藤崎:わかりますね。
かっぴー:突っ込み倒す漫画を描いていたとき、「あれで嫌われないバランスがすごいですよね?」と言われたことがありました。でも、それは違っていて。テリーヌの写真は僕なんですよ。
谷口:自己批判なんですか?
かっぴー:僕がテリーヌの写真をアップするたびに「あっ、またテリーヌに踊らされている」と思っていたんです。だから「ブルーボトルに行ったら、シェアせざるを得ない」な感じを自分で思っていて。
谷口:痛い人だ(笑)。
かっぴー:そう。痛い、痛い(笑)。すべて僕なんです。だから、それを自分で漫画にしようと。そうしたら意外と「あっ、こういうやついる」「俺もやっちゃう」と盛り上がっている。
谷口:すごくオールインワンですね。自分を観察して、それを描いていけばいいんですもんね。
かっぴー:「人間観察が得意ですね」と言われるんですけど、違うんですよね。ほとんど、自分なんです。真面目な『左ききのエレン』という漫画も、名前がついているキャラクターにはほとんど自分の要素が入っていて、プラス「あの人を40パーセント足して僕を20パーセント足したのが誰だれ」みたいな感じのキャラクター造形をしているんですよ。だから、けっこう自分です。
谷口:だから毒がないのかもしれないですね。なにか愛があると思うのは、私は県民性サイトをやっていまして、それである県が別の県を攻撃するとすごく問題になるんですけど、自虐的に自分の県には当事者が言っているからなにも言わないですよ。
かっぴー:夕張夫妻(夫妻と負債をかけたゆるキャラ事例)とかありましたよね。
谷口:少し思ったのが、夏目漱石が『坊ちゃん』を書いたときに、赤シャツというすごく嫌な先生がいるんですけど、実はそれが漱石だったっていう。
かっぴー:へえ。
谷口:つまり、主人公の坊ちゃんが漱石かと思うと、大きな比重を占めているのは嫌みな先生のほうじゃないかという説があるんです。嫌な部分を書いていく。だから、常に内省というか、自己観察しているんですね。他人も観察していると思いますけど。
かっぴー:そうですね。今『左ききのエレン』を描いていて、そこに来週の話でめちゃくちゃ突っ込むんですよね。今ちょうど、自分も考えてます。あれはどういう思考回路なのかな、という。来週の話に入れようと思っているんですけど、「他人を見て自分を探すな」というセリフを入れようと思っている。
他人と話していて、自分を探している自分がいるんですよね。「あいつのだめなとこ、俺と同じやん。俺は大丈夫だ」みたいな。そこで勝手に自分を見つけて満足する。そういう話を書いていきたいんです。だから、他人のことを観察しているようで自分のことを考えているところは、ありますね。
谷口:あと1つお聞きしたいことがあります。私も漫画を描き始めているんですけど、言われたのは「感情が出てない」なんですよ。つまり本音。描くこと=本音芸というところもあるじゃないですか。
かっぴー:本音芸。本音ですね。
谷口:もしくは、感情は描くの恥ずかしかったりするときもあるじゃないですか、そんなことないですか? 自分の言葉ではあるんですが。
かっぴー:本当に、まったく恥ずかしくないんですよね。
谷口:素晴らしいですね。
かっぴー:真面目な『左ききのエレン』で、モデルの女の子が出てくるんですよ。すごく美人の女の子が出てきて、主人公の男がいいようにもてあそばれて捨てられる。でもすべて、自分の話なんですよ。それを平気で描いちゃっている。平気で描いて「シェアしてね」じゃねえよ、みたいな。どんな顔で、しかも、Facebookにその娘いるし(笑)。そのあたりは、あまり気にしないんですよね。作品にしたら、恥ずかしくない。
谷口:昇華させていますからね。
かっぴー:あれをmixiの日記に書いたら、死ぬほど恥ずかしいじゃないですか。
谷口:やってほしいなぁ(笑)。
かっぴー:漫画にしたら恥ずかしくないことを見つけたんです。とくにいろんなギャグでも、真面目でも、それを描くことで昇華している部分はありますね。
谷口:ああ、なるほど。すごいですね。二十面相みたいに自分のいろんな面をどんどんキャラクター化して、つけていく感じです。
かっぴー:そうですね。
谷口:キャラクターといえば、私は小池一夫先生のところに通っているんです。思ったのは、キャラクターがないと連載できないから、結局、広告もワンパターンというか、1回きりで終わってしまって意味がないと思ったんですよ。来年は、1年間連載するんですけど、それはキャラクターを立ててやるんですよ。
かっぴー:いいですね。
谷口:もちろんCMでもシリーズものがありますけど、それがだんだんできやすくなっていると思うんですよ。かっぴーさんも映像化に興味を抱いていると思いますが。
かっぴー:めっちゃあります。
谷口:来年は私も映像と音楽をやろうと思っているので、かっぴーさんはそのあたり、どんどん踏み込んでいく感じですか?
かっぴー:映像は、この人数だから言っても大丈夫ですかね。今描いている漫画はほとんど映像化の話は来ているんです。でも、あれは運じゃないですか。
藤崎:『左ききのエレン』は映像化してほしいですよね。
かっぴー:僕が一番思っていますよ。誰かいませんか、この場に偉い人(笑)。
谷口:すごくダイレクトですね、営業が(笑)。
藤崎:冒頭にお話ししたように、私は子供のころは漫画家になりたくて、その次に興味の対象が映画になるんです。そこで、共通して重要なのはキャラクターなんですよね。映画のシナリオ術などを勉強していくと、キャラクター造形の重要性が必ず出てきます。『スターウォーズ』が今でも人気なのは、登場人物の魅力だということです。世界観プラス、キャラクター。
最後に「私のコンテンツ道」を、谷口さんとかっぴーさんにひと言ずつ、お願いします。
谷口:深さだと思います。いろんなライターや、LINEにも桜川和樹さんというカリスマ編集長がいますけど、その方もおっしゃっているんですけど、どんどんコンテンツが深くなっているんですよ。広くマスに届けようとしていたのが、クラスタに分かれていることにも関連しているんですけど。
例えば、人気タレントを使うことに対して、大阪のおばちゃんが主人公のテレビドラマはないです。それは成り立たないからですよね。でもネットだったら成り立つ。
あと、日西愛さんというWebライターがおっしゃっていておもしろかったのが、ネットでは「カニのさばき方」といってもウケない。でも、「越前ガニのさばき方」だったらウケる。やはり若干深くなっているんですよ。
例えば歌でも、より広く届けようとすると、どうしても恋愛ソングになっちゃう。そうじゃなくて、もっと深い歌、トイレでも墓石でもなんでもいいんですけど、今後できるんだろうなと思っています。
先ほど、かっぴーさんもおっしゃっていますけど、クラスタごとに深いものを作れるのが、実は広告じゃないかと思っています。広告は、どの分野でも専門分野ですので、深いですよね。
先ほどの「kamomefan」という扇風機でも、風を作るにもこんなに深い話があるんだというかたちで、けっこうおもしろいですよ。その「深み」は、実はすごくいいと思っていまして。
広告は、コンテンツの邪魔だと思われているのが多いんですよ。そうじゃなくて、実は深みという意味では、一緒にあっていいと思います。
かっぴー:一番は、自分が見たいんですよね、だから、自分が見たい作品を作ること。そうすると、ごまかさないじゃないですか。この1年でよかったと思うのは、自分の作品を厳しく見られるようになったことです。これは、本当に最近ですね。
プロじゃない人は、自分が描いた作品が好きで甘やかしちゃうと思うんです。「せっかくがんばったから、これでいいじゃん」と。料理もそうですよね。「せっかく作ったから、おいしいって言ってよ」となったりします。
でも、お店だったらそうはいかないですよね。本当においしいかどうかすごくチェックするし、品質管理もします。「本当に自分がおいしいと思うものだけを、お店で提供したい」がプロ意識だとするならば、ですが。
つい最近、その意識は芽生えたというか。絵も下手だけど、ていねいに描ける余地があると思ったり、セリフも「ここちょっと軽く言っちゃったな」「もっとここちゃんと別の言い方あるな」など、すごくチェックする目が最近はある気がしています。
谷口:質問ですけど、それまでも広告のプロフェッショナルだったので、客観視してはずっとやっていたわけじゃないですか。それをあえて、この1年で変わったというのは、なにか要因があるんですか?
かっぴー:広告は楽なんですよ。1回で済むから。さっきおっしゃっていた連載でも、月1で単発なんですよね。
『左ききのエレン』などを描いていると、毎週描くから、いろいろ考えるんですよね。「ファンをこれ以上増やすにはどうしたらいいんだろう」と。絵がネックで入ってこられない人もいる。だから、なるべく入口を広げるための努力はしたいと最近すごく思いますね。
藤崎:ありがとうございます。ごめんなさい。そろそろ時間なので、まだまだ聞きたいところではありますが。今日のセッションは終わりにしたいと思います。
最後に一言だけ。お2人と接していて思ったことがあります。
要は、「共感できて愛されるキャラクターがそこにいるのか?」「それがコンテンツの中心にいるのか?」じゃないかと思いました。最後にまとめると、お2人は「人間観察のプロ」なんだなと思いました。今日は素敵なセッション、ありがとうございました。会場のみなさんも、お2人に拍手をお願いします。
(会場拍手)
かっぴー:ありがとうございます。
谷口:ありがとうございます。
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