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情熱大陸プロデューサーに学ぶ挑戦する生き方とは@ASAC(全5記事)

『情熱大陸』に“共感”が生まれるのはなぜ? 担当プロデューサーが明かす、長寿番組の舞台裏

2016年6月15日、青山スタートアップアクセラレーションセンター(ASAC)のイベントスペースで、情熱大陸プロデューサー・福岡元啓氏とトーマツベンチャーサポート・斎藤祐馬氏による対談「情熱大陸プロデューサーに学ぶ挑戦する生き方とは」が行われました。福岡氏は、「共感力」「挑戦」をテーマに番組作りの舞台裏を語りました。

『情熱大陸』の共感力

斎藤祐馬氏(以下、斎藤):まず会場の方におうかがいしたいんですけど、『情熱大陸』って実際に見たことある方?

(会場挙手)

ほとんど100パーセントですかね。じゃあ、『情熱大陸』の感想というか、どんな番組、どんなイメージというのがもしあれば。いかがですか。

参加者1:先日のプランナー・山川(咲)さんの結婚プロデュースの放送回(2016年5月29日)を見て、一般の番組でああいう方が取り上げられることって、なかなかないのかなと思って。

「こういう人がいるんだ」ということが見えて、「自分もやりたいことがあれば、こういう人たちみたいに挑戦してやっていけるのかな」と思えたのですごく良かったです。

斎藤:実際に福岡さんのほうで、番組を見た結果、みなさんがどういうアクションをすることを想定して作られてるんですか?

福岡元啓氏(以下、福岡):やっぱり共感ですよね。日曜日の夜にやってるんですけど、月曜日から頑張れると思っていただけるというか……番組からすごく(勇気を)もらえると思っていただきたい。「オレがオレが」の番組になっちゃうと、共感がなかなか生まれづらいんですよね。

すごい有名人だったとしても、共感できるポイントって、人としてやっぱりあるんですよ。「こんな有名人でも、俺と同じように、泣き、笑い、苦労してたんだな」とか、「こんなことで悩んでいるんだな」というところはあるので、そういうところを大事にすくい取りながら。

プラス、こんなにも成功している人なんだけど、「じゃあどうやって生きてるのかな?」「こういう考え方もあるんだ」。なにか直面する困難があったときに、「この人は、こういうふうに解決して乗り切っていくんだ」といった気づきがあると、なお良しですよね。

みんな「そういえば『情熱大陸』で見たあの人、こういうときにこんなことをしゃべって、こういうふうにやってたな」と思い返してみて参考にして貰えればいいなと。ある種、生き方指南書みたいなところがあるといいですよね。

泣き・笑いだけの番組に共感は生まれない

斎藤:私は今、トーマツベンチャーサポートという国内外の3,000社程のベンチャー企業を支援するというところでやってるんですけれども。共感ってすごく大事で。

『情熱大陸』で考えられている共感を生むポイントを端的に3つぐらいあげるとすると、どういうところですか?

福岡:まず「オレがオレが」じゃないということですよね。

斎藤:「オレがオレが」じゃないというのは、外から見たときに、基本的には周りの人がどういう評価をしてると、「オレがオレが」じゃないのでしょうか。実力がある人でもいろんなタイプっていると思うんですよね。どういうふうに整理されてるのかなと。

福岡:1つは喜怒哀楽でしょうね。喜怒哀楽ってみんな持ってるので。とくにやっぱり泣き・笑いというところ。ただ、それも難しくて。編集上のことかもしれないですけど、泣き・笑いだけが番組に出てきても共感を得ないんですよね。

共感を得るプロセスって難しくて、例えるならば飛行機の離陸着陸と一緒なんですよ。まずはゆっくりと滑走路の飛び立つ位置まで行って。それから、ダーっと加速して上がっていくと。それで上がっていった最高の到達点が共感ポイントだと思うんですよ。

「そうだ、そういうのがあったんだ」という気づきがあったのちに、ゆっくり下降していく、それで目的地に着ける(=納得できる)というかたちなんです。

先ほどの山川さんは、当初の取材素材を見たら、めっちゃくちゃ泣いてるんですよ。「よくこんなに泣くなあ」みたいな感じで(笑)。

斎藤:山川さんはなにされてる方なんですか?

福岡:ウェディングプランナーの方です。だから「そういう泣いてるところをいっぱい入れればすごく共感できるのかな?」みたいな感じにもなるんですけれども、それは実はぜんぜん共感できなくて。

なんでかというと、プロセスがないんですよね。やっぱりプロセスがあって、「こうなんだ、ああなんだ、だから泣くんだ」とならないと、その泣きが逆に反感を買うだけになっちゃうんですよね。

だから、プロセスがあった上での喜怒哀楽があるというのは、ストーリーとしてはすごく大事です。これはストーリー性の話なんですけどね。だから、そこはけっこう大事にしてますね。あと2つ目はやっぱり、「みんな同じなんだよ」というところですよね。

斎藤:身近さというか。

福岡:そうですね。ポイント3つあげるとなると、もう1個ってすぐ思い浮かばないですけど。

斎藤:これって、ほかのディレクターの方とかも見つけてきますよね?

福岡:はい。

長寿番組の秘訣は「情熱大陸っぽさ」の排除

斎藤:私もさまざまなメディアの方とお話しするのですが、長く続いてる番組はだいたい取り上げるかどうかのポイントが明確に3つくらいあるんですよね

ベンチャーでも同様ですが、そのポイントに沿った基準を持ってくる。例えば、僕らも『がっちりマンデー!!』さんなどはお付き合いあるのですが、本当にブレない基準を持たれている。

斎藤:あるいは『ワールドビジネスサテライト』なども明確な基準があるそうです。 それがないと逆に、番組とマッチする人物を福岡さん以外の人が見つけてこられないのでは?

福岡:マッチするかどうかという話でいうと、人物ラインナップを最初に決定するのも僕なので、もうその時点で決まるんですよね。だから、ほかのスタッフからの提案も、なんとなく僕の基準を理解して話を持ってきてくれますね。

逆に、すごく矛盾するような言い方かもしれないですけど、僕は基準は意識的に設けないようにはしているんです。設けていることは設けているんですけど。

なぜそういう言い方をするかというと、長寿番組の秘訣とも関わると思うんですけど、「ガチガチに決めすぎない」というのが1つ重要な要素なんですよ。

なぜかというと、『情熱大陸』って毎週いわゆる「特番」なんですよ。今週医者が出たと思ったら、来週AKBが出てみたいな。医者とAKB、その次の週に建築家が出て来るという番組ってなかなかないんですよね。

そうすると、あんまり「『情熱大陸』とはこういうものだ」と基準を作ってしまうと、どんどんどんどん番組表現の幅が狭まっていっちゃうんですよね。

今週「けっこうおもしろいね」っていう回があったとするじゃないですか。視聴率も評判がよくって、製作者たちも「おもしろい」って言って、という典型的な好評回があると、やっぱりその演出をみんな真似し始めるんですよ。

ほかの制作スタッフたちが「あの回よかったから、ああいうふうにやっていこう」ってなっていく。「これが評価よくて、これこそが『情熱大陸』だ」みたいにどんどんなっていくんですよね。

それはものすごく危険で。そうなると、どんどんどんどん「これが『情熱大陸』っぽいやつでしょ?」とか、「こういう感じですよね、『情熱大陸』って」という発想にどんどんなっていっちゃう。

それは、ナレーターの窪田さんも言うんですけども、一番嫌いな言葉が「情熱大陸っぽい」という言葉だということで。それを排除していくことがチャレンジにつながると思うんですよ。

「情熱大陸っぽい」を意識し過ぎるとチャレンジできなくなっちゃうんですよ。「これやったら『情熱大陸』じゃないって言われちゃうかな?」って、社内外を気にしちゃうし。そうすると、どんどん新しいことができなくなっていくんですよ。

それが一番怖いので、「この番組は何をやってもいいんだよ。ただ、決まり事は葉加瀬太郎のオープングテーマとエンディングテーマ、プラス窪田等のナレーション。あとは人物ドキュメンタリーであること。これが最低限のルールです」という感じにしてます(笑)。

人を動かせる3つのストーリー

斎藤:なるほど。私も、ベンチャーでも大企業でも官公庁でもいいんですけど、「挑戦する人、共感力がある人」というのはポイントが3つあるなと思っていて。

これはオバマ大統領が大統領になるときの選挙戦略を考えた方、(マーシャル・)ガンツ先生というハーバードの先生がいるんですね。彼が提唱してるのが「3つのストーリーを入れると人は動かせる」と言っていて。

1つがSelf Story。要するに、ご自身がいろんな経験をして、すごく苦労したり、すごくいいことがあったりというところから、なにか今、目指す山というか登るべき山が見つかってというストーリー。まず自分のストーリーが1つですね。

2つ目がOur Story。どうしても自分のストーリーだけだと、ぜんぜん関係ない人もいますよね。例えば私ですと、公認会計士の資格を持っていますが、公認会計士の話をしても関係ない人は関係ないわけです。

ただ、それを1つ目線を上げてベンチャー業界の話をすると、ベンチャー業界の人は共感できる。もう少しあげて「日本の経済」という話になれば、もう少し共感の輪が広がるんですよね。

私とあなたを私たちにするのがOur Storyというもの。この2つを話すと、「重要だよね」となるんですね。

最後に、重要なんだけど緊急じゃないから動きたくないということがけっこうあるので、「今やるしかないよね」というNow。

この3つを入れると人を動かせるという理論があって。こういった視点で言うと、『情熱大陸』に出てる方の共感力ってどうなのかなって?

番組構成の黄金率

福岡:それはすごくいい話を聞きました。実はドキュメンタリーを作るうえで、いわゆる今みたいなテクニックってあるんですよ。

『情熱大陸』を見ていただけるとわかるんですけど。まず、最初にアバンと呼ばれるものがあって、まあプロローグですよね。この人はこういう人なんですと。

ドキュメンタリーの手法として1つあるのは、そこに他人の評価、世間の評価を入れる。わかりやすく言うと、新聞記事とか、あるいは賞をこんなにもらってる人です、とかいうのが、 アバンと呼ばれる2、3分のパートに盛り込まれていることが多いです。

そうすると、「見る理由」ができるんですよね。そこからなにか学ぼうかなというところからスタートして。

斎藤:それは誰からの評価なんですが?

福岡:世間からの評価ですね。

斎藤:そのなかで、とくにウケがいいというのは?

福岡:マスメディアであるとか、あるいは演劇をやってる人で、ファンでもいいです。ファンがこんなことを言ってるとかでもいいですし。本当になんでもいいです。有名人がこの人に対して、こういうふうに評価してくれてるとかいうのを入れて。

それで番組のサブタイトルが出て来て、本編が始まるんですよね。「今日はこういう感じですよ」みたいな感じで。「男の生き方」みたいなタイトルなのかわからないですけど(笑)、そして取材初日がこういうふうに始まったみたいな。

すごくわかりやすい構成で、黄金率は実はあります。あるけど、僕はそれをどうにか崩せないかというのを毎週考えることのほうが多いです。

これは、どうにでもなると言ったらあれなんですけど、これは絶対黄金率ではめていったほうがおもしろいなという回は、型にバーンってはめちゃうときもあるんですけど。それができるけど、どうにかしてそうじゃないかたちでできないかなと。

実は僕、アバンで他人の評価を入れるのすごく嫌いなんですよ。「見る理由を示しましたよ。この人は見て大丈夫ですよ。安心してくださいね」という……。僕にとっては「この人をドーンと見てみろよ」というほうが好みなんです。

でも、その人をTVサイズで表現しようとしたときにどうしようかなとか、いろんなバランスを考えたときに、結局入れることは確かに多いんですけれどね。

ただ、それをやり出すと、番組がだんだんそういうものになっていっちゃうんですよ。内容的に「また、どうせこの後の展開はこうなっていくんでしょう? それでこうなっていくよね」ってなると、チャレンジできなくなるんですよね。現場も怖くなるし。

だから、プロデューサーが「崩していいんだよ」っていうスタンスをずっと持っててあげないと、みんなが同じような編集にしてきちゃうんですよ。

「ぜんぜんそうじゃなくていいから、そこ真似しないでいいよ。何をやってもいいんだから」ということにしてあげて、初めてスタッフは挑戦ができる。それで、新しいことがどんどん生まれていくんですよね。

以前『情熱大陸』でアプリを作って、そのアプリと連動した放送とかもしたんですけど(2013年9月29日開発者/川田十夢篇)。その放送というのは『情熱大陸』では正直言ってあり得ない作り方でしたし。

もしかしたら、昔から『情熱大陸』を作ってる古いスタッフの人からしたら「あんなの情熱大陸じゃねーよ」と言うこともたくさんあると思うんです。

生放送を入れたときには、「ドキュメンタリーに生放送入れるなんて、そんなのありえないでしょ」みたいなことが絶対にありますし。

いろんな新しいことをやって来ましたが、「そんなの『情熱大陸』じゃねえよ」と思われた人もたくさんいたと思います。けど、それがチャレンジなんですよね。

チャレンジするときって、やっぱり「違和感」が出て初めてチャレンジになるんだと思います。やっぱり相当な「違和感」が出ます。ただ、「違和感」を出させて新陳代謝していかないと、番組って本当に簡単に終わっちゃうと思います。

また『情熱大陸』こういうパターンで編集して、これでチャーラーラーラーが流れて来たら終わりでしょっていう感じになるので(笑)。

それを避けるためにも、「長寿番組の秘訣」というのは、やっぱりなんでもいいからとにかく新しいことをやっていくということを周りに示し続けることだと思いますけどね。

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