2024.10.21
お互い疑心暗鬼になりがちな、経営企画と事業部の壁 組織に「分断」が生まれる要因と打開策
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経沢香保子氏(以下、経沢):前編では、「ベビーシッターが受け入れられない文化が日本にはある」という問題が話題に上がりました。でも本当は、シッターさんは、子どもの才能を見つけてくれる人なんです。
『幸せになる勇気』にも書いてありましたが、ストレスが溜まっている親だと、どうしても子どものマイナスポイントばかりに目がいってしまう。シッターさんから「○○ちゃんは、こういうことに喜びを感じています」と第三者の客観的な目で報告してもらえれば子どもの能力を発見できるかもしれません。教育の一環として見ていただければいいなと思います。
岸見一郎氏(以下、岸見):子どもを保育園に預けていた時、私は今より時間があったので、保育士さんが書いてくれる連絡ノートに、熱心に返答していたのです。すると保育士さんから、「お父さんではなく、お母さんに書いてもらえませんか」と言われてしまいました。
経沢:え、なぜですか?
岸見:「子育てはお母さんがするもの」という世間的な常識があるからだそうです。その保育士さんとはことあるごとにぶつかりました。あるとき「あなたは、子どもを大人扱いしているのではないですか?」と聞かれました。
「扱う」という言葉がすでに嫌でしたが、私は子どもを「大人」として扱っているのでなく、「人間」として接していたつもりです。そういう対等な親子関係が、世間の常識からずれているのだということに、そのとき気がつきました。
経沢:世間の常識は、違いますもんね。
岸見:世間の常識を変えるためには、誰かが新しいモデルにならなければいけません。その意味でも経沢さんのしていることは、本当に大切なことだと思います。
ですから、前編でおっしゃっていた「経営者として結果をだしたい」という気持ちではなく、「私は世界を変える仕事をしているんだ」くらいの気概で取り組んでいただきたいです。そうすれば、多少のことがあっても、自分の軸がぶれることはない。世間の評価なんていい加減なものです。いま持ち上げられていても、来年はどうなるかわかりません。
経沢:はい。本当にそうですね。
経沢:『幸せになる勇気』では、「愛は2人で成し遂げる課題」だとされています。これは私が人生でまだ辿り着いていない領域です。私は2度の離婚を経験していますが、自分では割と、人を深く愛する力があると思っていました。
でも、いろいろな理由で結婚生活が長続きせず、理由を解明中です。年齢も年齢なのでもう選ばれないのではないか、裏切られるのではないかという恐怖心もあるのかも。
あと、相手のせいにするつもりはないですが、結婚に限らず私は会社でも「私たち」という言葉を使うのが好きですし、何があっても一緒に乗り越えていこうという思いが強いのですが、パートナーがそういう思いを抱いてくれないときは悲しいです。こう思ってしまうことも、他人依存なのでしょうか?
岸見:まず、「これまで起きたことが、今後も起きるとは限らない」ということを覚えておいてください。いろいろなことがあって臆病になってしまうと、対人関係に踏み出す「勇気」が足りなくなってしまうことがある。そういう時に、過去の経験を持ち出して、「また同じことが起きるのではないか」と思ってしまう。そうすると、本当に同じことが起きてしまうのです。
経沢:引き寄せてしまうということですね。
岸見:そういうことがかつてあったとしても、今後も起きるとは限らないし、であればこれからのことを考えるしかない。もしかしたらお金がある人のほうが、本当のパートナーを見つけやすいかもしれません。なぜなら「お金」という自分の付加価値にしか眼を向けない人を、すぐに見分けることができますから。
経沢:なるほど。私自身も自分の付加価値にこだわり過ぎていたのかもしれません。「自分が何を相手に提供できるか」ばかりに気を取られていました。
岸見:自分に自信がないと自分の付加価値にこだわるようになり、結果的にそれが目当ての人が寄ってくるようになってしまう。人から愛されることは考えなくていいのです。
自分がいかに愛するかのみ考えていれば、やがて素敵なパートナーが現れるはずです。経沢さんは「自分の価値を他者から認めてもらわなければいけない」と思っていらっしゃるのではありませんか?
経沢:そうです!
岸見:でも、それは他人への依存です。2人が互いに寄りかかっている状態だと、1人がいなくなればパタリと倒れてしまう。でも、それぞれが自立していればそうはなりません。自立していてなお、「1人でいるより2人でいたほうがもっと幸せだな」と思える人に巡り会えば、何があっても一緒に乗り越えていけると思いますよ。
経沢:なるほどですね!
岸見:もしかしたら、あえて難しい男性を選んでいるのかもしれません。つまり、自分にとって言い訳ができる「安全」を選んでいるのです。「相手がこういう人だから、関係がうまくいかないんだ」と信じたいところがあるのかもしれない。
経沢:ガーン……!(笑)。
岸見:経沢さんのご著書『すべての女は、自由である。』は、自由に生きるということが一つのキーワードになっています。しかし、裏を返せば、世の中の女性が「自由ではない」と感じていると捉えることができる。
経沢:なるほど、そうかもしれません。
岸見:もちろん、「女性が自由ではない」と感じる背景には、社会的な状況があります。しかし、なにかをしようと思っても「女性だから」とか「子どもがいるから」と女性自らが考えてしまい、自分の人生を歩まないという決意をしてしまう場合もあると思います。
経沢:私が感じるのは、多くの女性は「不利だ」と考えているともったいないということです。「育児を全部自分でやらなければいけない」、「会社ではセクハラやマタハラを受ける」。私はそう感じる人を少なくすることが目標なんですが、先生はどのように考えていますか?
岸見:そう思っているのは、「可能性」のなかに生きたい人たちなのです。自分が不利だと思う条件がまったくなくなったとき、その人たちが自由に生きられるかといえば、きっとそうではない。可能性に生きているあいだは、人のせいにできるから楽なのですよ。
でも、それでは自分の人生を歩むことはできません。その意味では「女性起業家」という呼び方も止めたほうがいいかもしれませんね。
経沢:なるほど! 「男性起業家」とは言いませんしね。私の場合は追い詰められて、未来を自分で見つけないと生きていけない状況が幾度もありました。
なので、そこに留まっていたら、ダークサイドに堕ちてしまうし、「可哀想な私」というスタンスで生きるようになってしまう。だから「復興」みたいなもので、前向きになって1からもう一度やり直すしかありませんでした(笑)。
岸見:追い詰められないと学べないことはあります。私は以前、心筋梗塞を患いました。死の淵から生還したと言ってもいいような大きな病気でした。そこから学んだことは大きかったと思います。
けれど、誰もが大きな失敗や病気を経験するわけではありません。そこで「勇気を伝染させる人」が必要になるのです。『すべての女は、自由である。』は、まさに勇気の伝染の本だと思います。
「こんなに失敗しても、こう考えて乗り越えてきたんだな」と学べるところが数多くある。だから、経沢さんは大きな貢献をしていると思いますよ。「女性であることが不利」という思い込みから脱却させるためのモデルになっていらっしゃる。
経沢:ありがとうございます。後に続く女性たちが、勇気をもって進めるように貢献したいです。自分の生き方を発信すること、そしてベビーシッターの文化を普及することが、そこに繋がればいいなと思います。
自分では『幸せになる勇気』に書いてあることをかなり実践できていると思っていたんですが、今回岸見先生とお話しして、まだまだだなと痛感しました。自分の課題がいろいろクリアになった気がします。本日は、ありがとうございました。
岸見:こちらこそありがとうございました。
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