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中村裕一氏講演(全2記事)

「注目したのはユーザーの購買モチベーション」pairs急成長の秘訣は分析手法にあり

デーティングアプリ「pairs」とクラウドソーシング「ランサーズ」のプロデューサーが、マッチングサービスを成長させてきた秘訣をイベントにて紹介。エウレカの取締役CSO中村裕一氏が語るのは、プロダクトやフェーズに応じて戦略を考えることの重要性です。

pairsがCPM分析を選んだ理由

中村裕一氏(以下、中村):CPM分析はどんなものなのかというと、ユーザーのモチベーション、pairsと出会ってからの期間と購入金額で、ユーザーのモチベーションを分けたと。文章が長く書いてあるんですけど。

「初回客」は、初めて購入した人。「よちよち客」、とよく通販で言われているのが、初回から90日以内に2回目の商品購入をした人。「コツコツ客」とは、ある一定の金額を購入している人。「流行客」は、キャンペーンでたまたま買った人。「優良客」というのは、在籍期間210日以上で、購入金額がすごく高いみたいな。

これは通販の話なので、自分たちのサービスの数字に変えないといけないんですけど。顧客をステージごとに分けて、そのタイプ毎にタイプ群によってコミュニケーションの手法を変えるというやり方。これってすごいpairsに合ってるんじゃないかなと思いました。

写真を撮っている方がいますね。たぶん「やずや CPM分析」って入れるとすぐ出てくると思いますよ。

RFM分析というのは、(「ライザップ」の広告の)痩せてる赤井さんの契約金額を30万円から100万円にするという考え方だと思っています。これは基本的に難しいですよね。だけど、小太りの人をむちゃくちゃ増やしてその人たちに「ライザップ」に入ってもらうのはそれに比べると簡単だと。

少額でもいいからこういう人たちをいっぱい囲って、状況に応じてダイエットが2キロしか進んでない人と10キロ進んでいる人によってコミュニケーションの仕方を変えて、優良顧客を増やす。という考え方のほうがpairsに合ってるんじゃないか、恋愛をしている人たちには合ってるんじゃないかと。

pairsを使って、アクティブでモチベーションは高くて、「いいね」を送っているけどマッチングできない。マッチングしていていろんな人とメッセージのやりとりをしているけど、まだ恋人ができていない。入ったばかりでまだ使い方がわからない。そういう人たちはぜんぜんモチベーションが違いますよね。そういう人たちに合わせてコミュニケーションすればいいのかなと思ってCPM分析を選びました。

結果に「有意性がない」のはなぜか?

具体的にこの手法をやることでどのような変化があったか。そう問われると実は変わっていない。普通にアドホック分析とかA/Bテスト、ディスカウントでキャンペーンをやったり、そこは変わっていない。だけど、最後の結果の受け取り方が変わったと思ってます。

この分析をやる前、pairsチームでこんなやりとりがありました。(スクリーンを指して)向かって左側がぼくで、右側がディクレターで簡単な会話でやりとりがあるんですけど。

僕が「A/Bテストどうだった?」って聞くと、「母数も少なくて、結果に有意性がなかったです」と。「じゃあ、次どうするの?」って聞くと「メールマーケでまたA/Bテストやります」みたいな。それで、「メールマーケのA/Bテストどうだった?」って聞くと、また「有意性がなかったです」みたいな。

そういう繰り返しって、A/Bテストで分析のセグメントを間違えるとありがちだと思っています。こういう話が出てきたら僕が「……」という感じになってしまいます。これはどこの企業においても、あるあるな話かなと思っていて。

結果、なにが起きたかというと、コンバージョンレートの推移が横ばいになっていて、その背景というのはセグメントの仕方がいけなかったと。

そのセグメントをどういうふうにやったかというと。(スクリーンに男性が映る)彼はうちのエンジニアなんですけど、彼を例えばペルソナの対象にしました。そのユーザー群にA/Bテストしたいと考えた時に、27歳で大卒で年収が450万ぐらい、趣味はフットサル、職業はエンジニア、1人暮らし、彼女なし。

彼らがZOZOTOWNで購入した時。洋服が好きかどうかというのは、同じ洋服が好きでも「ZOZOTOWNでいっぱい購入する人」と、「やっぱりZOZOTOWNはROM専みたいな感じでカタログとして使っていて、やっぱり店舗で買いたい人」といったパターンがあって。その区別をするのは、ペルソナでは無理だと思っています。

この人たちに対して同じA/Bテストをやっていると、実は初回客では上がっていたのに、コツコツ客では下がっていたということが起きて。最終的に全体でトレードオフが起きてコンバージョンレートが横ばい。結果、有意性がないと。

プロダクトのモデルによって分析手法はさまざま

本当は有意性があったのに。モチベーションの違う人、「pairsを信用していないからまだ課金はしたくないと思ってる人」と、「pairsに課金していてどんどんお金を払ってもいいと思ってる人」を、同じユーザー群や年齢というくくりで分けているから、その人たちの志向を打ち消し合ってしまうようなことを冒していた。

だから先ほど言ったユーザー群の流れをつくりました。

初めの顧客がいて、そこから有料転換する人もいるし、すぐに購入せず有料会員にならないで、2ヵ月目までずっと見てるんだけど、毎日ログインしているという人もいる。そこから有料になる人もいる。一番左、休眠してしまう人もいれば、有料から無料に戻ってしまう。離脱する人もあれば、また離脱から戻ってくる人もいると。

この矢印がすごい重要だと思っています。この矢印になるように、左側の四角のところにコミュニケーションの仕方を変えて取っていくべきかと思ってる。

例えばpairsで、セグメント毎に同じ日にやっているキャンペーンなんですけど。A/Bテストとかいろいろやった結果、同じ日にやっているキャンペーンで同じものをディスカウントして売っているという状況でも、セグメントごとに見せるバナーも違えば、メールマーケティングで出してる文章も違うし、タイトルも違うしと。これをやってみたら、初めてA/Bテストが効果出て、最終的に売上が上がっていたという感じです。

僕がここで言いたいのは、プロダクトのモデルによって分析手法はさまざまだと思っていて。自分に合うものをやらなきゃいけない。ものによってはRFM分析がすごい重要だし。僕が知らないような、もしかしたらゲーム業界とか音楽業界、そういうところでやる分析手法とか、そういうものを取り入れたほうがいいかもしれない。

でも人から聞いたからとかゲーム業界でやってるから、有名な人がやってるからではなくて。このくらいのフェーズ、ある程度のユーザー規模、トップグループぐらいになった時には、自分たちのプロダクトに合った分析手法があると思うので、それを考えるべきだろうと。

フェーズに応じて戦略を考える

その1つとしておすすめするのは通販業界。

僕自身、オイシックスのCMOの方とか、ドクターシーラボの方や、プロアクティブのマーケティング部長の方からいつも勉強させていただいてます。アプリとかWebサービス、Webメディアをやっている人たちは、マーケティングに関していえば彼らから学ぶことが本当に多いと思います。

自分のまわりや競合だけじゃないところに、いくらでも分析の手法やサービスの考え方はあって。これはオンラインに限らず。例えばホテルとかでもいいかもしれないし、店舗の考え方でもいいですし。百貨店でもいいかもしれない。なんでもいいんですけど、いろんなところに分析やマーケティングの考え方が落ちています。それはこの段階の第2のフェーズでやるべきことかなと思っています。

最終的にこれから僕たちがどんなことをやっていくかというと。先ほど僕たちには多数のデータがあるという話をしました。実際に今それらのデータのなかで使えているものは、これだけpairsが有名になってある程度の規模になった今でも、本質的に使えているものは「購買データ」と「時系列」。そのユーザーがどれぐらいで入ってきてというヒストリーだけかなと思っています。

今後やらないといけないこと、このフェーズまで来たからこそ初めてできることだと思っているのが、これらすべてのデータ、地域、年齢、指向性、なにを言っていて、どういう人に「いいね」をしていてとか、そういうデータをすべて使うこと。いわゆるパーソナライズ化をいかにできるようになっていくかです。

本日のまとめとして、初めの頃はマーケティング戦略に注力してもいいと思っています。そして細かい分析をしてもスピード感が出ないので、最初の頃は開発に徹底したほうがいいと思います。

戦国時代というところでは、そのプロダクトに合わせた分析手法/マーケティングモデルがある。ビジネスモデルを確立するまでは、分析手法を変えたほうがいいし、ビジネスモデルが何なのかということを明確にしたほうがいいと。その後、その分析だけをしたほうがいいと思っています。

僕たちは1年くらい前まで「マッチング率」とか「メッセージ送信件数の率」を本気で分析したことは1回もないです。さっきの「よちよち客」がどれぐらいいて、その人たちが有料会員にどれぐらい移行しているかとか。それだったら、この人たちともっとコミュニケーションしようと。そのなかでメッセージが必要とかデモグラが必要になったら、たまにやります。自分たちに必要なビジネスモデル以外の数字を見るということをまったくしませんでした。

ここまでやったからパーソナライズ化ができると思っています。世の中では、AIやレコメンド、パーソナライズ化、そういったワードが流行ったりしてますけど、事業のフェーズによってはそんなものは必要なくて。事業のフェーズとプロダクトの方向性によって、使い分けないといけないと思っています。

そして僕たちがCPMをやっていても、今からオンラインデーティング、pairsみたいなサービスをつくる人たちが始めからそれをやるべきかといったら、僕はやらなくていいと思うんですね。フェーズに応じて自分たちが見るべきものをしっかり考えていったら、サービスの成長につながるのかなと思っています。長くなりましたが発表を終わらせていただきます。ありがとうございました。

(会場拍手)

司会者:中村様、ありがとうございました。それでは質疑応答の時間に入らせていただきます。本日の講演を通して、なにか気になる点ですとか、質問等ある方いらっしゃいますか?

pairsは圧倒的に女性が重要

質問者1:中村さんにお聞きしたいんですけど。1個のKPIを追われたという話があったんですけど。そのKPIを決められた理由をおうかがいできればと思うんですけど、お願いします。

中村:いちばん最初の頃の話ですよね。ごめんなさい、1個ではないです。いくつかの数字にしぼったという意味でした。

細かく見ようとすればいくらでも見れるので、いわゆるカスタマージャーニーマップみたいなのを書いて、一番上のDAUと移行率だけを見るみたいな感じです。それ以上、下まで深く掘ってもユーザー数はいないし、改善したところで「ほかのところは本当に上がるんだっけ?」というような間接的な説明ができないんだったら意味ないよね、という流れです。

基本的にはカスタマージャーニーマップを書いて、あとは知り合いとかから聞いて「これって必要なんだっけ?」みたいなのにちょっとプラスオンした、という感じですね。

司会者:ありがとうございます。では、あと2名。

質問者2:中村さんにおうかがいしたいんですけれども、先ほどのお話のなかですごいおもしろいなと思ったのが、マッチングサービスなのにマッチング率を初期においては重視していなかった、というのがうまいなと思ったんですが。

その背景としては、セグメントが適切に分類されてないのに、結果を出しても意味ないよという話だと思うんですけど。となると、その初期に考えたセグメントというのはなにを軸として分類していたのかというのをおうかがいしたいです。

中村:まず1つ目として「重要視してない」というのが、「見てないわけではない」というところがあります。数字として管理画面には表示されています。それが明らかに下がったとしたら、「そこバグあるよね」くらいにしか見ていなかったというところです。なので、いわゆるアドホック的な分析を細かくしたかというとほとんどしてないです。

改めてなにをやったかというと、最初の頃にやったのは「デバイス」と「男女」とかで、不具合検証のためだけの分析手法という感じでした。そのあとはペルソナとかやってみて、それでうまくいかなくて、最終的にはCPM分析みたいなかたちでユーザーセグメントするという流れになりました。

司会者:それでは、次は最後の質問とさせていただきます。

質問者3:お話ありがとうございます。サービスを成長させていく段階で、提供者と消費者にユーザー数の偏りがなかったのかな、というところをお聞きしたいんですけれども。

例えばpairsさんの場合ですと、たぶん男性のほうが最初は多かったのかなと僕のイメージのなかであるんですが。そういったユーザーのバランスが崩れた瞬間があったのかというのと、もし崩れた瞬間があったら、それをどういうふうに回復したのかをお聞きできればと思っています。

中村:これ、ポリシーなだけだと思っていて。僕らのサービスは圧倒的に女性が重要だと捉えてます。お金を払うのは男性なんですけど。なので、男性が利用してくれればいいやって考えがちですけど。女性が重要だから、そこの比率が壊れたら、「男性は今月取らなくていい。予算を全部女性に突っ込め」と。極端に言えば、それぐらいの気持ちでやってました。

それだけ女性を重要視してて。そうすれば男性はおのずと利用してくれるだろうという考え方です。すべてのサービス設計において、どんなデザインを使うか、どんな言葉遣いをするかなど、すべて女性が使いやすいように作っていて、女性が嫌だと思わないようなかたちでサービスを設計しています。

質問者3:ありがとうございます。

司会者:ありがとうございました。

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