2024.10.21
お互い疑心暗鬼になりがちな、経営企画と事業部の壁 組織に「分断」が生まれる要因と打開策
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池田紀行氏:僕は、ブランドの売り上げを構成するお客様はこのピラミッドの5階層に分けられると思っています。
まずは、みなさんのブランドを買ってくれていない方、非購入者、非利用者ですね。顧客ピラミッドに入ってきていない人たちです。この段階では消費者、ターゲットコンシューマーです。1回でもみなさんの商品を買ってくれたことがある人は、このピラミッドに入ってくるわけです。消費者から顧客に変わる瞬間ですね。
1回しか買ってくれていない人は「トライアル顧客」。2回目の購入からリピート顧客になりますから、この黄色から上の4階層に入ってきます。
次のレイヤーの「日和見顧客」というのは、買うたびにブランドがころころ変わる層ですね。チェリーピッカーとも言われます。おいしいさくらんぼをつまみ食いして、それがなくなったらまた次の木に行ってしまう客という意味です。つまり特売や値引きをしているときにしか買ってくれない顧客のことですね。
次は「継続顧客」。この継続顧客から上の3階層が、売上の上位20パーセントの顧客であることが多い。そして、この継続顧客が1番わかりにくいところなんです。継続顧客って、浮気しないで自社の商品を買い続けてくれる人。この人たちのことを、一般的にロイヤルカスタマーと呼ぶことが多いわけですが、この人たちに「なぜウチの商品を買い続けてくれているんですか?」って聞くと、「いや、別に、とくに不満はないからです」「なんとなく習慣で」という意見がたくさん出てくるんです。
これ、ロイヤルじゃないですよね。習慣で買ってくれているだけなので、ロイヤルという言葉に表されるような感情が伴っていない。ロイヤルというのは、自分で「このブランドのことが好きだ」ということを自覚している人です。自覚しないまでも、「好き」「愛着」という感情がちゃんとある。つまり、継続顧客の人たちは、ブランドへの愛情が薄いので、ほかによい代替品が出てくるとブランドスイッチを起こしてしまいやすいんです。
しかも、これまで継続的に購入してくれた人が抜けてしまうので、売上に与えるインパクトが非常に大きいんですよね。なので、この継続顧客を「ロイヤル顧客」に育てることが、とても重要です。
ニッパチの法則、パレートの法則は、もうずいぶん前から言われていることです。「上位20パーセントの顧客を大切にしろ。RFM分析をしてCRMでクロスセル、アップセルだ!」って。ここで僕が言いたいのは、売上の上位2割の顧客を重視しろ、ということではなくて、顧客の気持ちにしっかり焦点を当てましょう、ということなんです。
感情が伴ってないけど、不満がないから、習慣だから、と言って買ってくれている継続顧客の愛情レベルを上げる活動をしましょうよ、と。熱狂ブランド戦略は、ブランドに愛着を持ってくれているロイヤルカスタマーや、ピラミッドのトップの人たち、ほかの人にも推奨するぐらい、ブランドのことを愛してくれているブランドアドボケイツ(熱狂的支持者)を増やしましょうという活動なんです。
では、熱狂したお客様は何をもたらしてくれるのか。みなさんにどんなメリットを与えてくれるのか。ブランドに熱狂した顧客は、中長期的な利益の源泉になってくれる。さっきから繰り返し言っている「持続的な競争優位を、この上層の熱狂顧客がもたらしてくれている」という話です。
全産業のなかで最もコモディティ化、価格競争が激しい産業というのは、国際線業界だと言われています。その航空業界において、「3ヶ月、利益成長率と相関性の高い指標は何なのか?」。結論からいうと、相関がある指標は、みなさんご存じのネットプロモータースコア(NPS)だったんです。人に対する推奨意向ですね。推奨意向が高いのは、それだけ商品のことを愛しているからですよね。だから人にも薦めたい。であれば、自分はそれを買い続けるという意思が非常に強い状態であるということです。
航空業界のなかで最もNPSが高かったのは、サウスウエスト航空です。サービスが素晴らしいことで有名な会社です。ロイヤルティ調査とか「真実の瞬間」等で、いつも事例として取り上げられる会社ですよね。
サウスウエスト航空で感動する体験を味わった顧客は、例えば、ユナイテッド航空で出張に行く同僚がいると「お前、なんでサウスウエスト航空にしなかったの? サウスウエスト航空のサービスは本当に素晴らしいよ!」というような推奨が生まれる。このように、感動体験を味わった顧客がずっとサウスウエスト航空を使い続けるだけじゃなくて、顧客の友人や同僚、家族にも推奨してくれる。顧客がお客さんを連れて来てくれるので、宣伝予算を下げてもお客さんを獲得することができる。販管費が削られて、コスト減で利益が上がる。しかも持続的に上がっていく。いいことずくめです。
NPSについて、一応おさらいしておきます。ご存じだと思いますが、この1問ですね。「この商品を友人や同僚にどれぐらい勧めたいですか」というシンプルな質問をして、0から10までの11段階で評価をしていただくというものです。
ネットプロモーターの推奨者正味比率ですから、この「強く勧めたい」の9と10の推奨者が多くても、0~6の非推奨者のほうが圧倒的に多ければ、数字はマイナスになる。マイナスのブランドというのは、0~6が非常に多いブランド。こうなると、あまり競争力がない状態になってしまう。
NPSのほかに、僕が活用をお勧めしたいのが熱狂スコアの導入です。聞き方は、「あなたにとってこのブランドはどのような存在ですか」というNPS同様、シンプルなものです。
最も熱狂している状態であるとみなすのが「5」。もうすっかりハマっちゃってます。夢中だ、ぞっこんだという状態。これが熱狂状態です。「4」がLoveですね。ロイヤルです。「私は××に愛着を感じて使っていて、幸せを感じます」みたいな言葉で表現されます。「3」はLikeですね。まだLoveとかロイヤルに達していない。「好き」です。
「2」は悪くないと思いながら使っている状態。すごく多く出るパターンですね。習慣消費です。「1」は、ブランドスイッチが面倒くさいから使っていますという回答です。これはスイッチングコストが低い商材だと回答者数は少ないです。例えば、スーパーやコンビニで買えるは、ブランドスイッチが容易にできるので、ブランドスイッチが面倒くらいってことはイメージできないですよね。
でも、例えば携帯キャリアさんは、キャリアを変更するときに、店頭に行ったり、手続きをしたり面倒くさい作業が発生するので、「1」が出やすいです。「面倒くさいから、しょうがなく使っているんです」みたいな話ですね。小売店で言えば、「家から一番近いから仕方なく行っている」というもの。
今、ご紹介したNPSと、「みなさんのブランドのことをどれだけ愛してくれているか」というエモーショナルスコア、つまり熱狂度を組み合わせて、ブランドに愛情をもっている熱狂顧客の割合(グラフの上部)、また、ブランドに愛情を持ち、さらに他者への推奨意向も強い人、つまり熱狂的推奨者の割合(グラフの右上部)を把握してもらいたいんです。
ちなみに、このグラフで表示されている顧客の分布は、あまりよくない状態ですね。グラフの左下にお客さんが集まっている状態で、よくあるパターンでもあります。ブランドに対して愛着があまりなく、習慣で買っているお客さんがとても多く、かつ推奨意向も高くないお客さんが多い。
顧客から周囲への推奨が期待できないので、販促費に予算を投下する必要がありコストがかさみますし、競合他社がよい施策を打つとブランドスイッチが起きて、顧客が奪われやすい状態です。つまりブランドの健康状態としては、あまりよくない状態ですね。このようにブランドの顧客構造が健全なのか、危うい状態なのかを把握するために、このマップで把握してほしいんです。
このグラフを見ていただくと一目瞭然ですが、ブランドAよりもブランドBの方が、中長期的な競争優位性が高いことを示しています。もしブランドAがみなさんが担当するブランドで、ブランドBが競合だったらどうですか? ちょっとゾッとしますよね。ブランドに対して愛着や熱狂度が低く、他者への推奨意向も(競合ブランドと比べて)低いわけですから、売るためには店頭支配や値引きキャンペーンを実施するしかありません。
逆に、もしみなさんの担当ブランドがブランドBで、競合がAならば、熱狂顧客と熱狂的推奨者が多いわけですから、さらにこの顧客基盤を強化し、他社が追いつけないレベルまで愛されブランドとしての地位を強固なものにしてしまうわけです。
このように、熱狂度×NPSはブランドの売上の先行指標として使えるわけですね。
ちなみに、僕も少し前まで誤解していたことなのですが、顧客の熱狂度やロイヤルティが上がると、推奨意向も比例して上がると思っていたんですが、調査してみるとキレイには比例しないんですね。考えてみると当たり前のことなんですけど、私もみなさんと同様、ロイヤルティピラミッドのようなものを描いて、ブランドロイヤルティが最上級まで上がると、最後は推奨者になると思っていたんです。でも、調査してみるとそうじゃなかった。
ブランドに対して熱狂はしているけど、周囲には推奨せずに、自分だけで楽しむ人も一定数いることがわかってきました。だから、ここはキッチリと分ける必要があります。
「NPSは関与度の低い商材では必ずしも有効な指標ではない」という意見がありますが、ここではその議論ではなく、NPSがブランドの売上の先行指標として使えるか、使えないか、というお話をします。
ブランド担当者が知りたいのは、どの施策が顧客のLTVの向上に寄与しているのか、いないのか、ですよね。でも、施策とLTVの相関は、距離が遠すぎて測りづらいという意見が多いと思います。たった1つ、またはたった1回の施策が、LTVにどのくらい影響したのかを明確にすることは確かに難しいですよね。
だから僕は、熱狂スコアという指標の導入をお勧めしたいんです。いままで数十のブランドで調査を行いましたが、LTVと熱狂スコアには強い相関が認められました。重要なのは、「LTVが高いと熱狂スコアが高い」「熱狂スコアが高いとLTVが高い」と、ちゃんと双方向で相関があるということです。
一方、NPSはそうではありません。ややこしいので、よく聞いてくださいね。まず、NPSが高い人。他者への推奨意向が高い人たちですね。この人たちのLTVは高いんです。「NPSが高いとLTVが高い」という相関はある。
でも、逆の「LTVが高いとNPSが高い」の相関は、それほど高くないんです。なぜでしょう? 詳しく聞くと「この商品は嗜好品だ。嗜好品の好みは人それぞれだから、私は大好きだけど、人には勧めない。だからNPSは3としました」とか、「この商品のことはとても気に入っているけど、別に人に勧めたいとは思わない」という意見が多く出てくるんです。
考えてみればそうですよね。みなさんも、自分のお気に入りの商品や大好きなお店を、必ずしも人に勧めたいかどうかって100パーセントじゃないと思います。自分だけの秘密にしておきたい、人に勧めることは性格的にしない、押し売りみたいで嫌だ、とか、いろんな気持ちがあると思います。
また、熱狂スコアとNPSも相互の相関が認められません。「NPSが高いと熱狂度が高い」の相関は高いのですが、「熱狂度が高いとNPSが高い」という相関は必ずしも高くありません。この理由も同様です。
となると、NPSは、ブランドの売上の先行指標としては、少し危ういようにも思えます。LTVと完全な相関があるかどうか、微妙だからです。だから、LTVとダイレクトに相関のある熱狂スコアを取ってもらいたいんです。どの施策が熱狂スコアの向上に寄与しているのかさえ測定することができれば、効果検証とPDCAが格段にやりやすくなります。
コカ・コーラ社は「ブランドラブ」という指標を取り入れていますが、同社も売上と強い相関が認められる「ブランドラブ」という指標を開発してからは、コミュニケーションを司る部署は売上ではなくブランドラブを重視したマーケティングを行っているそうです。ブランドラブが向上すれば、売上が上がることがわかっているわけですから、さまざまな影響変数がある売上よりも、ブランドラブの向上だけに集中して施策を企画・検証した方いいわけですね。なので、みなさんもぜひ一度、熱狂スコアとLTVの相関について検証してみてください。
ちょっと蛇足です。先ほどの熱狂度の5段階調査というのは数字を選んでいただくだけなので、調査をするときに「あなたにとってこのブランドがどんな存在かを自由にご記入ください」というフリーアンサーも併せて取っていただきたいんですね。
こちらのスライドに、過去に調査をした際に、どんな表現がよく回答として出てくるかを少しまとめてみました。ふつうは、「使いやすい」「効果があります」「コスパがいい」とか、機能価値と言われている言葉がよく出現します。「感動です」「驚きです」「気持ちが上がります」「自慢したくなります」みたいな感情価値の言葉が回答に出てくれば、そのブランドは顧客の熱狂やロイヤルティをしっかり獲得できていると言えます。
最もよいのが、最上位の自己表現価値です。「相棒です」「魔法です」「人生そのものです」という言葉を使ってくれる顧客、まさにBrand Advocatesを獲得できていると言えるでしょう。
この感情価値や自己表現価値の言葉でブランドを語ってくれる顧客が、みなさんのブランドの顧客のなかにどのぐらいいると思いますか? また、この人たちはどんな人なのか? この人たちが、なぜそんなにブランドのことを好きになってくれたのか? そこを把握してほしいんです。「この熱狂的な人たちは、なぜ、こんな熱狂状態になったのか?」ということが把握できたら、現状の閉塞感を打破するヒントが見つかりそうな気がしませんか?
また、既存顧客の顧客構造だけでなく、アウェアネスから購入まで、そして購入から推奨までのマーケティングファネルのかたちも、調査によって明らかにしてください。一般消費財のメーカーさんは、結構ファネル調査をやっていると思いますが、ほとんどが「買ってもらうまで」、つまり、購入がファネルのゴールになっていることが多いと思います。ぜひ、今回ご紹介したダブルファネルで実態を明らかにしてください。認知、興味、比較検討、購入、再購入、ロイヤルティ、熱狂、熱狂的推奨、の各段階を把握してください。
スーパー、コンビニ、ドラッグストアで売っている商品は、高関与商材に比べると推奨行動が発生しづらいので、右側のファネルは小さくなることが多いでしょう。でも、1回買ったら買い替えがあまりない、またスイッチングコストが比較的高い高関与商材は、再購入や推奨のファネル、つまりファネルの右側が広がりやすいです。
大事なのは、自社の経年変化と競合との比較です。今の自社のかたちだけ見ても、課題の発見がしづらいわけです。やりたいのは、自社の経年変化と他社との競合比較です。顧客構造やファネル調査はアンケートで聞ける内容ですから、競合のブランドも一緒に調査しちゃいましょう。
競合のファネルと比較するから、自社の強みや課題がわかるし、これからの戦略が立てられる。また、過去のファネルと比較することで、戦略が成功したのかを振り返ることができる。ということで、「ファネルのかたちを経年変化でしっかり追う」ということと、「競合他社に比べてマーケティング効率がいいのか悪いのか比較する」というところを意識して実施してください。
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