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ブランドの持続的な競争優位性は顧客の「熱狂度」にあり(全8記事)

なぜ今、“熱狂”か? 顧客の愛と利益を生み出す最新マーケティング戦略

ブランドに対する顧客の愛情を最大限に高め、中長期的な利益の源泉を生みだす「熱狂」。従来のマーケティング手法が頭打ちとなった現代、顧客が本当に求めるサービスとは? トライバルメディアハウス・池田代表が、豊富な事例とデータを元に、顧客とメーカーの両者が充実するマーケティング戦略の手法を語ります。 オープニングは現状の認識から。従来型マーケティングが行き詰まってしまった要因を探ります(2015年11月開催のセミナー内容をもとに、最新情報を加筆修正し記事化しています)。

マーケティングで最も重要な「お客様の感情」

池田紀行氏(以下、池田):みなさん、こんにちは。トライバルメディアハウスの池田です。

「熱狂ブランド戦略」については、今までも宣伝会議や日本マーケティング協会で年間数十回、話をしている内容なんですが、今回も、なぜ顧客を熱狂させる必要があるのか、というお話をします。

みなさんの扱ってらっしゃる商品は、マスマーケティングの商品から、CRMを重視して購入回数や頻度を高めていく商品まで、さまざまだと思いますが、今、みなさんのブランドの売り上げが「お客様のどういう感情によってもたらされているのか」ということが非常に重要だと思っています。

売上は結果です。その売上が、お客様のどんな気持ちによってつくられているのか、というプロセスが重要であり、そこの再現性がないと、結果である売上をコントロールすることはできないと思うのです。ということで、今日は結果としての売上を、強固なお客様の感情によって中長期的に安定・向上させていくポイントについてお話して行きたいと思います。

まずは、簡単に自己紹介です。

トライバルメディアハウスは、2007年にソーシャルメディア専門のプロモーション会社としてスタートした会社です。そこからTwitter、Facebookが2009から2010年ごろに日本に本格的に上陸しまして、現在は、企業がソーシャルメディアをマーケティングに活用するためのコンサルティングや、ソーシャルメディアを活用したPR・プロモーションなどで、さまざまな企業様のご支援を行っています。

本日のテーマとなっている熱狂ブランド戦略プロジェクトが、今どんなお客様で取り組みが始まっているかと言いますと、従来型のマーケティングをすべてやり尽くして、限界を感じていらっしゃる企業様や、あとはソーシャルメディアの取り組みをほぼすべてやりきったという企業様が多くなっています。

数十万、数百万人規模のお客様とTwitterやFacebookなどのソーシャルメディアを通じてゆるやかににロング・エンゲージメントでつながることを、ほとんどやりきった企業様が「顧客の上位1パーセントのロイヤルカスタマーと一緒にマーケティングをやっていきたい」という目的で、現在、熱狂ブランド戦略に取り組み始めている状況です。

従来型マーケティングの限界、その先にあるもの

今日のゴールです。2時間後、この部屋をみなさんが出られるときまでに、僕がお伝えしたいと思っている内容はこちらです。

すでにみなさんオンライン、オフラインを問わず、さまざまなマーケティング活動をやってらっしゃると思うのですが、それがどんなかたちで限界に達しつつあるのか。戦後70年、企業はマーケティングをやり尽くしてきたわけですけれども、今、閉塞感に覆われていらっしゃるマーケッターの方が非常に多いと思います。

テレビ、ラジオ、新聞、雑誌、インターネットにソーシャルメディア、あとは商品開発やブランドマーケティングでさまざまなマーケティング手法を展開してきたわけですが、これまでの従来型のマーケティングが限界に達しつつある、というお話をします。

その次に、最愛ポジションの獲得に関する話です。世の中で売れる商品というのは「最高の商品」か「最安、一番安い商品」か「最愛の商品」。この3つのいずれかです。

ただ、現在、技術競争の発展により商品の機能や性能で他社を圧倒的に凌駕した最高の商品の開発は難しくなってきています。では、価格で勝負する最安戦略をとると、今度は利益が犠牲になりますし、ブランド価値が毀損してしまう。

そのため、中長期にわたってしっかりと競争優位性を獲得をすることができる唯一の道は、「最愛ポジションの獲得だ」というお話をします。

「じゃあ、そのブランドに対して熱狂的な顧客っていうのはどうやって育成するの?」「育成したら、この熱狂顧客の顧客と、どんなマーケティング活動を展開するのか?」「どんな成果が期待できるのか?」という話も後半で行います。

マーケティングは宗教の時代へ突入

まずは、戦後70年間のマーケティングの潮流についてお話します。この3枚のスライドをご覧ください。

マーケティングは狩猟の時代から、農耕の時代を経て、現在は宗教の時代になった。これは日本マーケティング協会の講演で、日産自動車コーポレート市場情報統括本部エキスパートリーダーである高橋直樹様がおっしゃっていたお話なのですが、僕もまさにそうだなと思います。

戦後70年間、先進諸国の企業はマーケティング活動を本格的に行ってきたわけですが、戦後間もないころはお客さんがいっぱい空を飛んでいました。スライドの鳥ですね。この時代、消費者は、標的顧客、顧客ターゲットと呼ばれていました。ちなみに、マーケティングの用語の多くは戦争用語です。

ターゲットっていうのは、ライフルで今から撃ち落とそうと、スコープの向こう側に見えている標的顧客のことを指しています。お客様をいかに効率的に撃ち落とすかってことをずっと考えてきたわけです。いっぱい飛んでいたので、撃ち落とし甲斐があったんですね。なんとも物騒な話です。

時は変わり、農耕の時代がきます。もう一般的なターゲット顧客へのアプローチは一巡してしまったので、新規顧客を刈り取っているだけでは限界に達してきた。なので「来年、再来年のお客さんをいかに中期的に育成をしていくか」という視点になって、「1回買ってくれたお客様にもう1回買ってもらおう」というCRMがすごく重視されはじめたのが1990年代の後半ぐらいからです。撃ち落としていくだけではなく、お客さんをしっかり育成していこうという考え方が広がりました。

それと、技術競争の成熟化により、本格的な商品のコモディティ化の時代に入ったのも、このころです。コモディティ化っていうのは「どの商品買ってもほとんど変わらないよね。だったら1円でも安い方を買うよ」という状態ですね。コモディティ化が激しくなってきたことで、「もう1回ブランドマーケティングを考えて指名買いをしてもらおうよ」ということが盛んに叫ばれだしたのも、この農耕の時代ですね。農耕時代の象徴がCRMとブランドマーケティングです。

そして、僕も、日産自動車の高橋さんがおっしゃっていたように、「現在はマーケティングが宗教戦争に入ったのではないか」と考えています。「どのブランドと自分の人生、もしくは生活を供にしていくと、自分の人生はより楽しくなったりワクワクしたり便利になるのか」という価値基準で購買の意思決定をする生活者が増え始めています。

そのため、ブランド側でも機能や性能などのハード部分の訴求や、お得・便利といった経済性の訴求だけでなく、ブランドの掲げるミッションや価値観、想いを伝えたり、顧客の人生に寄り添う活動など、まさに布教のような活動が必要となる時代に突入したと思います。

ブランド選択を左右する「なんとなく」という感情

ブランドを選択するプロセスにおいては、感情がものすごく大きく影響しています。

例えば飛行機に乗るとき。「なんでJALで来たんですか?」「なんでANAで来たんですか?」。マイレージポイントの影響も当然ありますけれども、「なんとなくJALのほうが好きなんですよね」「なんとなくANAのほうが好きなんですよね」という、この「なんとなく」で、航空会社の乗り分けをしている人たちがたくさんいます。

この「なんとなく」を、今、広告やPRをはじめとした膨大なマーケティング予算で各社が作っている状況です。この「なんとなく」こそが、「どのブランドと一緒に生活、人生を供にしたいのか」に大きく影響します。顧客の感情や、文脈を形成することが、マーケティングにおいて非常に重要なのではないかと思ってます。

ここで、冒頭にお話しをした「これからの世の中で売れる商品は、最高か、最安か、最愛の商品しかありませんよね」という話をしたいと思います。これは、河野武さんという方が提唱した「最愛戦略」からいただいた考え方です。

「最高商品による差別化は、コモディティ化が激しい今の状況では、なかなか厳しくなってきたよね」という話が1個目。最安はできればやりたくない戦略なので、積極的に選ぶブランドは少ないという話が2個目。なので、「最愛戦略こそが大切だ」という話を、今から1つずつしていきます。

「コモディティ化」という課題

まずは、最高商品についてです。

これはブラジルのドラッグストアの写真なのですけど、相当な商品アイテム数が店頭に並んでいるわけですね。ブラジルのドラッグストアでも、すでにこの状況になっているわけです。

今のマーケッターにとって一番聞きたくない言葉というのは、コモディティという言葉ですよね。みなさんも毎日生活動線が大体ほとんど決まっているなかで、キオスクとか、コンビニエンスストアでお茶なり、水を買って会社に行っていらっしゃると思いますけど、いつもなんとなく買うお茶や水があると思います。

それが偶然棚に並んでいなかったら、300メートル先のコンビニまでそれを買いに行くかと言われたら、行かないわけですよね。「まぁ、今日はこっちでいいや」。これがコモディティ化です。どの商品を買ってもほとんど変わらないという状態です。

技術がニーズを追い越した状態

技術発展のS字カーブというものがあります。顧客のニーズというのは、時間とともに少しずつ上がってくるんですね。まだ市場が成熟してない段階というのは、各社の商品開発の技術が、顧客のニーズに追いついていない段階。この段階においては、技術が一番勝ってる商品が買ってもらえるわけですね。

技術競争が、まだこの段階では成立をしています。「どっちのほうが薄いの?」「軽いの?」とか、「どれが一番耐久性があるの?」、ないしは「どれが一番燃費がいいの?」「どの洗剤の洗浄力が一番強いのか?」という戦いをしているのは、この段階です

でも今はもう、このオーバーシュートっていうポイントを、ほぼすべての業界でもう超えてしまっていると言われています。各社の技術が、顧客のニーズを追い越しちゃってるわけですね。

そうするとどうなるかというと、先ほどから繰り返し言っているコモディティ化が始まるわけですね。「どの商品を買ってもほとんど変わらない」という状態になります。コモディティ化により、「どの商品を買っても同じ」という状態になり、「だったら1円でも安い方を買うよ」という状態になる。なので、さまざまな業界で熾烈な価格競争が起こっているわけです。

このグラフは、家電量販店の店頭価格の推移を表しています。「店頭に画期的な新商品が置かれてから、店頭価格が半額になるまで、どれくらいの期間かかってるか」というものですね。

DVDプレイヤーは、VHSから切り替わって、店頭価格がわずか3年弱で半額になっています。液晶テレビもそうです。つまり、技術競争が3年弱で終わっているということですね。

「どのDVDプレイヤーを買ってもほとんど変わらない。だったら価格が安いほうを買おう」というニーズがどんどん高くなっていくと店頭価格が一気に値崩れをして、店頭価格が半額になってしまうということです。消費財においても、技術による競争優位性は、これぐらいの期間でコモディティ化の波に飲み込まれてしまうということです。

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