2024.10.10
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深沢先生、「論理的に考える」ってどういうことですか?(全1記事)
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──本書のタイトルにもある、「論理的」に考えるとは、具体的にどういうことでしょうか?
深沢真太郎氏(以下、深沢):あくまでも私の表現ですが、「線と線でつながっている」というのが、論理的であるということだと考えています。
もし私が「論理的って何?」と子どもにたずねられたとしたら、「線と線でつながっていることだよ」と答えます。
たとえば、女子大生(A)は女性(B)である。女性(B)は女子トイレに行く(C)。だから女子大生(A)は女子トイレに行く(C)。何だか変な例になっちゃったんですが(笑)。A─B─Cが1つの線でつながりましたよね。こういうのを「三段論法」と言い、論理的であることの代表例です。
──どうすれば論理的に考えたり、話したりできるようになるのでしょうか?
深沢:私自身心がけているし、私が教えているビジネス数学の講義でも言っているのは、「言葉」を正しく使いましょうということです。
私は「論理言葉」と言っていますが、「なぜなら」「したがって」「ということは」といった接続詞がそれにあたります。
たとえば、「したがって」と言ったら、当然その続きは結論になるような「まとめ」を言わなくてはいけませんよね。ここで突拍子もない話題が続くと聞き手は混乱してしまいます。いわば、聞き手の中ではその接続詞の前後が線でつながっていない状態なのです。
繰り返しになりますが、話の前後を線でつなげるために「言葉」、特に「接続詞」を正しく使うこと。これが論理的に考えて、論理的に話すコツです。
──とても納得しました。私が話をしていて「あれ? 何を話してたっけ?」となってしまうのは、接続詞を正しく使えていないために、間違った方向に話が進んでしまっていたからなんですね。
深沢:そうかもしれませんね。接続詞を正しく使うと、相手も「次はそういう展開の話になるんだ」と、話を聞く心構えができるんですよ。
「したがって……」といったらまとめなんだなとわかるし、「逆に……」といえば逆のことを言うんだなと、相手もそのつもりで話が聞ける。そうすると、この人はわかりやすく話をしてくれる人だなと思ってもらえます。これが、「わかりやすい話」の正体なんです。
──本書の中で、「考えるコツを知っている人は、数学的に考えられる人」とありますが、その人はどのように「考える」ことを行なっているのでしょう?
深沢:数学的思考ができる人は何かを考え始める前に、「考えるテーマを具体的に決める」ということを行ないます。
たとえば、数学の問題でただ「三角形について考えてください」と言われても困りますよね。ですが、「この三角形の面積を求めてください」「この三角形が○○であることを証明してください」と具体的なテーマが決まると、ゴールに向けて考え始めることができる。
このように、何について考えるのかをできるだけ具体的にしないと、「考える」ってスタートできないんですよ。そして、そこを決めないままスタートしてしまうと、とんでもない回り道をした上に、逆方向に行っちゃうなんてことにもなり得ます。数学的思考をする人は、そういう「無駄」を一番嫌います。
ビジネスシーンで言うと、今回のようなインタビューを始める前に、数学的思考をする人は、「このインタビューを定義しましょう」というところから入るんです。今日、この場というのは何をするための場であるかをきちんと決めないと、その目的のための会話にならないじゃないですか。「最近、どう?」なんて、雑談で終わりかねない。
そんなことが日々、日本の会社の会議室で行われているわけです。ゴールが決まっていない会議をしているから、「どこに向かって議論しているんだろうね。この2時間、何だったんだろう……」なんてことになっちゃう。
──あー……、耳が痛い(笑)。数学の勉強に限らず、数学的思考というのは日常的に大事な考え方なんですね。
──ところで、深沢さんが教えていらっしゃる、「ビジネス数学」とは、具体的にどういったものですか?
深沢:「ビジネス数学」とはビジネスパーソンを対象とした教育プログラムでして、多くの企業で社員研修など人材教育のツールとして活用されています。具体的には、3つのことができるようになる教育プログラムです。
1つ目は、今回の本のテーマでもあった、論理的に考えられるようになること。
2つ目は、単に論理的に考えられるだけではなくて、数字でものを考えられるようになりましょうということ。これは1つ目と似ているんですが、ちょっと違うんです。たとえば、「日本のメガネ市場って大体、規模はどれくらい?」というテーマを数字で捉えていくというのが、数字を使って考えるということです。
最後の3つ目は、数学的に問題を解決しましょうというもの。たとえば、統計学がまさにそうです。○○分析を使って5年後を予測してみましょうとか、データのばらつきを分析してみましょうなんていうのが数学的な問題解決です。
以上の3つが鍛えられる、できるようになるというのが、ビジネス数学です。
──企業研修をされている中で、ビジネスパーソンにはどういう課題が多いと感じていらっしゃいますか?
深沢:そうですね……、2つあります。
1つは「数字が嫌い」と思い込んでいる人が多いこと。“思い込んでいる”というのが大きな課題で、これはもうハートの問題になってくるんです。だからそのメンタルブロックを壊す、といった作業が必要になってきます。
もう1つは、数字を使ってしゃべるということができないビジネスパーソンが多いことです。数学的に考えるとか、数学の問題を解くとか、そういうテーマがお好きな方も少なからずいるんですが、そういう人でもそれをわかりやすく相手に伝え、説得することは意外にも苦手なようです。
研修では、主にこの2つを解決するお手伝いをしています。
──「考える」ということが苦手な人が陥りがちな、つまずきはありますか?
深沢:考えることが苦手な人の多くは、「どうしようかな。うーん。どうなんだろう」と悩むことを「考えること」だと思ってしまっているんです。でもこれって、本人は考えているつもりでも実は考えてないんです。
「考える」というのは先ほども言ったように、スタートとゴールがあって、結論に向かって直線的に進んでいくことなので、結論に向かわず「うーん……」と言ってグルグル回っていては、考えていることにはなりません。
──スタートとゴールをきちんと設定し、それから考えるということが大切なんですね。
深沢:そうです。私がサラリーマンをしていたときは、会議の初めに、「これが今日の会議の定義とゴールです。このゴールに1時間でたどり着きます。みなさんもこれを常に意識して発言してください」ということを伝えていました。すると、余計なことを言わなくなる。「そういえばさー、今思いついたんだけどさ」なんて発言がなくなります。
全員がゴールに向かってちゃんと頭を使うようになる。これが正しく「考える」ということです。
──なるほど。そのほかにも、「考える」のために、まずここから変えましょう、というポイントはありますか?
深沢:いっぱいあるのですが……一言で言うと、先ほどもお話しした「言葉」。これが重要です。
私は数学というのは、ちょっと極論ですが「言葉の学問」だと考えています。みなさん、計算とか数字の学問だと思っているんですが、そうじゃなくて数学は「言葉の学問」です。なぜかというと、先ほどもお話した「論理言葉」を使わないと、数学の問題は解決できないようになっているからです。
実際、数学的に考えるときには「“まず”○○を証明しましょう、“なぜなら”○○だからです」というように、ポイントになるところで「論理言葉」が必ず登場します。だから数学というのは「論理言葉の学問」なんです。
──意外なお答えでした。国語的なことがポイントなのですね。今のお話に関連しまして、ビジネスパーソンにとって必要不可欠な、毎日の会話やプレゼン等で使える、「何が言いたいの?」「説得力がないよ」と言われないための、「論理的な話し方」を教えていただけますか?
深沢:そうですね……、今までお話した「接続詞が大事ですよ」ということ以外では、「今から話す内容はこういうことですよ」と、最初に相手に伝えることですね。それを言われてから聞くのと、言われないで唐突に話し始められるのでは、聞き手としては理解度が全然違うんです。
まず、自分が何を話すのかを定義し、話す内容が10あったとしたら3ぐらいで1回、「ここまでを整理しますと」とまとめます。1分もかからないぐらいのまとめでいいので、「ここまで話した内容ってこういうことでしたよね」という確認を取ります。そして、「ここまでの内容に何か問題はありますか」「ここまでは間違いありませんか」と確認をします。
──お互いの受け取り方に違いがないか確認するんですね。
深沢:そうです。「ここまではどうですか? 大丈夫ですか?」と確認して、「大丈夫です」と理解を得られたら、「じゃあ先に進みましょう」と話を進めていきます。そしてまた、3分の1ぐらい話が進んだら確認を取る。……あんまりしつこいと駄目ですけどね(笑)。うまくバランスをとりながら確認を取り合うことで、会話している2人が同じ歩幅で、同じペースで進むことができます。
これをしないと、話し手はわかりやすく丁寧に話しているつもりでも、聞き手は一生懸命追いかけるだけの状態になってしまいます。人の話を聞くって、結構大変なことなんです。ちょっと進んだら待ってあげて、大丈夫かと確認してあげる。これは私が常日頃からやっていることで、その結果、説明がわかりやすいですね、なんてフィードバックをもらっています。
──途中で立ち止まって、確認してもらえると助かりますね。
深沢:確認を取りながら話せば、「何が言いたいの?」と言われることはなくなるのではないかなと思います。なぜかというと、お互いに合意をとりながら進んでいるからです。そのため、全部話し終わった後に、「何が言いたいの?」となる最悪の事態にはならないでしょう(笑)。
──なるほど。では、「考える」ことが苦手な方に向けて、アドバイスをお願いします。
深沢:今さら数学をやり直したくないし、研修などで訓練するのもイヤですよね。でも普段のちょっとした場面で「考える力」を鍛えることができます。たとえば、人前で積極的に話をしてみる。あるいは会議資料、プレゼン資料の作成を自ら買って出る。
会議資料やプレゼンの資料って、論理的に考えないとつくれないんです。たとえばプレゼンのスライド資料は1枚ずつ前後が線でつながっていないとわかりにくいはずなんです。
だから、ゴールを設定してそのゴールに向かって論理的に考えながら資料をつくるというのはいい訓練になる。あとは、ちゃんと自分で考えながら日記やブログを書くのもいいですね。そんなことを、あえて自分に強制してみてはどうでしょう。
──自分の頭で考える練習をするということですね。
そうですね。ビジネスシーンや普段の生活の中で、「考える」場面を無理やり自分でつくっていくしかないというのが結論です。
あとは、会議資料やプレゼン資料をつくったらそれを口に出して読んでみること大事。もし、実際にしゃべってみて「ん?」と思ったら、それはおそらく線でつながっていないんです。自分で「ん?」と思うということは、聞いている人はその3倍「ん?」って思うと思って間違いありません。
余談になりますが、私は重要なプレゼンテーションや講演会の前は、1人でカラオケボックスに行き、本番のつもりで練習をするんです。その練習の中で、しっくりこないな、おかしいな、という部分は、必ずなにかあるんですよね。たとえば論理矛盾が起こっていたり、前後が線でつながっていなかったり……。
しゃべってみて見つかることって、けっこう多いんです。論理思考って「思考」と書きますけど、頭の中だけで終わるんじゃなくて、実際に口に出してみるということがすごく大事だと思います。
──声に出すことで、あらためて論理的かどうかに気づくことができるんですね。今回のご著書でも、数学が苦手なサオリさんというキャラクターが会話の中で考えを整理していく様子が印象的に描かれていますよね。こちらの本は、どのような方に読んで欲しいですか?
深沢:タイトルにあるように、「論理的に考える」ことが苦手な方、また「ちゃんと考えている?」と言われてしまう方に読んでもらいたいなと願っています。
あとは、決まった作業はできるけれども、それ以外の仕事になると課題を感じている方に必要とされる本かもしれません。言われたことはできるんだけれども、「あなた、これ考えて」とか「アイデア出して」と言われると、困ってしまう方のお役に立てるんじゃないでしょうか。
──「ここに注目してほしい!」という読みどころはどこでしょうか?
深沢:全体に楽しく読めるような構成にしているつもりですが、特に後半の、アイデアを出して、発想力の鍛え方を身につける部分は面白いかもしれません。
また、主人公の数学的思考がサラリとできる大学院生が、仕事に伸び悩むサオリさんから「そもそも、『論理的に考える』って?」と質問されることで、あらためて自分も考え直し、整理をして伝えるということをしているんです。つまり、人に口頭で説明することがいかに論理的思考を鍛えるかを描いた物語でもあるんです。そこも本書の中で注目して欲しいポイントですね。
人間って、質問されると考えます。この会話(インタビュー)もそうですが、質問に対する答えを出してそれを説明するために、私は自然に考えるという行為をしているんです。質問されるから、人は考える。実はこれが、本書を「2人の会話」を中心とするストーリーにした最大の理由でした。
この本をきっかけとして「考える」の基本をしっかり身につけ、ビジネスパーソンのみなさんの人生が今よりもほんの少し、いい方向に変わるお手伝いができたとしたら嬉しいです。
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