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ビジネスリーダーが学ぶべき「歴史」(全4記事)

ナポレオンはどんな人? ライフネット生命会長・出口氏が語る「歴史から学ぶリーダーシップ」

2015年4月29日に開催された、ベンチャー経営に関わる各界のリーダーらが集い、イノベーションを生み出し、強いベンチャー企業を育む生態系の構築を目指した「G1ベンチャー2015」。第3部のトークセッションでは、ライフネット生命会長の出口治明氏が「歴史とリーダーシップ~"破壊的”イノベーションを生み出す"武器"としての歴史~」をテーマに、ビジネスリーダーが歴史を学ぶ意味について語りました。

歴史を学ぶ意味とは

出口治明氏(以下、出口):「歴史には何の意味があるのだろうか?」という人がいますが、すごく簡単なことなのです。リーマン危機や東日本大震災のようなことは、また起こるとみなさん思っていますよね。形は違っても。

人間、動物は対応が全てですから、リーマン危機や東日本大震災のようなことを勉強した人や組織のほうが、やっぱり対応しやすいと。これだけだと思いますね。

未来は何が起こるかわからないけれど、悲しいことに教材は過去しかない。これは、(スライドの)3つ目にあるのですが、唐の太宗が書いた通りですね。「古を以って鏡と為せば、以って興替を知るべし」と。その通りの意味ですよね。

もう1つは、「昔のことなど勉強しても、(昔は)飛行機やインターネットはなかったのだから、(勉強しても)しょうがないじゃないか」と言う人もいるのですが、これはストラディバリの話を考えればすぐわかる。

彼はバイオリン作りの天才で、何百挺もバイオリンを作っていて、いっぱい残ってるんですよね。どんな木を使って、どんなワニスを使ったかもわかってるんですが、彼以上のバイオリンはできない。

なぜかと言えば、人間の能力、もっと平たく言えば、大脳は1万3000年くらい一切進化していない。そうであれば、1万数千年の間に最高の能力を持つ天才がいつ生まれるかはアトランダムなので、300年前にストラディバリが生まれて、それ以上の天才はまだ生まれていないということは当たり前ですよね。歴史を学ぶ意味はこれに尽きると思います。

歴史は文系の学問でなない

出口:歴史は出来事ですよね。今、僕がしゃべっていることも出来事です。みなさんの中で、誰かメモを取られていたと仮定します。2人か3人、メモを取られていたと。それがいわゆる歴史の一次資料というやつで、同時代のデータですよね。

でも、メモを取っている人はみんな自分の好きなことだけメモを取るので、別に僕の話を再現したいわけではないですよね。

こうしたメモを同時代資料として分析して、今まで歴史は語られてきたのですが、テープが出ればかなり近くまで再現できますよね。

テープにあたるものが、自然科学の知見だと思います。例えば、花粉分析をして当時の気候を丁寧に再現すると。

そうするとどういうことがわかるかと言えば、源平の争いは、昔は平家物語等を分析して、「驕る平家が贅沢をしていて、それで東国で臥薪嘗胆の源氏が勝ったんだよね」と。

そういう話が、現在は気候を分析すると、「西日本はほぼ飢饉だったので、実は平家が負けたのは『腹が減っては戦はできぬ』で負けたのだ」と。

こういうふうに変わってくるわけですよね。それはテープが発見されたからです。だから歴史というのはたぶん、文科系の学問ではなくて。文科系、理科系というのは大学でも日本だけですからね。

基本的には、いろんな学問の力をトータルに分析をして、1つの真実に近づこうとするのが歴史だというのが、グローバルな理解だと僕は思っています。だから歴史はたぶん1つです。

日本史なんてものは、存在しない

出口:「日本史はない」などと、僕は自分の本で極論を言ったりしてるんですが。それはなぜかと言えば、世界はつながってるからです。

東証の株価を分析するときに、外国人投資家を無視して日本だけで分析したら、どれだけ緻密にやっても意味がないとすぐにわかります。外国人投資家の動向を見なかったらアホやないかと。そうですよね。

そうすると、ペリーがなぜ日本に来たかということも、アメリカの国務省にある文書を見なければわからないわけです。僕が中学生の頃は「捕鯨のための水や薪を仕入れるために日本へ来た」と。大嘘ですよね。ペリーが連れてきた船は戦艦大和、武蔵です。鯨のために大和、武蔵を連れてくるかと。

国務省の文書やペリーの書いたものを見れば、明確に書いてあるわけです。当時の世界は、実はアメリカは大英帝国と争っていたわけです。この2つは仮想敵国です。何を巡って争っていたかと言えば、中国マーケットです。

ペリーの船はニューヨークの近くから日本に来ています。つまり、大西洋を渡って、それからインド洋に入って、日本に来ている。勝てないことがわかりますね。

ニューヨークからロンドンに行く船賃だけ乗るわけですから絶対に競争に勝てないので、太平洋航路を拓くしかアメリカの未来は拓けないとペリー本人が言っています。だから戦艦大和・武蔵を連れて江戸湾に来ているわけです。

こうしたことも、日本史の先生が日本に残されている文献だけを読んだら永遠にわかりませんよね。ですから、極論すれば、日本史はないと思います。世界の中のつながりを見なければ歴史は見えないと思います。

リーダーシップは生きた実例に学ぶ

出口:「人間は将来何が起こるかわからないので、過去しか教材はない」と言ったのですが、やっぱりリーダーシップを学ぶためには生きたリーダーの歴史を学ぶのが一番わかりやすいですよね。ロールモデルになりますよね。「こんな人がいて、こんなことをやったんだ」とか。

時間がないので、バーブル(=ナーマ)の話を1つだけ。バーブルってどんな人かと言えば、チムール朝の直系の子どもです。ところが、チムールが死んでから弱くなって、都であるサマルカンドを追われて、アフガニスタンに逃げます。カーブルですね。

そこから、もうサマルカンドを取り返すことはできないと思って、新天地をインドに求めて、みなさんがご存知の名前ではムガール帝国をつくった創始者です。すごいベンチャー精神に溢れた人です。慣れ親しんだ故郷を捨てて、新しい地に自分の帝国を求めた人です。

ただ、ものすごい苦労するわけです。戦争に負けてばかりで、ライバルと争う中で死にそうになって、実のお姉さんを敵将のガールフレンドに渡して逃げたりしてるんですよ。敵のライバルはすごく喜ぶわけですよね。

チムール朝の王女ですから。「そんな王女をくれるのなら弟は逃がしてやるわ」と。こんな苦労を重ねて大帝国をつくるんですけど。

あるとき、雪山を進軍しているときに、ものすごい寒い。バタバタとみんな死んでいく。最後まで残った仲間が数十人なんですよね。そのグループが小さい洞穴を見つける。でも、その洞穴は1人ぐらいしか入らないと。

みんながバーブルに言うわけです。「あなたは生き残ったチムール朝の唯一の王子なので、あなたが死んだらもう再興はできない。ここで休んでください」と。

これは昔もあった物語ですけが、当然そのときに入らないわけですよね。「自分が生き残っても、この辛い進軍についてきてくれた20人を残して自分だけ楽はできない」と。

彼はものすごく文武両道に立つので、この『バーブル・ナーマ』というのは彼の自叙伝なんですけど、本当に筆が立つのでそのときに彼はペルシャの古い詩を思い出して書いています。

「仲のいい、本当に心を許せる友人たちと一緒に死ぬのは婚礼のようなものだ」と。そうしたら、部下はついていきますよね。「じゃあ、親分と一緒に」と。いろんなことが学べると思います。

リーダーになる条件とは

為末大氏(以下、為末):僕、ちょうど出口さんにもらった世界史の本(『仕事に効く教養としての「世界史」』)を読んですごいおもしろいなと。その中にも出てきた話がいっぱいあると思うんですけど。

仕事に効く 教養としての「世界史」

今日、このあといろんな話も聞きたいんですけど、忘れちゃいけないので最初に2つだけ聞きたかったことを聞いておかないといけないので。

出口:じゃあ1つずつ、どうぞ。忘れてしまうので(笑)。

為末:1つは、歴史を見ていくと、坂本龍馬のくだりも書かれていたと思うんですけど、時代が要請してリーダーになったのか、リーダーが切り拓いてリーダーになったのか、というこの2つが非常に重なってくるように思うんです。

今回ベンチャーサミットなので、ベンチャーの方はきっと自分の力で社会を変えるんだというのもあると思うんですけど、一方で時代がその人をリーダーに押し上げていったという側面もあるんじゃないかという気持ちでいて。そのときに、「リーダーになることの条件って何だろう?」と。

もちろん能力もあると思うんですが、生まれた環境みたいなものもあるような気がしていて。一方で、時代がその人に要請したというのもあるような気がしていて。

出口:歴史をつぶさに見たら、リーダーになるかならないかは偶然だと思いますね。これは確証はないんですが、いくつかの文献によると、ナポレオンはロベスピエールの弟が見出した将軍なんですよね。

テルミドールの反動で、ロベスピエールの一族が全部殺されますよね。ナポレオンも、ロベスピエールの弟が才能を見出した将軍なので死刑リストに載っていたんですよね。

そのときの総裁政府のトップはバラスという人なんですけど、そのバラスがガールフレンドのジョゼフィーヌと寝ているときに、もうロベスピエールの一族は根絶やしにしたと。「最後に残っているのがこの下っ端のリストだ」ということで、それをジョゼフィーヌに見せる。

(リストの)一番下がナポレオンで、その頃ジョゼフィーヌはナポレオンと付き合っていたので、「この若い将軍は思想的には何の背景もないよ」と。「ただ鉄砲撃つのは上手だから使ったらいいじゃない」と言って、「そうか」とバラスが線を引いて消したという話があるんですね。

ここで、ジョゼフィーヌがナポレオンと付き合っていなかったら、ナポレオンは死んでいたかもしれませんよね。

あるいは、フランス革命のリーダーで、残された事績や文献を整理したら「一番能力が高かったのは誰か?」という分析があって。

いろんな人が、すごく潜在的能力が高かったと分析されてるんですが、ほとんどがギロチンで死んでいる。そうすると、リーダーになるならないは歴史を見たら偶然の気がします。

リーダーの候補は何人かいる。偶然でリーダーになった人を結果的に見たら、何が優れていたかと言えば、当たり前ですけど、まず体力ですよね。大変なときにリーダーになるためには、何が起こるかわからないわけですから、フルに働ける体力があり、それからやりたいことがあった。

これを自分はやりたいとか、偉くなりたいでもいいんですけどね。こういうことを自分はやりたいんだという強い使命感というか。趣味でもいいんですけどね。やりたいことが強烈にあった人が、やっぱり結果的にはリーダーとして残っているような気がしますね。

組織を維持するために求められるもの

為末:なるほど。もう1つの質問は、大きくなったものを今度は維持するほうのリーダーシップと言うんですかね。

出口:維持するというのは、逆に言えば、組織もありますが仕掛けを作ったということですよね。例えば、今の大唐世界帝国の例で言えば、科挙を始めるんですよ。これは隋の文帝のものを発展させるんですけどね。

唐という国を作ったときは李世民の周囲にいる優秀な部下、魏徴とか房玄齢とか杜如晦とか、そういう人々はちゃんと国を支えるわけです。

科挙というのはみなさんご存知のように、貴族でなくても優秀な人を全国から集めるわけですよね。そういう仕組みを作ると、今度は貴族ではないけれども、いわゆる庶民の中からものすごく能力の高い人が出てくるわけです。

武則天が科挙をかなり引き上げて、自家薬籠中の物という名言を残した狄仁傑という総理大臣の下でものすごい少壮官僚が育ってくる。優秀な官僚が。

彼らが玄宗皇帝の開元の治を支えるわけですから。リーダーシップというよりも、やっぱり長く続くのはその仕組み化でしょうね。だから創業の数十年の間にちゃんとしたシステムを……。

為末:システムを作っていって。そこから先はじゃあ、どちらかと言うと率いる人はさほど重要じゃなくて、いかに強固なシステムができているかが重要だという感じなんでしょうかね?

出口:それもありますね。これも玄宗皇帝の例がすごくわかりやすいんですが、最初の半分くらいは一生懸命自分も仕事をしたからシステムも完全に整っているし、自分も真面目に仕事をしたから唐の都の最盛期ですよね。ところが後半は、幸か不幸か、楊貴妃という美女が現れて、仕事をサボっちゃうとガタガタになっていきますよ。

だからそこはすごく難しくて。やはり、システムも大事だけれども、リーダーもそこそこちゃんとやらないとしんどい。ただ、システムができあがったらリーダーのウエイトは少し低くなるかもしれません。

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