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第1部「ブランディングとPR・メディアとの関係」(全3記事)

サイボウズ広報が語る、会社の転換期とブランディング活動

2015年8月20日、サイボウズ株式会社の新オフィスで「BtoB/IT広報勉強会」が開かれました。勉強会の第1部では「ブランディングとPR・メディアとの関係」をテーマに、同社ビジネスマーケティング本部・コーポレートブランディング部の椋田亜砂美氏が、グループウェアの開発と販売を行っていく上で最も重要な広報活動について紹介します。また、BtoB企業であるにもかかわらず「製品のことを言わないブランディング活動」に本格的に取り組み出した背景や、新しい理念である「世界中のチームワークを良くすること」にもとづいた今後の展開について語りました。

サイボウズが行っているブランディング活動

椋田亜砂美氏(以下、椋田):まずは第1部「ブランディングとPR・メディアとの関係」ということで、最近行っているサイボウズのブランディング活動についてお話をさせていただきたい思います。

まずは自己紹介を。私は今サイボウズで、ビジネスマーケティング本部のコーポレートブランディング部で、チームワークブランディングをしてます。

私はサイボウズで3社目なんですけれども、新卒から人事を担当しておりましたので、基本は人事畑の人間です。

「人事で仕事をしてくれ」ということで入社したんですけれども、2010年に人事異動で広報になりました。なので、広報歴はまだ5年ぐらいです。企業広報、製品広報をしていたんですけれども、去年ぐらいから基本的にはブランディング中心に動いています、という流れです。

広報の体制として、サイボウズでは広報を、製品広報と企業広報の2つにわけております。私たちの主たる業務は、知っている方も多いと思うんですけども、グループウェアというソフトウェアを販売・開発している会社ですので、そちらの広報活動が一番重要なわけです。

その内訳ですが、製品広報はターゲットが日経コンピュータとかBCNとかITメディアとかIT系ですね。多分みなさんとほとんど同じで、IT系の媒体に載せるという、ある意味媒体が限られていて、かつ内容も完全に製品の話をするということです。

一方で企業広報は、その製品広報以外のことをするので、ターゲットも伝えたい相手も、あと載りたい媒体もガラッと変わってきます。

2、3年前から広報体制をわけました。企業広報は、社長とかオフィスとかロゴとかさまざまなことを、マスを含めて、いろいろな媒体に載せていくということを行っています。

私は2010年から広報に異動して、最初は(製品広報と企業広報を)両方していて、プレスリリースとかも随分(たくさん)書いたりしながら、企業広報もたまに行っていました。ですが企業広報のほうにどんどん力を入れていくようになり、こちらのほうにシフトをして、現在は企業広報兼ブランディングみたいな形となっています。

コーポレートブランディング部の役割

先ほどご紹介した、コーポレートブランディング部の位置づけなんですけども。ちょっとカタカナが多い部署なんですが、ビジネスマーケティング本部というところがありまして、ここが主に製品の宣伝・販促をしているところですね。

製品広報はこちらの製品プロモーションのほうと一緒に活動しておます。コーポレートブランディング部っていうのは完全に企業広報、企業コミュニケーションに特化した部署です。

コーポレートブランディング部、ブランディングの役割は、基本的にサイボウズを知らない人にサイボウズを知ってもらうこと、認知、興味を持ってもらうまでが私たちの役割ですね。

製品広報のほうはサイボウズを知っている人、私たちが売りたい相手に行うということで、やはり対象がガラッと変わります。なので、こういうわけ方を明確にしているほうが多分、わかりやすいかなと思っています。

コーポレートブランディング部の内訳なんですけれども、今6名程います。先ほど受付にいたのが私の上司なんですけれども(笑)。

大槻(大槻幸夫氏)が「サイボウズ式」の初代編集長で、「サイボウズLive」のPMを行っています。先ほど流していたムービーのPMを行っている大槻を筆頭に、現在の2代目サイボウズ式編集長、私、「サイボウズ式」のコンテンツをつくっている社員、企業広報、あとインターンも含めて約10名で行っているという形です。

ブランディング活動の3つの主軸

主に今、みなさんの目に見えているサイボウズのブランディングというところは、その「サイボウズ式」というオウンドメディアの部分と、働き方に特化した部分、あとチームワークというところの部分が表に出ている部分じゃないかなと思います。実際、私たちもこの3つにわかれてさまざまな活動を行っています。

コーポレートブランディング部の現在の思いとしては、「社会課題に向き合う企業でありたい」というところを軸においてさまざまな活動をしています。

ということで、やっとアジェンダになります。今日これからこの後ササッと入っていくんですけども、何でそういうことを軸においてやっているのかということと、じゃあ具体的に何をしているのか? そして成果はどうなのか? 今のところの学びは何なの? というところをお話させていただきたいと思っています。

ブランディングに取り組むようになった背景

何でブランディングに本格的に取り組むようになったんですか? と。何で製品のことを言わない、コミュニケーションに取り組んでいるんですか? ということなんですけども。

そもそもそういうことを始めたのは、自分たちの企業の立ち位置を振り返るところから始まっています。

ご存知のように、サイボウズは500人ぐらいのまだ中規模の会社で、グループウェアに特化した完全なるBtoB企業です。

グループウェアではシェア3割を取っていて日本一、こうした実績は創業してから積み重ねていっています。

ただ、BtoBでよくあると思うんですが、2006年ぐらいから売上が伸び悩んでおりまして、完全な横ばいになっていたんですね。特にグループウェアというのは、私たちが参入した97年から市場規模が大体300億円と言われていて、そこから市場自体もあまり大きく伸びていないんですね。

サイボウズはその中小(企業)というところを武器に売上を伸ばしていったんですけれども、頭打ちになっていたというところがこの背景にまずあります。

グループウェアという言葉も当然ながら専門用語なので、検索する人もそんなに多くはなく、年々下がっていっていると。まあ興味もなし、みたいなところですね。BtoBの扱う商品は大体そういうものかなと思っています。

今までの「勝ちパターン」が通用しない

こういった踊り場のときにどういった危機感を持っていたかということなんですけども。実際、私たちが主たる領域としている製品プロモーションの課題としては、これまでの右肩上がりで売上が上ってきたときの「勝ちパターン」がもう通用しなくなっていると。

あと、やっぱり新規顧客ということを常に言うんですけども。どういうふうにしていけばいいのかもわからなければ、今まで情報システム部というところに特化して宣伝と広報を行ってきたので、一般的なブランド認知(が低く)、特に新卒はBtoBがゆえ、サイボウズを知らないということもありましたので、この辺りが大きな課題となっていました。これが2006、2007、2008年ぐらいですね。じゃあこれまでの勝ちパターンって何だったのか? ということなんですけども。

これは新聞広告なんですけれど、こういった奇抜な広告を出して、とにかく「目立つ」ということをやっていたんですね。

これはバナー広告。これ、黒塗りをしたのはわざとで、このまま新聞に広告を「Office4ですよー」みたいな形であげていったりだとか。とにかく奇抜なパターンで、「これは何だ?」とクリックをさせて、興味を持ってもらうっていうことのトライアル誘導をずっとしてきたのが、サイボウズのプロモーションでした。

2012年もこういった「cybozu.com」という弊社のクラウド製品が1000社を達成したときに、1000社を達成したということで、じゃあ1000社、センシャ、戦車……ということで、戦車を走らせるという、まずは目立つみたいなことをしました。これは六本木ヒルズに戦車を走らせたというプロモーションです。

あの『ぼくらの七日間戦争』という映画で使われた、角川さんが過去に持っていた戦車(注:61式戦車の実寸大レプリカ)を貸してくださいと言って使わせていただいたという(笑)。こういったことをして、とりあえずとにかく目立つことを、製品の宣伝でも広報でも行っていました。これが勝ちパターンだったんです。

製品のほうは、クラウドということで月500円から使えますというふうに、大きなビジネス転換を図ってきていました。

先ほど、3割の導入(実績)があって日本一だってお話したんですけれども、大企業に対しての認知は、やっぱりエンタープライズに対してはそんなに大きくなくて、サイボウズよりもIBMとかマイクロソフトをどうしても大企業さんのほうでは導入しがちになると。

なのでサイボウズといえば、「あれは中小企業のものでしょ?」ということを言われるのがほとんどでした。

そんな中で、現在もやっていますけれども、「サイボウズLive」という個人向けの無料製品を出してみたり。これも新規につながればいいなということでやったものなんですけども。こういったことも開始したりしていました。

先端層から一般層へと変化する顧客層

この辺りからちょっと理論的な話に入るんですけども、こういったときにどういうことを考えれば、この踊り場市場を抜けられるのかということで、あくまで「あとづけ」にはなりますが、ある理論を使って説明していきたいと思います。

これがその『キャズム』といわれる本なんですけれども、マーケティングでは有名な本です。こちらのキャズム理論にのっとって、これから少しだけ説明をしていきたいと思っています。何度も言いますが、これは「あとづけ」です(笑)。

製品の広告、今はサイボウズという会社の主たる製品のほうのマーケティングの話をしてるんですけれども。先ほどの『キャズム』の、自分たちが今どこにいるのかということによって、世の中に対するアプローチ方法というのはガラッと変わってしまうんですね。

それはいわゆる「先端層」というところが最初にいて、そこからどんどん物事が普及していって、「一般層」に広まっていくっていう流れなんですけども。この溝(を埋めること)がすごく難しくて、それをキャズムというふうに言っています。理論的にはただこれだけなんですね。

これまでのサイボウズが右肩上がりで伸びてきたときのお客様というのは、いわゆる先端層だったんですね。

自分で機能を見比べることができる、自分で情報収集して「こっちがいい」「あっちがいい」と。サイボウズがいいのか? もっといいのはどれか? ということを見比べることができるお客様だったんですけども。

そこからキャズムを越えて一般層にいくためには、まったくお客様のタイプが違うということを認識しないといけないということです。

なので、こちらの先端層の情報収集ができる人たちに対しては、これまでのこういった勝ち手法で問題なく通用したんですけれども。

さすがにずっとこれをやり続けて右肩上がりになっていくわけでもないので、これからのお客様(獲得のために重要なの)はここになるだろうということで。

じゃあここのお客様は何を一番大事にするのかというと、こちらにもありますように価値を重要視したり、変化が嫌いだったりということで、まったく先端層と違う趣味嗜好を持っている方になるんですね。

一般層の顧客が求めるのは「信頼感」

そういう人たちが一番大事にしていくのは先ほどの資料では、「信頼感」というものが一番重要になってくると。

じゃあ信頼感って何なんだ? ってことなんですけども。何で信頼感(が重要)ということになるかと言うと、一般層に入ったお客様はあまり「情報収集をたくさんしてやろう」「見比べよう」とかそういった時間がないお客様も多いので、意思決定の近道をしたいと思われています。

例えば、「シェアNo.1です」とか、「顧客満足度No.1」ですとか。そういった周りのみなさんが使っているから使おうとか、そういった周りの評判を見て使う人が増えてくると。だから私たちもターゲットが変わってくるということを、ここで認識しなければならないという形になります。

では、その信頼感っていうのは何なのかということなんですけども、今はこういうふうに(定義を)おいています。

もちろん機能がしっかりしているということと、評判が高いということ。見た目、デザインも何か良さそうだと思われるものであるということと、その会社の持っているストーリーに共感できる、というものになるんじゃないかなと思っています。

この4つの整合性がとれることで、信頼感が生まれていって、ブランドというものが生まれてくるんじゃないかなと。

例えばみなさんがよく飲んでいるお水とかお茶とか、そういったC向けの製品をイメージしていただくとわかるんですけれども。例えば伊右衛門とかですね。

評判が良くてストーリーもあって、機能もちゃんとしていてデザインもできていてっていうのは、やっぱり販売されているCM(からの印象)っていう。

売れているものっていうのはよくよく考えるとこの辺りがしっかりできていて、それが例えば伊右衛門っていうブランドをつくりあげているというふうに考えることもできるので、この辺りの整合性がとれてくると、ブランドという価値が生まれてきます。

サイボウズに「足りていたもの」と「欠けているもの」

じゃあサイボウズがこの4つの中で、どこが足りていて、どこが良かったのかと振り返りを始めていくと、グループウェアの先ほど出たシェアNo.1というところに関しては、評判と機能を兼ねそなえたものになりますよと。

何とか評判を得てNo.1です。機能もしっかりと充実しています。そこはずっと私たちが売りにしてきた部分でした。

こういったデザインはどうだったのかということになると、これはあまり自信がないので、ロゴも含めてですね。ここで刷新を開始します。

最近出しているのは、この「kintone」ですね。ポスターのデザインをガラッと変えてみる。ボウズマンからガラッと変えるとか、もちろん製品の色合いもガラッと変えていく。もちろんロゴも変えて、より洗練されたものにデザインを変えていくという形に変えていっています。

今回のオフィス移転も、日本橋というところに移転することによって、より信頼感を出していけるんじゃないかなと考えた上での移転であったりもします。

じゃあその4つの中で今まで足りないのは何なのかとなると、やっぱりストーリーという部分が欠落していたなという結論に至るわけです。何でサイボウズがグループウェアを提供するのかと。

じゃあストーリーって一体何なんだろう? っていう形になってくると、ストーリーっていうのはわかりやすい価値の伝達手法です。先ほどの一般層の人たちが求める「わかりやすさ」っていうものを、(サイボウズは)今までは追求してこなかったなと。

会議室できますよとか、スケジュールが共有できて仕事の効率が上がりますよ、ということは言えたんですけども。じゃあそれによってどういう価値を生んでるんだということまでは、突き詰めてお話しできていなかった。

ここの部分をしっかりしていこうということで、そこをどういうふうに取り組んできたのかっていうのをここからお話させていただきます。

今まではそのスケジュール共有できます、会議室予約ができます、こんなワークフローができますといった、製品の持っている機能で販売をしてきたんですけども。そうではなくて「仕事の効率が上がったことによって、私たちが使ってチームワークが良くなりました」ってお客様の声があって。

そもそも自分たちにストーリー、何か語れるものがあるのか? という、よくPRでいう、ネタがあるのか? みたいなところにちょっと近いんですけれども。

新しい企業理念は「世界中のチームワークを良くすること」

となったときにできたのが、私たちが提供できる価値は「チームワーク」ということで、これは2007〜2008年ぐらいから、この「価値」について社内で話題にし始めて、に明確にこういうふうにできたのは2010年以降になんですけども、できていきました。

じゃあ私たちが提供できるのは、製品、ソフトウェアというツール、グループウェアなんだけども、価値としてはチームワークを提供できるんじゃないかということで。

グループウェアからチームワークのメーカーへと、当時の企業理念も「ITで社会を豊かにする」といった企業理念だったんですけども、「世界中のチームワークを良くすること」というふうに、価値のほうに重点を置いた企業理念にガラッとここで変えてます。

なので「世界中のチームワークの向上に貢献する」というところと、売上や利益ではなくて、「一番使われるグループウェアメーカーになること」。ここ(を決めたこと)が一番大きかったかなと思っています。

みなさん今、サイボウズのホームページのトップページを見ていただくとわかるんですけれども、とにかく「チームワーク」ということを前面に出しています。

まずはトップページで「世界中にチームワークを」ということを言っていますし、その下にもうサイボウズ式が出てくるんですけれども、「チームワークを応援するメディア」という枕詞がついています。

製品についても「チームワークを促進するクラウド製品」というふうに、前面にサイボウズはチームワークを応援する会社ですよということを、ホームページのトップからアピールするように変えています。

一番最初に話したブランディング部が取り組んでいる、そのサイボウズ式と働き方とチームワークっていうところも、実は一気に露出が増えたのはここ1、2年のことです。サイボウズ式はもうそもそも2012年5月に始めたもので、これが後から言うかもしれないですけども、3万ページビューを超えたのがその半年後ぐらいなんですね。

あと働き方というのも、2013年頃からたくさんの取材をいただけるようになって。育児休暇が6年取れるとか、その辺りがメディアによく載るようになりました。「ワーママムービー」は去年の年末ですね。

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