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リクルート・大宮英紀氏×尾原和啓氏対談(全2記事)

「リクルートにしかできないことを徹底的にやる」急成長するAirレジのプラットフォーム戦略とは

リクルートが提供する無料のPOS・レジアプリ「Airレジ」担当役員の大宮英紀氏と、リクルートをはじめとしたネット企業を渡り歩き、著書「ザ・プラットフォーム」を執筆した尾原和啓氏が対談。16万アカウントを突破するなど急成長するAirレジの成功の要因は「エネーブラー戦略」にあるのではないかーー。尾原氏が分析しました。

リクルートは「人を笑顔にするプラットフォーム」

大宮英紀氏(以下、大宮):リクルートライフスタイルの大宮英紀です。リクルートの中でも旅行とか飲食、美容とか日常に近いサービスを運営していて、その企業様向けのサービス開発責任者をやってます。

その中の戦略的なプロダクトが「Airレジ」を含めたAirシリーズのサービスで、いま展開しています。

尾原和啓氏(以下、尾原):僕は今12職目なんですけど、3職目と8職目がリクルート。なおかつ8職目は3年で、3職目は18ヶ月で、合計すると54ヶ月もいまして、人生最長。単体ではGoogleの3年2ヶ月が最長なんですけど。

いまはFringe81というネットマーケティングの会社の執行役員をやりながら、本を書いたりとかをバリに住みながらやってます。あとはいろいろなプラットフォームの立ち上げ屋でもあります。マッキンゼーとしてiモードに関わり、Googleでは日本のモバイルビジネスの立ち上げとか、Google+の開始だったり。

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さらに、人を笑顔にするプラットフォームといえば、リクルートなわけですよ。「まだ見ぬ出会い」。人生における新しい選択肢を増やしてあげるだけじゃなくて、企業側に隠れていた不安を、編集的な企画によって光を当ててあげて、どぶ板営業によってそれをこじ開けて、ユーザーにつないでいく。

プラットフォームによって結果的にユーザーがいままでにない選択肢を持って、より自由に生きれるようにする。リクルートはそういう会社ですよね。勝手にAirレジの記事も書きました。妄想ですけどね。

大宮:すごい分析してくださってますよね。僕ら自身も「そういうことかっ!」って思いましたし、ちょっとびっくりしました。

Airレジが推し進める「エネーブラーモデル」とは

尾原:簡単にもう1回説明したほうがいいですよね。Airレジって主にボストンコンサルティンググループがストラテジーの手段として提唱していた「エネーブラーモデル」なんです。

B to B to Cビジネスをする時に、B側をいかに押さえるか。B側でいかに選ばれる存在になるかが、ものすごく大事なんですけれども。でも、いきなり押さえたいプロセスのところを「押さえさせてくれ!」って言っても、だいたい押さえたいところって、おいしいところなわけですよ。リクルートで言うと送客っていう販促ビジネス。

「その部分の予約システムを、全部俺にくれ!」っていうと、やっぱり抵抗感あるじゃないですか。だったら、エネーブラーという、その手前にあるプロセスを無料、あるいはものすごく安価に解放する。必然的にそこのプロセスである程度シェアが取れれば、後ろのほうでもシェアが取れる、っていうビジネスなんですね。

Airレジのすごいところって、もちろんリクルートは、もはや販促だけではないんだけれども、この販促の予約システムっていう手前の「レジ」っていう部分に着目して、そこにAirを配るっていうことをやった。

なんでこれがすごいかっていうと、タイミングなんですよね。20年前にやろうとしたら、めちゃくちゃ大変なわけですよ。レジって1台30万円くらいするし、ましてや通信も提供しようと思ったら、通信を敷設するのに月に6,000円払ってよ、と。

それが、iPadが出てきたことで2万円にくらいに下がってるし、通信も無線LANを店舗に普及させないとキャリアさんって困っちゃうので、むしろ、お金を出してもいいから店舗さんに無線LAN配ってくれ、となる。そんなところに着目されているという戦略面が、まずすごいっていう話です。

ただ、それだけじゃなくて、やっぱり「リクルートらしい」エネーブラーのソリューションモデルになっていて、大宮さんが発表されたのは導入10万店舗でしたっけ?

大宮:はい。1周年のときに。

お店側が本来やる必要がないことを代わりにやってあげる

尾原:大宮さんがそのときに言われたのが、「店舗さんの苦労を取り払ってあげたい」と。レストランにとってみるとレジを締める行為とかは、本来やる必要性がない、得意じゃない領域なわけですよ。

レストランは美味しいごはんを出してあげることだったり、お客さんをもてなすことが得意だし、美容室は髪の毛を丁寧に切ることだったり、髪の毛を切っている2時間の間にお客さんの愚痴を聞いてあげて、すっきりさせてあげることが大事。

だからものすごく機能的で簡単なレジを提供してあげれば、本当にやることに集中できるよね、っていうことをビジョンとしてちゃんとおっしゃっていて、やっぱり僕の本でもずっと通底していることなんですけど、ITっていうのは、人間らしい部分によりフォーカスするために面倒くさいことを効率化してあげるものなんです。

大宮:さっき尾原さんが話されていたように、時代が変わった時に圧倒的に低コストになっていく領域はいくつかあって、Airによって全部変わると思っています。

やっぱり、一般消費者側って自分がiPhone欲しいとか、iPadが欲しい、スマートウォッチが欲しいってコロコロ変えていくんですけど。お店側って、例えば高価なPOSレジ入れると、「5年償却しなければいけません」とか、そういう全然違う時間軸や判断基準で動いているので、変化自体が遅いですし、必要性も感じない。

逆に言うと、そこにサービスを提供できると強いと思います。「変えたい」というモチベーションがそんなにないので。その部分にリクルートが持ってるアセットも含め、加速させてやっていきたい。

あと先ほどのエネーブラー戦略もそうなんですけど、結局、おいしいところは皆が取りたくなるわけじゃないですか。でも「おいしい」とか「戦略です」とかって、僕らが勝手に考えていることで、お客さんからするとどうでもいいんですよ。

便利なものを使いたいし、すぐ使えるものを使いたいし、「自分の経営に何か役に立つのか?」というのを見ている。そう考えると、レジはちゃんと選んでもらえることが大事なので、使い勝手とか、無料にしたりとか、そもそもの手間を削減していくことをやっていきます。

尾原:もともとリクルートって、「高投資・設備型・ハイコンサル営業ビジネス」っていうのが得意なんですね。実は紙もAirレジも全く変わってなくて、「ホットペッパー」というビジネスは一班立ち上げるのに、必ずキャッシュフローがマイナスになるんですよ。これはなぜかと言うと、結局、紙のビジネス立ち上げる時に、ホットペッパーの棚を地方に置いていかなければいけないんですよ。

だから徹底的に企業のため、ユーザーのために、設備をグワーっと張り巡らせる。実はこれがリクルートの真骨頂ですよね。同じ考え方なんですよ。いままでは「ラックを置いて、店舗にローラー営業していました」っていうのが、どうせキャッシュフローがマイナスになるんだったら、iPadをタダで配ればいいんですよね。

それができるのがリクルートっていう会社の戦い方ですよね。Airレジの近況は実際どんな感じなんですか?

リクルートにしかできないことを徹底的にやる

大宮:3月末で16万アカウントです。本当に多くの人に使ってもらえてますし、Airレジだけじゃなくて、「Airウェイト」や「Airリザーブ」、この間「Airマーケット」も出しましたけど、けっこう使われています。

Airウェイトに関して言うと、ビックカメラさんみたいな量販店にも導入しています。例えばApple製品の修理の時にはある程度待ちますよね。そこにAirウェイトが入ることで、お客さんは待ち時間に店内を回遊して買い物できるようになりました。

1つのソリューションでいままで個店中心で展開してきましたが、大手も含めていろいろな入り方がある。幅が広がってきたって感じです。

尾原:1年間で10万店舗で、その後半年で6万店舗だから、増加ペースが上がってるんですよね。だから普通に考えたら、だんだんリテラシーが低いところに導入していかなきゃいけないから、営業が大変になるんですよね。それを乗り越えられるっていうのが、リクルートだと思うんですけど。

大宮:このビジネスはもともと数年前からずっと自分でやりたいと思っていたんですよ。もちろん、このタイミングになったというのは、社内でいろいろなディスカッションを経た上ですけど。

でも「やるぞ!」ってなった時の、投資の仕方は半端ないです。僕が本当に会社辞めて自分でやろうと思った部分もあったんですけど、その時に、どうせやるとしたらリクルートがライバルになるじゃないですか。「どうやったらリクルート倒せるのかな」とか、すごく考えて。

結論は、当たり前のようにやったら、リクルートは絶対強いわけですよ。リソースも持ってる。ってことは、ここでやるべきだと。お金を稼ぐとかよりも、市場に広がること自体が大事だし、リクルートの中だとグローバルにもチャレンジできます。

何かをやろうと思ったら、リクルートにしかできないことを徹底的にやるべきで、そこで決まりますね。お金を投資する、人を一気に投入する、トレンド自体を作りにいく。それをまさにいまやっています。

離島にクレジット決済をもたらす

尾原:そうですよね。そこが魅力ですよね。勝ちパターンが決まった時の覚悟たるや。その時のお金の使い方と、人の付き方と、あと目標に対しての追い込まれ方。それが、ヒリヒリして楽しんですよ。それが「楽しい!」って思える人が、リクルートの人だし、その結果、自分もすごく成長する。

大宮さんがさらっとおっしゃいましたけど、このモデルのおもしろいところはグローバルの可能性ですね。

メディアビジネスって、どうしても文化に依存するところがあるから、どうしても、その土地その土地のカスタマイズがけっこう大変なんですけども。

僕個人的には、アジアのマーケットってそもそもレジがない国がほとんどなわけで、なおかつ、いまや例えばインドが3,000円のAndroidのタブレットを作って、すべての中学生以上にタダで渡す、みたいなことやってるんですよ。タブレット自体も低価格革命が起きている。

そういったビジネスの可能性って、すごく魅力的だと思うんですよね。大宮さんに質問したいのは、Airレジを入れて1年半が経つと、最初の頃に入れたお店が、これを活用したことで変わってきてると思うんですよね。どんなことが起きていますか。

大宮:大きく変わってきたのが、Airレジの認知が徐々に広まってきていることです。プラットフォームビジネスにおいて、「想起と認知」っていうのは圧倒的に大事なんですよ。ブランド力ですね。

安心安全という信頼性を最終的にはちゃんと担保していかなければならないです。最初は、リクルートが何かやっているんだけど、「Airレジってよくわからん」っていうものから、「だんだん周りも使い始めたよね」「他のお店もいいって言ってたから、大丈夫だ」となってきています。そういう意味でいうと、まず安心感が生まれてきました。

あと利用者の方々からすると、特に地方の離島とか沖縄とかそうなんですけど、そもそも決済端末を置けないんですよ。いまの決済端末って、クレジットカードとかもそうなんですけど、電話回線でつながるようなものがまだまだあるんですね。

離島とかのアクティビティー、沖縄って海外の人もいっぱい来るのに結局カードが使えないことが多いんですよね……。

尾原:それ、もったいないよね。

「Uber」は人の無駄な選択肢を圧倒的に減らした

大宮:機会損失。それが例えば、みんなが持ってるスマートフォンというデバイス一つで、クレジット決済ができるようになる。

それ以外に、売上の管理もできるようになる、圧倒的にお店の人の生活自体が変わっていっています。例えばガイドの人はガイドするだけに専念できる。これまではそもそもお支払いとかも面倒くさかった。「カード使いたい」って言われて、「カード使えません」って言うのやっぱり嫌だったと思うんですけど、そういう心配事から解放されてきています。

究極で言うと、僕はUberがすごい好きなんです。あれって人の選択肢を圧倒的に減らしているんですよね。要はどの車に乗るかとか、拾うのも手間だし、拾った時に止めてコミュニケーションするのも面倒。行き先を言ったり、特に最後、チップいくらだからお支払いはどうする? みたいなのを、Uberは全部なくしてるじゃないですか。

Uberはクオリティをある程度担保しているので、気持ちいい体験をして、お金は自動的に支払われる。本当にステップを究極にそぎ落とすと、お互いにもっといろいろなことが考えられます。いきなり「君、どっから来たん?」って会話になります。

そういう意味で言うと、商いの行為を自由にするようなことを僕らはやりたい。それが1つの指標ですし、実際、Airレジも徐々に実現できていると思います。本当に、いいことですね。

「仕方なくやってること」をなくすと、人はコミュニケーションに戻る

尾原:いいことです。もともとジャック・ドーシーが「Square」を作った理由ってそれなんですよ。彼はすごくシンプルに言っていて、決済は「仕方なくやっている行為だ」と。「仕方なくやっている行為を、見えなくするくらいに便利にすると、物を買うという行為は、コミュニケーションに戻る」って言っているんですよ。

さっきのUberの例はわかりやすくて、タクシーに乗ると、お金を払ったり、場所を伝えたりっていう、仕方なくやっている行為が時間の大半を取っちゃうわけじゃないですか。それがなくなると、乗ったら、ヒューっと行ってくれて、最初の会話は、「お前、どこ出身なの?」ですよね。

行き先は向こうが知ってるから、「どういうメシ屋とか行きたいの?」ってなる。本来の旅行を楽しむためのコミュニケーションに専念できるんですよね。それがレストランだったら、レストランで「ちゃんとおもてなし」できる。

特にレストランっていうのは、ものすごいかわいそうな商売です。人気なレストランのジレンマっていうのがあって、人気なレストランであるほど予約を断る回数が増えるんですよね。

そうすると、だいたい人気なレストランってお客さんに対して丁寧な人が多いので、ちゃんと断るんですよ。そこに時間を取られて目の前にいるお客さんに対する時間を減らさなきゃいけなくなったり、料理の仕込みの時間を減らさなきゃいけなくなったりするんですよね。それがこうやってソリューションに変わると、本当にやるべきことをやれる。

あともう1つ。多分この先にあるな、と思うのは、さっきのUberの例がすごくおもしろくて、Uberって車を提供する側の人たちは、移民の入口になってるんです。要はコミュニケーションのところがいらなくなったから、運転の腕があれば言葉が不自由でもできるんですよ。

大宮:そうですね。余計なやり取りを全部そぎ落とすと、本当に言葉のしゃべれない移民の人でもできる。「仕事帰りにUberのアプリを起動すると、そのまま運転手になれます」という状態ですね。たぶん、今後のワークリソース自体がそういう流れに変わっていくだろうと思います。

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