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うまくいくバトンタッチ(全3記事)

「人を感じる」「本質を見る」ジャパネットたかた創業者が語る、経営者に必要な能力

TV通販番組でおなじみ「ジャパネットたかた」創業者である髙田明氏が「うまくいくバトンタッチ」をテーマに語ったProFuture主催 経営プロサミット2015での講演会。番組の「顔」であり、名物社長として高い知名度を持つ髙田氏は2015年1月に突然の退任を表明。このパートでは後継者である新社長の髙田旭人氏の人物像やバトンを託した理由について語りました。

新社長がスタートさせた「年に2回の9連休」

若い人の力を信じてやっていくんですけど、労務環境にしても新社長はびっくりするようなことばかりやるんですよ。「そんなことやっていいの!?」という事例を挙げますと、急に社員の休みをドーンと増やした。

私たちも女房と2人で小さなカメラ屋からやってきた会社ですから、そういうもの(休まず働く)が気持ちの中に残ってるんですね。

ベテランの社員はそういう気持ちを持ってるんですけども「これでは採用にしても一流企業さんと戦うことはできない。労務環境はマストである」と言って、早速9連休を年に2回取りなさいと。

僕は全然知らなかったんですけど「明日から9日間休みます」「えっ?」そんな調子で。

9連休とか取ったら仕事が回らないだろうと思ってた自分がいたんですよ。ところが「9連休どうだった?」と聞いたら、誰に聞いてもすごく感謝の気持ちを持ってた。

一番多かったのは「お父さんお母さんに旅費を出してあげて、一緒に海外旅行に行きました」「おばあちゃんと○○へ行きました」とか、親孝行、女房孝行、家族孝行を9日間でしている社員が多い。

やっぱり、いきいきとしてるんですよ。それを見たときに「そうか」と。もし私が社長を続けたらそういう環境を作らなかっただろうと考えたときに「バトンタッチするということはそういうことかもしれないな」と思ったんですね。

私がやることがすべて正しいとかダメなわけじゃなくて、自分の足りない部分(を補う)。

僕は、人間は「信」と「疑」の生き方がすごく大事だと思ってます。自分を信じて生きるということと、それと自分を疑って自分に足りていないものはいつでも認めて変えていく力が絶対に要る。

そういうものをもっと謙虚に受け止めていく姿勢がなければ、なかなか上にはいけないのかなと。自分でもそれを常に考えて、承認したいなと思う次第です。

労務環境だけをとってみても、それだけいろんなことが変わってきています。それをしみじみと感じましたね。事例を皆様に挙げさせていただきましたけども、それだけ時代が変わってきてるということですよね。

それをなかなか理解できない団塊世代の私がいたということで、事業を継承していく難しさを知って、一番いいのは交代する、バトンタッチだと思ったわけです。

企業でもそうですけど、アメリカの大統領も2期までですよね。これを、僕はなんでだろうと思ってきました。レーガンさんとかクリントンさんが8年間やったときに、非常に優秀な大統領なんだからあと4年任せればいいじゃないかと50過ぎまでずっと思ってましたけども、(最近は)「なるほどな」と思うこともあるんですよ。

新しく大統領が替われば、ホワイトハウス含めて何万人というのが変わりますよね。それと同じように、新しい空気を入れ替えながら企業も活性化させていかないと、たぶん100年とか200年継続することは不可能なんじゃないかなと思うようになってきたんですね。

私はそういう思いで頑張ってきたということです。

後継者に求めるものは「人を感じる力」

もうひとつ話をしますと、経営をバトンタッチするときにスキルとして何を求めるか。気持ち、マインドの問題では、今まで私が「理念を共有する」とか「価値観を共有する」ということを言いましたが、言い換えれば「人を感じる力」だと思います。

トップである経営者、責任者は人間を感じる力がなければ、その人がどんなにスキルが高くても、人を使っていくことはできない。人を感じる力が絶対に要ると思います。

私も長年ショッピング(の放送)をやりながら、テレビの前に立ったときにはお客さんの気持ちを感じる、お客さんの立場で感じる(ことを大事にしてきた)。自分たちの常識とお客さんの常識はまったく違うんです。業界の常識とお客さんの常識は違う。

そこを感じることができなかったら、私たちショッピングの会社はできません。どんなに「いいですよ、いいですよ」と言っても買っていただけません。

「○○がいいんですか」という、お客さんが求めているものを感じる力。これを総称していえば、人を感じる力。これはマインドでもっとも求められるものじゃないかと思うわけですね。

今度はスキルという部分では、例えばExcelの高級ライセンスを持ってるとか、公認会計士の免許を持ってるとか、あるいは社労士の免許を持ってるとか。

これはスキルとしては必要だと思いますけども、いくらそういうものを持っていても、それを使ってどのように企業づくりとか人づくりに活かしていけるかが大事ですよね。

皆さんの長い経験の中で、そのようなことってございませんか? 「すごく仕事はできるんだけどそれを伝えることが下手だな、もったいないな」というのがありますよね。

「ボトルネック」という言葉があります。これを見分ける力が、企業を引っ張っていくには必要ですね。企業にはいろんな問題が山積しています。

100億から200億、1000億、1兆円とトップになればなるだけ、それはそう(問題が山積み)ですよね。町長さん、市長さん、県知事さんになるか国の総理大臣になるかで抱えてる問題が違うわけですから。

問題の根本的なものを見抜く力を持たないと、事業を継承させること、また事業を引っ張っていくことはなかなかできないんじゃないか。

スキルの中には「根本的な本質を見つけてその問題を解決する」……この「解決」も、論理的に解決する力を持つようにならないと企業の成長はできていかないと僕は思います。

問題を解決するには本質を見る

ジャパネットにも、いろんなお客さんの声が入るんですよ。ジャパネットは厳選した商品を100万個とか売っています。布団専用ダニクリーナー「レイコップ」をジャパネットで買った方、手を挙げていただけますか。……1人。今日のお客さん、全然ジャパネットで買ってないですね。

(会場笑)

こんなはずなかったんですけども。ちょっと後で文句付けときましょう(笑)。

布団専用ダニクリーナーって、本当にあれはいいですよ。この梅雨どきでも。あれは145万台をこの2~3年で売ってるんですけど、日本市場の半分くらいはジャパネットじゃないかなと思います。まあ、何を言いたかったのか忘れましたけども……。

(会場笑)

今日は錦織さんの影響で頭が回転していないこともありますが……。「スキル」と「マインド」という話が具体的に皆さんの中に落とし込まれたかわかりませんが、僕の場合、マインドは「人を感じる力」。スキルは「本質を見る力」。

これはよくあることです、皆さん。問題を解決するには本質を見ること。コンピュータに関して、こんなこと言ったりします。コンピュータとかビッグデータがあるでしょ? すごいデータが頭の中にある。

あれなんか何でもないんですよ、本当は。ずっと何十億の回線があって、(それぞれの)問題を解決するっていうんですけど、本当はスッと線を引けば何十億も問題はないんですよね。シンプルなんですよ。これは何かというと、本質をつかむ力があったらシンプルに問題を解決できる。

皆さんが病気になったとします。病気になったら病院に行きますよね。例えば初期のガンだとして、どこが原因でどういう根本的な治療をしたらいいかわからなかったらどんどん広がっていきます。病気の治療と同じように、その場その場の治療をしても根本的な解決にはならないんです。

レイコップで思い出しましたけども、私たちはいろんなお客さんのお声、(レイコップなら)145万人のお声がどんどん入ってきます。それを分析するツールがあるんですよ。お客さんの声を聞くと、20~30の項目ごとに「ここはこうだ」「ここはこうだ」と問題が出てきます。商品ひとつにしても。

トップに立てば立つほど、その数字を見たときに「どういうふうに解決していけばいいか」という、本質をバシッと見きわめる力をつけなきゃいけないんですよ。

そうしないと問題の解決はぜんぜんできてこない。その力がなかなか持てないと、10人20人かかっても、人をかけてコストをかけても問題は解決しないというところがあります。

ジャパネットでも、その部分の人材というのはまだまだ不足しています。こういう人を作るのが必要だということで頑張っているのが現状なんですけどもね。

そういうことで、今は社長を交代して譲りましたけども、休みの問題も労務の問題も180度変えちゃうんですよ。「休みだけあげるなんてとんでもない」と僕が思ってても、任せているわけですからそこは全部信じていたら、9日間の休みがすごくプラスになってるわけですよね。

新社長は部下に対して、七つほめて三つ叱る

東京に東陽町ってありますよね。東陽町にジャパネットが新しい会社を作ってるんです(株式会社ジャパネットサービスパートナーズ)。ウチはホールディングスになったんですけど、そこは名前だけ「ホールディングス」で、人は1人か2人しかいなかったんですよ。名前だけですよ。私が代表をしていて、ジャパネットたかたがそのままぶら下がってる。

でも「その経営の方式はダメだ」って……。僕には「ダメだ」とは言わないですよ? アドレスだけ新しくして、今ホールディングスには50人くらいいます。それに5つの会社をぶら下げてるんですよ。東陽町の新しい会社には今300人くらい人材を置いてる。この(新しい)社長になった何ヶ月でですよ。

「なんでそんなことまでやるの?」って言ったら「ジャパネットの理念を共有するため」だと新社長が言うんですよ。「販売からアフターケアまで理念を共有するため。親父の理念を引き継いで100年続く企業にするためにはそれが必要だ」と。「どうするの」と言ったら「修理をする」と言うんですよ。

レイコップとかトルネオ(サイクロン掃除機)とか、メインのものは自分の会社で修理をすると。「修理する技術がないでしょう」と言ったら「できないことはない。できる」と言う。今、何種類か東陽町に戻ってくるのは、みごとなまでに全部修理してるんです。すごいと思いません?

そして、商品(を売るところ)にはカスタマーセンターというのがありまして、そこでは「使い方がわからない」とか「故障した、どこに送ればいい」とか(対応をする)。100人くらいの規模で福岡にあったんですよ。

それも全部移動して東陽町に持ってきた。そこ(福岡)で採用した人は別のところに振り分けて、来れる人は東陽町に来なさいと。契約社員で来れる人は新規採用までして。

東陽町はすごく広いところですよ。1階で修理をして、2階ではカスタマーセンターを合体する形で入れた。なんでかっていうと「これ調子悪いから送るよ」という電話を受けた人が、1階に行って商品を見るっていう。そこまでして「修理からアフターケアまでを完璧にする会社を目指したい」という思いで、こういう流れを作った。

これはまさしく、私たちが作ってきた理念を同じように継続して、皆さんに「ジャパネットは通信販売だけど、販売からアフターケアまで責任持ってやってくれるんだなあ」(と言っていただく)会社を作ろうという強い思いを持って、そういう仕組みにしてると思うんです。

今はものすごく苦労してますよ。ものすごく苦労してます。私は昨日も女房と2人で話してました。「今は苦労してるだろうな。でも1年2年経つうちにすごく良い方向に持っていって、私たちではできなかったことをやっていくんじゃないかな」と話していて、見守りたいと。

見守りたいと言いながら、私は今年いっぱいはガンガン言うんですよ? 責めて責めて。9つ叱って1しかほめないという人間ですからね。

でも新社長は、七つくらいはほめて三つは叱ります。このバランスが絶妙で、私も上手いんじゃないかなと思います。昇格させる、継承させるというのはそういう企業の理念(を共有する)「マインド=人を感じる」「スキル=本質を見て問題解決する」そういう力をつけていくこと。

2015年いっぱいはスタジオに立ち続ける

じゃあ、どうやってそれを鍛えていくか。私の場合には、ひとつは自分が先頭に立ち背中を見てもらってやってきたということです。やってきたんですけども、結論から言えば、やはり自分の中でできているつもりができていないものがいっぱいあったと。それをこの歳になって認めている。

だから(新社長に)引き継げば、立派にジャパネットを継いでいってくれるんじゃないかなと思ったわけです。実は、残念ながら今日はタイトルに沿って話そうと考えたんですよ。私の話というのはおもしろいですね、普通。

(会場笑)

ものすごくおもしろい話をするんですけど、今日はちょっと堅い話でいこうと思ったのと、錦織さんのおかげで頭が(回らなかった)。堅い話になりましたけども、私もA and Live、明はまだ生きているという。今を生きる人間ですから。

最後になりますけども、取材とかでよく「何をやられるんですか?」と聞かれるんですよ。でも「まだ決めてません」と。今年いっぱいはスタジオに立ち続けますから、その間に何かやろうかなと。ホームページがありますので、よかったら見てくださいませ。

(会場拍手)

ということで、時間になったようですから私の話とさせていただきます。皆さん、人生は1回ですよ。どんな人でも2回はできません。だから1回の人生は全力で夢に向かって、一生懸命、何歳になっても自己を更新し続けて頑張っていきたいと思ってます。

僕は、あと50年生きます。

(会場笑)

神から50年の命をいただいてます。116歳です。男のギネス(記録)でございます。そう信じて毎日僕は活動してますので、皆さん一緒になって50年後お会いしましょう。

ご清聴ありがとうございました。

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