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クラウドが可能にする新しいローカル放送ビジネス(全2記事)

「東京にできないことをやる」 ローカルTV局の挑戦は、地方企業の道しるべとなるか

地デジ化されて以降ぐっと身近な存在になったBS/CSチャンネルは、一方でローカルTV局の存在感低下をもたらしました。東京のキー局と戦わずに収入を確保するには、どのような手段があるのか。福岡のTBS系列局、RKB毎日放送にてたった1人でデジタルコンテンツ事業を進める久保敦氏が、地方企業ならではの戦い方を語ります。

ネットの攻勢を受けながら、8Kへの投資を迫られる放送局

ここからは少しビジネスの話をさせていただきたいんですけども、私たち放送局も「今ビジネスじゃ放送って、インターネットに押されがちじゃないの? あなたたち大丈夫なの?」と。あるいはここ2ヶ月のニュースでも「NHKさんはインターネットで流すらしいね。電波で流さなくていいんじゃないの?」と。

NHKさんの話やあるいは我々TBS系列の話で誠に恐縮なんですけど、私もそっち、けっこう見てるんです。『MOZU』っていうすごいおもしろいドラマがあるんですけど、MOZUは1週間経ったら放送後は全部インターネットで見れるんです。

失敬なことに、Fusicとグローバルブレインの担当の営業の人も「いやー久保さん、インターネットで『MOZU』見たんですけど、最高ですよ」って。「それじゃ全然俺たちの広告収入にならないんだよ」って思うんですけど(笑)、実際便利なので、そういう時代がやってこようとしております。

それに対して総務省が、2020年にオリンピックが来るんで、こんなふうにやっていきますよと一応宣言している話があって、2014年までにスマートテレビを実現しますと。2014年って今年(※この講演は2014年11月6日に行われたものです)だから、スマートテレビ実現するのかなあとかって……今日総務省の役人の方いらっしゃってないですよね?(笑)。

「あんまりスマートテレビって盛り上がってるように見えないけどな」とか、あるいはソチのあと、リオのオリンピックに向けて前倒しするかたちで4K。4Kってのは、今の私たちの地上波デジタルが約1Kですから、4倍の画素数。4倍、画像が精細・綺麗な放送をやっていくと。

そのあと2020年までには8Kの放送をやっていくと総務省は宣言してるんですけど、国のビジネスの方針として私はとても正しいものだと思います。

しかしすべての日本の放送局が本当にこれだけでいいのか、これで本当に私たちは2020年まで生き残っていけるのかというところを、全放送局は考えないといけないと思います。特にローカル放送局は。じゃあなぜ、ローカル放送局は今後さらに苦しくなっていくのでしょうか。

スマホシフトで地方局はマーケットを奪われる

まず、これさっきのMOZUの話なんですけど、スマートフォンの進展とともに僕は始まってるって思うんですね。簡単に言うと、東京では30歳以上の女子、また働き始めた女子は家にテレビが無かったりするんですよ。実家から通ってない人は。

これはものすごい由々しい問題なんですよね。ちょっと考えてください。そういう25歳くらいの女子で地方から来てる人が、家にテレビが無い人が広告課長になったら、私たちに出稿・CM出してくれるときにどういう態度で……と思うんですね。

そういう時代が始まっていて、私たちTBS系列では10月16日放送開始のドラマから無料配信してる。これはキー局のほうは簡単に「番組宣伝だ」っていうことで説明するわけですけど、スマートフォンで見られるコンテンツのCMの収入は、ローカル局には1円も入ってきません。

そして福岡で見る人たちは、スマートフォンで見ることがなければ、今までRKBを見てくれていたんですよね。そういったマーケットが、まさに今私たちから奪われて行こうとしている。これTBSは遅いくらいで、日テレは(2014年の)1月から始めてます。こういった流れが加速していますよと。

しかも、これは総務省の資料を一部取ってきたんですけど、見たらはっきりわかりますよね。20代、圧倒的にスマホなんですよ。メディアの接触時間も「テレビちょっと大丈夫か」って思いますよね。

60代がずば抜けて多いんですね。10代、20代、30代とデジタルネイティブの人たちって、ネットの利用時間と一緒じゃないですか。でもこれ少しテレビに有利にできている(資料)のかなあと思うくらいで、本当に見てるのかなあと。

ようやく30代になってリアルタイムでテレビを見る人がネットを追い抜くんですね。そうすると、こういった人たちがもしいつでも『MOZU』をスマートフォンで見られるのであれば、そっちにどんどん移って行くって思うんですよ。

若者がどんどんスマートフォンに移って行くときに、ローカル放送局が何もしなくていいのかっていうのが、私たちにとっての重要な課題なんじゃないかなと。

東京にできないことを探す

もう一度その話をまとめています。昔ここにあった通り地上波で100%、ずいぶん昔の話ですけど皆見ていました。この頃がローカル放送局の黄金時代でした。神様がいたようなものですよ。ところが、地デジ以降はローカルにすでにBSとCSというのが入ってます。私たちのテレビの中にはBSとCSがあって、これはローカル局の収入に1円もなりません。しかも私、BS大好きですよ(笑)。本当に。

ローカルでBS・CSでお前どれ1番見てるんだって言われたら「BSでしょ」ってなる。ちょっと大丈夫かと思うわけですね。

それは今、絵でいうとテレビを見ているんですけど、さらにスマートフォンやPCを見る人たちはSNSもLINEもやってる。YouTubeとかの動画配信もあって、そこでキー局も見れるじゃないかと。それがたとえば人口が半々になったときにローカル局は、比率で行くと6分の1になっちゃうじゃないですか。

だからこの状況に対してどんなふうにして行くのかっていうひとつの答えが、今無い広告を狙うしかない。テレビで見る広告だけが広告かっていうと、そういったことはないんですよね。テレビの広告は価格がとても高いということもありますので、それ以外の部分の広告費の総額のほうが多いです。

そういう広告は一般に販売促進費あるいは販売関連費って言われてますけど、こういったところはローカル・地方に予算があります。

一方地上波の広告は原則、大体ナショナルスポンサーと言われる大きなメーカー、トヨタとかあるいは松下(ナショナル)の広告が多いわけです。あるいは最近ではAppleとかですね。アマゾンさんはあんまり広告打ってくれないですけど、Appleさんはものすごく打ってくれるんです、Apple Storeとか。

そういうところ(が広告を打つエリア)ってもう東京で決まっているわけですよ。福岡にAppleの人が来てどんな広告を打つ計画なのかって、そんなこと考えてないですよ。

そういったところだけを目指していると細ってしまうので、だから私たちのような局が別のビジネスをチャレンジして行かなきゃいけないと思うんですね。

これは今ローカルからの挑戦ということで、広告プラットフォーム「よんday」という、私がやっているプラットフォームを簡単に書いているんですけど、1番左側にあるように番組を見るんですね。番組でインタラクティブなコミュニケーションを発生させて、それをたとえば「よんday」ていうデータ放送をちょっと押させると。今これしかテレビっていうプラットフォームにはない。

それはたとえばポイントとかに交換して、実際店舗に行くアクションをかけるような販売促進のモデルを作ればいいじゃないかと。当然番組にもウェブサイトを作ってそこはソーシャルのmixiなんかの、最近はLINEなんでしょうけど、情報を拡散させてたとえばソーシャルのポイントみたいなの作ってもいいじゃないか。

そうやってチェックインさせて行くことで人の流れを作ることがメディアの役割ですよ、みたいなことは、これ実際に福岡の人が見て店舗に行くってことだと、東京のキー局がアプローチできないんですね。ここがポイントで、東京のキー局と正面から戦うことはできないので「東京にできないことを探す」っていうのは、今までローカル放送局はあまりやってきてないと思うんですよ。

「東京でできることを福岡でもやる」といったビジネスモデルは、大きく変わっていかざるを得ないんじゃないかと思ってます。

ローカル局が今後チャレンジするべきプラットフォーム

それでもうひとつ、ローカルからの挑戦なんですけどまだ実験段階で、RKBだけがああいったことを考えて一生懸命やってもしょうがないと思うんですね。「よんday」っていうプロジェクトはもう5年になりまして、何とか生き延びて事業として少し利益を出しながら5年間やってきました。

私たちの系列も含め、「よんday」っていうシステムは、データ放送とウェブが合わさって販売促進の広告を取り込んでいくっていうモデルですけども、同じようにアマゾン ウェブ サービスのプラットフォームに乗って、全国の放送局で5局が採用していただいています。

なぜアマゾンにしたかっていうと、パブリックに提供していくにはさっき最初に言ったような要素が必要だからっていうことと、1局でやってもしょうがないって思うんですよね。ローカルの新しいビジネスモデルを放送局自身が今の視聴者に「テレビってそんな使い方あるんだよね」ていうのをわからせるには、個別でやっていても仕方がないと思っています。

そういった話がいろんな放送局にも実感として伝わったのか、今私たちローカル局は相当数、東京は今やローカル局ではないので、大阪の局を中心に新しいスマートフォンでの共通プラットフォームを作ろうとしています。

これはとても大切なことで「テレビを見るときはこれだよね」ていうふうにならないと、やっぱりローカルなものでは太刀打ちできなくなって行くって思うんですね。

ちょっと皆で挑戦してる、今日いらっしゃっている局の方にこのプロジェクトのリーダーもいらっしゃるんですけど「ローカルからの挑戦:SyncCast」ていうのを見てください。横がアプリで、こっち(左)が番組なんですけど、短いショートムービーです。

(映像再生)

久保:これはニッセンからちょっと話題の女優借りたんで(笑)。

久保:これ、放送してるときに同時にスポットのCMで流れるやつが横に出てくるんです。それから、番組に入れば番組に関するコンテンツが流れていくと。

(CM音声)HBCアナウンサー佐藤彩です。私が学生時代を過ごした街、函館を1人で旅します。函館といえば異国情緒の漂う街並みやおいしい食べ物がたくさん。

久保:これは両方ともリアルタイムで放送中に見せてるんですけども。

(CM音声)この番組では、私が感じた素敵な函館の情報などをスマートフォンにお届けしながらお送りします。その橋渡し役になるアプリがSyncCastです。無料でダウンロードして、アプリを起動。右上のチャンネルを押して、1チャンネル、HBCを選んでください。これで準備完了です。

久保:もちろんチャンネルごとに別のコンテンツが見られるんですね。

(CM音声)私が旅する函館の情報をお手元のスマートフォンにリアルタイムでお届けします。気になった情報にハートを押すと、あとでまとめて見ることもできますよ。詳しくはデータ放送でもご案内しています。それでは一緒に旅を楽しみましょう。

<映像終了>

久保:よく情報番組とかで「場所わかんないよ」みたいなことを言っている人もいるかと思うんですけど、これでちょっと押しとけば場所も保存できるよと。

これはまだ試作中のアプリで、こういった受け皿となるプラットフォームの中に、今はたとえばニッセンの広告が出てたわけですけど、それだけじゃなくて、「SyncCast」っていうローカル局のほとんどが挑戦しているこのプラットフォームの本当の意味は「CMプラットフォーム」じゃないかと自分は考えておりまして、ローカル局が今後チャレンジするべき販売促進等の広告を載せていかなきゃいけないんじゃないかなあと。

たとえばですけど「Gooday(九州地方に展開するホームセンター)に今日おいでよ」と。Goodayに今日来たらいいことあるよ、こういうものを作れるよとか、そういったものがテレビの今までのイメージ広告CMとは違うかたちで、地域別に流して行くっていうことが今後、ローカル局にとって新しいマーケットになるんじゃないでしょうか。

お金をかけないメディアミックス戦略

それから、これはあんまり先走るなって言われてたんですけど、「Gyao!」で私たち今動画配信をやってます。番宣の目的です。

橋本環奈ちゃんを使って『TEEN!TEEN!』っていう、今まで私たちローカル局が特に苦手にしていた若い層に番組を当てようっていう試みをしてるんですけど、今までだと「番組で視聴率を取らなければいけないから、Gyao!なんかで見せるのはもってのほかだ」っていうことだったんです。

しかし先ほど申しました通り、MOZUみたいな話が出てくると「いやいやそれはどうですか」っていう話で。Gyao!でもやはり見せていかないと、若い層がこの番組そのものを認知しないんですね。

それはものすごく簡単な話で、もう新聞を読んでない層には、(新聞の)一番最後にあったテレビ欄が無いんですよ。これに代わり得るものは何なのかっていうのが今後、ローカル局あるいは放送局が探して行かなければならないひとつの大切なメディアなんですね。

もう昔みたいに今日番組何があるかなって新聞の終わりの欄を見てる人って、私たちでさえ見ないようになっていますから。(今も番組欄を見るのは)60歳以上の方ぐらいでしょうか。なので、そういうことを考えると無くなってしまったテレビ欄の代わりっていうのは、こういったところで見せて行かない限り番組が認知されないと思います。

Gyao!に配信するのはスピンオフ映像です。番組のスタッフは嫌がります。本編だけでいいじゃないかって、忙しいって思うわけですよね。でも製作に携わられた方だと「これロケしてるついでにちょっと撮れるなあ」とイメージできると思うんですよ。現場が嫌がる部分もありますけど、こういったお金をかけないかたちで新しい媒体に掲載していかないと。

AWS導入を序の口に、誰もが変化しないと生き残れない

最後に今後放送局ってどんなふうな流れで行くのかなあって話しますと、今やっている販売促進費をまず、東京から来ない広告として求めて行こうという話は、これはどんなローカルにもいえる話だって思ってます。(スライド)左側の「よんday」ってところがそうですね。

ですけど、そこはやはりSyncCastみたいな、「マルチスクリーン型研究会」っていう堅苦しい名前もついてるんですけど、ローカル局が皆で一致団結し、共通アプリとして日本の皆さんに提供していくところと連携すればいいんだと思います。

一方、総務省のほうはテレビのなかでセカンドスクリーンとしてデータ放送の延長線上にハイブリッドキャストっていうのを考えています。ですがこれ、未知数だって思うんですよね。

皆さんの生活が変わってしまっていてテレビのなかですべてを済まさなくなっているとしたら、わざわざ手元にセカンドスクリーンがあるのに、テレビのなかのセカンドスクリーンを自分で必要として押すのかというところは、普及について僕はまだ未知数だと思います。

間違いなく、さっきも見たようにすでに若い層はスマートフォンに移行していますから、ハイブリッドキャストというテレビのなかにもうひとつ「スマートフォンみたいな画像作ろうよ」っていう試みは、むしろスクリーンonスクリーンなんですよね。

それが本当に上手くいくかっていうのは、データ放送でもやはり限界がありましたから、これからの課題なんじゃないかなあと。総務省も頑張って普及させなきゃと。これNHKさんが一生懸命やっています。すでにハイブリッドキャストに対応した端末もあり、NHKさんが対応コンテンツも出していますので、もし皆さんのご家庭に最新の機種があれば見ることもできるのかなあと思うんですけども。

ということで私の今日の話はお終いになるのですが、もう一度最後に言わせていただきたいのは、コストを下げるために、あるいは運用の合理性を追求するためにアマゾン ウェブ サービスを入れるということは、それはそれでひとつ大切なことかもしれませんけども、むしろ序の口ではないかと。そのあとにビジネスを展開するときにはもっといろいろ大変なことがあると。

早くそちら側に行かないといけないのではないかと。それは私たち放送だけではないと思うんですね。皆さんの会社で新しい仕組み入れるときに、とても大変だっていうことはわかりますが、スタートアップというのは社内でも社外でも成立し得ることだと思ってます。実はすべてのいろんな企業に勤める人たちは、スタートアップしないと、変化しないと生き残れないんじゃないかと。

そのときにAWSを導入するっていうのはむしろ序の口で、そこにもいろんな困難ありますけれども、それを乗り越えてさらに次のステップに皆進んで行って、新しい日本の産業構造を作っていかなきゃいけないんじゃないかなあって、大仰になっちゃったんですけど、今僕自身はそんなふうに考えています。今日はどうもありがとうございました。

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