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クラウドが可能にする新しいローカル放送ビジネス(全2記事)

番組だけがコンテンツじゃない--苦境のローカルTV局がクラウド活用で見出した活路

テレビの影響力低下が叫ばれて久しい昨今、各ローカル局は従来とまったく異なる切り口からのビジネスチャンスを探っています。福岡のTBS系列局、RKB毎日放送にてたった1人でデジタルコンテンツ事業を進める久保敦氏が、AWSというクラウドサービスの活用で見えてきたテレビの未来について、事例を交えながら語りました。

RKB毎日放送がはじめた、新機軸のメディアサービス

久保敦氏(以下、久保):はじめまして、RKB毎日放送の久保と申します。どうぞよろしくお願いします。

RKB毎日放送がウェブの仕事を始めて、早いもので実は今年で20年目を迎えました。 さっきメディア事業部の担当部長ってご紹介を頂戴したんですけれども、RKB毎日放送は、今ここに書いてあるようなウェブサービスをやっております。

RKB毎日放送のホームページ、それからRKBラジオのページ。これは放送局ですので、テレビとラジオのページをやるのは当たり前の話なんですけれども、それ以外にも新しいビジネスを目指して「よんday」という放送だけができるサービス、データ放送とウェブが一緒に広告媒体として成立するのではないか、という新しいビジネス(のサービス)。

それから私たち福岡は、アジアに対する窓口という役割がございますので、「九州アジアチャンネル」という、NHKに「投稿動画」というサービスがあったかと思いますけども、それをアジアにフォーカスして、アジアの人々から動画を頂戴してコンテンツとして成り立たないかというサービス。 

それから福岡県や福岡市の方から業務を委託するかたちで「福岡アジアコレクション」のホームページ、それから「クリエイティブラボ福岡」という、福岡の中でクリエイティブ産業を振興していきましょうという試みなんですけど、そういったサイトを私が責任者として全部運営しております。

そういったサイト群はどうやって運営しているのかっていうことを書いてあるわけなんですけど、今日お話を頂戴しましたアマゾン ウェブ サービス(AWS)ですべてが動いております。すべてです。それを福岡のFusic(フュージック)さんとグローバルブレインズさんという2つのベンダーさんにすべてをやってもらうという、わりと簡単な構造で運営がなされております。

実は私の担当部長っていうのが、メディア事業局の管理部長という仕事も一緒にやっているのでデジタルコンテンツの責任者ではあるんですけど、RKB毎日放送デジタルコンテンツの担当者という意味では1人もおりません。ゼロです。

それでも曲がりなりにもこういったコンテンツが運営できて行くのはどういうことかというと、軽い体制で運営できる能力が、このアマゾンウェブサービスにあるからじゃないかと私は思っております。

ローカル局がこれからも食べていくために

RKB毎日放送、今お話しました通りとても軽い体制で動いておりますので、そんな複雑な仕組みをとることができません。RKBのすべてのサイトはここにある3つの要素でソフトウェア的には動いております。

ベンダーも、今言った2つで動いていて、そのインフラストラクチャーもすべてアマゾンで動いていますし、実際に私たちが使っているソフトっていうのはWordPressと、それから動画でYouTubeを全部使うというものしかありません。ほかには何の仕組みも使っていない状況です。

それらがすべてアマゾンのクラウドで動くというのが、今RKB毎日放送のサイトで私が適用しているやり方です。なぜ複雑なことができないのかって、実は私たちRKB毎日放送は、デジタルコンテンツはビジネスのチャレンジだと考えておりまして、私たちのメディア事業局もそういった新ビジネスをやる集団なんですね。

それで、私がやっているデジタルコンテンツのチャレンジもありますけれども、たとえば「福岡アジアコレクション」という、福岡で東京ガールズコレクションのようなファッションショーをやってみたらどうだろう、ということから始まったイベントを、自分たちで全部作り上げてやっているんですが、これを今度はアジアでやってみようというようなことをチャレンジしていく。

あるいは先ほど「よんday」って出ておりましたけれども、これから新しい広告マーケットを開拓していくとしたならば、今までのテレビやラジオがターゲットとしていたマーケットでは、もはやローカル放送局は食べていけないんじゃないか。

ローカル放送局が生きていくためには、新しいドメインにチャレンジしていかなければいけないんじゃないだろうか、ということを考えて始めたのが「よんday」というビジネス。

というふうに、業務自体はとてもビジネスオリエンテッドにできていますので、なるべくこういった構造はシンプルにして、なおかつアドミニストレーティブ、管理のための手続きはミニマムにしようというのが私たちの考えです。

「望まざるアクセス」にも対応してくれる

先ほどの話に戻りますけど、とても寂しいことに私も「部下が1人くらいいれば少しは仕事が楽になるな」と本当は思うこともあるんですけれども、私に組織としてのデジタルコンテンツの部下というものはおりません。

それでどんなふうにしてAWSの構成が組まれているのかっていう話をさせてください。これは1番代表的なもので、なおかつ、RKB毎日放送の心臓部となる部分で、先ほどお名前をお借りしましたFusicさんに作っていただいてる構成なんですけれど。

AWSをご利用の皆さんには馴染みの深い構成図かと思われるんですが、非常に簡単に申しますと、RKBのサイトはすべてここに出てるように、アマゾンの部品で原則できています。

ですからたとえばデータベース、あるいはメインとなるいろんな部品については、セキュリティも含めてあまり心配をする必要はありません。それから当然のことですが、アマゾン ウェブ サービスを使うので、その能力についてもそんなに大きな心配をする必要はありません。

適切にベンダーが能力をアテンドすることができれば、原則、アクセスに対して止まったりトラブルになったりすることはないと思っていまして、このかたちで運用開始をし始めて1年半になりますけれども、RKB毎日放送のサイトが、たとえば昨今では外国からのアクセスが多いっていうのは、単に番組に人気があるときにアクセスが多いだけではなく、"セキュリティ的なアクセス"が多いっていうこともございます。

外国から数多くの望まざるアクセスがあった場合にも、RKBのサイトが原則、能力不足で落ちるといったことは経験しておりません。もちろんこのアマゾンのなかでの設計は、ベンダーのノウハウであり、この設計自体にもいろんな工夫がなされています。当然のことながら、ブラウザからアクセスされる部分については冗長化されていて、バックエンドにあるCMS群とは切り離されています。

あるいは、いろんな作業をする・コンテンツを維持する。会社にとっては、日曜日や土曜日でも私たちはニュースを提供していかなければいけませんから、そういったことについてはタイマーで更新ができるようになっていますし、けれども、そういった一切のバックエンドのデータ群と、それからフロントのアクセスをさばく部分というのはきちんとわけられてます。

なので、原則アクセスのできる部分についてしっかり適切なリソースをアテンドすれば、どんな状況でも、セキュリティあるいはアクセスのボリュームについてもそれほど心配する必要はないという状況になっています。

新しい切り口から新たなビジネスチャンスを

ここでは2つの案件で、どういったときに威力を発揮したかっていう話をしておりますけれども、たとえば私たちの番組で「別府大分毎日マラソン」、通称別大マラソンというものを番組としてやらさせていただいております。2月にあります。

このマラソン、市民マラソンになっていて参加者が3万人くらいいるわけですけど、別大マラソンの放送で皆さんにお見せできる場面ってちょっとなんですね。上位陣の、本当に走るのが早い人たちしか見せられないんですよ。

ですけど、この別大マラソンってイベントをやっているRKB毎日放送として、参加しているランナーに対していろんなデータを出していく、っていうのも本当に大切なサービスだと考えました。それで僕、勝手にこの別大マラソンを「お父チャンネル」って言ってたんです。

お父さんたちが走っているのを、市民のランナー全員をリアルタイムにウェブページで見せたらどうだろうと。担当しているベンダーさんのほうから「また無茶なアクセスがかかる、しかもデータベースのアクセスも多い話を言いやがって」というような顔を、特にエンジニアの方から厳しい表情をされたのを今でも覚えてるんですけれども(笑)。

しかも放送の冒頭で、「このページで市民ランナー全員が今どこを走っていて、何位にいるかっていうのが検索できてわかりますよ」っていうのを言いましたので、簡単にページビュー出ていますけど、実際は開始して最初の2分くらいに30万~40万くらいのアクセスが来るわけです。それでも問題なく、特に表示が遅れることもなく動作させることができました。

ここは単に今までの放送局のスタンスだと、お父さんたちにも視聴者サービスとして全員の順位、あるいは今自分たちがどこで走っているかを見せるっていうことが大切なんじゃないか、みたいな、やや上から目線の発想だったって思うんですけれども。

僕はこれは新しいビジネスチャンスのひとつで、こういったことを見せることがもうひとつのコンテンツなんじゃないか、テレビを見せるだけがコンテンツじゃないんじゃないのかと(考えました)。

先ほど「福岡アジアコレクション」というイベントを私たちの部でやっているという話をしましたけれども、イベントでタレントさん達を呼んで見せるっていうだけだと、これは従来のファッションショーと変わらないんですね。

それをいろんな切り口を作っていって、たとえばモデルさんたちがステージ上で歩いているときに「着てる服を買えるよ」っていう仕組みを作る。そうするとまたひとつ新しいビジネスの可能性ができてくると思います。

もちろんそういったいろんなビジネスの仕組みっていうのは、現代ではインターネットという仕組みをベースにできていることが多いわけですし、その場合必ずメディアの人たちが直面する問題は、とても短い時間にものすごい多くのアクセスがあるっていうことです。

ずーっと継続的にあるわけじゃなくて、爆発的にある時間だけアクセスがある。有名なモデルが歩いているときに「その服を買いたいな」という気持ちが起きれば、そのときだけにもちろんアクセスが集中しますし、別大マラソンのスタートのときに「お父さんたちの順位がわかる」と思った視聴者とか、あるいは実際に走っている、周辺にいる人たちがこれを見てくださるわけですよね。

そういったことに対してさっき今まで20年間インターネットのお仕事をやってきたって話をしたんですけれども、アマゾン ウェブ サービスが来るまでは、実はとても悲惨なものでした。

ピークに合わせた運用はもうやめよう

2004年に初めて王監督が台湾に行ったときに、無謀にもストリーミングをインターネットでやったんですけれども、予想通り(サイトが)落ちました。それだけじゃなくて、たとえば(スライドの)横に書いてあるんですけど、これは本質的なサービスだと思うんですが、私たちローカル放送局は放送時間に制約があります。有力なドラマがあるときに、ホークスの野球の中継ができません。

従来では「テレビの大切な動画をなぜインターネットで流すんだ」という話が主流でした。インターネットと放送っていうのが、敵対する関係っていうふうに見なされていたわけですけど、実は放送局が提供しているものはコンテンツですから、見たくて当たり前じゃないかっていうときに、乗り換えてインターネットでも見ることができるっていうのは大切なことかなというふうに思うわけですね。

それで、実は(スライド)横に書いているのは今シーズンやる予定だったんですけれども、ちょっと放送権料等との絡みでできなかったんですが、基本的にはインターネットで中継みたいなことをアマゾン以外の仕組みでやろうとすると、膨大なコストがかかります。

今年はアマゾンでホークスのインターネット中継を、クライマックスシリーズで日本一になるときにやろうと考えていたんですが、実際の金額を今までたくさんお金がかかっていた別のベンダーと比較して、見せるわけにはいきませんけれども、文字通り10分の1くらいの値段で同じことがローカル放送局でもできるようになります。

僕は放送局だけではないって思うんですが、数多くのピークが存在するいろんなウェブアクセスは、やはりクラウドを利用するべきでないかと思っています。

それはまずピーク時と平常時のアクセスの差の対応が容易であることと、コストっていうことを考えると、インフラを今まで私たちは最大の能力に合わせて作ってきました。

ソフトバンクホークスのインターネットサイト運営をRKB毎日放送が担当していた時期があるんですが、ガラケーの有料会員がいるサイトだったので常に10万人のためのスケールが必要な運用になってしまっていました。

ですが、たとえばホークスの動画でアクセスがたくさんあるときだけスケールアップする、っていうのはとても容易なんですね。それからもちろん当たり前ですけど、放送が終わってしまえばスケールはダウンすればいいわけです。しかもコストは実績っていうことになると、これはものすごく放送局によっては都合がいい……と言ったら言い過ぎなんですけど、具合よくできている仕組みなんだなあと。

インフラではなくビジネスイシューに集中するために、クラウドの活用を

これは同様に、余計なこと言うなって言われそうなんですけど、自治体さんがそうじゃないかと思います。今、自治体が提供している情報のなかで、とても重要な情報として、どの地区で災害が起きるんだろうということが数多く提供されていますけど、我々が見てみると、よく止まってるんですね。

ちっちゃな自治体っていっぱいございます。福岡県ですと1番ちっちゃいところで東峰村っていうところがございまして、人口2,500人くらいなんですが、その規模の自治体が近隣の、たとえば「大雨が降ったから今山崩れしそうだぞ」みたいな情報が流れそうなときにアクセスが集中しても、やっぱり落ちてしまうんですね。

そういうときに「だから放送局がいいんだよ」ていう言い方もありましたけれども、私はそういったピークが存在するようなところが、予算を容易にやっていくためには、やはりクラウドを利用するということがすごく当たり前のことなんじゃないかなあと。

それから3番目は「強固なセキュリティ」て書いてありますけれど、正直アマゾン ウェブ サービスを社内で使おうっていう話は、周囲から「久保君いいね、すぐやってしまいなさいよ」とは誰も言ってくれないわけですよね。私たちが放送をやる上で、産業を維持していく大切なパートナーさんがやはりいらっしゃいます。そのなかには日本を代表するような通信産業もあります。

そういったところと一緒に放送やっているわけですから「いいね」と簡単にはもちろん言っていただけません。それから「セキュリティ大丈夫なの?」っていうのは、今では必ず聞かれることです。

しかも非常に難しい問題は、私が0人の担当者として上司に報告するわけですけど、「久保君、アマゾンちゅうのはアメリカの会社だろ」とかですね。あるいは私たち放送局なので、当然管轄する当該の官公庁……総務省なんですけど「総務省に対して"アマゾン"で報告できるの?」とか、いろいろ当然聞かれるわけですね。

「アマゾンさんっていうのは安いんだろうけれども、いろんなトラブルが起きても何にも教えてくれないんじゃないの?」と。

アマゾンさんから見ると「俺たちはこんなにセキュリティは強いのに」と思っていても、もうひとつの大切な仕事で、運用責任だけじゃなく企業の担当者には必ず説明責任がありますから「アマゾンだったら絶対大丈夫ですよ」って言っても、その次に「じゃあ何かあったときにアマゾンから話をもらえるんですか?」っていう話が担当者には飛んでくると思います。

ところが、これはいささかびっくりしたんですが、アマゾンさんの営業スタイルはなぜかベタな感じで、ベタっていうと失礼なんですけども、うちの担当にはアマゾンにいるより芸人になったほうがいいんじゃないかっていう、うちの局長にいつもいじられる方がついてくれていろんなことを教えてくれるんです。

その意味では会社に対してセキュリティ、あるいは海外、アメリカの会社であるみたいなことについても説明して行くのは、それほど難しいことじゃないんじゃないかと(思います)。

それとデプロイの話になるわけですが、初期費用が不要ということはものすごく大きなことで、当たり前のことですけど、ITの運営コストっていうのはますますこれから拡大させてもらえる、って思えないんですね。

私は自分が部署として独立してなくて、担当者がいなかったっていうのはむしろRKBという会社が、僕がダメだったのか、あるいは時代を先取りしてるのかどちらかわかりませんけど、ビジネスオリエンテッドになるとどうしてもオペレーションよりもビジネスを重視することになりますから、オペレーションのところはどんどんコストが削減されていく。

となると、既存の仕組みで運営することには本当に苦しい状況になると。しかもビジネスの成果が出ないので、ますます苦しくなる。

ですから先ほどの話に戻ると、やはりインフラに集中すべきじゃなくて、僕たちはビジネスイシューに集中するのが大切ではないかと。そのために選択肢のひとつとしてアマゾンさんがある、クラウドがその選択肢としてあるんじゃないかというのが、僕が考える放送局が利用すべき理由です。

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