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スマートミステイクのすすめ(全7記事)

「すごいですよ、おっさんの嫉妬は!」 夏野剛氏がドコモ社内の縄張り争いを振り返る

失敗のリスクに果敢に挑戦し業界の第一線で活躍してきた3名―楽天・三木谷浩史氏、慶應義塾大学大学院教授・夏野剛氏、サイバーアイ・エンタテインメント・久夛良木健氏―が一堂に会し、「スマートミステイクのすすめ」をテーマに意見を交わしたセッション。本パートでは、元ソニー副社長・久夛良木氏が幻に終わったプレステの世界戦略を語ります。

実行力があっても時期を間違えると失敗する

米倉誠一郎氏(以下、米倉):さてさて、じゃあ、夏野さんのもう1回聞きたい。じゃあ、ハイパーネット。あれ副社長だった。結構あれもアイデアは悪くなかったですよね。

夏野剛氏(以下、夏野):まあ、ちょっと時期がね……。

米倉:早過ぎた?

夏野:ですから、やっぱりあの時に思ったことっていうのは、実行力とか云々かんぬんあっても、時期を間違えると、やっぱりお金がなくなるわけですよね。

それで、そこで何とかしようと思った時にちょうど97年のいわゆるバブルの崩壊っていうか、山一とか潰れたあのタイミングだったんで、金融機関がみんな引いちゃったので、だから、十分な資金がもう得られなくなっちゃって、もう倒産するしかなかったっていう、そういう状況ですよね。辛いっすよ!

米倉:でも、そのときの副社長で、担当は何だったんですか?

夏野:いわゆる戦力とか営業とか。技術側の副社長がもう1人いて。

米倉:じゃあ、営業とか、ファイナンスも見てた?

夏野:ファイナンスは別です。CFOが別にいた。

米倉:でも、それで潰れたら、通常言われるのは「日本で会社を潰して、副社長だったらその後はないよ」というように、みんな錯覚して思っていますよね。でも、あったわけでしょ?

夏野:それは、たまたまドコモが……。だから、大星さんが「やっぱり外から人を取ってこなきゃだめだ」と。で、97年ていうと、ちょうど楽天が創業した年? 97年なんて、インターネットのことをちゃんとやってる人なんて、あまりいなかったんですよ。

ヤフーがサービスを開始したのは、日本のサービスは97年じゃないかな。96年じゃないよね。だから、コンテンツが全然なくて。松井証券のネットトレードか98年からなので、ほとんど黎明期のネットのサービスって、98年ぐらいなんですよね。

97年とかって、本当、楽天もまだ10何店舗とかで始めた頃でしょう? だから、もう全然ビジネスにならない。

米倉:なるほど。

夏野:そんなときに広告打つやついなかったんですよね。まあ、早過ぎたね。

iモードでは失敗しないビジネスモデルを目指した

米倉:なるほど。ということは、インターネットというところに先駆けて走っていって、転んだと。

夏野:そうですね。思いっきり転んだと。

米倉:そうしたらば、インターネットをやりたいと思っていた、インターネットというか、無線形態によって……。

夏野:だから、そのときに通信会社でインターネット系のサービスを本格的に展開しようなんて思っている会社はなかったんですよ。だから、インターネットの技術者とかもあんまりいなかったし。通信企業に。

米倉:大星さんがドコモの社長だったんですけど、彼なんかはもう完全にドコモっていうのは「お荷物」。NTT本体からは「ドコモ、どこの子、カエルの子」とか言われて、社宅の中でも差別されていたと。それぐらいですから、彼らは何とかしなきゃいけないっていう気持ちがあってiモードに行くわけですよね。

夏野:そうですね。社宅の中でドコモの社員の子弟がいじめられていたのは、大星さんがドコモって名前をつけちゃったからで、もうちょっと格好いい名前にしていれば、多分いじめられなかったと思うんですけど。

NTTと社宅が一緒だったから「おまえの父さん、ド、コ、モ!」とかいっていじめられていたんです。だから、初代のNTTドコモの社長っていうのは、NTTが大嫌いな人で「ひとつだけやり残した仕事がある。それは社名からNTTは取るのを忘れたことだ」とか言ってるくらいですからね。今でもね。だから、それぐらいの人なんで、拾ってもらえたんです。

米倉:なるほどね。

夏野:僕から見ると、NTTとか大っ嫌いな会社なんで。基本的に。そういう何か官僚のガチガチな。そんなところなんで、選べないから、食っていけないんで。

米倉:じゃあ、もう「来い」って言われたら、そこへ行くしかないと。

夏野:もう「採っていただけるの? ありがとうございます!」ですよね(笑)。もう選択肢ないですもん。それで「今度は絶対失敗できない」と。これはドコモのためにというより、俺がもう失敗できない。絶対失敗しないビジネスモデルを作ってやろうと思って作ったのがiモードです。

米倉:なるほどね。

夏野:だから課金のモデルとか、それから、最初の公式サイトと非公式サイトの区分けとか。あれはだから、今のiPhoneというのが言ってみれば公式サイトだけなんですよね。だから、ちょっとでもエロいコンテンツは全部アウトですよ。それに比べりゃ、iモードなんて易しいもんでしたよ。

ドコモを辞めたきっかけは、iPhoneの登場

米倉:それで、そのiモードにいたのも、結局8年?

夏野:だから、11年いました。

米倉:11年いて結局は辞めて行くっていうのは、クビになったわけですか? そうじゃなくて?

夏野:いや、クビにはなってないです。自分から辞めたんですけれど。やっぱりiPhoneがでかいですよね。2GのiPhoneっていうのがアメリカで出ていたので、当然買って「ああ、こりゃあ、俺、いち役員じゃもうできないな」っていうものでした。

あれは。だから、あれを実現するためには、技術のメーカーにお金をバンバン配っている開発のおっさんとかいるわけですよ。同じ役員で。こういうのを粛清しないとできないんです。

Androidを全部入れるっていうのは、最初の頃のiモードって、誰も成功すると思っていなかったから、僕が勝手に決められたんですよ。榎さんっていう僕の上と相談すれば。だからJavaのテクノロジーを最初に入れて、アプリケーションがダウンロードできる最初の携帯がiモードなんですね。

2001年の1月なんで。iアプリっていうやつですけど。こういうのもNTTとかって普通あまり海外の、シリコンバレーのテクノロジーとか使わないんですよ。だからもう、全部、バンバン使っちゃって。ほとんどアメリカの技術で作りましたからね、iモードって。

米倉:そうなんですか。

すごいですよ、おっさんの嫉妬は!

夏野:だから、みんな勘違いしてるのは、ベースのところの3Gとか4GとかLTEとか言っているのは、それは下の話。土管の話なんですよ。

そんな中で、アプリケーションをどうするのかっていうので、徹底的にインターネットプロトコルに近くhtmlにして、TCP通して、SSN通して、エンドツーエンドでというのは、みんな通信企業が嫌がることなんです。

インターネットのスタンダードを持ってくるから。それをやってたんですけど、そのときは抵抗を受けなかったんです。なぜかというと、成功すると思っていないから。社内が。ところが、2005年くらいからですかね、ちょうど僕が役員になった頃から「なんだあいつ、俺の領域に入ってくる!」とか言うやつが。

だから端末のデザインとかも僕が全部決めてたんですけど「端末のデザインも夏野が決めるのかよ。なんだよ」とか言い始めるわけです。「それでうまくいってきたじゃん」って言うんだけど、それを嫉妬するやつが出てくるんですね。すごいですよ、おっさんの嫉妬は!

米倉:でも、これ、結構、久夛良木さんのペースと似てますね。やっぱりどんどん存在感が出てきて。

夏野:いや、でも、すごく謙虚に生きてましたけどね。

米倉:そこが違うかな(笑)。じゃあ、それで来て、その後は、今では慶応の名を語っていますが、一方で、いろいろなビジネスの、ドワンゴの社外取締役。今どんな感じているんですか?

夏野:そうですね。今、だから、上場会社7社の取締役をやってるんですけど、そのうちの2社は、社外取締役じゃないんですね。それで、今、社外取締役っていうのはニーズが増えるだろうなと思っていたんですけれども、すごいニーズになってきましたね。ただ、旧態依然大企業からあまり声がかからないんですけど。多分怖いんだと思います。全否定するからね。

米倉:それはしょうがないでしょう、しょうがない(笑)。じゃあ、全然いいじゃんね! 全然失敗じゃないよ、人生。

夏野:いや、でもね、ここで言っていいかよくわかんないけど、社外取締役もきついんですよ!

米倉:ああ、そうなの?

夏野:「いや、俺だったらもうちょっと……」とか思うじゃないですか。それをぐっとこらえて。

米倉:なるほどね。

夏野:やんわりと。

米倉:なるほど。

夏野:久夛良木さんはあんまりやんわり言ってないんでしょ?

久夛良木健氏(以下、久夛良木):いや。

夏野:楽天で吠えていると思いますけど。

起業家はブレーキこそ重要

米倉:ミッキー(三木谷氏)のところの社外取締役って、結構バラエティに富んでいますよね。久夛良木さんもいるし、吹野さんもいるし、あと誰がいるんでしたっけ?

三木谷浩史氏(以下、三木谷):村井さん。

米倉:ああ、村井さんもいるし、吹野さんも、みんな、うるさいのを抱えてるんだ。

三木谷:外国人もいる。

米倉:外国人もいるんだ。それは、機能しています?

三木谷:どうでしょうか。

久夛良木:いや、楽しくてしょうがないですよ。

米倉:そう。

久夛良木:ミッキーがみんなオープンにしようという、そういうスタンスなので、みんな自由にいろいろな意見を言えるのね。ただね、問題があって、案件が多過ぎ! 案件多過ぎで1件3分とか4分とかで、ほとんどショットガンスタイルでやるので、すごく頭の切り替えがいるんだけど、楽しいですよ。

米倉:機能してるんだ。

三木谷:そうですね。できるだけオープンに。だから、逆に言うと、案件を引っ込めることもありますよ。本当に。

久夛良木:止めなくちゃいけないのもあるんだよね。「これはやめよう」とか。

米倉:ここでいうと、今日の「失敗力」ですけれど、起業家とかみんなやりたいですよね。だから、必ず常にアクセル踏んでいると。ブレーキっていうのも、どっかで誰かが踏まなきゃいけない。自分で踏めたら最高ですけど。

三木谷:そうですね。

米倉:それができなくなるときの装置としては、いい社外取締役。要するに、S社みたいな取締役じゃなくて、ちゃんと機能する社外取締役っていうのが、この「失敗力」に関しては、非常に意味がある。

幻に終わったプレステの世界戦略

三木谷:ブレーキも、例えば、アクセルも、それはやはり客観的に当事者ではない視点から言ってもらえる。例えば「これはもっとこういうふうにしたほうがいいんじゃないの?」「これはガンガン行くべきだ」とか。必ずしもブレーキだけではない。

米倉:ブレーキだけではない。アクセルをもっと踏めと。

三木谷:「ここにもっと力を入れたほうがいいんじゃないか」とかですね。それはあります。大変貴重なサジェスチョン。

久夛良木:ブレーキ踏むことはほとんどなくて、さっき夏野さんが言われたように、ほとんどハンドルとアクセルを自分で勝手に握りたくなっちゃうんですね。

三木谷:そうそう。「こうしろ!」みたいなね。

久夛良木:それを間接的に、限られた時間の中で話をするのがおもしろい。

三木谷:本当にうちも電子書籍の話とか久夛良木さんにいろいろと相談しながら「やっぱり、サーバーサイドに寄せるべきだ」とか、そういうようなアドバイスもいただきますし、どうしてもやっぱり通したい案件は、丁寧に説明して納得していただくように努力しますけれど。

米倉:ここはいいなと思ったんですね。でも、僕はちょっとまた不満。久夛良木さん、そういうところで楽しんでちゃいけないんじゃないですか? もっと自分でドライバーになりたくないですか? Be driver。

久夛良木:やっぱり自分でドライブシートに座るんだったら、新しい車がいいね。やっぱりね、古い、ポンコツとは言わないけれど……。

米倉:楽天のことですか? 今? ポンコツって。

久夛良木:いや、元の会社。

米倉:ああ、元のね。あのSはもうだめだと。

久夛良木:いや、そんなことは言ってないけど、やっぱり新しい車とか楽しいじゃない。

米倉:自分で作るのはないんですか?

久夛良木:自分で作りたいなと思って、今、なかなかね、これが産みの苦しみなんですよ。

米倉:でも、久夛良木さんはかなりサーバーというのをすごく重視していましたよね。

久夛良木:それはでも、90年代の後半にね、やっぱり「これは来るな!」って思って、そのときにプレイステーションをネットにもつなげて、それでPS3は、もう、そういうような実態をなくして、全部クラウドというか、今はクラウドっていうんだけど、ネットをどかしたいと思ったんだけど、まだまだPS3って産みの苦しみでしたね。

その時期っていうのはグローバルに百何十カ国でプレイステーションを展開しているのにネットプライマリーって行かないよねっていうんで、Googleはやってるけど「専用の海底ケーブルでも引けねえか?」とかね。

「まあ、無理だよね」っていうのがあって(笑)、ちょっとそのPS3との間になってしまったと。でも、今、さわやかにPS4できるじゃないですか。「いいなあ。いい時代になったな」と思いながら、やっぱり未来はまた違うよねと。これを考えるのはおもしろいよね。

リーダーにみる日本の構造的問題

三木谷:この前、エストニアに行ってきたんですよ。

米倉:エストニア?

三木谷:エストニア。そうしたら、エストニアの首相って35歳なんですよね。32、3歳でなったんですかね、首相に。だから、世界で最先端のITプラットホームなんです。国として。選挙の投票もできるし。

でも、それをその35歳にかけてみようって思える国民ってすばらしいなって思ったんですよね。日本だと揚げ足を取って「あいつはここがだめだ。あそこがだめだ」とかそういうことから始まるんですけれども、そうじゃなくて、最初はだめかもしれないけれど彼は優秀だからすぐに学習する、という考え方じゃないですか。

だからそういうのも含めて、日本のこの風土を変えないと、久夛良木さんみたいな人を「じゃあ社長にしよう!」とか、夏野さんを「じゃあ、ドコモの副社長にしてしまえ」とかっていうふうにならないという構造的な問題点がこの国にあるんじゃないかと。

米倉:その話を聞いて思い出したんだけれど、せっかく安倍政権が「やってられるか」ってやめたのに、また戻ったでしょ。あれ、よくないんじゃない?

三木谷:やめてないですよ。やめてないですよ。

米倉:「やめる」って言ったんだっけ? 要するに「やってられない」と言ったのに、また戻ったっていう印象を僕は持ってるんだけどね。

三木谷:いや、「やめようかな」と思っていたんですけど、その後に一応、別の枠でちゃんとした議論しようっていう話になったんで「じゃあ、そこで議論しましょう」と。そこで本当にちゃんとした仕組みを作ったんで、本当にこれから実行されるかどうかっていうのは、見ものですよね。

米倉:いや、でも僕は、すごく不満なのは、金融緩和って、誰も日本の金利なんて高いと思っていないし。昔からね。財政出動も1000兆円赤字つくっていると。本丸はやっぱり規制改革じゃないですか。

三木谷:そうですね。

米倉:それ、僕、できているとはとても思えないな。

三木谷:これからです、これから。一応プランはあるんですけど、本当にできるかどうかは総理のリーダーシップですよね。

米倉:完全に取り込まれてるな(笑)。

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