【3行要約】
・データの数値変動に振り回され、経験や思い込みに基づく無意味な施策を打ち出してしまう企業は少なくありません。
・人事経済学の研究者である石倉秀明氏は、「正しいか判断できないし正しいものが出ないことがけっこう多い」と語ります。
・勘やフワッとした主観に頼る危険な分析から脱却し、組織の解像度を一気に高めるデータリテラシーの身につけ方を提示します。
データ分析は本当にAIの得意分野か?
石倉秀明氏(以下、石倉):あと、データ分析をしたことがない人が「AI時代になってAIが分析できるから、データ分析のスキルは要らないじゃん」みたいなことをよく言うんですけど、けっこうガリガリ本気でやっていくとわかるのは、AIが分析したとしても正しいかどうかは判断できない。
さっき文字でも書かせていただいたとおり、働く女性や人事向けにデータトレーニング、スキルトレーニングとかをしているんですけど。最初はみんな、「これを分析して」と僕が出した課題をAIにぶん投げるんですよ。パワポとかが出てくるんですけど、「なんでこれを使ったんですか?」「この分析は何なんですか?」と聞いても誰も答えられない。
そもそも、その出てきたアウトプットを僕が見て、これを分析の専門家が出してきたら「こいつ絶対めちゃめちゃできないやつだな」と思うような的外れな分析がけっこう多いです。

だからちゃんと指示を出さないと、やはりAIも適当な手法を選んで適当に分析しているんですよね。ということがあって、やはり正しいか判断できない。それで正しいものが出ないというのがけっこう多い。
かつ、AIが出してきた結果を正確に解釈できない。データは解釈が重要なんですね。「ここは言える」「ここまでは言えない」「こういうデータ1つでも、ここは判断できるけど、これはできない」「これはこういう意味である」とわかっていないとできないので。解釈できないとか解釈を間違うと、わりと間違った結論にたどり着いていることが多いかなとは思います。
コードが書けることよりも重要なこと
石倉:あと、そもそもやはりAIに依頼ができていないです。「このデータを使ってこういうことをしたいから、この変数でこういう分析をして、こうしたい」みたいな依頼ができなきゃいけないわけですけど、それは知らないとできないじゃないですか。
そういうことがあるので、データのリテラシーは何かというと、別にみんながコードを書ける必要はないんですよ。だってコードは幸いなことにAIが書いてくれるので。
僕がやっている人事経済学の研究の領域は因果推論と呼ばれていて、データを使ってもうゴリゴリコーディングとかして、物事の因果関係をデータから明らかにするという学問なんですね。有名なところで言うと実は成田悠輔さんとかが同じことをやっています。彼は教育の分野の研究者でいらっしゃるんですけど、それを使ってやっていたりします。
なので、そんな僕でも正直、コードを自分で書くことはあんまりないです。もう「これをやりたい」と言うとAIが書いてくれるので、基本的にはそれを使うだけ。ただ、それが合っているかどうかがわかるから書けるというのもあるし、どう分析するか、どういうふうにやらなきゃいけないかを知っているからできるという感じなんですよね。
だからコードを書けるようになる必要はまったくないし、Excelの関数を覚える必要はまったくないです。別に言えば出してくれるみたいな。
AI時代は、データリテラシーの有無で仕事の差がつく
石倉:なんだけど、何をやりたいかとか、これを明らかにしたいからこうしたいとか、出てきたものからどういうことが言えるのかを理解していないと誤った判断につながるので、質の低い仕事になりますし。AI時代だからこそ、実はデータリテラシーのある・なしによって仕事の質の差は逆に広げられちゃうだろうなと思っているので。
これは安宅(和人)さんも言っているようなことだと思うし、僕もこれは自分がやってみて思うことですけど、だからこそちゃんとデータを扱っていけるかどうか。データを扱うことによって、さっき言った仮説を立てたり、問題を見つけたり、検証することの質が明らかに上がるんですよ。説得力がぜんぜん変わるので。

例えば経営者が何かをやったとしても、「それはデータから言うと、こういうことは言えるけど、ここは言えないです」ということが全部言えるようになるわけですよね。そういうことがあって、明らかにみなさんの解像度も変わるし、組織に対する解像度も変われば説得力が高くなる、質が高くなるというところです。
エンゲージメントスコアが下がったら「問題」と言えるか
石倉:例えばデータリテラシーがあるかないかで、アプローチがぜんぜん変わるよということを、ちょっと例として出しています。例えば「『離職率が上がっているからなんとかして』と経営に言われました。あなたならどう動きますか?」。
もう、すごく答えにくい感じになるんですよね。
(会場笑)
石倉:これは問題として実は答えを用意しているので、次にいきますね。よくサーベイがあるじゃないですか。ありますよね。組織サーベイを取るとエンゲージメントのスコアの平均が3.3点だったのが、今回は3.0点に下がっていました。これは問題でしょうか? 問題だと思う人?
(会場挙手)
石倉:直感でいいですよ、直感で。問題だと思わない人?
(会場挙手)
石倉:お、なんでですか? まあ、なんか問題だったら問題に出さなそうだというね。
(会場笑)
石倉:結論を言うと、実はまだわからないです。でも経営層とかでありそうじゃないですか。3.3点だったのが、3.0点に下がりました。今回はまだ3.3点から3.0点だからいいですよ。3.3点から2.6点に下がりましたとかになったら「どういうこっちゃ!」みたいな話になって、「なんとかしろ!」みたいなのが来そうじゃないですか。
数値が変わっただけでは、意味がある変化なのかはわからない
石倉:ここで動いちゃうのは、データリテラシーがない人。実は、まだわからないというのが重要。なんでかというと、例えばそもそも3.3点が3.0点に下がったというのは、統計的に本当に有意に下がったのかを確認しなきゃいけないんです。
偶然下がることもあります。高かった人が1人辞めたら平均は下がります。当たり前ですけど、みんなだいたいその時の気分や状況で答えますから、たまたま査定の後だったから前回は高かっただけ、みたいな可能性もあるわけですね。
前回は業績が良かったから査定もみんなわりとプラスが多くて、ただ前回高かっただけみたいな可能性もあるから、実は偶然下がった、偶然上がったということはぜんぜんあります。なので、本当に統計的に意味があるかたちで下がったのかを確認するのが重要ということです。
統計的に意味があるかたちで下がったとするならば、まず、どんな変数がエンゲージメントにどういう影響を与えているかを把握しないといけないですよね。だってエンゲージメントと言われても、何が作用しているかわからないじゃないですか。給与なのか、働き方なのか、上司なのか、仕事内容なのか、はたまた違う要因なのか、何なのかみたいなことがあります。
「お気持ち」で入れた施策の思わぬ影響
石倉:僕はこれ、大企業さんのレビューを1回やったことがあるんですよ。エンゲージメントサーベイが下がって、1個だけ統計的に有意に影響していて、これによってエンゲージメントが下がったなという変数が見つかったんですけど、何だと思います? しかも女性のエンゲージメントだけ下がったんです。
(会場挙手)
参加者:出社。
石倉:そう、それもそうだったんですけど、男性も下がったんですよ。女性だけ下がったのは何かというと、その会社は女性の管理職を増やそうということで、けっこう女性管理職向けの……例えばメンターシップのプログラムとか、そういう機会を埋めてあげるトレーニングとか、機会を埋めるための研修とかをいっぱい入れていたんですね。
それが社内で「不公平なんじゃないか?」という意見が出て、男性にもそれを提供するようになったんですよ。つまり、機会を埋められるものが埋められなくなったじゃないですか。ということで、実は女性のネクスト管理職ぐらいの人たちの意欲がグンと下がった。
だからこれは、「お気持ち」で入れた施策によって社内のエンゲージメントを下げてしまったすごくわかりやすい例なんですけど。そういうことがあると、「あ、この政策はこういうのを簡単にやっちゃいけない」とか、「(役員の)声がでかいからといってやっちゃいけないんだ」というのがわかるじゃないですか。これはデータで見ないとわからないです、みたいなことがある。
ちなみにこの会社は、「女性は若い人がけっこう辞めちゃうんだ」「離職要因を調べよう」と言って、離職に関係する変数みたいな離職アラートを見つけたんですけど。実はそれをやった結果わかったのは、子育て世代の男性が一番離職アラートが高かったんです。
人数が多いから、割合で見たらぜんぜん多くないように見えていたんだけど、実は男性が一番辞めそうだったというのがわかった。アラート直前で踏ん張っている人が多かったのがわかって、けっこうガラッと制度を変えたりしたんですけど。実はそういうのもデータを見ないとわからない。
データを眺めることと分析することの大きな違い
石倉:そういうことがあるので、何が本当に原因かが把握できるかどうかも重要だし、それは部署なのか職種なのか個人なのか、どのぐらいアプローチすればいいのか。これは「異質性」と言うんですけど、人によって、場合によって効果にも違いが出るわけですね。効果があるにしても大きいところと小さいところがあるので、異質性があるということも理解しなきゃいけない。
その上で初めてやっと、「真の要因って何なんだ?」となんとなく推論できるわけですよ。「それをやるためにはこれをしなきゃいけないね」「こういう施策をやらなきゃいけないね」とか、「この施策はやめたほうがいいね」とか、「変えたほうがいいね」という議論になるんですけど。
だいたいどんな組織もみんな、残念ながらデータとかを使わずに、経営陣の人たちとかも経験と思い込みと、なんかフワッとした主観で決めている感じなので、めっちゃ危険なんです。なので、要はこういったプロセスをたどっていない分析はやはり分析じゃなくて、けっこうデータを眺めているだけということが多かったり。
さっきの「3.3点が3.0点になりました。これをなんとかしなきゃ」というのはたぶん分析じゃなくて、データをただ比較して見ていただけ。という話なので、データを眺めるだけで本当にちゃんと分析できるようになる、リテラシーを持っているということが、真の要因を見つけたり、仮説を構築したり、検証したり、問題を見つけたり、解決することに実はつながるよということなんですね。
これは難しそうなことを言っていますけど、実はデータの扱い方ってそんな難しいスキルを必要とせず、Excelとかでほぼ全部できるぐらいのことで、施策をちゃんと覚えるということだったり、ちゃんと理解するだけでできるということなんですね。
それによって、さっき言ったとおり問題を発見するとか、仮説を立てるとか、解決策を考えるみたいなことのクオリティを一気に上げられるという、みなさんにとってもすごく重要な武器だったりします。
だからこそ僕はこれを提供して、みんなができるようになるだけで、今後のAI時代においての必要なスキルが圧倒的に上がると思っているので、それを提供したいなと思って、このQRコードという感じですね。

(会場笑)
ということで以上になります。