【3行要約】
・部下の成長を促す指導がある一方で、良かれと思った助言が相手の意気消沈を招く事例も少なくありません。
・木下勝寿氏は「目標を持つ部下には足りない部分を伝え、持たない部下にはできている部分を伝える」と語ります。
・部下のタイプや自己認識の度合いを見極め、適切なアプローチでモチベーションを引き出す指導法を解説します。
前回の記事はこちら 目標を持つ部下には、あえて足りない部分を伝える
——「部下のためを思って言っているのに、実は逆効果になってしまう伝え方って、具体的にどんなものがありますか?」。
木下勝寿氏(以下、木下):これは前の話にもつながりますけど、相手のタイプによって言い方、伝え方を変えたほうがいいっていうところで、1つのタイプの分け方として、自分なりの理想像や目標を持っている人と持っていない人って、伝え方とか伝える内容を変えたほうがいいと思います。

他の動画でもあるんですけど「褒めて伸ばす」と「叱って伸ばす」の使い分けなんですね。自分なりの理想像や目標を持っている人に対しては、その目標を達成するために、足りていない部分を言うことが大切なんですね。本人は目標を持っていて、そこに向かっている状態なので、そこに対して「もっとがんばれ」って言う必要はあんまりないんです。

一方で「このままだったらここが足りていないよ」とか「ここをもうちょっとこうしたほうがいいよ」という部分があります。つまり、ネガティブ情報を与えることになるんですね。
なので、時には叱ったりする場合もありますけど、基本的には本人がこうなりたいと思っているところに対するネガティブ情報はリスクになりますので、やはり響くんですね。「なるほど。これダメなんだ。こうがんばろう」っていう感じです。
目標がない部下への指導の工夫
木下:ところが自分なりの理想像とか目標を持っていない状態の人に、足りていないことを言ったり叱ったりすると、完全に意気消沈しちゃうんですね。
自分がどっちに行ったらいいかわからない状態の時に、いわゆるネガティブ情報、「それはダメだ」って言われたところで「じゃあ、こっちに行けばいい」というのがわからないわけですよ。ただ単に嫌な気持ちになりますよね。
ダメなんだとわかるんだけど、嫌な気持ちなので。自分なりの向くべき方向が決まっていない人に対しては、足りていないところじゃなくて足りているところを言うんですね。「これはOKですよ」とか「こっち方向はOKですよ」っていう感じで言うことが大事です。

相手のタイプによってどっちを言うか。できていないところを言うのか、できているところを言うのかは、自分なりの理想像や目標を持っているかどうか。相手の状態で伝える内容を変える感じですね。
——その人を見て叱り方もすごく考えているんだろうなと思います。
木下:僕はどちらかと言えば目標を持って生きている人間なので、褒められても何とも思わないんですよ。多少うれしいと感じたりするけど、どちらかというとそれによって慢心して動きが止まったりするので、あんまりポジティブに受け取れないんです。
足りていないところを言われたり、例えば自分自身は「できた」と思っていた時に「でも、他の人はもっとこんなにできているのに、まだまだ甘いんちゃう?」って言われた時に、「くそ!」って発奮することで成長していくタイプなので、どちらかと言えば叱られることがモチベーションにつながるタイプ。
——叱られると萎縮しちゃうっていう、真逆の人もいますもんね。
木下:比較的、管理職になる人って仕事ができる人じゃないですか。仕事ができる人は、目標を自分で持っている人が多いので、叱られて伸びるタイプのほうが多いんですよね。褒められて伸びるタイプの部下に、自分の価値観でやるから(部下が)潰れます。ここを切り替えないといけない。
管理職は「やるべきこと」、部下は「やりたいこと」優先
——見極め方みたいなのって、どうやって見ているんですか?
木下:日常を見ていたらわかりますよ。定期的に面談とかをするんですけど、「自分のできていないところを教えてください」っていう人と「自分のできているところを褒めてください」っていうスタンスの人と分かれますよね。
——言った時の反応も......。
木下:ぜんぜん違っています。
——面談はどのぐらいの頻度で?
木下:全社は半年に1回ですけど、新入社員は2週間に1回。
——とても手厚いですよね。
木下:けっこう大事なので。
——社員の方々が伸びるシステムがあるのが本当にすばらしいと思います。
部下をやる気にさせる上司とモチベーションを下げる上司の違い
——「同じ内容を伝えているのに、部下が前向きに動く上司と、やる気を失わせる上司がいると思います。この違いって結局どこにあるんでしょうか?」。
木下:管理職とメンバーの構造をちゃんと理解しているかどうかなんですけど、さっきも言いましたように、管理職になる人って叱られて伸びるタイプの人が多い。メンバーの人は(叱られて伸びるタイプと)褒められて伸びるタイプに分かれてきます。

これをもうちょっと細かくいくと、大前提として仕事は大きく2種類あるんですね。「やるべきこと」と「やりたいこと」。本当は3種類で「やれること」っていうのがあるんですけど、単純化して「やるべきこと」と「やりたいこと」になっています。
「やるべきこと」っていうのは成果を出すために必要な業務です。「やりたいこと」は、本人の興味・関心に基づく業務ですね。

成果と立場の関係性なんですけど、成果を出すためには、やるべきことを優先しないといけないんですね。管理職になる人は、やるべきことを優先しているような人がだいたい成果が出るから管理職になっていますよね。
逆に言うと、一般メンバーにとどまる人は、やるべきことよりもやりたいことを優先している傾向にある。だから成果が出にくくて一般メンバーになるっていう構造になっていますよね。
大前提として、管理職は「やるべきこと」、一般メンバーは「やりたいこと」をベースに動いている傾向があります。

管理職の正論が通用しない理由が、管理職はやるべきことを優先している。そして管理職の観点からすると「これはやるべきだ。なぜなら……」っていうことを論理的にメンバーに説得しても響かないわけですね。
なぜなら、響かないからやりたいことを優先して一般メンバーにとどまっている構造になっていますよね。もちろん全員じゃないです。
つまりメンバーを正論で「やるべきことだ」と動かそうとするアプローチ自体が、実は的外れなんですね。それで動かないからメンバーなんだよねっていう。
正論ではなく「やりたい」と思わせる動機付け
木下:じゃあ、管理職に求められる役割って何かというと、やるべきことをやりたいことに変換して伝えるのがすごく重要になってきます。メンバー自体が「やりたい」と動機付けしていくのがすごく大事なんですね。

具体的な例を出すと「仕事だからやるべきでしょ」っていうような、義務の押しつけのかたちで言うとダメなんですね。じゃなくて「これ、やり遂げたら君はきっと一回り成長するよ」とか「これをみんなで達成したら、達成会をやろう」みたいな。楽しみは報酬として紐づけていく。
——確かにそうですね。正論を言われると、逆に「やりたくない」っていう気持ちになることがあると思います。
木下:やる気にさせる管理職は仕事をゲーム化するのがすごく上手で、「これを達成したら次、いこうぜ」っていう感じにする。ただ単に今来た仕事をこなしているだけじゃなくて「これを達成した時に、みんなでこういう飲み会をしましょう」とか「何月何日までにこの成果を出したら……」。とか。
うちもそういう制度があるんですけどね。この間もやったんですけど「みんなで屋形船を貸し切りにして達成会をしようぜ」みたいなのをやることによって、やりたいことになるんですね。
——それはやはりチームで動いているからできることなんですか?
木下:自分でもそうだと思います。まずやるべきことがあるとした時に、やるべきだなって思っていて、それだけでやるよりは、やりたいことを変えるために自分にご褒美をしますよね。

僕も例えば、日常は炭水化物を摂らないようにしているんですけど、何かがんばった時だけ牛丼を食べていいっていうルールがあるんですよ。「これがうまくいったら吉野家に行く」みたいな。
——ひそかな楽しみがあるんですね。
木下:楽しみを作っていくのが大事ですね。
——チームでやっているのもそうだし、自分自身で何かを目標にしてがんばるっていう雰囲気を出すことが大事なんですね。
木下:そうですね。
相手が楽しいと感じるポイントを見つける
——木下社長はご自身の経験から学んだことなんですか?
木下:リクルートに勤めている時は、お祝いがめちゃくちゃ多かったんですよ。「楽しいな」ってすごく思っていたし、(北の達人で)当時カスタマーにいたメンバーで、すっごく覇気のない子がいたんですよね。言われたことを最低限しかぜんぜんやらないし、やるのもスピードがすごく遅いし、みたいな感じのメンバーがいて。
「どうやったらこの子はやる気が出るのかな?」と思っていた時に、カスタマーの仕事自体は別に嫌いじゃないんです。嫌いじゃないけどぜんぜん覇気がないっていう状態だったので「何をしている時が一番楽しい? どういう時に楽しいって感じる?」って言ったら「お客さんに『ありがとう』って言われた時にすごくうれしいです」と。
「それはめっちゃうれしいの? それとも、まあまあうれしいなっていう感じなの?」って聞くと「めっちゃうれしいです」って言うんですよね。
「そうしたら、1週間でお客さんから10件『ありがとう』って言われることをしてみて」って言ったんですよ。「何をやってもいいから」っていうので「やってみて」って言ったら、「わかりました。それだったらやります」って言って、めっちゃいろいろ創意工夫し始めたんですよ。
お客さんからの問い合わせに対してすぐ答えるようになったり、無理やり「ありがとう」って言わせるんじゃないけど、何かお客さんが「ありがとう」って感謝してくれるためのサービスをめちゃくちゃやり出して。
一番驚いたのが、そこから急激にお客さんから「ありがとう」っていうメールがすごく来るようになったんですね。(平日)5日間のうち、木曜日の段階で5件の「ありがとう」が溜まっていたんですね。
「すごいよね」と。「今までは月数件しかなかったのが、がんばったらこれだけ来るんだ。あと1日で10件までは難しいかもしれないけど、やった価値はあるよね」って言ったら「いや、あと1日あります」って言って、最後1日がんばって5件集めて10件いったんです。「人ってこんなに変わるんや」って思いましたね。

——それこそやる気スイッチが入ったような?
木下:そう、やる気スイッチ。
——そこを引き出すのも、きっと日々のコミュニケーションがあったからこそ引き出してあげられたのかなと思います。
木下:だからうちは、面談シートに「何をしている時に一番楽しいと感じますか?」っていう項目があるんですよ。それがこの人のモチベーションスイッチになる場合があるので「この人はこれをやっている時に楽しいんだな」とわかっておくことがすごく大事だなと思います。

——マーケティングもですけど、部下も上司も人間理解なんですね。
木下:人間理解が全部だと思いますね。