【3行要約】・部下の育成に手応えを得られる上司と、成果が出ない上司。その違いは部下の行動に対する「見立て」の精度にあります。
・登壇者は「性格のせいにすると解決できない問題になる」と指摘し、行動の背景や上司自身の影響を探る重要性を説きます。
・安易な決めつけを避けて評価や指導の手応えを高めるために、上司が意識したい「見立て力」向上の3つの実践法がわかります。
前回の記事はこちら 部下の行動を安易に「性格のせい」にしない
高桑由樹氏:続いて(章立ての)3つ目ですね。「見立ての『目の付けどころ』」になります。ここまでは、見立てがどういうものか、その見立てがずれてしまう要因を見てきました。今度は、見立てをより精度高くするためにどこに着眼すればいいのかに触れていきます。
ここに書きましたけど、まず私たちの見立ての傾向を先に述べますと、けっこう人の言動を見て「あの人、こういう性格だよな」みたいな、性格のせいにし過ぎる傾向があります。

先ほどから「○○な人は、××な性格だ」と言っていますけど、行動を見て性格のせいとして理解しがち。これは何が不具合があるかというと、性格のせいにすると、解決できない問題になるわけですね。
性格っていうのは、人間の中で変わりにくい要素を性格って呼んでいるわけなので、変わりにくいってことは解決しづらい問題になってしまう。部下も育成しづらいってふうに捉えてしまうことになります。
ただ、人の行動っていうのは性格だけでは決まりませんよね。例えば、下のイラストにありますけど、授業中にモゾモゾして「あいつ集中力ないよな」みたいな、そういう生徒さんがいるとします。
「不真面目だな」とか「勉強嫌いだな」とか思うわけですけど、意外とトイレに行きたいだけかもしれません。
モゾモゾしている人を見て「勉強嫌いだな」とか「我慢強くないな」とかって、性格のせいについついしてしまう。これ、おもしろいですよね。実はトイレに行きたいっていう背景とか、状況とか行動を決める要因っていろんなものがあります。
ここに書きましたけど、本人が持っている知識とかスキルとか経験、人間関係とか、雰囲気とか、いろんな状況がその人の行動を決めています。だから、性格のせいっていうふうに安易に捉えてしまうことに注意する必要があります。
続いて、見立てる上で性格のせいにしないことが1つポイントなんですけど「じゃあ、何を、どこに着目すればいいの?」っていうことです。
適切に部下を捉えるにあたっては、部下の言動。先ほどの学生の例で言うと「モゾモゾしている」ではなくて、そのモゾモゾしている背景に着目することが大事になります。
「氷山モデル」で水面下の背景と上司自身の要因を探る
(スライドを示して)ここに今描いている絵は、海面に浮かんでいる氷山ですけど、私たちがよく着目するのは、水面よりも上がっている氷山の部分、山になっている目に見える部分。部下で言うと部下の言動ですね。何が起きているのかとか、どういうことをやっているのか、ってことを見てしまいます。

そこで「不真面目だな」とか「我慢強くないな」と捉えるのではなくて、どうしてそういう行動・言動になっているのかっていう言動の背景に着目すると、この氷山の絵で言うと氷山の下、水面よりも下の部分ですね。
人の言動を決めるのは左側で言うと、その人の見えている景色。例えば、本人は何がわかっていて何が曖昧なのか。どういうふうに物事を捉えているのかとか、どんな不安、どんなプレッシャーがあるのかとか、周囲との関係はどうなのかとか、そういったことによって言動って決まったりしますね。
あとは上司自身も部下の言動に影響を与えています。上司の指示が曖昧だったら、部下の動きが悪くなるとかですね。それって「部下に能力がない」ではなくて「上司の指示が曖昧だから動きようがない」みたいなこともあるかもしれません。
部下が安心して上司に相談できる関係じゃなかったら「どうしよう」って一人で縮こまってしまうとかですね。
これもよくありますけど、否定的な期待をしてしまう。例えば「お前はどうせ無理だろう」って言うと、部下としても「あまり期待されていないな」とか「この仕事って僕には無理なんだな」って思って、その前提で取り組んでしまうと、やはり無理だっていう結果が出てしまうとかですね。ということで、上司の言動が部下の行動の要因になっていたりもします。
部下の言動の背景を見立てるに当たっては、こういった2番目の「見えている景色」とか、「上司の要因がないのか」といったところに着目する必要があります。
実践法1:自らの解釈を疑う「クリティカル・シンキング」
今回のセミナーにご参加いただいた方々には、(スライドを示して)追加でこういった質問をしてみました。先ほどの部下の言動「ケースに出てくる部下の言動の背景として、どういったことが考えられそうですか?」っていう、性格のせいではなくて背景、状況としてどういったことがあり得るかを考えてもらいました。

ここでヒントとして「この行動はどんな状況の中で起きているか?」とか「上司の関わりが影響している可能性はあるか?」とか「性格以外の説明は何があり得るか?」とか「意欲なのか理解不足なのか不安なのか?」とか。
そういったいろんな切り口で見ていくと、今回は「指示を持つ部下」っていうケースなんですけど。「どうして指示を待っているんだろう?」っていうのは、また見え方が変わってくるのではないかなと思います。
今度は最後の章になりますけど、ここまでで見立てを高める上での着眼点を見てきました。見立て力を実際に高めるためにどういった実践法があるのかを最後に紹介していきたいと思っています。
まず1つ目で「クリティカル・シンキングを行う」と書きました。クリティカル・シンキングっていうのは、自分の考えとかに対して批判的に、客観的に見つめ直すことです。実は今日ずっとこのワークショップで先ほどのケースを読んでもらいました。

「どういう人か見立ててください」とか「その見立てはどういう事実を見て、どういう解釈をしましたか?」とか「そこに思い込みはないですか?」とか。あとは「性格のせいではなくて、その人の背景や状況としてそういう行動をさせる背景ってどんなものがありそうですか?」みたいな、いろんな切り口で見ていきました。
今日ここまでやってきたワークショップは、自分の思い込みとか決めつけを疑うっていうことですけど、これがまさにクリティカル・シンキングです。こういったことをやっていくと、見立て力は高まっていきます。すぐに結論付けるのではなくて、自分の思考を疑うってことです。
実践法2:変化とパターンを可視化する「見立て日記」
ここに「じゃあ、どういう問いを自分に向けてみるか?」ってことで書いてみました。「自分は今、何を事実として見たのか?」とか「そこにどんな解釈をしたのか?」とか「他の説明ってないか?」とか「その行動はどんな状況で起きたのか?」。
「自分が同じ状況なら、同じことをしないかな?」とか「その人(の性格などが)要因なのか、みんなそうするのか?」「自分の関わり方、上司自身の関わり方が影響していないか?」みたいな、こういった観点で立ち止まることが見立ての質を高めます。
続いて今度は「見立て日記」っていうものを紹介します。これはとてもお勧めします。

見立てって難しいわけですけど、これは特に評価を付ける時は、半年に1回評価の時期になると「あの子はこの半年でどんなことをやったっけな?」みたいな感じで、思い出すことすら、まず大変ですね。そうなってくると、そもそも事実が捉えられていないので、見立てることはなかなか難しいです。
半年に1回やるから難しいのであって、これを毎週ノートに1行ずつその部下の方の変化感、行動をノートに書き込んでいくことをお勧めします。1ヶ月経ったら4行とか5行埋まりますし、半年間とかだったら20行とか25行埋まります。
部下の方と毎日接していると変化って見えないんですね。ただ、1週間に1行で、1ヶ月とか3ヶ月単位とか、10行とか12行とかの単位で見てくると、意外と「変化しているな」ってことが見えてきます。
そういうものが見えてくると、人間なので浮き沈みってあると思うんですけど、その部下の方がどういう時に上がってくるのか、どういう時に落ち込むのかみたいなパターンが見えることがあります。
実践法3:面談シナリオの設計と3つのポイント
あとは上司自身の見立ての癖とか思い込み・決めつけのパターンも見えてくるので、これはぜひやってもらえると評価を運用する力が高まると思っています。
最後の実践法ですけど、面談のシナリオを設計するってことを紹介します。見立てが狂うっていうのは、上司が部下を見る見立てと、部下が部下自身を見る見立てがすれ違うから手応えがない、みたいなことですね。

上司と部下、それぞれの見立てをすり合わせることによって、見立ての精度を高めたいわけです。事実、解釈、さらに解釈に影響を及ぼす背景、どう改善していくのかっていう課題。
この4つが評価面談において大事な要素になりますけど、これらを一つひとつ上司・部下ですり合わせるための、流れを作ってしまうと評価面談の精度が高まっていきます。
事実をすり合わせる、続いて解釈をすり合わせる。なんでそうなったのかっていう背景もすり合わせる。そこまでいったら課題が見えるので「次、どういうふうにやっていこうか」みたいなアクションをすり合わせることを、最初から設計しておくことをお勧めします。
今回のセミナー参加者のみなさまに、ご自身の部下に対して「どういう面談シナリオ、言葉を使いますか?」を設計してもらいました。こういったものを作っておくと、評価の見立ての精度が高まることになります。
ということで、3つの実践法を紹介してまいりました。今日のクロージング、お持ち帰りポイントということで、3つ改めて振り返ります。
1つ目。評価・指導に手応えがない原因というのは、制度に問題があるわけではないですし、部下側に問題があるとかでもなく、上司の見立てにあるケースが大きいです。
2つ目。部下の言動っていうのは性格のせいにするのではなくて、その背景とか状況を含めて捉えることが重要です。
3つ目。見立て力っていうのは、安易に決めつけない思考習慣です。ついつい私たちは思い込むとか決めつけることがあるんですけど、安易に決めつけない思考習慣、これを意識すると見立て力はぐんと上がります。これらをもって、ぜひ評価・指導を行ってもらえたらと思います。